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5.熱


 初夏、グラウンド、白熱の紅白戦。
 白の玉を空へ向かって投げた。


「入れろ!もっと玉を入れまくれ!」

「わかってる!入れればいいんでしょ!」

 必ず白組が勝つ……!私も琉夏くんも思いは同じだった。それは向こうの赤組も同じことで、本来なら空へ投げられるはずのボールが私達に飛んでくる。容赦ない火の玉ストレートに私はせっかく放った玉を籠から外してしまった。
 玉入れの籠は的が小さい分難しい。私達は作戦を立てた。私は定位置からひたすら玉を籠に入れ、琉夏くんはルカレンジャーとなりひたすら玉を相手(コウくん)にぶつけていた。もはや玉入れというか、玉当てである。

「琉夏くん!もう玉がない!」

「なにっ!玉が!?」

「そっちに入れすぎだよ!」

「いや……?」

 そこでタイムアップとなり、両チーム籠の中の玉を一つづつ放って出していく。

「えーー……10対23で白組圧勝だぁ!」

 審判の大迫先生の声に白組がわっと沸いた。そうか、琉夏くんが投げすぎたんじゃなくて、私が玉を入れすぎていたんだ……。

「俺もスゲェ入れたと思ったんだけどな……敵わないよ……。」

「あはは……。」

 琉夏くんからお褒めの言葉に苦笑した。





 三年目の体育祭も終了。白組は優勝こそ逃したものの、いいプレーをしたと思う。チーム全員が一丸となって全力で体育祭にぶつかったんだ。最後、泣いてる子もいた。私もつられそうになりながら、手を取って悔しさを分かち合った。
 私はだんだん青春とは?の問いがわかりかけてきた。何かを頑張ること、が今のところの解。頑張って、汗を流して、それが記憶になって思い出になる。今だけしか得られない特別な経験値。それが青春、と私は答えを出したから、期末テストで学年一位になったあの日から今まで以上に学校生活に向き合っている。おかしいな、勉強も運動も好きじゃなかったはずなのに。
 学校生活に積極的になった分今まで話さなかった子とも自然と話すようになった。放課後、今年の体育祭の反省とか、男子の珍プレーとかを笑いを交えて話していたら少し遅くなってしまい、夕日が沈みつつある中、歩いて家に帰っていると道の下の海岸沿いの砂浜を走っている人を見つけた。

「先生?」

 思わず大きな声が出てしまうとその人物はこっちを振り返った。

「おお!お疲れさん!今日は大活躍だったなぁ、おまえは素敵だ!」

 ついに三年生も我がクラスの担任教師、大迫先生が私を見て、笑顔で褒めてくれた。私は道の傍の階段を使い海岸に降りた。

「先生。何してるんですか?体育祭終わったばっかりですよ。」

「何って、夕日の海岸を走るのは先生の日課だ。」

 先生は当然のように言った。青春ドラマを地で行っている。

「じゃあ、私も走ります!」

 私は海岸を駆け出した。体がそうしろと言っている。体育祭の余韻がまだ残っていて、まだうずうずしているようで、じっとしていられなかった。

「おぉ?はは、コラァ待て!」

 後ろから先生が追いかけてくる、映画かなにかのシーンみたい、と笑いかけた瞬間、足首に痛みが走り、体のバランスを崩し砂の上に転んだ。

「痛っ……」

 痛みに耐えながら体を起こしていると、先生が私の傍へ駆け寄った。

「大丈夫か!」

「大丈夫ですっ……」

「足見せてみろ。」

 私は立ち上がろうとしたのを止め、座ったまま先生の方を向いた。足首、ふくらはぎ、膝、と先生の掌が軽い力で触れる。されるがまま、それを見ていた。

「よし……大したことなさそうだな。先生びっくりしたぞぉ。」

「…すいません…」

「ばっきゃろぉ、そんな事言うやつあるか。先生おまえのこういう所大好きだ。」

 先生の手が私の足から離れて、そのまま私の頭にぽんと乗った。

「お前たち若者はがむしゃらでいい。迷惑なんていくらでもかけろ。俺たち大人が全力で支えてやる。」

 優しい顔で見つめられてぽんぽんと頭を撫でられ、私は言葉を失った。先生はそんな私に笑いながらくるりと背を向け両手を延ばした。

「ほら。」

「え?」

「家までおんぶしてやる。早く帰らないと、暗くなるだろ?」

「ええ?」

「つかまれ。…いくぞ。」

 そろりと先生の肩に触れて、ぐっと体重を預ける。重くないかな、と心配していたらふわりと体が浮いた。

「わっ。」

「落ちるなよ!」

 反射的に首に腕を回す。私の太ももは先生の腕にしっかり掴まれていた。私がしっかりしがみついていれば落ちることはなさそうだ、逆を言えば、掴まってないといけない。
 高校生にもなっておんぶされてるのが恥ずかしい。おんぶしてくれてる相手が先生っていうのも恥ずかしい。それに男の人とこんなにくっついたことがなくて、先生のぬくもりを体で感じる。心臓がどきどきした。くっつきすぎたら伝わってしまう。けどくっつかないと落っこちてしまう。回した腕に力を込めた。
 家が近くて良かった。距離はないはずなのに、すごく長い時間に思えた。

「同級生がおぶってきてくれたのかとおもったら、先生だったわねえ。」

お母さんに笑われたけど話をする気になれなくて、私は部屋でひとり、挫いた足を触った。胸はまだ鳴ったまま、落ち着きそうにない。

 私、先生のことを、
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