エリカの幸い(影浦)
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第一次近界侵攻で、両親を亡くした。大学院への進学を予定していた姉は予定を変更してボーダーに就職し、それに引っ付くように私も戦闘員としてボーダーに入隊した。
ボーダーは順調に戦力を整え、来たる第二次近界侵攻、多数の犠牲者を出した第一次大規模侵攻とは打って変わり、民間人の被害者はゼロ。基地に侵入した人型近界民によって本部職員に数人の被害が出たものの、快挙といっていい結果に終わった。
キューブ化されることも生身を傷つけられることもなく無事に大規模侵攻を乗り切った私は、これでもかと後処理のためこき使われた。1日3時間睡眠で一週間ほど働き続けたので上層部におかれましては是非とも特別手当を出してほしい。城戸さん怖いから面と向かっては言えないけど。
「志摩。お前顔ひどいぞ」
「あん?喧嘩売ってんのか荒船コラ」
隊員を引き連れてやって来たのは同級生のボーダー隊員、荒船哲次だ。ガタイの良さも相まって威圧感があるので、同級生という共通点がなければ知り合うことはなかっただろう。怖そうに見えて中身は面倒見のいい兄貴分だと今は知っているが、第一印象は近寄りがたいヤンキーである。いや当真よかマシだけど。普段つるんでる面子が穂刈とかカゲとか人相悪い奴が集まってるから、余計怖いんだよな。ゾエと鋼だけが癒しだ。
「ここ一週間の合計睡眠時間20時間ちょいだからなぁ。あーやばい死ぬ」
「おい、人は多少食わなくても死にゃあしねえが寝なきゃ死ぬんだぞ。もう帰って休め」
「うん帰る…いやむしろ帰るの面倒だから基地で寝たい…眠い…鬼怒田さんにめちゃくちゃ仕事回された…恨むわーあの狸」
「あぁ、お前使い勝手いいもんな」
うるせえやい。B級ソロ歴3年越えのベテランぼっちだからって酷い。
立ち上がる気力が湧かなくてうだうだしていると、面倒見の良さを発揮した荒船がスポドリを奢ってくれた。兄貴マジ一生ついてく。
♢
カン、カンと足を下ろすたびに音の響く階段を昇り終えて、アパートの鍵を開ける。
「ただいまー」
返事はない。第一次侵攻後に引っ越したアパートは、姉と二人暮らしするのに丁度いい小さな部屋だ。
着替えもそこそこにベッドに身を投げ出して目を閉じる。零れた溜息は、自分でも驚くほど疲れ切ったものになった。
「……部屋、片付けないとなぁ」
口うるさい姉のおかげで、常に整理整頓された部屋。
それでも片付けないと。
姉の私物を、片付けないと。
第二次大規模侵攻、被害。
民間人 0人
行方不明者 32人(全てC級隊員)
死者 6人(全てボーダー職員)
姉は、ボーダー職員だった。
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