ED後
眼前に広がるビュッフェディナーとスパークリング・ワイン。ドレスコードに身を包んで招かれたのは、未来機関の功績を称えたパーティーだった。華やかな雰囲気に、飛び交う談笑。それは、まさに希望と呼ぶにふさわしい光景だと狛枝は思う。同時に、自分には不釣り合いだとも思った。
煌びやかな光景に、背を向ける。その一瞬、確かに彼と視線を交わした。
喧騒が、次第に鳴りを潜める。曇りひとつない、今宵の空は美しかった。冷えた空気が、人混みとアルコールに酔った身体を程よく冷ます。心地よさに瞳を細めていると、背後で人の気配がした。
「いいの?出てきちゃって。キミ随分とモテてたじゃない」
狛枝は、わざと振り向かずからからと笑いながら言った。
「それはこっちのセリフだろ」
狛枝と肩を並べ、日向は呆れたようにため息を吐く。
狛枝は、素早く周囲に目を配った。人影の姿は見えない。どうやら、自分らを追ってきた人間はいないようだ。或いは、見失ったか。どちらにせよ、ツイていた。
「ああいう場はボクに相応しくないからね。希望に溢れる様はもう充分堪能したし」
そこまで語ってから、狛枝は日向の視線に気づいた。シャンパンのように煌めく瞳が、狛枝を覗き込む。平穏を保っていた心臓が、トクトクと色めき始めた。
「それ、建前だろ」
「……さぁね」
「本音は?」
「あはっ、それ言わせるの?」
戯けてみせたが彼には通用しなかったようだ。狛枝は、降参したと言わんばかりに緩く頭を振りかぶり、改めて日向を見る。
鶸色の瞳に仄めく熱。それは、きっと自分も同じなのだろう。
こつりと額を合わせ、そっと睫毛を伏せる。やがて、月明かりに照らされた影が重なった。
「……そろそろ、キミと二人きりになりたかった」
「……俺も」
踏み入れたネオン街で最初に見つけたホテル。部屋にたどり着いて束の間、日向に唇を奪われた。日向がそんなふうに積極的なのは珍しくて、瞠目してすぐ、目を細める。シャワーの文字はとうに頭の隅へ追いやった。
僅かに唇をくっつけたままうっとりと視線を交わす。それを合図に、互いに舌を伸ばした。
「んっ……は、……っ……」
唇の柔らかさを堪能しながら、悪戯に舌先を擦り合わせる。絡む唾液の感触に神経が悦び、熱が上がる。
首に手を回してきた日向に合わせ、狛枝は彼の腰を抱く。部屋に響く水音と濡れた吐息が、酷く淫靡だった。
「あのさ」
「うん?」
すっかり色を宿した瞳で、日向が狛枝を見つめる。
「その髪型、よく似合ってる」
朱色に染まった唇から放たれた言葉。狛枝は僅かに目を見開いて、それからにんまりと口角を上げた。
今日のドレスコードに合わせてハーフアップにした髪の毛。普段は何も手をつけないか一つ括りだから、物珍しかったのだろう。会場でたびたび感じた彼の熱っぽい視線にようやく合点がいき、狛枝は一人頷いた。
「あぁ、だからこんなに積極的なんだ」
意味ありげに腰をなぞると、日向の喉がひくりと揺れた。彼はキッと睨みつけてきたが、情欲が隠せない瞳では迫力に欠ける。むしろ、可愛らしいとさえ感じた。
「本当キミってボクの顔好きだよね」
「……顔だけじゃないぞ」
けらけらと笑う狛枝に日向が迫る。キスされるかと身構えていたが、日向の狙いは狛枝の唇じゃなかった。
「っ、んぁ……!」
結えた髪に晒された耳へ日向が吐息を吹きかける。立て続けに耳たぶを柔く吸われて、なんとも情けない声が漏れた。
「こういうとこ……耳が弱いとことか、可愛くて好きだ」
囁かれた声にぞくりと背を振るわせると、腕の中の日向が満足げに笑った。してやったりと言わんばかりの顔に、僅かな悔しさと対抗心が芽生えた。
「やってくれるじゃん」
腕に収まる日向をやや強引に抱き寄せて、自身諸共ベッドシーツの上へ身を投げる。それから素早く日向に覆い被さる体制を取り、彼を見下ろしながら不敵な笑みを浮かべた。
「そんな余裕もなくなるくらい、ぐちゃぐちゃにしてあげる」
濡れた愛しい唇を指先でなぞると、挑発するかのように日向の舌が這わされた。
煌びやかな光景に、背を向ける。その一瞬、確かに彼と視線を交わした。
喧騒が、次第に鳴りを潜める。曇りひとつない、今宵の空は美しかった。冷えた空気が、人混みとアルコールに酔った身体を程よく冷ます。心地よさに瞳を細めていると、背後で人の気配がした。
「いいの?出てきちゃって。キミ随分とモテてたじゃない」
狛枝は、わざと振り向かずからからと笑いながら言った。
「それはこっちのセリフだろ」
狛枝と肩を並べ、日向は呆れたようにため息を吐く。
狛枝は、素早く周囲に目を配った。人影の姿は見えない。どうやら、自分らを追ってきた人間はいないようだ。或いは、見失ったか。どちらにせよ、ツイていた。
「ああいう場はボクに相応しくないからね。希望に溢れる様はもう充分堪能したし」
そこまで語ってから、狛枝は日向の視線に気づいた。シャンパンのように煌めく瞳が、狛枝を覗き込む。平穏を保っていた心臓が、トクトクと色めき始めた。
「それ、建前だろ」
「……さぁね」
「本音は?」
「あはっ、それ言わせるの?」
戯けてみせたが彼には通用しなかったようだ。狛枝は、降参したと言わんばかりに緩く頭を振りかぶり、改めて日向を見る。
鶸色の瞳に仄めく熱。それは、きっと自分も同じなのだろう。
こつりと額を合わせ、そっと睫毛を伏せる。やがて、月明かりに照らされた影が重なった。
「……そろそろ、キミと二人きりになりたかった」
「……俺も」
踏み入れたネオン街で最初に見つけたホテル。部屋にたどり着いて束の間、日向に唇を奪われた。日向がそんなふうに積極的なのは珍しくて、瞠目してすぐ、目を細める。シャワーの文字はとうに頭の隅へ追いやった。
僅かに唇をくっつけたままうっとりと視線を交わす。それを合図に、互いに舌を伸ばした。
「んっ……は、……っ……」
唇の柔らかさを堪能しながら、悪戯に舌先を擦り合わせる。絡む唾液の感触に神経が悦び、熱が上がる。
首に手を回してきた日向に合わせ、狛枝は彼の腰を抱く。部屋に響く水音と濡れた吐息が、酷く淫靡だった。
「あのさ」
「うん?」
すっかり色を宿した瞳で、日向が狛枝を見つめる。
「その髪型、よく似合ってる」
朱色に染まった唇から放たれた言葉。狛枝は僅かに目を見開いて、それからにんまりと口角を上げた。
今日のドレスコードに合わせてハーフアップにした髪の毛。普段は何も手をつけないか一つ括りだから、物珍しかったのだろう。会場でたびたび感じた彼の熱っぽい視線にようやく合点がいき、狛枝は一人頷いた。
「あぁ、だからこんなに積極的なんだ」
意味ありげに腰をなぞると、日向の喉がひくりと揺れた。彼はキッと睨みつけてきたが、情欲が隠せない瞳では迫力に欠ける。むしろ、可愛らしいとさえ感じた。
「本当キミってボクの顔好きだよね」
「……顔だけじゃないぞ」
けらけらと笑う狛枝に日向が迫る。キスされるかと身構えていたが、日向の狙いは狛枝の唇じゃなかった。
「っ、んぁ……!」
結えた髪に晒された耳へ日向が吐息を吹きかける。立て続けに耳たぶを柔く吸われて、なんとも情けない声が漏れた。
「こういうとこ……耳が弱いとことか、可愛くて好きだ」
囁かれた声にぞくりと背を振るわせると、腕の中の日向が満足げに笑った。してやったりと言わんばかりの顔に、僅かな悔しさと対抗心が芽生えた。
「やってくれるじゃん」
腕に収まる日向をやや強引に抱き寄せて、自身諸共ベッドシーツの上へ身を投げる。それから素早く日向に覆い被さる体制を取り、彼を見下ろしながら不敵な笑みを浮かべた。
「そんな余裕もなくなるくらい、ぐちゃぐちゃにしてあげる」
濡れた愛しい唇を指先でなぞると、挑発するかのように日向の舌が這わされた。