その他パロ
人数合わせの名目で大して興味のない合コンへ連れて行かれたのは不運だったけど、密かに想いを寄せている彼も同席していたのは幸運だった。
平凡だと彼は自嘲するけれど、男性らしさと幼さを残した相貌はほっとく女性の方が少なくて。彼に注がれる熱っぽい視線は、躍起になって根こそぎ奪った。
ああ、彼に対する気持ちはそんなものなんだ。だったらボクの方がよっぽど、
なんて、得意げに笑いながら。
「結局みんなお前狙いだったな」
乗り込んだ電車は、運良く空席が並んでいた。腰をかけてまもなく、電車が走り出す。速さが乗ってきた頃、日向がふと口を開いた。
時刻は夜の十時を過ぎた頃。あたりはすっかりと夜の帳が下りていたが、飲み屋の通りはこれからだと言わんばかりに光で満ち溢れていた。
合コンに同席していた女性たちは、やはりというべきか落ち着きがない様子でこちらを伺っていた。それに気付かないフリをして、酔いが回ったフリをして上手いこと逃げ出したのである。ちゃっかり日向の肩にもたれかかり、彼をお持ち帰りしながら。
「連絡先とか聞かれただろ?」
「まぁ……けど、教えなかったよ」
「お前、いつもそうだけど……恋愛に興味ないのか?」
「なくは、ないけど」
狛枝は、ふ、と息をついて、それから長い睫毛を伏せた。
好きな人と結ばれることを望むのは、きっと傲慢なのだろう。けれど、どうしたって願ってしまうのだ。
自分の映す彼の瞳に、恋慕の色が宿ればいいのに。あの凛とした声が、甘く自分の名を呼んでくれたらいいのにと。
日向と過ごす何気ない日常の中、ふとした時にそう感じては、狛枝はしみじみと思うのだ。自分は、日向に恋をしていると。
「ふーん……」
狛枝の含みのある言い方に何かを察したのか、日向は深く問い詰めてこなかった。その距離感が心地よくて、少しもどかしい。
いつの間にか車内は人が少なくなっていて、会話の一つも聞こえかった。
遠くで鳴っている電車の振動音。程よいアルコールに酔いしてる身体に、肩に触れる愛おしい彼の体温。
「キミと、付き合えたらいいのに」
視界に映る彼の指先にどうしても触れたくなって、手を伸ばした。
覆った手のひらに、指先がピクリと動く感触。そこで狛枝は、ようやく自身の言葉が思いの外熱を孕んでいたことに気付いた。
作り笑顔は得意だ。顔を上げる一瞬で仮面をつけて、なんてねと誤魔化せばいい。そう考え、顔を上げた。
「……そういうことは素面で言えよ」
正面から見た日向の顔は、数分前に見た時よりずっと、ずっと赤かった。照れと困惑が混じったような、表情。初めて見る日向のその顔を、狛枝は可愛いと思った。
「え、と……ひなた、クン、」
狛枝は笑みを浮かべることも忘れて、口を開閉した。思っていた反応と違くて、耳まで朱に染まる彼の姿に胸はときめいて、思考が乱れる。
「あっ、おれ降りるとこっ」
日向のハッとした顔に、狛枝も似たような反応をした。車内アナウンスが、到着地の名を告げる。日向の降りる駅だ。日向がパッと立ち上がり、慌ただしく電車を降りていく。
「……狛枝っ」
それからくるりと振り向いて、煌めく瞳で狛枝を射抜いた。
「冗談じゃないなら次会った時──」
扉が閉まる音に日向の声がかき消される。カタンと動き出す電車。離れていく日向との距離に狛枝は思わず立ち上がった。
「……期待しても、いいのかな」
静寂に包まれる車内で、狛枝は力なく腰を下ろしながら一人呟く。
アルコールが抜けかけていたその頬は、再び紅が差していた。
平凡だと彼は自嘲するけれど、男性らしさと幼さを残した相貌はほっとく女性の方が少なくて。彼に注がれる熱っぽい視線は、躍起になって根こそぎ奪った。
ああ、彼に対する気持ちはそんなものなんだ。だったらボクの方がよっぽど、
なんて、得意げに笑いながら。
「結局みんなお前狙いだったな」
乗り込んだ電車は、運良く空席が並んでいた。腰をかけてまもなく、電車が走り出す。速さが乗ってきた頃、日向がふと口を開いた。
時刻は夜の十時を過ぎた頃。あたりはすっかりと夜の帳が下りていたが、飲み屋の通りはこれからだと言わんばかりに光で満ち溢れていた。
合コンに同席していた女性たちは、やはりというべきか落ち着きがない様子でこちらを伺っていた。それに気付かないフリをして、酔いが回ったフリをして上手いこと逃げ出したのである。ちゃっかり日向の肩にもたれかかり、彼をお持ち帰りしながら。
「連絡先とか聞かれただろ?」
「まぁ……けど、教えなかったよ」
「お前、いつもそうだけど……恋愛に興味ないのか?」
「なくは、ないけど」
狛枝は、ふ、と息をついて、それから長い睫毛を伏せた。
好きな人と結ばれることを望むのは、きっと傲慢なのだろう。けれど、どうしたって願ってしまうのだ。
自分の映す彼の瞳に、恋慕の色が宿ればいいのに。あの凛とした声が、甘く自分の名を呼んでくれたらいいのにと。
日向と過ごす何気ない日常の中、ふとした時にそう感じては、狛枝はしみじみと思うのだ。自分は、日向に恋をしていると。
「ふーん……」
狛枝の含みのある言い方に何かを察したのか、日向は深く問い詰めてこなかった。その距離感が心地よくて、少しもどかしい。
いつの間にか車内は人が少なくなっていて、会話の一つも聞こえかった。
遠くで鳴っている電車の振動音。程よいアルコールに酔いしてる身体に、肩に触れる愛おしい彼の体温。
「キミと、付き合えたらいいのに」
視界に映る彼の指先にどうしても触れたくなって、手を伸ばした。
覆った手のひらに、指先がピクリと動く感触。そこで狛枝は、ようやく自身の言葉が思いの外熱を孕んでいたことに気付いた。
作り笑顔は得意だ。顔を上げる一瞬で仮面をつけて、なんてねと誤魔化せばいい。そう考え、顔を上げた。
「……そういうことは素面で言えよ」
正面から見た日向の顔は、数分前に見た時よりずっと、ずっと赤かった。照れと困惑が混じったような、表情。初めて見る日向のその顔を、狛枝は可愛いと思った。
「え、と……ひなた、クン、」
狛枝は笑みを浮かべることも忘れて、口を開閉した。思っていた反応と違くて、耳まで朱に染まる彼の姿に胸はときめいて、思考が乱れる。
「あっ、おれ降りるとこっ」
日向のハッとした顔に、狛枝も似たような反応をした。車内アナウンスが、到着地の名を告げる。日向の降りる駅だ。日向がパッと立ち上がり、慌ただしく電車を降りていく。
「……狛枝っ」
それからくるりと振り向いて、煌めく瞳で狛枝を射抜いた。
「冗談じゃないなら次会った時──」
扉が閉まる音に日向の声がかき消される。カタンと動き出す電車。離れていく日向との距離に狛枝は思わず立ち上がった。
「……期待しても、いいのかな」
静寂に包まれる車内で、狛枝は力なく腰を下ろしながら一人呟く。
アルコールが抜けかけていたその頬は、再び紅が差していた。