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「悪い!少しだけ抜けさせてくれ!」
困惑の表情を浮かべる左右田に、いつも通り理解し難い言語を並べつつ二人を見送る田中、それから終わったら連絡しろよとまるで親みたいな事を投げかける九頭龍たちを背に、日向は狛枝の手を取って駆け出す。
某有名テーマパーク。友人たちと馬鹿みたいに騒ぎながらアトラクションに乗ったり写真を撮る事は勿論楽しかった。しかし、夢だったのだ。恋人と二人でテーマパークを回るのが。目の前に転がってきたそのチャンスを、日向は見逃したくなかった。 珍しく輪に溶け込み楽しそうに笑う狛枝を見て、少しばかり浮かれた気分になってしまったのも日向が二人で抜け出す事を強行した原因かもしれない。
「……悪い、急に引っ張ったりして。びっくりしたよな?」
「まぁね。キミから何も聞かされてなかったし」
とにかく二人きりになりたかった。漠然とした考えに従い走り続け、人混みが落ち着いた辺りで日向は脚を止める。狛枝は視線を落としつつぶっきらぼうに言い放った。その顔は少し不機嫌なようにも見える。もしかしたら狛枝はあのままみんなと回りたかったかもしれないと、今更ながら後悔の念が日向の胸に湧いた。
「それで、これからどうするの?」
「え?……ああ、どうしよう、な」
先程述べた通り、日向はただ狛枝と二人きりになりたかっただけである。狛枝とあれに乗りたいだとか、あれが見たいだとか具体的な事は何一つ決めていなかった。
苦笑して誤魔化す日向に対し、狛枝は呆れたと言わんばかりの溜息を吐く。
「うん……まぁ、いいよ。……それじゃ行こうか」
「え、わっ……!」
悄気る日向の手を、今度は狛枝が掴み取り歩き出す。その足取りは迷いがなく、明確な目的を持っている。
「こま、狛枝っ……!どこ行くんだ?」
「どこって……」
日向を掴む手と反対の手で狛枝はコートのポケットを弄り日向に差し出す。
それは、とあるアトラクションの優先乗車券だった。利用時間は午後五時からで、発行時間は午前十一時と記載されている。
「狛枝、これ……」
「……二人きりになりたかったのは、キミだけじゃなかったってことだよ」
そう呟いた狛枝は頬を薄紅に染め、繋ぐ手のひらにより一層力を込めた。
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