3.ローズクォーツ
はば学は私立の学校だから二年続けて担任の先生が同じってことはなんの不思議もない。でも、どうして私が黒板に書かれた先生の名前をまた読み上げなきゃいけないんだ。
「えっと、ダイハク、リョク?」
「ふふん。」
なぜか得意げな大迫先生の顔にみんな笑い出した。
私は無事に進級できた。まだまだ低空飛行だけど、学力はだんだん上がってきた。そして二年目の体育祭がやってきた。なんの競技に参加しようかな、そう考えていると私の目の前に流夏くんが飛び出してきた。
「うわっ。」
「助けて!」
そう言うと背中を丸めて私の影に隠れた。
「ねールカくんどこいったのー!?」
「あっちじゃない?!」
遠くで何人かの女子の騒ぐ声がする。察するに、流夏くんファンの女子たちから逃げてきたらしい。
「ヒーローなんでしょ?戦えばいいのに……」
「そう言わないでよ、困ってるんだ。そうだ。今から二人三脚出ない?」
「え?私と?」
「よし、勝とうね!正義は勝つ!」
「こんな時だけヒーローらしくならないでよ!」
そんなこんなで琉夏くんと二人三脚に出ることになった。
よーいスタートの銃の音とともに縛った方の足を出す。私は琉夏くんの腰を抱き、琉夏くんは私の肩を抱き、みぎ、ひだり、みぎ、ひだり、声に出して確かめ合いながら土を踏み、駆けた。結果はなんと、一位。
「やった!」
まさか一位になれるなんて思ってなかった。
「言ったろ?正義は勝つんだって。」
「他の人が悪いみたいじゃん……。」
でも、嬉しい。一番になることがこんなにうれしいなんて。いままでなにかで一番になったことってあったっけ。息を荒げてしばらく放心していたら琉夏くんが笑っていた。
最後のフォークダンスを踊り、そうして今年度の体育祭が終わる。高揚感を抱いたまま下校しようと校門前まで歩くとさっきもHRで会った大迫先生に会った。
「オッス。今日は大活躍だったなぁ。体育祭好きになったか?」
ジャージ姿の先生を見つけたからさようならと声をかけたら、先生はそう聞いてきた。
「……、はい、すごく嬉しくて。」
「いい顔してるぞ。おまえは素敵だ。」
耳に、残った。
家に帰って、先生の言葉を反芻していた。私は、一番になったことが嬉しいんじゃなくて、自分の頑張りが評価されたことが嬉しかったんだと気づいた。
……私、どんな顔をしていたんだろう。
二年生の特筆事項といえば、なんと言っても修学旅行である。秋、いよいよこの日を迎えた私は前日、楽しみで楽しみで、全然眠れなかった。
北海道を四日間。自由行動の時間はカレンとみよと私と三人、カレンいわくキューティー3で過ごすことにした。クラーク像、牧場、時計台……想像よりずっと小さくて、ずっと都会の中だったけど、三人でいれば何を観ても楽しかった。カレンは相変わらず親衛隊のような方々に写真をせがまれていたりして大変そうだったけど、旅行の開放感からいつもよりサービスしていたように見える。
その夜、カレンが興奮気味に私がいる部屋にやってきた。
「バンビ、あっちの部屋、やばいよ。」
「どうしたの?」
「行ってみない?」
あっちの部屋、とは男子たちの部屋だ。そういえば、微かに音が聞こえる、なにかどよめきのような。もしかして、と思って私達は部屋を出た。
思った通りそこは戦場だった。砲丸のように飛び交う枕、枕、枕。雄叫びのような声も聞こえる。
「やっぱり、行こうバンビ!」
カレンに手を引かれ、私も枕投げに参戦することになってしまった。戦場に駆り出されて数秒、ノリノリのカレン、琉夏くん、コウくんが繰り出すめくるめく必殺技の数々にとてもついていけず私はすぐに退場した。
「無理、無理だよぉ!」
逃げるように部屋に戻って布団をかぶった。私と入れ違いに、向こうの部屋で大迫先生の怒鳴る声がした。早く戻ってきてよかった。ほっとして目を瞑り続けるけどなかなか眠れない。修学旅行の前の日から寝不足が続いている。おかしいな、疲れてるはずなのに。私はこっそりと部屋を抜け出しホテルのロビーへ歩いていった。
「コラァ!」
「ひぃっ!」
大声にびっくりして飛び上がる。なりに似合わぬ大声の主、大迫先生が怒った顔で私を見ていた。
「ごめんなさい、眠れなくて。」
私が謝ると、先生はんーむ。と腕を組んで息をついた。
「……枕投げに参加してなかったのは、偉いぞ。……でもこんな時間に先生に見つかったからには……。」
「お説教ですか?」
「されたいか?」
にやり。と、なりに似合わない悪い顔をされて、怖くはないけど、どきりとした。
「安心しろ、先生はしない。氷室先生に見つかる前に帰りなさい。……俺も怒られるからなぁ。」
先生は眉を下げて笑ってくれた。
私は送り出されるように部屋に戻った。布団に入ると不思議と眠気が来て、いつの間にか眠っていた。
次の日、最終日は最後にお土産屋さんに寄った。三人で各々のお土産を選び、すっかりくたびれた。
「そうだせっかくだから三人でお揃いのもの買おうよ!キューティー3の友情の証として。」
カレンの提案にみよと私は乗った。たくさんの思い出が出来た修学旅行だ、形にしておいて損はない。
「バンビ、選んで。」
「私?」
「んー…と、」
みよに言われ、棚から私が手に取ったのは小さなピンクのストラップだった。
「かわいい〜っ。なに、フクロウ?小さくて付けやすそう!アタシたちにぴったりって感じ!」
「フクロウは幸せを呼ぶシンボル。そして紅の水晶は愛をもたらす……。バンビがこれを選んだのは、星の導き。」
にやにやと笑う二人に、寝不足だったから深い意味はない、と理解して貰うのに骨が折れた。
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