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年の差

‪唇に当たる柔らかな感触。それが幼い頃からずっと面倒を見てきた凪斗の唇の感触だと気付くのに時間はかからなかった。‬
‪「なっ、な、な!何すんだよ!」‬
‪「何って……キス。口付け、接吻……あと他にいい方ってあったっけ?」‬
突然の出来事に脳処理が追いつかず、茹で蛸顔負けの赤い顔で慌てふためく俺に、そいつは至極落ち着いた様子で言葉を並べていく。
‪「そうじゃない!何でお前、俺、俺なんかに……」‬
‪「……キミが、好きだから」‬
少し頼りなげに、シンプルな言葉が俺たちの間に落ちる。
‪「えっ……」‬
「日向クンが好きだよ。小さい頃からずっと、ずっと」
優しく、それでいてありったけの情熱が込められた音が耳に届き脳へ、身体へ伝達する。ゆるりと絡められた指先。その時初めて、凪斗の手が俺より僅かに大きいということに気付いた。
「好きってお前……それは、こういう好きじゃないだろ」
薄紅に染まる頬に、俺をまっすぐ貫く薄藤の瞳。純粋でひたむきで……あまりにも眩しくて。俺はふいと視線を逸らした。この視線は俺に注がれるべきものじゃない。
「それは、違うよ」
「え、ぁっ」
はっきりとした否定の言葉と共に、繋がった手が引っ張られる。誘われたのは凪斗の胸元だ。
「この気持ちは……偽物なんかじゃない。ボクがこんなにも誰かに惹かれるのは、キミだけなんだよ。……日向クン」
手のひらから伝わる鼓動は、まるで全速力したあとみたいに早かった。
「でも、俺……お前のことは今までずっと弟みたいに思ってきたし……その……」
凪斗の気持ちは十分過ぎる程にわかった。でも、その想いを受け入れるのかといえば話は別だ。凪斗はまだ高校生で、対して俺は三十路手前のおじさんだ。凪斗にはまだ無数の可能性があって未来がある。
「わかってるよ」
「凪斗……!」
俺が凪斗を大切にしている気持ちは、きちんと彼に伝わったようだった。安心して俺は顔を上げる。しかしすぐにそれが勘違いだったということを知った。
「だから、今無理に返事しなくてもいいよ。長期戦になるってことは予想してたし」
「へ」
同年代の女の子が見たら一目で恋に落ちそうな、そんな爽やかな笑顔で想定外の言葉を言う凪斗に、俺は違う違うと首を振る。
「な、凪斗……そうじゃなくてだな……えーと」
「でも、もっと激しく否定されると思っていたからちょっと意外かな。初恋も捨てたもんじゃないね」
「凪斗、俺の話を……っ!?」
説得の言葉が俺の口から続くことはなかった。理由は、油断していたからと言うほかない。そう、俺はまたこいつに口づけをされてしまったのだ。小言はいいからと言わんばかりに。
「日向クンが余りものの三十路になる前にボクがちゃんと娶ってあげるからね!」
あぁ、無邪気な顔してお前はなんてことを言ってのけるんだ!
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