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本予備

- 一口の魔法 -
「お待たせ致しました。チョコレート抹茶パフェでございます」
そう言ってウェイトレスさんがボクの前にクリームがたっぷりとのったパフェを置く。ボクがぱちくりと瞳を瞬かせていることに彼女は勿論気付かない。伝票を置いてさっさと次の卓へ向かってしまった。
ボク、甘党に見えるのかな。そんな感想を抱いて、このパフェを頼んだ張本人を見ると、彼はあからさまにムッとしていたものだからつい吹き出してしまった。
「ちゃんとどっちが頼んだのか確認してほしいよな」
くすくす笑いながらボクはパフェを日向クンに渡してやる。漸くありつけたそれに、日向クンは行儀正しく手を重ねていただきますと言ってから抹茶アイスを生クリームと共に一掬い。
「あー……美味い……」
日向クンの周りに花が舞った。チョコレート抹茶パフェはどうやら彼のお眼鏡に叶ったみたい。
「よかったね」
日向クンの正面で、ボクは美味しそうにパフェを頬張る彼を見ながらコーヒーを啜る。日向クンは本当に美味しそうに食事をするし、そんな彼を見てるとこっちまで食欲が湧いてくるから不思議だ。今飲んでいるコーヒーもいつもより美味しい気がする。
「……俺甘いもの嫌いに見えるのかなぁ」
「うーんどうだろうね。ボクはキミが甘いもの好きって知ってるからそうは思わないないけど……」
「でも、俺と狛枝が並んでたら確かにお前の方が甘いもの好きそうに見えるかもな」
「あはは、実際はそんなに甘いもの得意じゃないんだけどね」
「……あのさ、お前って甘いもの全然ダメなのか?」
妙にそわそわしながら、日向クンがボクに尋ねる。
「いや?ただ得意じゃないだけで食べれないことはないけど……」
「……じゃあさ、これ、一口食べてないか?美味しいからお前にも食べてほしい……」
チョコレートソースがかかったアイスを掬い、日向クンが控えめにこちらへ寄越す。
日向クンと食事をすると、高い頻度で日向クンはこうしてボクに一口分けてくれる。初めて理由を知った時は、嬉しくて頬が弛みまくってしまった。こんなにボクのことを思ってくれる日向クンの好意をボクが拒否する権利なんてないのだ。
「うん、じゃあ一口くれる?」
「あぁ、いいぞ!」
日向クンの表情がパッと晴れ、ボクの口元にスプーンが伸びてくる。
パクリ。途端にぶわりと口の中が甘くなる。ああでも、この抹茶アイスはそこまで甘さがキツくなくて、結構イケるかも。
「美味しいね」
「!だろー!」
日向クンは、それはもうニコニコしてボクにもう一口寄越してくる。ボクはそれも拒むことなく食らいついた。
日向クンから一口貰う毎に、ボクの好みも少しずつ変わってきてるのかもしれない。ボクが甘党になる日ももしかしたら来るのかも。そんなことをふと思った。
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