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その他パロ

「夏といえばおばけッスよねーー!ということで!はじめちゃん、何か怖い話して欲しいっす!!!」
「いきなりかよ!?」
「怖い話!?日向、いいか何も話すんじゃねーぞ!?するなら俺のいないとこにしろ!!」
7月に入り梅雨が開けいよいよ本格的に夏らしくなってきた。夏休みももう間近ということでクラス内は少々…いやだいぶ浮かれ気味だ。
今日もいつものように左右田と飯を食おうとしていたところに突然の澪田の無茶振りである。
「いや、いきなり言われても…ていうか何ていうか俺、こういった類の話得意じゃないっていうか…。」
「む、はじめちゃんもしかしておばけ怖いってタイプっすか!?うひょー!はじめちゃんかわいいところあるんすねーー!」
「いや、そういうわけじゃ、ただ、いい思い出がないっていうか…。」
「おおお思い出!!?な、なんだよ日向、お前まさか霊体験…ひんぎゃぁあ!!!」
「え!?はじめちゃんのスピリチュアル体験話っすか!?ねぇねぇ!!」
「あーー!お前らうるさい!!…別に霊体験とかじゃなくて、小学生の時の話なんだけどさ…。」


あれは、そう、確か小学五年生の時の林間学校での出来事だった。


「みんなちゃんと寝るのよ、消灯時間過ぎても起きていないようにね!」
はーい、と分かってるの分かってないのか、そんな生半可な返事を部屋のメンバー全員でして、それから先生におやすみなさいを言って先生はドアを閉めた。
ドアが閉まり先生の足音が遠くなっていくのを確認し終えると寝ていた同級生が一人、また一人と布団から起き上がり出した。
「…行ったか?」
「うん、行った行った。」
「へへへ、寝るわけねーよな!林間学校ってテンション上がるし!」
「バカ!お前声デケェって!!」
メンバー五人中三人がこうして起き上がって話しているのだからとなんとなく空気を読んで俺もそこに加わった。俺が起き上がったのに気づくと隣で寝てた凪斗も同じようにして起き上がってきた。
「凪斗、眠かったら寝てていいんだぞ?」
「ううん、創クンが起きてるんだったらボクも起きてる。」
暗くて顔はよく見えないが普段よりゆったり喋っているのと時折目をこする仕草をしているから相当眠いんだろう。
「そっか、無理するなよ。」
そう言って頭を撫でてやると凪斗は嬉しそうにうん!と返事した。
「なぁなぁ何する?やっぱまくら投げとか?」
「だからそれだと音デカイし先生来るだろ!!それに林間学校っと言ったらあれしかないだろ!」
俺が凪斗と話しているうちにそんな感じで話が進んでいった。
「やる事ってなんだよ?」
そう言って俺もその輪の中へ入っていく。もちろん凪斗も。
「怪談だよ、か、い、だ、ん!」
「怪談〜〜?さっき肝試ししたばっかりじゃん!」
「バカだな!だからやるんじゃねーか!」
「怪談か…。」
正直、さっき肝試しをしたばっかりだからそういった類の話はしたくなかった。女子の手前情けない姿を見せるわけにはいかなくて強がってたけれども実はちょっぴり怖かったし、それに加えていつもとは違う場所とか布団で寝るのは少しだけ緊張するから。だからあんまり参加したくなかったけど。
「じゃあ俺から話すから!!…これはおれのにぃちゃんから聞いた話なんだけどさ…。」
結局おれは最後まで話を聞いていた。なんとなく断るのも悪いっていうか、勿体無い気もしたし。凪斗はやっぱり疲れちゃったみたいで途中で寝ちゃったけど。最後の方は俺も眠くてどんな話だったのかとかどんな風におひらきになったのかとかは全く覚えてなかった。

「ん……。」
ふと夜中に目が覚めた。起き上がって周りを見るとみんなぐぅぐぅと寝息を立てて寝ていた。
そっか、さっきまで話してたんだっけ…と寝ぼけた頭で思い出していると余計な事まで思い出してしまった。急に怖くなって早く寝てしまおうと布団を頭からかぶったのはいいものの。
(…どうしよう、トイレ行きたくなってきた…。)
朝まで待とうと思ったけれど、一度意識しちゃうとどうしても我慢できなくて。いつもは全然大丈夫なんだけれど、どうしても今回だけは一人でトイレに行きたくなかった。迷いに迷った挙句悪いと思いつつも隣でスヤスヤ寝ている幼馴染の肩を揺さぶった。
「凪斗…凪斗…。」
「……んぅ…はじめ、クン?」
小さく声をかけて二、三度揺らすと凪斗は気付いたようで目をこすりながら起き上がってくれた。
「どうしたの?」
「……あの、悪いんだけどトイレ、一緒について来てくれないか…?」
「トイレ?」
「うん……さっきの話聞いてたら、その、一人で行くのちょっと心細くて…。頼む!凪斗しか頼れないんだ!」
そう言ってぎゅうっと凪斗の手を掴む。
「……うん、いいよ。」
返事と共に凪斗は手を握り返してくれて、それがなんだかとても安心した。
「凪斗ありがとう!」
それからみんなを起こさないようにそろりと布団から抜け出して音を立てないようにドアを開けて手を繋いで二人でトイレに行った。凪斗の手は相変わらず少しだけ冷たくて、だけれどちゃんとあったかくって、やっぱり俺この手好きだなぁ、なんて思った。
トイレに着き用を足し終えまた二人で手を繋いで部屋に戻る。
「凪斗、このことみんなには秘密な」
眉毛を少しだけ下げて口に人差し指を口に当ててそう言うと凪斗も同じように人差し指を口に当てて、わかってるよ、と笑いかけてくれた。
それからまたそっとドアを開けて何事もなかったかのように布団に潜り込む。凪斗に小さくおやすみ、とだけ呟いて俺は目を閉じた。


次の日の朝、朝ごはんを食べ終えて今日の日程を確認してる時だった。

「日向昨日の夜、狛枝連れてトイレ行ったろ。」
同じ部屋のメンバーの、昨日怪談しようって持ちかけてきた男の子がにやにやしながら俺にそう言ってきた。
「は、ぁ…?なんで……。」
「へへ、俺昨日見ちゃったんだよな!日向が狛枝起こしてトイレに行ったとこ!日向って結構怖がりなんだな!!」
やーい日向のビビリー!なんて声が聞こえた。それを聞いて他の男子もなんだなんだと面白がるように集まってきた。
すごく腹が立った。俺はビビリじゃないし怖がりじゃないしって。でもそれ以上に恥ずかしくって情けなくて何も言い返せない自分が悔しくって。その場から消えたくて。気づいたら俺は部屋から飛び出して走っていた。部屋を出た時に丁度凪斗がいて声をかけられたけど答える余裕もなくただひたすら走って外に出た。
「はぁ、はぁ、はぁ……。」
走って走って疲れて、一人になったのを確認した途端目からボロボロと涙が溢れてきた。
「う、うぇ…ちくしょー……!!」
悔しくて悔しくて、全部全部吐き出して流してしまおうと思って気が済むまでちくしょう、とかくそって言いながら泣き続けた。
やっと涙が止まって一言ぐらいあいつに何か言ってやろうと決意して部屋に戻ったら。
「ひ、日向…さっきは悪かった!!!!!」
「へ……?」
凪斗以外の部屋のメンバー全員が俺にそうお辞儀しながら謝ってきた。心なしか顔色が悪い気がする。
「え……あぁ、もういいよ…。」
なんだか怒る気もなくなって結局あっさりと許してしまった。
「おれ、もう絶対お前のことも狛枝のこともバカにしないから……!!」
「お、おう…。」
何かあったのか?って聞こうとしたら後ろからドアの開く音がして。
「創クン!!!!!」
同時に聞き慣れた声が耳に入ってきた。
「ひぃ!狛枝…!お、おれちゃんと日向に謝ったからな!な、日向?」
そう俺に問いかけて俺もおう、と返事したが凪斗の耳には入ってなかったらしく。
「創クンボクすごく心配したんだよ!大丈夫?…ん、ちょっと目、赤いね、保健の先生のところに行こう?」
そう言って凪斗は強引に俺の手を取ってずんずんと廊下を歩いて行き、俺は黙って凪斗に付いて行った。

後から聞いた話だけれど俺が部屋を飛び出した時俺が泣いていたからそれを見た凪斗が部屋の男子に問い詰めたらしい。どんな聞き方をしたのか知らないけれど先生が発見した時は男子全員が震えながら謝っていたので慌てて先生が仲裁に入り事情を聞いたらしい。


「っていうことがあってさ、だからおばけとかの話するとそのにがーーい思い出が蘇ってきて……あーやっぱり腹立ってきた、くそ、やっぱりぶん殴っとけばよかったかな…。って左右田?」
懐かしくも苦くもある思い出を一通り話し終え友の顔を見ると左右田はいつもかぶってる黒いニット帽を目の当たりまで下げて震えていた。
「俺、今聞いた話が今までの中で一番怖かった…!!俺絶対狛枝怒らせない、俺まだ死にたくない。」
「い、今の話から何でそうなるんだよ!?」
「なぁるほど、いい話っすねー!!」
「良くはないだろう!?」
左右田はなんだか怯えてるし、澪田はひとりでうんうんと頷いてるしなんなんだ一体。
「あれあれ?そういえば今日なぎとちゃん居ないっすねー?」
「あぁ、あいつなら委員会とかで遅れるって…。」
「もう終わったよ。」
のしっ、と後ろから体重をかけられる。振り向かなくても誰だかはわかりきったことだ。
「凪斗。」
「ひんぎゃぁぁぁあぁこ、ま、え、だぁぁあぁ!!!!!」
「え、え?何?どうしたの左右田クン…?ボク何かした……?」
左右田が叫んだのを見て凪斗はおろおろし始める。
「はじめちゃんとなぎとちゃんの昔話を聞いてたんっすよー!」
「昔話?」
「えーと、お前覚えてるかわかんないけど、あの林間学校のやつ…俺がその、ほら…。」
「あぁ、あれね……思い出しただけでもイライラしてくるね。」
凪斗は変わらずニコニコしているけれどなんだか少し機嫌が悪くなったようだった。
「こ、こここ、こ、狛枝さんあの顔が、顔が笑っていらっしゃらないんですががが…!」
「あぁごめんね、つい。」
「いやいや顔変わってねーって!日向ぁ!なんとかしろよぉ!!」
「左右田、服引っ張るな!凪斗もほら、もう過ぎたことだし、な?」
そう言うといくらから機嫌は直ったようでうん、と頷きながら俺の隣に座った。
「あ、でも創クン安心してね!修学旅行で夜トイレ行けなくなってもボク付いてくからね!遠慮せずに叩き起こしてね!」
「もう大丈夫だよ!しかも来年同じクラスになるとは限らないだろ。」
「ううん、絶対同じクラスになるよ、だってボク幸運だし離れたのだって今回が初めてじゃない。」
「まぁ、それはそうだけど…。」
「離れたの今回が初めてなのかよっ!?すげーな狛枝!!」
「たっはーー!なぎとちゃん超ウルトラスーパーラッキーボーイっすねー!羨ましいっすー!」
そんな感じでぎゃーぎゃー騒ぎながら昼休みの時間が過ぎていった。やがて終わりを告げるチャイムが鳴り凪斗が自分の教室に帰ろうとした時だった。
「ねぇ、創クン。」
振り返って俺のところまで戻ってくる。ざわめく教室では少し声は聞き取りにくいから凪斗は耳に近い位置で言った。
「キミは知らないと思うけれどあの時、いつも頼ってばかりいるボクが初めてキミに頼って貰えて、すごく嬉しかったんだよ?だから…おばけとかじゃなくていいからまた、頼ってほしいな。」
最後ににっこり笑ってそれじゃあね、と今度こそ教室へ帰ろうとしている凪斗の腕を掴んで俺も一言。
「俺は、いつもお前を頼りにしてるつもりだぞ!」
にかりと笑ってそう言うと凪斗は嬉しそうに頬を染めた。







おまけ。


『……ーユルサナイ…!!』
「…っうぉ!……はぁー日本のホラーってこう、ヌゥって出てくるのが多いよな…。凪斗よくこんなの見れるな。」
「あはは、ちょっと色々あって、ホラー結構好きなんだよね…。」
今日は創クンとホラー映画鑑賞会。こないだの林間学校の話から創クンがもうおばけは克服したんだ!っていうものだから、じゃあ今度一緒に見てみようか?と言ったところ望むところだ!と返事が返ってきたので今に至る。
「さすがにトイレ行けないとはならないけど、これ下手すると夢に出るぞ…。お前あんまり怖くないって言ったよな!?」
「え?怖くなくない?」
「十分怖いだろ!!…全くなんでお前そんなに平気なんだよ〜…昔はおばけとか苦手だったよな?」
「あはは、そうだね…。」
苦笑いしながらそう答える。そうだよ、むしろ小さい頃はきっとキミよりボクの方がずっとおばけとかが苦手だった。だけれどあの林間学校で、あの時キミに頼ってもらった時本当に嬉しくて。キミが苦手ならばボクはキミの苦手なものから守ってあげようと思って、だっていつも頼ってばかりいるのだもの、守られてばかりいるのだもの。だからボクはそれから…ホラー耐性を付けるためにありとあらゆるホラー映画や怪談話を見ることにした。最初のうちはそりゃあビビったりしたけれどね。今ではすっかり怖くない…というかむしろ好きになってきちゃったよ。まぁその後創クンがホラーが大の苦手ってわけじゃなくてただ好きではないだけって知って若干落ち込んだんだけれどね!
「…凪斗これ絶対後ろから来るだろ!絶対来るだろ!うわ、うわっ。」
そう言って創クン両手で顔を覆ってその隙間から画面を見てる。
『ーニクイニクイニクイ!!!』
「何だよ下からかよ!怖っ…。」
まぁこうして隣で時折ビクつきながら映画を見る創クンを観察するくらいには余裕があるし、結果オーライかな!


END

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