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ED後

- 2017 ひなたん -
「ん………」
真っ暗闇の中、狛枝の意識が浮上する。体を撫でる空気は冷たく、思わず両腕で自身の身体をさすったところで、狛枝は自分がなんの衣服も身につけていないことに気付いた。
何故衣服を身につけていないかなんて、乱れたシーツと隣で寝息を立てている彼を見れば明白だ。
意識を手放す前の記憶を辿り、狛枝はある重大なことを思い出す。
「そうだ……!時間っ……!」
手探りで枕元にあるはずの携帯を探り当て、電源を入れる。画面には『23:57 12/31』と表示されていた。
「よかった……」
大切な瞬間を寝過ごさずに済み、狛枝はホッと安堵する。
あと三分、それは狛枝にとって新年の始まりではなく、もっとも大切な一日の始まりであった。
「五十九分……」
カチカチと時を刻む音と自分の鼓動が重なる感覚が不思議と心地いい。あと十五秒、あと十秒。時が近づくにつれ、狛枝の口角も自然と上がっていく。
五、四、三、二、一。
「日向クン」
時計が零時を告げると共に、彼の名を呟く。愛しの彼は未だ心地よい眠りを享受しているようで、狛枝はそんは彼の、だらしなく開いた口にそっと自らの唇を重ねた。
「ん……んん……」
「日向クン……お誕生日、おめでとう」
くぐもった声を発した口に、もう一度口付けをすると、ぴくりと反応があったあとゆっくり、日向の鶯色の瞳が姿を現わす。
「狛枝……」
「日向クン、一月一日だよ。お誕生日だね」
目覚めたとはいえ、日向の意識は未だはっきりとしていないのだろう。とろりとした目付きをした日向の髪を優しく梳けば、日向はうっとりと狛枝の手に頬を擦りつけた。
「……今年も、一緒に誕生日迎えてくれて、ありがとうな……」
「あは、一時はどうなるかと思ったけどね」
日向の言葉に狛枝は苦笑しながら、数日、数時間前の記憶を遡り始めた。





「二泊三日の出張?」
「うん。だから、一月一日を一緒に迎えられないんだ……。本当ごめんね……」
十二月三十日。大晦日手前で非情にも与えられた仕事に狛枝は涙を飲み込みながら日向に悲報を告げた。十二月三十日から三日間。つまり一月一日を、日向の誕生日を共に迎えられないのだ。年末に仕事というだけでも不運だというのに、加えて一年で最も大切な日を日向と共に過ごせないなんて、なんてツイてないのだろうか。
「……仕事だから、仕方ないよな」
日向は、笑ってそう答えた。その笑顔が狛枝の心に突き刺さった。
狛枝は知っていた。日向が、自分と過ごす一月一日を楽しみにしていることを。新年のお祝いではなく、誕生日のお祝いとして過ごすその日を、毎年楽しみにしていることを。そして、甘え下手な故に本心をそうやって隠そうとしていることを。
だから狛枝は、強く決意したのだった。
絶対に仕事を早く終わらせ、一月一日になる前に日向の元に帰るのだと。
結果、狛枝はかつてないほどの仕事スピードで二日分の仕事を一日半で終わらせ、年が明ける数時間前に見事、日向の元へ帰ったのだった。




「本当はゆっくり新年を迎えて、キミの誕生日を祝ってから楽しもうと思ってたんだけどね」
年が明ける数時間前に帰宅した狛枝は、事情を話す前に日向に口を塞がれ、求め、求められるままに身体を貪り合い…。そして、今に至るのだった。
「ごめん……だって、今年はお前と過ごせないと思ってたから……その、嬉しくてさ……」
「そう言ってもらえると、頑張った甲斐があったよね」
くすくすと笑いながら日向の身体を引き寄せると、日向も狛枝と同じように笑い、狛枝の脚に自らの脚を絡めた。
「なんだか、目が覚めちゃったな。ねぇ日向クン。ボク眠たくないんだけど……キミは、どう?」
わざとそんな風に問いかければ、日向の瞳はすぐに熱を帯びたものへと変わっていった。
「……俺も、だな」
「そう……じゃあ」
もう少しだけ、起きてようか。言葉の代わりに舌をちらつかせれば、日向は目を細め、狛枝の舌に噛み付いた。
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