4.悪戯
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「待っちなさいッ〜!ルビー〜ッ!ヒィーハー!!」
「あははははっ!!」
「ドラゴンに言いつけてやるッチャブルよ!!」
船の廊下をドタバタと走り去る二人の姿を見たものは、ああ…またルビーのイタズラの犠牲者が出たのかと、苦笑いを浮かべていた。
その皆が避けたい今回の犠牲者はイワンコフである。
「あは!そんな頭で怒られても怖くないよー!」
彼女の“イメージ”通り髪の毛がトサカのように逆立っているイワンコフは頭もまさることながら凄まじい形相を浮かべていたが、ルビーは恐ることなく大いに笑っていた。
「いいからヴァターシの髪の毛をもとに戻しなァ!!」
「イワンが島に上陸する許可をくれたらね!!」
「ふざけんじゃナッシブルよー!そんなこと勝手に決めたらヴァターシがドラゴンに怒られるじゃないの!」
納得のいく回答が得られず、ルビーは不満げに頬を膨らませる。ーー彼女がこのような強行に出たのにはある理由があった。心の中で、イワンの分からず屋め…と、悪態をついた。
「戻して欲しかったら私を捕まえてごらん!ーーイマージュ
ルビーが手のひらで壁に触れた途端、無かったはずのドアが姿を現した。
「イワン、じゃーねー!」
サッと扉の向こうへ姿を消すと、同時にイメージも解く。すると、ドアは瞬時に消えたのだった。
「このッ、じゃじゃ馬ガール!!見つけたらただじゃ済まさないわよォオー…ッ!!」
壁の向こう側から聞こえるイワンコフの悔しげな叫びに向かってルビーはべーっと舌を出した。
ーーーーー…
「サボ、見ーつけた!」
「お、ルビー」
甲板をデッキブラシで磨いていたサボはひょっこり現れたルビーに笑みを向けると、額に流れていた汗を拭った。
「遊ぼーっ!!」
「あと少しで掃除が終わるからちょっと待っててくれ」
「じゃあ、私も手伝う!!」
使われていない予備のデッキブラシを手に取り、真面目に甲板を磨き出すルビーに負けじとサボも再び手を動かす。燦々と輝く太陽の下、二人はせっせと甲板を磨いた。
しかし、遊びたい盛りの若い二人は次第と口の方が忙しなく動き出した。
「今日はどんなことして遊ぶかな」
「昨日やった廊下ツルツル人間ボーリングも楽しかったね!」
「あれはイワさんにこっ酷く叱られたからなァ。飯抜きは流石に勘弁だ」
「あ、そういえば私、今イワンから逃げてる途中だったんだ」
呑気なルビーにサボは呆れたような眼差しを向けた。
「昨日の今日でよくイワさんに悪戯出来たな。また飯抜きになるぞ」
「それは…、とにかくイワンが悪いんだよ!だからイワンの髪の毛をトサカみたいに立たてあげたの。あのアフロヘアーはもう見飽きたからね!」
「ぶっ!…それはおれも見てみたい!」
想像して思わず笑ってしまったサボにつられるようにルビーも笑い出す。
暫くケラケラと笑い合った二人は一息つくと、ジリジリ照りつける日差しのせいで流れて止まらない汗を拭った。
「ハァ…。今日もあちぃーな。この暑さ…、どうにかならないのかよ」
「夏島が近いから仕方がないよ。…あ、そうだ!廊下の天井に水を入れたバケツを吊るして、通りかかった人にバジャーッと被せるのはどう?」
ルビーとサボは顔を見合わせると、にんまりと悪い笑みを浮かべた。それから了承の意を込めて拳を合わせたのだった。
その時、彼らの背後に気配を消した大きな人影が現れたが、悪戯計画に夢中になっていた二人は全く気付かなかったーー。
「〜…ッこっの、悪ガキボーイ!悪ガキガールがァアアァッ!!」
怒りの鉄槌を振りかざされ、ゴツン、ゴツンと頭上に落とされた衝撃にルビーとサボは痛みのあまり声も出せずに悶えた。
「アンタ達は目を離すとろくなこと考えやしないんだから!ヒィーハー!」
頭を抑えながら恐る恐る後ろを振り返ると、頭にスカーフを巻いたイワンコフが鼻息荒く二人を見下ろしていた。
危険を察したルビーとサボは本能的に瞬時に逃げ出そうとしたが、イワンコフの方が一枚上手だった。
目にも止まらぬ速さで二人の首根っこを掴むと用意していた縄を取り出し、彼らの身体にグルグルと巻きつけたのだった。
「まったく、ヴァナタ達は目を離すとすぐこれなんだから!ドラゴンからヴァナタのことを任されているヴァターシの身にもナッシブルよ、ルビー!!」
イワンコフは縄に巻き付けた二人をズルズル引きづりながら歩き出した。
「だって船の上で出来る遊びは限られてるんだもん!子どもだってストレスたまるんだよ!」
「そーだ!そーだ!じっとしてるのは性に合わないんだよ!」
「世界事情の勉強とかやることは色々あるでしょーがァ!」
「「勉強なんてイヤだッ!!!」」
「あーいえばこーいうんだから!!ヒィーハー!!!」
減らず口をたたく生意気な二人につられて、ついヒートアップしてしまった自分を落ち着かせるように、イワンコフはふぅーっと息を吐く。
「…ヴァターシには手に負えナッシブルよーーほら!ドラゴンがお呼びッチャブルよ!」
バンっと遠慮なく扉を開け、二人をドラゴンがいる部屋の中へと投げ込んだ。
「来たか」
サボは威圧感のある低い声にぎくっとする。背中に冷や汗が流れた。
「あれ。ドラゴンどうしたの?」
ルビーは相変わらず飄々とした態度を崩さなかった。
「どうしたじゃない。サボがやってきて遊び相手が出来たのにもかかわらず、最近はまたお前の悪戯に拍車がかかってきてるそうじゃないか」
「えー、だってこの船遊び道具ないんだもん。だからサボが楽しめるようなことを私なりに考えたんだよ!」
「その結果周りの者達をずいぶん困らせているそうだな。お前たちの悪行の数々は耳に入っていたぞ。世話役をしてくれているイワンコフの言う事を何故聞かない」
淡々と言い放つドラゴンの表情は普段よりも険しい。彼に怒られていると気付いたルビーは少し怯んだが、ここで大人しく言うことを聞くわけにはいかなかった。
「だって!上陸する時は島に私達も下ろして欲しいってイワンに散々頼んでるのに聞いてくれないんだもん!だから…、」
「″だから″なんだ?己の欲の為ならば同志達に迷惑をかけてもいいのか。イワンコフが何故お前達を上陸させないか、それは普段の行いを振り返ってみたらよく分かるだろう」
「…ヴァナータ達が心配なのよォ。革命軍の子どもから情報を得ようとする困った輩がいっぱいいるッチャブル。今のヴァナタ達じゃ自ら危険に突っ込んで行きそうだもの」
先程とは違いイワンコフから自分達の身を案じる気持ちが伝わり、流石のルビーも罪悪感を感じた。
「うっ…、それはそうかもだけど…。でもだからってサボがこの船の上しか知らないなんて可哀想すぎるよ!」
それでもルビーは食い下がらなかった。【いつか世界を自由に見てみたい】そんな夢を抱いたサボの為に。
「私はサボを島に下ろしてあげたいの…!サボは毎日文句も言わず恩を返す為にみんなの役に立とうと頑張ってるのに…【自由】がないなんてあんまりだよ!」
「ルビー……」
「みんなに迷惑をかけてるってことも分かってるし、私達の事を心配してくれるイワンの気持ちも理解してる。でもちょっとでもいいからサボに色々な景色を見せてあげたい…、楽しい思い出を作ってあげたいの…」
ルビーはとうとう堪え切れずに涙を浮かべる。
いつの間にか部屋を包み込む雰囲気は柔らかくなっていた。
「…ヴァナータ…そんな事を思ってたのね」
「…お前の強い思いは伝わった。しかし関係のない者を巻き込んだ事は感心出来ん。お前達の行為で迷惑を被った者達にはきちんと詫びて来い」
「…うん。ちゃんとみんなに謝まる。ごめんなさい…」
先程より優しさを含んだドラゴンの目をしっかり見てルビーは小さく頭を下げた。
「ドラゴン、ルビーも反省しているようだし…」
「イワンコフ。我が革命軍に物資の協力をしてくれている島にあと二、三日程で着はずだったな。社会勉強を兼ねてルビーとサボに簡単な物資の調達の仕方でも教えてやれ」
ドラゴンの言葉の意図を理解出来ず、キョトンと互いに顔を見合わせるルビーとサボ。
そんな二人の様子に軽く吹き出しながら、イワンコフは堪らずに声を掛けた。
「ドラゴンはヴァナータ達が島に降りることを許可してくれたのよ」
ようやく言葉の意味を察した二人の表情は、みるみるうちに変わっていく。満面の笑みを浮かべて喜んだのだった。
「わーい!やったねサボ!」
「ドラゴンさんありがとうございます!」
「ありがとうドラゴン!!大好き!!」
「……いいからもう静かにしろ。話はこれで終わりだ」
ようやく縄を解かれたサボとルビーは「はーい!」と上機嫌に返事をし、るんるんとした雰囲気で部屋を出て行った。
こうして一気に静かになった室内にはカツカツとヒールの音がやけに響いた。ドラゴンがいるデスクに腰掛けたイワンコフはニヤッと笑う。
「ヴァナータもやっぱり人の親なのね」
「ここの平和の為だ」
他の者が見たら畏縮してしまう眼光を向けられてもイワンコフはへっちゃらであった。先程見逃さなかった彼の僅かな表情の変化を思い出すと口角が上がる。
サボとルビーが喜ぶ姿を見て目を細めるドラゴンの眼差しを他の同志達が見たら驚くだろう。逆に恐ろしく震え上がるかも知れない…。
「(これはヴァタシのハートの中にしまっておこうかしらね…)」
「それよりイワンコフ」
「なにさ」
「その髪型は一体どうしたんだ」
「……っ、あのガキャ~!!」
すっかり髪型のことを忘れていたイワンコフはハッとして叫ぶと、勢い良く部屋から出て行ったのであった。