4.青春それは
4.青春それは
「お化け屋敷はぁぁあ!いかがですかぁぁぁあ!!」
「お化け屋敷はぁぁ!いかがですかぁぁ!!」
「そうだ!!腹から声出せぇ!!」
「はい!!」
背筋を伸ばす、顎を引く、両手は後ろ、鼻から息を吸って腹から声を出す。我がクラスの担任教師大迫先生に次いで、私は腹から声を出した。
今年の文化祭はお化け屋敷。私が教室の前で客寄せをしていると大迫先生がそんなのじゃ足りないとレクチャーしてくれた。そのおかげか、そもそものお化け屋敷のクオリティのおかげか、今年の文化祭も大成功に終わった。
「大迫ちゃん、俺の幽霊メイクにビビってたよ。意外と怖がりなんだな。」
クラスメイトがそう言っていて、そういえばあの後、様子を見ると言って教室の中に入ってから変な感じだったなと思い出した。普段はスポ根で弱いところが見えない人だけど、そういう一面もあるんだな。先生だからってのも、あるのかな。先生の苦手なものを知って、またひとつ先生を知った。
「バーンビ。」
「カレン」
「どうしたの、声カラカラだね?今年のローズクイーン決まったよ。」
「来年は、バンビ。」
「そう。私達も来年は三年生。」
「そんなまさか」
カレンとみよと三人で掲示板の前に立った。今年のローズクイーン決定、か。三年生の中から選ばれるはばたき学園の希望と称されるたった一人の女子。容姿端麗、才色兼備、かつ人気者……そんな奇跡みたいな人、いるのはいるだろうが、なろうと思ってなれるもんじゃないと思う。でももし、ローズクイーンになれば青春したって心から思えるかな。夢みたいな話だけど。つまり青春は夢?
そろそろ年賀状の用意をしないと、そう思って去年来た分を見ていた。去年の先生からの年賀状には、青春って何だ!と書いてあった。そんなものこっちが聞きたい。教えて欲しい。でも、こう書いてくるってことは、自分で考えなさいということなのだろう。
私はもやもやを抱えていた。青春。青春ってなんだろう。アオハル?訓読みしただけじゃないか。私は青春とはもっとキラキラしたものだと思ってた、そして、自分も高校生になれば自然と青春の中に入れるものなのだと思ってた。私は今、青春しているのだろうか。人から見たらそうなのかもしれないけど、当事者だからか、わからない。だって、私には好きな人ひとりいないのだから……。
バイト代入る、嬉しい。友達と遊ぶ、楽しい。そんな感じ。ただ、生活がそこにある。そんな感じ。
「今日こそ聞かせてもらうよ。バンビは今気になってる人いるの?」
「正直に答えて。」
二人に気圧され、なにもないのに、なにかを吐き出してしまいそうになる。
カレンの家にお泊り会をしようということになり、パジャマデートというキラキラした響きにつられ、是非とも!と喜んで行ったはいいけど、いざ三人でベッドルームでおしゃべりすると何故か私が二人に詰め寄られていた。
「今はいないかな……。」
「うそ!」
「隠しても、星は全て知ってる。」
「うう。でも本当にいないんだよ。」
二人とも、全然信用していない。二人には、そういうふうに見えてるってことかな……?
「アタシの恋敵……いつか絶対聞いてやるぜ。じゃーもう寝るよー!」
「まだ眠くない。」
「だーめ。夜ふかしは美容に良くない。」
「はぁい……。」
カレンとみよの会話が可愛くて笑ってしまった。一時は窮地だったけど、いろんなこと話せて楽しかったな。しかし、カレンは大人だ。こんな広い部屋にたった一人で暮らしてる。私に同じことが出来るだろうか。私も早く大人になりたい、青春を知る前に大人になったりするのかな、それとも、大人にになってからあれが青春だったと気づくのだろうか。
それは二年の期末テストだった。
「学年一位……?」
うそでしょ、たしかに今回はなるべく図書室に籠もって勉強したし、そこで生徒会長の紺野先輩に聞いた記憶法を取り入れたけれど、まさかここまで点数が取れるなんて思ってなかった。
「スゲェ……。」
掲示板の前で呆然と立っていると周りの人は私を見てくるし、琉夏くんには拝まれるし、嬉しいし恥ずかしいし信じられない。私が本当に一番だなんて。パニックになった。そ、そうだ、そうだ先生に報告しよう。あのとき底辺だった私が一番を取れました、って。私は廊下を走った。走らずにはいられなかった。
「先生!」
職員室の扉を開けて、先生の机目がけて小走りした。
「おう、来たな。」
「先生、私……」
「学年一位!おめでとう!」
先生は私の顔を見上げてにっこりと笑い、拍手をくれた。
「先生、おまえが全力で勉強にぶつかってるのちゃあんと見てたぞ。どうだ、青春は気分が良いだろう?」
「違うんです、」
「何が違う。」
違うんです、紺野式メソッドのおかげなんです、違うんです、私だけの努力じゃないんです。思えば一番初めの補習の時だってそうだ、私一人で勉強したらこんな結果が出るはずないんだ。あのプリントがあったから、私は補習を受けられた。私は何をしても中途半端だから、だから信じられない。
言葉を続けられずに俯いていると先生の檄が飛んできた。
「ばっきゃろう、そんな顔するやつがあるか!もっと胸を張れ。」
「…はい……」
何をしても中途半端で、逃げだけは得意だった自分に自信がついた。勉強がこんなに楽しいなんて思ってもみなかった。
この人に出会わなければ。
「ははっ…良い笑顔だ。……おまえは素敵だ。」
無理に顔を作らなくても自然と笑っていたらしい。どうしよう、胸が温かい。これが青春のあたたかさなのかな。
「お化け屋敷はぁぁあ!いかがですかぁぁぁあ!!」
「お化け屋敷はぁぁ!いかがですかぁぁ!!」
「そうだ!!腹から声出せぇ!!」
「はい!!」
背筋を伸ばす、顎を引く、両手は後ろ、鼻から息を吸って腹から声を出す。我がクラスの担任教師大迫先生に次いで、私は腹から声を出した。
今年の文化祭はお化け屋敷。私が教室の前で客寄せをしていると大迫先生がそんなのじゃ足りないとレクチャーしてくれた。そのおかげか、そもそものお化け屋敷のクオリティのおかげか、今年の文化祭も大成功に終わった。
「大迫ちゃん、俺の幽霊メイクにビビってたよ。意外と怖がりなんだな。」
クラスメイトがそう言っていて、そういえばあの後、様子を見ると言って教室の中に入ってから変な感じだったなと思い出した。普段はスポ根で弱いところが見えない人だけど、そういう一面もあるんだな。先生だからってのも、あるのかな。先生の苦手なものを知って、またひとつ先生を知った。
「バーンビ。」
「カレン」
「どうしたの、声カラカラだね?今年のローズクイーン決まったよ。」
「来年は、バンビ。」
「そう。私達も来年は三年生。」
「そんなまさか」
カレンとみよと三人で掲示板の前に立った。今年のローズクイーン決定、か。三年生の中から選ばれるはばたき学園の希望と称されるたった一人の女子。容姿端麗、才色兼備、かつ人気者……そんな奇跡みたいな人、いるのはいるだろうが、なろうと思ってなれるもんじゃないと思う。でももし、ローズクイーンになれば青春したって心から思えるかな。夢みたいな話だけど。つまり青春は夢?
そろそろ年賀状の用意をしないと、そう思って去年来た分を見ていた。去年の先生からの年賀状には、青春って何だ!と書いてあった。そんなものこっちが聞きたい。教えて欲しい。でも、こう書いてくるってことは、自分で考えなさいということなのだろう。
私はもやもやを抱えていた。青春。青春ってなんだろう。アオハル?訓読みしただけじゃないか。私は青春とはもっとキラキラしたものだと思ってた、そして、自分も高校生になれば自然と青春の中に入れるものなのだと思ってた。私は今、青春しているのだろうか。人から見たらそうなのかもしれないけど、当事者だからか、わからない。だって、私には好きな人ひとりいないのだから……。
バイト代入る、嬉しい。友達と遊ぶ、楽しい。そんな感じ。ただ、生活がそこにある。そんな感じ。
「今日こそ聞かせてもらうよ。バンビは今気になってる人いるの?」
「正直に答えて。」
二人に気圧され、なにもないのに、なにかを吐き出してしまいそうになる。
カレンの家にお泊り会をしようということになり、パジャマデートというキラキラした響きにつられ、是非とも!と喜んで行ったはいいけど、いざ三人でベッドルームでおしゃべりすると何故か私が二人に詰め寄られていた。
「今はいないかな……。」
「うそ!」
「隠しても、星は全て知ってる。」
「うう。でも本当にいないんだよ。」
二人とも、全然信用していない。二人には、そういうふうに見えてるってことかな……?
「アタシの恋敵……いつか絶対聞いてやるぜ。じゃーもう寝るよー!」
「まだ眠くない。」
「だーめ。夜ふかしは美容に良くない。」
「はぁい……。」
カレンとみよの会話が可愛くて笑ってしまった。一時は窮地だったけど、いろんなこと話せて楽しかったな。しかし、カレンは大人だ。こんな広い部屋にたった一人で暮らしてる。私に同じことが出来るだろうか。私も早く大人になりたい、青春を知る前に大人になったりするのかな、それとも、大人にになってからあれが青春だったと気づくのだろうか。
それは二年の期末テストだった。
「学年一位……?」
うそでしょ、たしかに今回はなるべく図書室に籠もって勉強したし、そこで生徒会長の紺野先輩に聞いた記憶法を取り入れたけれど、まさかここまで点数が取れるなんて思ってなかった。
「スゲェ……。」
掲示板の前で呆然と立っていると周りの人は私を見てくるし、琉夏くんには拝まれるし、嬉しいし恥ずかしいし信じられない。私が本当に一番だなんて。パニックになった。そ、そうだ、そうだ先生に報告しよう。あのとき底辺だった私が一番を取れました、って。私は廊下を走った。走らずにはいられなかった。
「先生!」
職員室の扉を開けて、先生の机目がけて小走りした。
「おう、来たな。」
「先生、私……」
「学年一位!おめでとう!」
先生は私の顔を見上げてにっこりと笑い、拍手をくれた。
「先生、おまえが全力で勉強にぶつかってるのちゃあんと見てたぞ。どうだ、青春は気分が良いだろう?」
「違うんです、」
「何が違う。」
違うんです、紺野式メソッドのおかげなんです、違うんです、私だけの努力じゃないんです。思えば一番初めの補習の時だってそうだ、私一人で勉強したらこんな結果が出るはずないんだ。あのプリントがあったから、私は補習を受けられた。私は何をしても中途半端だから、だから信じられない。
言葉を続けられずに俯いていると先生の檄が飛んできた。
「ばっきゃろう、そんな顔するやつがあるか!もっと胸を張れ。」
「…はい……」
何をしても中途半端で、逃げだけは得意だった自分に自信がついた。勉強がこんなに楽しいなんて思ってもみなかった。
この人に出会わなければ。
「ははっ…良い笑顔だ。……おまえは素敵だ。」
無理に顔を作らなくても自然と笑っていたらしい。どうしよう、胸が温かい。これが青春のあたたかさなのかな。
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