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新学期が始まってから一ヶ月、ようやく新しいが学年に慣れてきた頃そいつは俺たちに襲いかかるのだ。
「…………」
問題集をたっぷり時間をかけて見つめ、思いついた解答をノートに走らせていく。ようやく見開き一ページ分の問題を解き終え俺は息を吐きながら体を伸ばした。
二週間後に迫った定期テスト。普段それなりに真面目に授業を受けているとはいえ、その内容をしっかり理解して覚えているかは別の話であって。つい一ヶ月前に習ったことですら曖昧で、一ページ分の問題全て解き終わる頃には既に三十分が経過していた。
シャーペンから赤のボールペンに持ち替えて丸付けをしていく。順調に赤丸をつけてくなか、たまにばってんがついてしまう。
だけどこれ、仕方なくないか?世界史ってただでさえ登場人物多いのに、一人一人名前は長いし横文字だし。
黒文字で書いた『ダイレオス1世』の横に赤文字で『ダレイオス1世』と正しい答えを記入する。そうやって赤丸と赤文字を一通り書き込んでいったあと、俺はふと視線を目の前に向ける。
一緒に試験勉強をしている狛枝は頬杖をつきながらつまらなそうに問題集を眺めているところだった。数秒見つめ、ノートに答えを書き出し再び問題集を見つめペンを走らせていく。スラスラと解いていく姿がなんとなくムカついて、ついついジト目で眺めていると俺はあることに気付いた。
狛枝、まつ毛めちゃくちゃ長いんだ。下を向いていて伏し目がちなのがより一層それを際立たせている。その他にも肌が白くて綺麗だとかペンを握った手の甲が案外ゴツゴツしてるとか、いつのまにか問題集のことなんかすっかり忘れて『俺の知らない狛枝探し』に没頭してると、いきなりなんの前触れもなく狛枝が机に伏してしまった。
「え、え?お前どうした?腹でも痛いのか?」
びっくりして思わず声をかけると、ううんという声と共にくつくつと笑い声が聞こえた。よく見ると肩が少し震えている。
「……日向クンさぁ……ボクのこと見すぎ。そんなに見られたら集中できないよ」
顔を上げた狛枝がによによ笑ってる。そしてようやく俺はだいぶ恥ずかしいことをしていたことに気が付いたのだ。
「えっ……!?あっ、ごめ……っていうか、いつから気付いて……!?」
「あのね、キミ目力強いんだよ、それにあんな熱っぽく見つめられたら……ねぇ?」
「熱っぽくって……!そんなことないっ……ぞ……!」
一応、否定はしてみたもののよくよく考えればさっきの俺の行動を一言で表すのなら『狛枝に見惚れていた』という言葉が的確で。自覚すればするほど顔が熱くなって仕方がない。
「でもキミの気持ちわからなくもないなぁ……ボクだってさっきしばらくキミのこと見てたもん。キミ全然気付いてなかったけど」
「嘘だろ!?」
「ほんとだよ。問題集じーって見つめたあと、ようやく答えを思い出してノートに書くの。勉強してる姿がこんなに面白いの、きっと日向クンだけだよ」
そう言って狛枝はけらけらと笑う。見ていたことがバレていた恥ずかしさに見られていた事実が加わり俺はとうとう何も言えなくなり言葉を詰まらせる。
「うーーー……!ああもう!勉強するぞ!ほら勉強!!……そうだ、互いに問題出し合ったら 効率よく覚えられるんじゃないか!?」
書くよりも声に出した方が覚えやすいっていうし!そう付け加え俺は話をそらすかのようにそんな提案を狛枝にする。
「……うん、いいよ」
俺の提案に狛枝は顎に手を当て考える仕草をしたあと、にっこりと笑いながら頷いた。
うまくさっきの流れを変えられたようで俺はホッと胸をなで下ろす。早速問題を出そうと問題集をペラペラめくって厳選してると、狛枝が口を開いた。
「ねぇ、ボクからでもいいかな?」
「ん、いいぞ」
問題集とノートを閉じ、カンニングしていないのを示すと狛枝は持っていた自分の問題集に視線を落とし、それからそれをゆっくりと閉じた。
「問題。ボクと日向クンは健全なお付き合いをしています。日向クンのおうちに二人きり、キミの両親は夜遅くまで帰ってこない……さぁ、やることといえば、なぁんだ?」
ニヤリと意地悪く笑いながら狛枝の指先がするりと俺の拳を撫でる。ちょっぴりやらしいその動きに俺の脳内はあっという間に……やらしいことでいっぱいになってしまって。
「お、お前……そ、それは、その……」
ばくばくと鳴り止まない心臓の音。握られた拳はじっとりと汗をかき始めていて、なんて答えればいいのか解を探しているうちにさっさと狛枝が解答を口にした。
「あれ?日向クン顔真っ赤だよ?……答えは勉強、だよね?……それとも、何か違うこと想像した?」
あ、と声を漏らしたと同時にカタンと音がして狛枝が立ち上がる。机から身を乗り出し俺を見下ろす狛枝が影を作った。
「ね、勉強、飽きちゃった」
俺の頬を撫でる指、細められた狛枝の瞳がゆっくりと近づく。それに合わせて俺も瞼を下ろしていく。完全に目を瞑る瞬間に思ったのは、やっぱりこいつまつげ長いなってことだった。
「結局集中できたの三十分くらいだったな」
「でもまぁ充実した時間の過ごし方ができたからボクは満足だよ!」
「…………」
問題集をたっぷり時間をかけて見つめ、思いついた解答をノートに走らせていく。ようやく見開き一ページ分の問題を解き終え俺は息を吐きながら体を伸ばした。
二週間後に迫った定期テスト。普段それなりに真面目に授業を受けているとはいえ、その内容をしっかり理解して覚えているかは別の話であって。つい一ヶ月前に習ったことですら曖昧で、一ページ分の問題全て解き終わる頃には既に三十分が経過していた。
シャーペンから赤のボールペンに持ち替えて丸付けをしていく。順調に赤丸をつけてくなか、たまにばってんがついてしまう。
だけどこれ、仕方なくないか?世界史ってただでさえ登場人物多いのに、一人一人名前は長いし横文字だし。
黒文字で書いた『ダイレオス1世』の横に赤文字で『ダレイオス1世』と正しい答えを記入する。そうやって赤丸と赤文字を一通り書き込んでいったあと、俺はふと視線を目の前に向ける。
一緒に試験勉強をしている狛枝は頬杖をつきながらつまらなそうに問題集を眺めているところだった。数秒見つめ、ノートに答えを書き出し再び問題集を見つめペンを走らせていく。スラスラと解いていく姿がなんとなくムカついて、ついついジト目で眺めていると俺はあることに気付いた。
狛枝、まつ毛めちゃくちゃ長いんだ。下を向いていて伏し目がちなのがより一層それを際立たせている。その他にも肌が白くて綺麗だとかペンを握った手の甲が案外ゴツゴツしてるとか、いつのまにか問題集のことなんかすっかり忘れて『俺の知らない狛枝探し』に没頭してると、いきなりなんの前触れもなく狛枝が机に伏してしまった。
「え、え?お前どうした?腹でも痛いのか?」
びっくりして思わず声をかけると、ううんという声と共にくつくつと笑い声が聞こえた。よく見ると肩が少し震えている。
「……日向クンさぁ……ボクのこと見すぎ。そんなに見られたら集中できないよ」
顔を上げた狛枝がによによ笑ってる。そしてようやく俺はだいぶ恥ずかしいことをしていたことに気が付いたのだ。
「えっ……!?あっ、ごめ……っていうか、いつから気付いて……!?」
「あのね、キミ目力強いんだよ、それにあんな熱っぽく見つめられたら……ねぇ?」
「熱っぽくって……!そんなことないっ……ぞ……!」
一応、否定はしてみたもののよくよく考えればさっきの俺の行動を一言で表すのなら『狛枝に見惚れていた』という言葉が的確で。自覚すればするほど顔が熱くなって仕方がない。
「でもキミの気持ちわからなくもないなぁ……ボクだってさっきしばらくキミのこと見てたもん。キミ全然気付いてなかったけど」
「嘘だろ!?」
「ほんとだよ。問題集じーって見つめたあと、ようやく答えを思い出してノートに書くの。勉強してる姿がこんなに面白いの、きっと日向クンだけだよ」
そう言って狛枝はけらけらと笑う。見ていたことがバレていた恥ずかしさに見られていた事実が加わり俺はとうとう何も言えなくなり言葉を詰まらせる。
「うーーー……!ああもう!勉強するぞ!ほら勉強!!……そうだ、互いに問題出し合ったら 効率よく覚えられるんじゃないか!?」
書くよりも声に出した方が覚えやすいっていうし!そう付け加え俺は話をそらすかのようにそんな提案を狛枝にする。
「……うん、いいよ」
俺の提案に狛枝は顎に手を当て考える仕草をしたあと、にっこりと笑いながら頷いた。
うまくさっきの流れを変えられたようで俺はホッと胸をなで下ろす。早速問題を出そうと問題集をペラペラめくって厳選してると、狛枝が口を開いた。
「ねぇ、ボクからでもいいかな?」
「ん、いいぞ」
問題集とノートを閉じ、カンニングしていないのを示すと狛枝は持っていた自分の問題集に視線を落とし、それからそれをゆっくりと閉じた。
「問題。ボクと日向クンは健全なお付き合いをしています。日向クンのおうちに二人きり、キミの両親は夜遅くまで帰ってこない……さぁ、やることといえば、なぁんだ?」
ニヤリと意地悪く笑いながら狛枝の指先がするりと俺の拳を撫でる。ちょっぴりやらしいその動きに俺の脳内はあっという間に……やらしいことでいっぱいになってしまって。
「お、お前……そ、それは、その……」
ばくばくと鳴り止まない心臓の音。握られた拳はじっとりと汗をかき始めていて、なんて答えればいいのか解を探しているうちにさっさと狛枝が解答を口にした。
「あれ?日向クン顔真っ赤だよ?……答えは勉強、だよね?……それとも、何か違うこと想像した?」
あ、と声を漏らしたと同時にカタンと音がして狛枝が立ち上がる。机から身を乗り出し俺を見下ろす狛枝が影を作った。
「ね、勉強、飽きちゃった」
俺の頬を撫でる指、細められた狛枝の瞳がゆっくりと近づく。それに合わせて俺も瞼を下ろしていく。完全に目を瞑る瞬間に思ったのは、やっぱりこいつまつげ長いなってことだった。
「結局集中できたの三十分くらいだったな」
「でもまぁ充実した時間の過ごし方ができたからボクは満足だよ!」