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特殊設定

 狛枝凪斗は所謂優勢と呼ばれる性別であったが、それを実感したことや誇ったことはこれまでの人生において殆どなかった。最低で最悪で愚かで劣悪な存在。そうであると自認していたから、誰かと添い遂げるなんて考えたことなかったし、ましてや自分の遺伝子を残したいと思ったこともなかった。
 たとえ、運命の番に出会ったとしてもこの考えは変わらないだろう。そう、思っていた。


 例えるならそれは、熟れた果実のような、咲き誇った華の蜜のような、そんな甘く濃厚な匂いだった。鼻腔をくすぐる、なんて優しい刺激ではない。鼻を介して脳にたどり着き、神経という神経を麻痺させる。そんな、暴力的なまでに魅惑的な匂い。
 脳内でアラートが鳴り響く。残った理性の、ささやかな抵抗だった。しかし、それも次第にぐずぐずと溶けていく。
 ドサッと何かが雪崩れる音と共に、身体に走る衝撃。狛枝はそうしてようやく、日向を押し倒したことを知った。
「こま、こまえだ……おれっ、なんか変だっ……はなれてくれよぉ……」
は、は、と息を乱し、日向が懇願する。弱々しくて酷く情けない。普段の狛枝なら、きっと嘲笑していただろう。
 けれど、今はどうだろう。狛枝はそんな日向を見て愛らしいと感じていた。濡れて煌めく瞳が、唇を濡らす悩ましげな吐息が、その全てが狛枝の心臓を強く昂らせていた。
 留まることを知らない濃厚な香り。持て余す身体の熱。くらりと揺れる脳髄に、狛枝はとうとう日向の喉に噛みついた。
「はひっ……!ぁ、ひっ……やっ……!」
柔く歯を立て肌に舌を這わせる。悲鳴を漏らし震える喉は、なんて可愛らしいのだろうか。ぴりぴりと身体に悦びが走る。彼の全てをこの手で暴いてみたい。そんな衝動に駆られた。
「んっ……んむっ……ぁん……」
喉に咲かせた紅い花を舌先で艶やかに彩り、狛枝は甘やかな吐息が漏れる口腔に舌を突き入れた。熱い粘膜を舌先でなぞり、唇を柔く食んで唾液を啜る。
 もう、一欠片も理性なんてものは残っていなかった。存在するのは、強烈な支配欲。この子を、自分だけのものにしたい。他でもない、この子に自分の遺伝子を残して欲しい。
 極めて生物的な生存本能。そんな欲望が、狛枝の身体に満ちていた。
 酸欠を感じるまで貪るようなキスをして、名残惜しげに唾液を引きながら唇を離す。日向の唇はぽってりと色を指してらてらと艶めいており、それが何とも魅惑的でまた一つキスを落とした。
「っ、日向クン、」
狛枝は日向の頭を抱いて、身体をぴったりと擦り寄せる。それから吐息で彼の耳たぶを震わせながら、うっとりと呟いた。
「……ボクの子を、孕んでくれ」
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