『どちらかが3回イかないと出られない部屋』に閉じ込められた手塚夢
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「訳がわからない」
「落ち着け」
「訳がわからない」
「分かったから落ち着け」
「これのどこが落ち着ける要素があるっていうの!」
徳平が食い気味に叫ぶと、一畳ほどの間もない密閉空間の至るところで声が反響し、手塚は眉を寄せて目を閉じた。
そんな手塚には目もくれず、徳平は天井に埋め込まれているモニターをわなわなと震えながら睨みつけている。
『どちらかが3回イくまでこの空間からは出られません』
白い背景にその文面がポップ体で映し出され、ご丁寧に数十秒おきに無機質な声がその文字を読み上げている。
掃除ロッカーよりは広く試着室よりは狭い、人二人がギリギリ入れる程度の空間の光源はそのモニターのみだ。
「あっ駄目、本当に訳がわからない」
「俺もだ」
神妙な顔で頷いてみせる手塚に、呆然とモニターを見つめたままだった徳平は、こいつ本当に動揺してるのかと歯噛みしたくなった。
ついさっきまで二人とも別の場所にいたはずだったが、気がつくと向かい合った体勢でこの箱の中に押し込められていて、状況を把握する間も与えられずモニターの電源がつき、今に至る。
「……何か心当たりは?」
「あるはずがないだろう」
「まぁ、あっても困る。……どうにかして出られないものかな?」
少しでも身じろぎすると相手に触れてしまいそうなほど狭い立方体の空間には、ツギハギなどはなく出口のようなものは見当たらない。
ふむ、と手塚は向かい側、つまり徳平が背を預けている壁をペタペタと探り始めた。
図らずもいわゆる壁ドンのような姿勢になり、徳平は束の間非日常的状況を忘れて、照れを隠すように口を噤む。
「思い切り壁を蹴飛ばしてみることも出来るが、この空間が箱のようなものだとして、たいした重量がないと、あまり暴れると箱ごと倒れて危ない」
「それはだめだ」
「あぁ、だから下手なことは出来ない」
そうしている間にも『三回イくまでこの空間からは』とバックミュージック代わりに機会音声は流れ続けている。
徳平は憤る気力も失せて、手塚に触れないように気を払いながら背後の壁にもたれかかった。
「つまり誰かが助けてくれるのを待つしかない?」
「だが、外がどこなのかどんな様子なのか、そもそも人がいるのかも分からない。それに待つとしてもこの空間にそう長く居られるはずもないが」
「それは八方塞がりというのでは?!」
再び勢いを取り戻し食ってかかる徳平に、手塚はあくまでいつもと変わらない無表情で先程と同じ言葉を返した。
「落ち着け」
「無茶を言うな……!そもそも手塚はなんでそんなに落ち着いてるの?バグなの?」
「俺だって戸惑っている」
「ダウト」
「嘘じゃない」
「だって見えない」
「生憎、感情が顔に出ない質だ」
平行線のような会話に、徳平は唇を噛んだ。
自分ばかりが意識して心乱されているようで悔しいが、無表情か仏頂面しか差分がない男相手にこれ以上何か言っても無駄だと早々に諦めた。
「結局、どうしよう……」
「とりあえず指令に従うしかないだろう」
「えっ」
予想だにしていなかった言葉に、徳平は思わず手塚の顔をまじまじと見上げた。
「なんだ」
「手塚、え、お題の意味わかってる?イくって意味、ボク知ってる?」
「お前は俺を馬鹿にしているのか。流石にそれくらい知っている」
「いやだそんな言葉知ってる手塚国光解釈違いの地雷です!」
「俺に夢を見すぎだ」
あえなく返されて、徳平は額に手を当てて息を吐いた。
「そんな手塚は嫌だ……」
「なんなんだ……。俺は部活の最中だったんだ、早くここを出て合流しなければ」
「そこなのか!」
確かにここに閉じ込められる前は、各々放課後の時間を過ごしていたはずだ。徳平も徳平でとっとと帰りたかったので、早く出ていきたいと意見には賛成なのだが。なのだが。
「でも、あんな司令どうするつもり?」
若干身を引きつつ訊ねると、手塚は眼鏡を押し上げながらいつもと変わらない調子で答えた。
「安心しろ、お前に迷惑はかけない」
「……どういう?」
「俺がやる」
つまり、としばし手塚の言葉を咀嚼した後、徳平はぱっと口に手を当てた。
「つまり、あの」
「続きを俺に言わせるつもりか」
「いえ……大丈夫です……」
完全にキャパオーバー状態に陥った徳平はようやっとそれだけ返事をした。
熾烈で冷静なテニス部部長が、清廉潔白な生徒会長が、眉目秀麗で模範的な同級生が、概念体としての手塚国光がガラガラと音を立てて崩れていくのを感じる。
あの手塚国光でも自慰をするのか。まじか。
徳平の思考は、体を立方体の中に残して、遠い宇宙をぐるぐるとさまよっていた。
「俺のことをどう思っていたかは知らないが、俺も体力の有り余る年頃の男子だ。必要に駆られて自慰をするときだってある。だから心配するな」
徳平の沈黙をどう解釈したのか、手塚は全く見当違いの方向の説明を加えて寄越した。
普段ならなんの心配だ、茶々を入れるところだが、生憎と今の徳平にはそんな余裕はない。
「しかしいくのはいいが、三回をどう計測するのか」
確かに、壁にはモニターの他は何も機器のようなものは見当たらない。
ようやく地球に帰還した徳平は辺りを見回しながら、過去にTwitterやpixivで見た同じような状況を思い返した。
「何とかなってるのでは?他所のも大概適当だったもの」
「他所にもこんなことをされた人間がいるのか」
まぁ全部二次元ですけどねー!と心中で叫ぶが、口に出すと趣味がモロバレなので控える。
「そうか、それならさっさと終わらせてしまおう。徳平、体の向きをかえて壁側を向けるか」
「ちょっと待って。狭いな……」
徳平がもぞもぞと体を動かすと、手塚は出来るだけスペースを空けようと体を後ろに引いた。
些か無理な体勢でだったが、徳平はなんとか壁側を向くことに成功した。
ふぅと息をついて、首を後ろに傾け、手塚の顔を窺う。
「はい、出来た」
「そのまま前を向いて、出来れば耳を塞いで置いて欲しいが……それは無理そうだな」
「……何を聞いても聞かなかったことにする」
「助かる。ではしばらく我慢してくれ」
手塚が制服のベルトに手をかけたのを見て、徳平はサッと壁に視線を戻した。
カチャカチャとベルトを外す音が耳に届き、徳平は息を飲んでぎゅっと目を瞑る。
しかし視覚は閉ざせても、耳を手で塞げない状態では聴覚までは防ぎようがない。
……ちょっと、これはだめだ、と徳平は心中でサムズアップした。
徳平の耳は、まことに憎らしいことに、衣擦れの音や手塚の息遣い、更には彼が自身を扱う音までありありと拾いあげる。
こんなのとても耐えきれない、と徳平は壁に押し付けた手を震わせる。
そんな徳平の様子を見て、手塚は若干乱れ掠れた声で囁いた。
「っ、すまない」
目を閉じていると先程より手塚が近くにいるように感じて、徳平は黙って首を振るだけだけで精一杯だ。
早く終わってくれ、と念じながら、生々しい息を感じていると、手塚の呼吸が荒くなり始めた。
そのまま黙ってやり過ごしていると、そのうちに「うっ」と小さな呻き声と、液体が床に落ちた音が耳に届いてきた。
はぁっはぁっと肩で息をする手塚の呼気に重なるように、いつの間にか沈黙を貫いていたモニターから『一回目を計測しました』と無機質な声が空気を読まずに宣言した。
二人ともモニターの声に過敏に反応し、上を見上げる。
すると、モニターにはさっきまでの文面は消えて、代わりに『あと2回です』という文字が映し出されてした。
原理は分からないが、どうやらしっかりと絶頂は感知されているようだ。
「あと二回……」
この一回分の時間でさえも悠久のように感じられたのに、これがあと二回も続くとは。
もう無理と言いたげに呟いた徳平に、手塚は大きく息を吐いて声をかけた。
「大丈夫だ、すぐに終わらせる。円周率でも数えていてくれ」
「残念ながら文系でして円周率は3.14までしか知らないのですよ」
「なら歌でも歌ってろ」
「歌?」
手塚が指令をこなしながら、自分は呑気に歌を歌っているところを想像して、徳平は思わずふはっと息を吹き出した。
「歌を?ふっ、ここで?」
「……何も口に出して歌えとは言っていない」
大真面目に出した助け舟を笑われて、手塚は不機嫌そうな声を出したが、対照に表情は僅かに緩めた。
ここに入れられてからこの方、徳平の不安げな顔しか見ていなかったので、少しでも心がほぐれたのならそれでよしとする。
もう少しせっかく緩んだ空気に浸っていたかったが、そういう訳にもいかないので、咳払いをして声を整えた。
「それじゃあ、また少し耐えてくれ」
「あぁ、うん……手塚も」
気を引き締めた面持ちに戻った徳平はまた壁の方を向いたが、そうだ、と思い当たって後ろを振り向いた。
「立ちっぱなしでしんどくはない?こっちの壁に手をついたら少しは楽になるかしら」
確かにどこにも体重を預けないまま自慰をするのにも疲れていたため、手塚は素直に徳平の頭の横の壁に手をついた。
必然的に徳平に手塚が後ろから覆いかぶさるような格好になる。
自分から言い出したこととはいえ、徳平はこれはいけないと思った。
距離が、あまりにも、近すぎて、いけない。
しかし手塚が自慰を再開したことによって、そんな思考は一気に吹き飛んだ。
耳許にふっとくすぐったい息を感じると共に、直接手塚の声が脳髄を叩く。
距離が近くなったので、さっきは聞き逃していた「うっ」「っあ」といった小さな呻きまで聞こえてくる。
腰が砕けるというのはこういうことを言うのか、と徳平はどろどろに溶けてしまったかのように働かない脳でぼんやり考えた。
知らず知らずのうちに汗ばんでいた内腿をきゅっと擦り合わせる。
しゅっしゅっという音が早くなり、手塚が「っく」と声を漏らしたのと同時に、後ろ腿に熱い粘性のある液体がかかったのを感じて、目を閉じていた徳平はビクッと肩を震わせた。
『二回目を計測しました』
「えっ……あ」と徳平が呟くより早く、珍しく焦ったような手塚の謝罪が飛んできた。
「すまない!その、出たものが、制服と足に……」
「……っ」
では今、腿に感じる熱は。
徳平はかあっと血が上に登ってくるのを感じた。
いつの間にか手塚と同じくらい息が上がっていた口元を押さえる。
「……」
それきり何も言えなくなってしまった徳平を見て、手塚は罪悪感を声に滲ませた。
「本当に悪かった」
とりあえず手に届く範囲にある徳平の腿にべっとりとついているそれを手で拭おうと足に触れると、徳平は「っふ」と小さな声をあげた。
予想外の反応に手塚の動きがぴたと固まる。
徳平はそろそろと振り返りながら、絶え絶えに消え入りそうな声で言った。
「大丈夫、だから……いま触らないで……」
見つめられた手塚はぐっと息を飲んで、徳平から目を背けた。
「……分かった。ここを出たらすぐに洗おう」
提示された打開策に、徳平は無言で頷いた。
なにはともあれ、あと一回分の時間を我慢すれば、ここから解放されるはずだ。
なんとか気力を奮い立たせて、徳平は壁に縋り目を閉じる。
手塚も一つ大きく息を吐き出し呼吸を整え、再び手を動かし始めた。
二人の呼気と手塚が自身を扱う音に、二回分吐き出した精液のぐちゃぐちゃという音が加わり、余計に緊張感と熱量を上げる。
手塚はぐちぐちと手で性器を擦りながら、ちらりと目下の徳平の内腿を盗み見た。
薄暗い中、モニターの光にぼんやりと照らされた白く女性らしい柔い肌に、自分が出した白濁した液体がぬらぬらと輝いているのを見て、喉を上下させ生唾を飲み込んだ。
罪悪感を感じつつも、それ以上に興奮している自分に嫌気がさす。
黙って目を閉じ抱いた劣情を押しやり、ひたすら反復的な動きで自身を扱う。
しかし既に立て続けに二回も射精しているため、なかなか終わりがやってこない。
まるで試合の時のように息が上がり汗が流れ、腰には重い疲労感がまとわりついている。
徳平も先程より時間がかかっていることに気付き、ぼんやりした頭でこれはどうしたら、と思考を巡らせる。
しかし特に考えも纏まらなかったので、勇気を決して後ろを振り返り、手塚の目を見て小さな声で訊ねた。
「てづか……だいじょうぶ?」
手塚は一瞬逡巡したが、すぐに壁についていた手を離し、徳平の手を掴むと、くるりと徳平の身体の向きをかえさせ、向かい合わせの体勢にした。
「すまない」
そしてその掴んだ徳平の手を手塚の性器にあてがい、その上から自分の手で握りこんで扱い始めた。
「ぁ」と徳平は声を上げかけたが、フーッフーッと荒く息をついて快感を追っている手塚の表情を見て、何も言えなくなった。
どのくらい力をいれていいものか分からず、手の動きは手塚のなすがままになっている。
目を背けたいのに、視線が手先に釘付けになって離せない。
人生で初めて触れた異性のそれは、熱くて硬くて大きくて、火傷しそうだと思った。
あまりに扇情的な光景に目の前がくらくらする。
手の中に精液が吐き出されたときには、既に意識はぐらつき、モニターのスピーカーから『三回目を計測しました。おめでとうございます。十秒後に解放いたします』という声が陳腐なファンファーレと共に流れたのも聞こえなかった。
立っていることもままならず、徳平は手塚の胸に頭をつけ体重を預ける。
手塚は流石に運動部といったところか、多少の疲労感を感じつつも楽々と徳平を支えながら、下着と制服を上げてベルトをなおした。
手塚が服装を整え終わったのと、二人を閉じ込めていた箱が消え去るのがほぼ同時だった。
明るさを感じて、徳平はゆっくりと顔を上げた。
「……終わった?」
「あぁ、無事に出られたようだ」
「そう……よかった」
安堵で力が抜け、へたり込みそうになったところを、手塚が綺麗な方の手で支えた。
そのまま素早く辺りを確認すると、そこはどうやら三年生の教室が並ぶ階の廊下のようだった。
誰か人がいないか注意深く確認したが、箱の中で過ごした時間は思ったより長かったらしい、日が暮れかけた校舎に残っている生徒はいなかった。
そのことにもう一段安心する。
少し落ち着くと、一気に先程の行為が思い出され、そういえば、と徳平の下半身に視線をやった。
吐精した時間から考えてまだ乾いてはいないだろうが、服についた精液は早く落とさないと処理が面倒なことになる。
それにいつまでもこんなものを徳平にぶっかけたままにしておく訳にはいかない。
太腿だけならいざ知らず、最後は手の中にも吐き出したのだ。
ちょうど近くにあった男子トイレを認めると、手塚は徳平の手を引いてそちらに向かった。
「待って手塚、そこ男子トイレでは」
「大丈夫だ。こんな時間に使っているやつなんていない」
そう言ってドアを押し開けると、手洗い場まで徳平を引っ張っていき、手についた白濁を流させた。
汚してしまったという意識の中にも、微かにほの暗い喜びを感じている自分に舌打ちをしたくなる。
「スカートはどうしたら」
「すぐに洗い流した方がいい。乾くと変色してしまう」
「そうなの」
「俺が洗うから、個室で脱いで渡してくれ」
普段の手塚にスカートを脱げなんて言われたらお巡りさん大石さん案件だが、先程までの行為を考えると大したことのないように思えて、徳平は「分かった」と素直に頷く。
「しかし着替えはどうするべきか」
「たぶん教室にハーフパンツがあるから、それ持ってきてくれる?」
「あぁ。机の場所はどこだ?」
「窓から二番目の、前から三つ目」
「分かった、待っててくれ」
そう言って小走りでトイレを出ていった手塚を見送り、一番手前の個室に入って鍵をかけると、徳平は扉に背を預けてズルズルとしゃがみ込んだ。
すっかり何事もなかったかのように綺麗になった右手を見ると、あの箱の中での扇情的な光景がありありと思い出されて、徳平はため息をついて顔を伏せた。
ぐるぐるごちゃごちゃと色々な事が頭を駆け巡る。
まさか、手塚があんな顔をして、あんな声を出して、あんなことをするなんて。
これからどんな顔をして彼と顔を合わせたらいいのだろう。
その問いは、スカートを脱いで、自分の下着も濡れていることに気付き絶句したとき、更に至上の命題になったのだった。
「落ち着け」
「訳がわからない」
「分かったから落ち着け」
「これのどこが落ち着ける要素があるっていうの!」
徳平が食い気味に叫ぶと、一畳ほどの間もない密閉空間の至るところで声が反響し、手塚は眉を寄せて目を閉じた。
そんな手塚には目もくれず、徳平は天井に埋め込まれているモニターをわなわなと震えながら睨みつけている。
『どちらかが3回イくまでこの空間からは出られません』
白い背景にその文面がポップ体で映し出され、ご丁寧に数十秒おきに無機質な声がその文字を読み上げている。
掃除ロッカーよりは広く試着室よりは狭い、人二人がギリギリ入れる程度の空間の光源はそのモニターのみだ。
「あっ駄目、本当に訳がわからない」
「俺もだ」
神妙な顔で頷いてみせる手塚に、呆然とモニターを見つめたままだった徳平は、こいつ本当に動揺してるのかと歯噛みしたくなった。
ついさっきまで二人とも別の場所にいたはずだったが、気がつくと向かい合った体勢でこの箱の中に押し込められていて、状況を把握する間も与えられずモニターの電源がつき、今に至る。
「……何か心当たりは?」
「あるはずがないだろう」
「まぁ、あっても困る。……どうにかして出られないものかな?」
少しでも身じろぎすると相手に触れてしまいそうなほど狭い立方体の空間には、ツギハギなどはなく出口のようなものは見当たらない。
ふむ、と手塚は向かい側、つまり徳平が背を預けている壁をペタペタと探り始めた。
図らずもいわゆる壁ドンのような姿勢になり、徳平は束の間非日常的状況を忘れて、照れを隠すように口を噤む。
「思い切り壁を蹴飛ばしてみることも出来るが、この空間が箱のようなものだとして、たいした重量がないと、あまり暴れると箱ごと倒れて危ない」
「それはだめだ」
「あぁ、だから下手なことは出来ない」
そうしている間にも『三回イくまでこの空間からは』とバックミュージック代わりに機会音声は流れ続けている。
徳平は憤る気力も失せて、手塚に触れないように気を払いながら背後の壁にもたれかかった。
「つまり誰かが助けてくれるのを待つしかない?」
「だが、外がどこなのかどんな様子なのか、そもそも人がいるのかも分からない。それに待つとしてもこの空間にそう長く居られるはずもないが」
「それは八方塞がりというのでは?!」
再び勢いを取り戻し食ってかかる徳平に、手塚はあくまでいつもと変わらない無表情で先程と同じ言葉を返した。
「落ち着け」
「無茶を言うな……!そもそも手塚はなんでそんなに落ち着いてるの?バグなの?」
「俺だって戸惑っている」
「ダウト」
「嘘じゃない」
「だって見えない」
「生憎、感情が顔に出ない質だ」
平行線のような会話に、徳平は唇を噛んだ。
自分ばかりが意識して心乱されているようで悔しいが、無表情か仏頂面しか差分がない男相手にこれ以上何か言っても無駄だと早々に諦めた。
「結局、どうしよう……」
「とりあえず指令に従うしかないだろう」
「えっ」
予想だにしていなかった言葉に、徳平は思わず手塚の顔をまじまじと見上げた。
「なんだ」
「手塚、え、お題の意味わかってる?イくって意味、ボク知ってる?」
「お前は俺を馬鹿にしているのか。流石にそれくらい知っている」
「いやだそんな言葉知ってる手塚国光解釈違いの地雷です!」
「俺に夢を見すぎだ」
あえなく返されて、徳平は額に手を当てて息を吐いた。
「そんな手塚は嫌だ……」
「なんなんだ……。俺は部活の最中だったんだ、早くここを出て合流しなければ」
「そこなのか!」
確かにここに閉じ込められる前は、各々放課後の時間を過ごしていたはずだ。徳平も徳平でとっとと帰りたかったので、早く出ていきたいと意見には賛成なのだが。なのだが。
「でも、あんな司令どうするつもり?」
若干身を引きつつ訊ねると、手塚は眼鏡を押し上げながらいつもと変わらない調子で答えた。
「安心しろ、お前に迷惑はかけない」
「……どういう?」
「俺がやる」
つまり、としばし手塚の言葉を咀嚼した後、徳平はぱっと口に手を当てた。
「つまり、あの」
「続きを俺に言わせるつもりか」
「いえ……大丈夫です……」
完全にキャパオーバー状態に陥った徳平はようやっとそれだけ返事をした。
熾烈で冷静なテニス部部長が、清廉潔白な生徒会長が、眉目秀麗で模範的な同級生が、概念体としての手塚国光がガラガラと音を立てて崩れていくのを感じる。
あの手塚国光でも自慰をするのか。まじか。
徳平の思考は、体を立方体の中に残して、遠い宇宙をぐるぐるとさまよっていた。
「俺のことをどう思っていたかは知らないが、俺も体力の有り余る年頃の男子だ。必要に駆られて自慰をするときだってある。だから心配するな」
徳平の沈黙をどう解釈したのか、手塚は全く見当違いの方向の説明を加えて寄越した。
普段ならなんの心配だ、茶々を入れるところだが、生憎と今の徳平にはそんな余裕はない。
「しかしいくのはいいが、三回をどう計測するのか」
確かに、壁にはモニターの他は何も機器のようなものは見当たらない。
ようやく地球に帰還した徳平は辺りを見回しながら、過去にTwitterやpixivで見た同じような状況を思い返した。
「何とかなってるのでは?他所のも大概適当だったもの」
「他所にもこんなことをされた人間がいるのか」
まぁ全部二次元ですけどねー!と心中で叫ぶが、口に出すと趣味がモロバレなので控える。
「そうか、それならさっさと終わらせてしまおう。徳平、体の向きをかえて壁側を向けるか」
「ちょっと待って。狭いな……」
徳平がもぞもぞと体を動かすと、手塚は出来るだけスペースを空けようと体を後ろに引いた。
些か無理な体勢でだったが、徳平はなんとか壁側を向くことに成功した。
ふぅと息をついて、首を後ろに傾け、手塚の顔を窺う。
「はい、出来た」
「そのまま前を向いて、出来れば耳を塞いで置いて欲しいが……それは無理そうだな」
「……何を聞いても聞かなかったことにする」
「助かる。ではしばらく我慢してくれ」
手塚が制服のベルトに手をかけたのを見て、徳平はサッと壁に視線を戻した。
カチャカチャとベルトを外す音が耳に届き、徳平は息を飲んでぎゅっと目を瞑る。
しかし視覚は閉ざせても、耳を手で塞げない状態では聴覚までは防ぎようがない。
……ちょっと、これはだめだ、と徳平は心中でサムズアップした。
徳平の耳は、まことに憎らしいことに、衣擦れの音や手塚の息遣い、更には彼が自身を扱う音までありありと拾いあげる。
こんなのとても耐えきれない、と徳平は壁に押し付けた手を震わせる。
そんな徳平の様子を見て、手塚は若干乱れ掠れた声で囁いた。
「っ、すまない」
目を閉じていると先程より手塚が近くにいるように感じて、徳平は黙って首を振るだけだけで精一杯だ。
早く終わってくれ、と念じながら、生々しい息を感じていると、手塚の呼吸が荒くなり始めた。
そのまま黙ってやり過ごしていると、そのうちに「うっ」と小さな呻き声と、液体が床に落ちた音が耳に届いてきた。
はぁっはぁっと肩で息をする手塚の呼気に重なるように、いつの間にか沈黙を貫いていたモニターから『一回目を計測しました』と無機質な声が空気を読まずに宣言した。
二人ともモニターの声に過敏に反応し、上を見上げる。
すると、モニターにはさっきまでの文面は消えて、代わりに『あと2回です』という文字が映し出されてした。
原理は分からないが、どうやらしっかりと絶頂は感知されているようだ。
「あと二回……」
この一回分の時間でさえも悠久のように感じられたのに、これがあと二回も続くとは。
もう無理と言いたげに呟いた徳平に、手塚は大きく息を吐いて声をかけた。
「大丈夫だ、すぐに終わらせる。円周率でも数えていてくれ」
「残念ながら文系でして円周率は3.14までしか知らないのですよ」
「なら歌でも歌ってろ」
「歌?」
手塚が指令をこなしながら、自分は呑気に歌を歌っているところを想像して、徳平は思わずふはっと息を吹き出した。
「歌を?ふっ、ここで?」
「……何も口に出して歌えとは言っていない」
大真面目に出した助け舟を笑われて、手塚は不機嫌そうな声を出したが、対照に表情は僅かに緩めた。
ここに入れられてからこの方、徳平の不安げな顔しか見ていなかったので、少しでも心がほぐれたのならそれでよしとする。
もう少しせっかく緩んだ空気に浸っていたかったが、そういう訳にもいかないので、咳払いをして声を整えた。
「それじゃあ、また少し耐えてくれ」
「あぁ、うん……手塚も」
気を引き締めた面持ちに戻った徳平はまた壁の方を向いたが、そうだ、と思い当たって後ろを振り向いた。
「立ちっぱなしでしんどくはない?こっちの壁に手をついたら少しは楽になるかしら」
確かにどこにも体重を預けないまま自慰をするのにも疲れていたため、手塚は素直に徳平の頭の横の壁に手をついた。
必然的に徳平に手塚が後ろから覆いかぶさるような格好になる。
自分から言い出したこととはいえ、徳平はこれはいけないと思った。
距離が、あまりにも、近すぎて、いけない。
しかし手塚が自慰を再開したことによって、そんな思考は一気に吹き飛んだ。
耳許にふっとくすぐったい息を感じると共に、直接手塚の声が脳髄を叩く。
距離が近くなったので、さっきは聞き逃していた「うっ」「っあ」といった小さな呻きまで聞こえてくる。
腰が砕けるというのはこういうことを言うのか、と徳平はどろどろに溶けてしまったかのように働かない脳でぼんやり考えた。
知らず知らずのうちに汗ばんでいた内腿をきゅっと擦り合わせる。
しゅっしゅっという音が早くなり、手塚が「っく」と声を漏らしたのと同時に、後ろ腿に熱い粘性のある液体がかかったのを感じて、目を閉じていた徳平はビクッと肩を震わせた。
『二回目を計測しました』
「えっ……あ」と徳平が呟くより早く、珍しく焦ったような手塚の謝罪が飛んできた。
「すまない!その、出たものが、制服と足に……」
「……っ」
では今、腿に感じる熱は。
徳平はかあっと血が上に登ってくるのを感じた。
いつの間にか手塚と同じくらい息が上がっていた口元を押さえる。
「……」
それきり何も言えなくなってしまった徳平を見て、手塚は罪悪感を声に滲ませた。
「本当に悪かった」
とりあえず手に届く範囲にある徳平の腿にべっとりとついているそれを手で拭おうと足に触れると、徳平は「っふ」と小さな声をあげた。
予想外の反応に手塚の動きがぴたと固まる。
徳平はそろそろと振り返りながら、絶え絶えに消え入りそうな声で言った。
「大丈夫、だから……いま触らないで……」
見つめられた手塚はぐっと息を飲んで、徳平から目を背けた。
「……分かった。ここを出たらすぐに洗おう」
提示された打開策に、徳平は無言で頷いた。
なにはともあれ、あと一回分の時間を我慢すれば、ここから解放されるはずだ。
なんとか気力を奮い立たせて、徳平は壁に縋り目を閉じる。
手塚も一つ大きく息を吐き出し呼吸を整え、再び手を動かし始めた。
二人の呼気と手塚が自身を扱う音に、二回分吐き出した精液のぐちゃぐちゃという音が加わり、余計に緊張感と熱量を上げる。
手塚はぐちぐちと手で性器を擦りながら、ちらりと目下の徳平の内腿を盗み見た。
薄暗い中、モニターの光にぼんやりと照らされた白く女性らしい柔い肌に、自分が出した白濁した液体がぬらぬらと輝いているのを見て、喉を上下させ生唾を飲み込んだ。
罪悪感を感じつつも、それ以上に興奮している自分に嫌気がさす。
黙って目を閉じ抱いた劣情を押しやり、ひたすら反復的な動きで自身を扱う。
しかし既に立て続けに二回も射精しているため、なかなか終わりがやってこない。
まるで試合の時のように息が上がり汗が流れ、腰には重い疲労感がまとわりついている。
徳平も先程より時間がかかっていることに気付き、ぼんやりした頭でこれはどうしたら、と思考を巡らせる。
しかし特に考えも纏まらなかったので、勇気を決して後ろを振り返り、手塚の目を見て小さな声で訊ねた。
「てづか……だいじょうぶ?」
手塚は一瞬逡巡したが、すぐに壁についていた手を離し、徳平の手を掴むと、くるりと徳平の身体の向きをかえさせ、向かい合わせの体勢にした。
「すまない」
そしてその掴んだ徳平の手を手塚の性器にあてがい、その上から自分の手で握りこんで扱い始めた。
「ぁ」と徳平は声を上げかけたが、フーッフーッと荒く息をついて快感を追っている手塚の表情を見て、何も言えなくなった。
どのくらい力をいれていいものか分からず、手の動きは手塚のなすがままになっている。
目を背けたいのに、視線が手先に釘付けになって離せない。
人生で初めて触れた異性のそれは、熱くて硬くて大きくて、火傷しそうだと思った。
あまりに扇情的な光景に目の前がくらくらする。
手の中に精液が吐き出されたときには、既に意識はぐらつき、モニターのスピーカーから『三回目を計測しました。おめでとうございます。十秒後に解放いたします』という声が陳腐なファンファーレと共に流れたのも聞こえなかった。
立っていることもままならず、徳平は手塚の胸に頭をつけ体重を預ける。
手塚は流石に運動部といったところか、多少の疲労感を感じつつも楽々と徳平を支えながら、下着と制服を上げてベルトをなおした。
手塚が服装を整え終わったのと、二人を閉じ込めていた箱が消え去るのがほぼ同時だった。
明るさを感じて、徳平はゆっくりと顔を上げた。
「……終わった?」
「あぁ、無事に出られたようだ」
「そう……よかった」
安堵で力が抜け、へたり込みそうになったところを、手塚が綺麗な方の手で支えた。
そのまま素早く辺りを確認すると、そこはどうやら三年生の教室が並ぶ階の廊下のようだった。
誰か人がいないか注意深く確認したが、箱の中で過ごした時間は思ったより長かったらしい、日が暮れかけた校舎に残っている生徒はいなかった。
そのことにもう一段安心する。
少し落ち着くと、一気に先程の行為が思い出され、そういえば、と徳平の下半身に視線をやった。
吐精した時間から考えてまだ乾いてはいないだろうが、服についた精液は早く落とさないと処理が面倒なことになる。
それにいつまでもこんなものを徳平にぶっかけたままにしておく訳にはいかない。
太腿だけならいざ知らず、最後は手の中にも吐き出したのだ。
ちょうど近くにあった男子トイレを認めると、手塚は徳平の手を引いてそちらに向かった。
「待って手塚、そこ男子トイレでは」
「大丈夫だ。こんな時間に使っているやつなんていない」
そう言ってドアを押し開けると、手洗い場まで徳平を引っ張っていき、手についた白濁を流させた。
汚してしまったという意識の中にも、微かにほの暗い喜びを感じている自分に舌打ちをしたくなる。
「スカートはどうしたら」
「すぐに洗い流した方がいい。乾くと変色してしまう」
「そうなの」
「俺が洗うから、個室で脱いで渡してくれ」
普段の手塚にスカートを脱げなんて言われたらお巡りさん大石さん案件だが、先程までの行為を考えると大したことのないように思えて、徳平は「分かった」と素直に頷く。
「しかし着替えはどうするべきか」
「たぶん教室にハーフパンツがあるから、それ持ってきてくれる?」
「あぁ。机の場所はどこだ?」
「窓から二番目の、前から三つ目」
「分かった、待っててくれ」
そう言って小走りでトイレを出ていった手塚を見送り、一番手前の個室に入って鍵をかけると、徳平は扉に背を預けてズルズルとしゃがみ込んだ。
すっかり何事もなかったかのように綺麗になった右手を見ると、あの箱の中での扇情的な光景がありありと思い出されて、徳平はため息をついて顔を伏せた。
ぐるぐるごちゃごちゃと色々な事が頭を駆け巡る。
まさか、手塚があんな顔をして、あんな声を出して、あんなことをするなんて。
これからどんな顔をして彼と顔を合わせたらいいのだろう。
その問いは、スカートを脱いで、自分の下着も濡れていることに気付き絶句したとき、更に至上の命題になったのだった。
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