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※本予備


灯りが灯らない暗い部屋。唯一の光源はカーテンの隙間から差し込む夕暮れの光だ。
真っ白いカーペットの上、日向は四つん這いで狛枝を見上げていた。
期待と催促を浮かべる日向の瞳に、狛枝は口角を上げてようやく日向の前に膝をつく。ゆったりとした手つきでシャツのボタンを一つ、二つ外してそのまっさらな首元に、日向の求めるそれを付けてやった。
赤い革製の首輪。それは、日向が狛枝の愛玩動物である証。
「……おかえり、ボクの、日向クン」
主人に名を呼ばれた日向は、とろりと目尻を下げ満足げに笑んだ。



無個性の中にすんなりと溶け込むような、平凡で普通な自分。それが日向のコンプレックスだった。
そうなったキッカケは些細なことであった。しかしコンプレックスというものは歳を重ねる毎に日向の中で大きな地位を占めていき、日向は執拗に『特別』であることを求めていった。
そんなある日、日向のコンプレックスである平凡を変える出会いが日向に訪れた。それがこの狛枝凪斗との出会いである。
それ程気が合う、趣味が合うという間柄ではなかった。しかし、不思議と互いに肩を並べたがったのは、狛枝と日向が根本に似たようなところがあった故かもしれない。
斯くして二人は友情のような、或いはもっと複雑な感情を互いに抱くようになった。
しかし狛枝は自身の数奇な人生故に、日向と時を重ねることを恐れていった。けれど、日向の隣にいるという居心地さを知ってしまった狛枝に今更彼を手放すことは不可能に近かった。
そこで狛枝が口にしたのは普通では信じられない発言だった。
『キミのことを人としてではなくペットとして扱いたい。そうすればきっと、ボクはキミのことを失わずに済むから』
日向はまるで狛枝の考えを理解できなかった。それでも彼の提案を受け入れたのは『ペット』という言葉に惹かれたから。
そして、日向の非日常が始まった。



「んっ……っ、ぁ」
突き出された舌に同じものを這わせ、ゆっくりと表面を滑っていく。お互いの唾液が絡む感触に背が震える。もどかしい気持ちを抑え、ゆっくりと事を進めているとようやく狛枝が唇を重ねてきた。
唇を食みながら舌を奥へ、奥へと伸ばす。互いに互いを貪ろうと唇が、舌先がめちゃくちゃに動き部屋中に水音と荒々しい呼吸音が響いた。
「……日向クン、ボクの唾液美味しかった?」
日向の顎を伝う唾液を指先で掬い取り、その指を日向の口の中へ突っ込みながら狛枝が問いかける。
口内に滑り込んだ指先を丹念に舐め上げながら日向が頷くと狛枝は嬉しそうに目を細めた。
「いい子だね日向クンは……可愛い」
日向の唾液が滴る指先を狛枝はぺろりと舐め、またすぐにキスが落とされた。身体を抱き締められ、狛枝の指が日向の髪を優しく梳く。
めいいっぱい狛枝のペットとして可愛がられ、確かに満足感はあった。しかし、どれほど感じても次を求めてしまう。満たされれば満たされるほど、貪欲に求めてしまっていた。
首輪だけじゃ足りない、もっともっと、狛枝の特別になりたい。
「……何?どうしたの日向クン」
狛枝の腕の中で身動ぐと、そう言いながら狛枝は僅かに腕の力を緩めた。不思議そうに見つめる狛枝に、日向は何も言わず彼の首元に唇を寄せる。白い肌にそっと口付けを落とし、狛枝の瞳を見つめた。
「……あぁ、わかったよ日向クン」
ぐ、と狛枝が日向の方に身を寄せてきた。肩を掴まれカーペットに押し倒される。日向の上に跨った狛枝は、日向のはだけた胸元に吸い付いた。
ぴりっと肌に痛みが走る。狛枝の唇が離れた時、日向の胸には鮮やかな赤い痕が咲いていた。
「……もっと、ボクのものになりたいんだ?首輪だけじゃ足りないんだね?……いいよ、たくさんボクの痕跡を刻んであげる……どこがいい?首?胸?お腹?太腿?」
言葉無しに伝わった事、それに対する狛枝の言葉、それらが日向の胸に幸せを満たしていく。しっとり濡れた吐息を吐き、身体はぶるりと震えた。
「あは、聞くまでもないよね……たくさん、たくさん可愛がってあげる……ボクの可愛い日向クン……」
再び胸元に落とされた唇。鋭い痛みが走り思わず口からは小さな悲鳴が上がったが、日向は心の底から笑みを浮かべていた。
日向の非日常は始まったばかりだ。
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