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扉を開けるとキィイと音が鳴った。
「っ!?」
リビングにいた日向クンが勢いよくこちらに振り向き、ボクは瞬きを二回程繰り返す。一瞬、何事かと思ったが彼の強張った表情がすぐさま緩んだのを見て、合点がいった。
日向クン、昨日見たホラー映画の影響で、一時的だけど物凄く臆病になってる。
いっとき話題になったけど、時間がなくて映画館まで足を運べなかったんだと言って日向クンが借りてきたホラー映画。自宅で寛いでいる時、ボクらは殆ど肩を並べているものだから、当然ボクもその映画を見ていたのだけれど……内容は、何ともありきたりで結末もツマラナイものだった。呪われた動画を見た人が次々と怨霊に襲われていくとか、そんな内容の話。
ボクは生身の人間が猟奇的な殺人を犯したり、非人道的な人体実験をするみたいなホラーの方が怖いとか面白いと思う質なんだけど、日向クンは幽霊や怪物がでてくるじっとりした雰囲気のホラーの方が怖いと感じるみたい。昨日も、ボクの隣で野太い悲鳴をあげながらびくびくしていた。
昨晩の回想は、リビングに響いた軽やかなメロディーにより打ち切られる。
「ぉあぁっ!?……お、お風呂がっ……わ、湧いたみたい、だな……!」
「……そうだね」
例に漏れず、日向クンは突然鳴り出したメロディーに飛び上がり、ボクはそんな彼の悲鳴に肩をびくりと揺らした。
日向クン、こんな何でもないような生活音にまでビビってるなんて、大丈夫かな。こんな調子じゃ、もしかして一人でお風呂入れないんじゃ───。
「……ねぇ?日向クン」
閃いた案に口角が上がるのを抑え、ボクは彼に声をかける。
「何だ?」
「あのさ、昨日ホラー映画見たでしょ?……なかなか怖かったよね、アレ。お陰で暗くなってからやたらと後ろを気にするようになっちゃってさ……恥ずかしい話だけど、ボク今日一人でお風呂入りたくないんだよね」
参ったと言わんばかりに頭を押さえて溜息をつくと、ちらりと伺った日向クンの表情がみるみるうちに明るくなっていった。
「し、仕方ないなぁ……じゃあ、今日は俺と一緒に風呂入るか?」
「うん、お願いしてもいいかな?」
日向クンは快く頷いてくれた。いそいそとお風呂の準備を始め、早く来いよなと言葉を残しさっさと脱衣所に消えてしまう。
日向クン、そういえば幽霊って、えっちなことが苦手らしいよ。
そう教えてあげたら、彼は一体どんな反応を返してくれるだろうか。甘い展開を期待し、ボクはとうとう堪えきれず笑みを浮かべた。
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