このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

未分類

間取りの関係とはいえ窓辺に配置せざるを得なかったベッドは、度々狛枝の睡眠を妨げていた。月夜の眩しい日は、瞼を閉じていてもその光が気になってしまうからだ。
しかしその不運は、この幸運に巡り合う為の布石だったのだ。眼下に広がる光景を前に狛枝はひしひしとそう感じていた。
「……痛く、ないかい?」
口に溜まったままの唾液をゴクリと飲み込み、狛枝は目の前に転がっている日向の───その身体を拘束する麻縄をそっと撫でる。
例えばそれは、彼の身体に付いたベルト跡の赤い線を見つけた時。彼を自身の腕の中に閉じ込めた時。そして、どうしようもない独占欲と征服欲に駆られた時。狛枝はその衝動に襲われていた。
───愛しい人の身体を、自らの手で縛ってみたい。
日に日に膨張していく酷く浅ましい欲求を、狛枝は当初こそ自身の内側に秘めておこうと思っていた。しかし、その欲求はいつしか理性で抑えきれない程膨らみ、狛枝の忍耐を喰らい尽くしていったのだ。
喉の渇きのような激しい飢えに悶えて。そうしてとうとう狛枝は日向に、自身の内に潜むそいつの存在を明かした。
罵声を浴びせられ見放される事は承知の上だった。しかし日向は狛枝を蔑むどころか、まるで聖母のような微笑みを浮かべて言った。
『それが、お前の望みなら』
と。


亜麻色の麻縄が日向の身体に食い込んでいる。一糸纏わぬ姿で脚を開いたまま拘束された、愛しい彼がそこにいる。熱く、艶かしい吐息を吐いて、瞳に深い情欲を滲ませながら狛枝を見ている。
美しかった。只々、美しかった。
縛り上げた縄に乗る柔い肉が、縄の下で朱に染まる肌が、密やかに熱を持ち先端から蜜を零す筒が、それら全てを暴く残酷な程神々しい月明かりが!
そう、全てが美しかった。彼をそのまま額縁に入れて、後生大事に仕舞っておきたいと願う。或いはこのまま永久に時を止めて欲しいと望む程に。
「あぁ……日向クン」
うっとりと言葉を漏らし、狛枝はパシャリと一枚写真を撮る。永遠となったその瞬間。狛枝はそれをきちんと保存した後で端末を投げ捨てた。
「キミは、ボクの女神様だよ」



女神の爪先へ崇拝のキスを。世界一尊くて神聖な儀式を、月明かりは雲に隠れながらひっそりと見ていた。

2/11ページ
スキ