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※本予備

「狛枝は、子供が欲しいって思ったことはあるか?」
空が朝焼けの黄金色に輝く前。ただ互いの欲望をぶつけ合った名残が香る、酷く空気が淀んだ部屋でポツリと彼が言った。
「……何?藪から棒に」
少し間を開けて狛枝が反応をしたのは、つい十分程前、狛枝がシャワーを浴びに部屋を出た時日向はまだ寝ていたからだ。
滴り落ちる水滴諸共、グイと前髪を搔きあげながら狛枝はベッドに横たわる日向を見る。
「別に、意味はない。ただの雑談だ」
抑揚のない声で発せられる、まるで無機質な声から日向の心情は読み取れなかった。本当にただの雑談なのか、或いは何か思惑があっての言葉なのか。
何れにせよ、狛枝の回答は決まっているのではあるが。
「子供、ね」
ギ、と音を軋ませ乗り上げたベッド。狛枝は日向に覆いかぶさるように四つん這いになり、彼の身体を隠す一枚の毛布を引っ張る。
僅かに空気が揺れた。しかし、ただそれだけで日向はあとに何も言わない。どうせこの薄暗い部屋の中だ、見えるものなんてないと思ったのだろう。
「考えたこともなかったな」
闇にぼんやりと浮かぶ日向の腹をなぞる。その内側に子宮は存在しない。表面にこびりついた白の飛沫の残骸は、これからも無意味に日向のナカに放たれていくのだろう。
「ボクは、そこまで欲深くないよ」
「……そう、か。……うん、そっか」
狛枝が零した言葉の意味を、日向がどう捉えたか狛枝にはわからない。
ただ、薄闇の中、日向が確かに微笑んだような。
そんな気がした。
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