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アイマネ

おはようの挨拶と共にふわりと香った匂い。咄嗟にボクは目の前を通り過ぎようとする彼の腕を掴む。
「ねぇちょっと」
「ん?何だ?」
不思議そうに目を丸くする日向クンをジッと睨みつけた後、彼の腕を引き身体を引き寄せその首筋に鼻を寄せる。
爽やかなシトラス系の香りが鼻腔を擽った。あぁやっぱり。これは、この匂いはいつもの彼のものではない。
「……キミ、香水つけてる?」
パッと日向クンが自身の項に手をやった。視線を泳がせ、ほんのりと頬を染めている。
「えっと、偶にはいいかなって……」
誤魔化すように笑ったその顔が気に食わなかった。普段プライベートで会う時もスーツで来るようなお洒落っ気のない彼が、急に色気付くなんて。恋人?それともこの業界の人からのプレゼント?……どっちにしろ苛々する。どこの誰かも知らない奴に、彼を染められたみたいで。
胸を蝕む嫉妬の炎に唇をキュッと結ぶ。ボクの様子に人一倍敏感な日向クンは、すぐにボクの苛立ちに気付いたようだった。オロオロと視線を彷徨わせ、半開きの口でボクに掛ける言葉を探している。
「あの、狛枝……俺なんかしたか……っわっ……な、何?」
シャツの袖を深く握り込み、ボクは日向クンの項に手を伸ばした。袖口でゴシゴシと彼の肌を擦る。腹の奥に溜まった負の感情をぶつけるかのように強く。彼の口から痛いと声が上がっても、ボクはしつこく、ボクの匂いで上書きするかのように彼の項を擦り続けた。
「……その匂い、不快。今度からつけないで」
自分の袖に鼻を近づけると、シトラスの香りと見知った香りが混ざった匂いがした。薄れた香水の匂いに、ようやくボクの心に平穏が戻る。
「……わかった。今度から、気をつける」
日向クンは少し残念そうな顔を浮かべて視線を落としていたけれど、構うものか。
キミはいつだってすっきりと香る洗剤の匂いと、温かいご飯の匂いをさせていればいいんだから。






(……この香水の匂い、そんなに嫌だったのか?此間撮影してた時はそんな素振り見せてなかった気がするけどなぁ……。狛枝のCM見てたら欲しくなってつい買っちゃったやつだけど、狛枝が嫌いだって言うならあいつの前で付けるのは控えよう。……それにしてもあのCMいい感じに仕上がってたな……『全てを惑わす魅惑の香り』って……やっぱり狛枝ってああいう色っぽい雰囲気の仕事が合うよな……ああでも、俺としてはオフの時の柔らかい顔している狛枝も売り出していきたいんだよなぁ……うーん……うーーーん……)
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