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召日

『うぷぷ、ソコにいたんですね。××サマ──』


 彼女は江ノ島盾子の妄信的な信者だったらしい。どこから情報を得たのか知らないが、自分の元へ辿り着きこの左手に執着をみせた。
 下卑た嬌声をあげ、彼女は一人で盛り上がっていた。感覚がないとはいえ、脂肪の塊を押し付けられるのは視覚的になんとも不快で、吐き気すら催してきた時だった。
 ゴンッと鳴り響いた鈍い音と共に、煩わしい声が消える。程なくして目の前に迫っていた女がゆっくりと傾き、どさりと派手な音を立てて地面に伏した。倒れた彼女がぴくりとも動かないのを確認して、召使いは視線を正面へ戻す。召使いの灰色の瞳が、ようやく感情を彩った。
「どうしたの?珍しいじゃないか。いつもは怖がって滅多に外へ来ないのに」
召使いは愉快そうに薄く笑いながら、目の前の少年に語りかける。
「ちが、違うんだ、俺っ、こんなつもりは……」
からんと木材が地面に落ちて、少年がはくはくと唇を振るわせる。少年は、酷く怯えていた。頭を抱えて浅い呼吸を繰り返しとても喋れる状態ではなさそうだ。まずは、落ち着かせるのが先だろう。
「大丈夫、ここにはもうキミとボクしかいないから」
召使いは彼との距離を詰めて、震える身体を右腕で抱き締める。手のひらで宥めるように彼の背をさすると、少しずつ呼吸が落ち着いていくのがわかった。
「ゆっくりでいいから、教えてくれる?何が、キミをこうさせたの?」
「……窓の外見てたらお前と知らない女の人がいて……お前に、すごくくっついてたから俺、また一人になっちゃうんじゃないかって思って……」
少年は、縋るように召使いの背に手を伸ばしながら記憶を辿ってみせた。彼の言葉に耳を傾けながら、召使いは確かに自身の身体が昂っていくのを感じていた。
 何も出来なくて自分の後ろをついて回るだけだったこの少年が、こんな大胆な行動を起こすなんて。
 興奮に血の巡りが早くなる。口角を歪ませずにはいられなかった。
「つまり、さ。ボクを取られたくなかったんだ?こんなことをしてまで?」
召使いは転がるそれを爪先で突きながら、わざと強調した言い方で彼の耳に吹き込んだ。びくりと小年の肩が揺れ、再び身体が震えだす。
「でも俺っ、殺すつもりなんて、えぅ……一人にっ、なりたくなかっただけでぇ……」
少年は瞳にたっぷりと涙を溜め、召使いに訴えかけた。
 純真な瞳の奥に揺らぐ独占欲。けれど、それこそがこの瞳を美しく輝かせる要因なのだ。愛さずには、いられなかった。
「わかってるよ。誰もキミを咎める人はいないから」
感情に押し出された雫に舌を這わせ、乾いた唇へ口付けを施す。
「さぁ、帰ろうか。ボクたちの愛の巣へ!」
歪んだ愛を受ける彼は、いったいどんな希望を咲かせるのだろうか。召使いは高揚感に酔いしれながら、心底愉快そうに目を細めた。
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