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※本予備

‪二つの欲望に乱れたベッドシーツ。劣情の香りを洗い流して部屋に戻ると、時刻は既に深夜の一時を過ぎていた。‬
‪部屋の電気は付いていない。薄型テレビから溢れる僅かな光源が、膝を抱えてぼぅっとしている彼の顔を照らしていた。‬
‪「もう寝ているかと思ったよ」
水の滴る毛先をタオルで強引に掻き上げ、狛枝はシングルベッドに乗り上げる。ギシリと骨組みが軋む。シーツに残った情事の気配に、ほんの少しだけ腹の奥が切なくなった。
「ん、あぁ」
すれ違いざまゆるりと視線を向け、日向はまたすぐ光源のほうに視線を向ける。狛枝はそんな日向を後ろから見つめ、程なくして彼と同じものを視界に映した。
 あまり見たことのないタレントが、只々話をしているだけのバラエティ番組だ。内容も薄くて、言ってしまえばつまらない。けれど、暗がりで緩やかに流れる雑音は、妙に心地が良かった。
「深夜番組って思ってたよりつまらないんだな」
抑揚のない声がポツリと落とされる。
「じゃあ何で見てるの」
狛枝が問うと、日向は緩やかに振り向いた。影と交わった黄金色の瞳が、狛枝を見つめる。自身の頬が緩んだことに、狛枝は気付かなかった。
「起きていたかったんだ」
「眠くないの?」
「そうじゃなくて」
静かに言葉を投げては受け取って、やがて沈黙が訪れる。言葉を吐き出そうか悩みまごついている唇を見守っていると、それは酷く小さな声で吐き出された。
「……寝るのが、惜しいんだ」
日向は目蓋を伏せて、力なくベッドに頭を乗せた。狛枝は空で指先を彷徨わせて、おずおずと日向の輪郭をなぞった。ぴくりと日向の睫毛が震える。添えられた指先に、日向もまた指先を重ねた。
「朝なんて来なければいいのに」
消え入りそうな願いを、狛枝は否定も肯定も出来なかった。浮かぶ言葉は今ひとつピンと来なくて、やがて思考を止める。代わりに、心に従って行動を移した。
「それでも朝は来るよ」
重ねていた指先を掴んで、ベッドに誘導する。二人分の体重を乗せて、ベッドは低く悲鳴を上げた。
「付き合ってあげるよ。夜更かし」
「でも、今日はもうしないぞ」
「分かってるよ。ボクだってもう出ないし。……そうじゃなくて、その、こうしてるだけでもさ」
掴んだ手を解き、指先を絡めて掴み直す。自分とは違う、弾力のある日向の掌が、狛枝は好きだった。
「いいのか?明日、眠くなっちゃうぞ?」
「お互い様でしょ。寧ろキミの方がそのあたり深刻なんじゃない?」
「ははっ、授業中寝ちゃうかもな」
ぷつんと弾けた音と共に、雑音と光源は消える。闇に包まれた部屋は、しかし眠らず、いつまでも二人の密やかで楽しげな声を響かせていた。
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