剥き出しの紅蓮柘榴、嘘の終焉
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滑濡と、嫌に輝る星を司る今宵の闇ーー…
後に、新選組の歴史を語るに重要な一節の事柄を描き、墨を飛び散らすには、中々相性は良い画用紙では無かろうか。
「…風間、池田屋で長州の会合が始まります。」
天霧…、と、風間と呼ばれた男が放てば、眉間に皺を寄せ不機嫌な表情をしながら、目的の場に向かう。
(…ちっ…)
本来であれば何故この俺が、と激しく文句を言いたい所だが、義理堅い性分故、致し方なく足を進める。
「…!?…この気は…」
目的地に足を運ぶに連れ、懐かしく愛おしい気を、己の第六感で感じ取る風間は、先ほどまで気が向かなかった仕事も、何かを察すれば、もしや今宵…と形の良い唇で頬笑みを表現した。
(…なまえ…)
ーーー…
「なまえー!」
同じ頃、屯所は急に騒がしくなって皆がバタバタと走り回る中、がばっ、といきなり抱きついてきた平助をなまえは予想するわけもなく、「…ぐえっ、」と潰れた声を出しながら平助を支える。
「あんだよ、」
いきなり何すんだ、と文句を垂れながら平助の頭をグシャグシャに撫でれば、平助は「うわっ!鉢金、せっかく気合い入れて結んだのに!」と慌てながら直し、へへっと笑いながらなまえの隣を独占する。
「いーっつも総司や一君やらになまえの隣、独占されちまうんだもん。
たまにはオレが貰ってもいいだろー?」
討ち入り前で、他の皆は緊張した空気を張り巡らしているが、平助のみはニコニコしながらなまえに擦り寄った。
(忘れてた、こいつ、戦場を楽しみながら駆け巡る奴だった…)
なまえは、擦り寄る平助を、やれやれ…と見ながら彼の頬をむぎっ、と軽く握れば、「…むぅ…っ、」とくぐもる声が発せられた。
わりーわりー、と言いその後、平助の頭をよしよし、と撫でながら、なまえは何となく自分のふとした勘に逆らえなく、言葉を放って仕舞う。
「平助、楽しむのも悪くねーけど、今日は、ちと抑えて気をつけろ、」
いいな?と真剣な目で平助を撫でると、平助はきょとん、とした顔をし、すぐさま何時もの笑顔に戻る。
「特攻隊長なんだから、オレ!」
でもまぁ…なまえが言うなら、と頬をぽり…と掻きながら小さく頷けば、なまえは、よしよし、イイコ、と言いながら、ぺちんと平助の頭を軽く叩いた。
「近藤さんの隊は十名で動くそうだ。」
斎藤が静かに放てば、原田は、俺ら土方さんの隊は二十四人だったか?隊士の半分が、腹痛って笑えないよな、なんて言いながら笑っていた。
近藤達は池田屋に向かい、土方達は四国屋に向かう。
ーーー
ーー戌の刻。
千鶴は伝令役として近藤達と池田屋に到着し、周辺を走り回った千鶴が、池田屋の前に戻って来た時にはー…
「こっちが当たりか。
まさか長州藩邸のすぐ裏で会合とはなあ」
永倉が呟けば、沖田と世話話のような軽い口調で話しており、二人からは緊張を感じられなかった。
「…なまえさん、そろそろですね…?」
千鶴は、隣に居るなまえに話し掛けてみても、何も返事がなく、不思議に思い彼に顔を向けてみると…。
「…なまえさんっ…!?首がどうかしたのですか…?」
なまえは、顔をしかめながら己の首元の「楔」の刺青を手で抑えては庇い、「…や、別に、」と、酷く痛そうな表情をするなまえに千鶴は心配になるが、二度目に質問した際には、頭をぽんぽん、と撫でられ「いーから、大人しくして此処にいやがれ、」と少し力を込められ頭をぐいっと押されて仕舞うが、千鶴が「楔」の字をふっと見た時に、何かに反応するかのように紅蓮を灯り…蛍のように輝いているように見えた。
千鶴は、なまえの事が心配で心を痛めたが、平助から「会津藩とか所司代の役人、まだ来てなかったか?」と聞かれれば小さく頷き、平助に返答する。
(…っ、…!)
風間につけられた首輪が、燃えるように熱く、なまえは火傷のような痛みに耐えながら、お役人を待っていたーー。
ーー亥の刻。
池田屋に着いた頃より、ずいぶんと月の位置も傾いている。
「さすがに、ちょっと遅すぎるな。」
永倉の声に沖田も反応し、みすみす逃しちゃったら無様ですよ、と近藤に問いかけ指示を待つと、それまでずっと沈黙を守り続けてきた近藤は不意に立ち上がり、そして池田屋に踏み入った。
「会津中将お預かり浪士隊、新選組。
ーー詮議のため、宿内を改める!」
高らかな宣言に、小さな悲鳴が続いた。
わざわざ大声で討ち入りを知らせちゃうとか、すごく近藤さんらしいよね、と声を弾ませる沖田に、なまえは、それが俺の大好きな近藤さんだ…と小さく微笑むと、永倉も平助も、どこか楽しげに笑みを浮かべる。
「御用改めである!
手向かいすれば、容赦なく斬り捨てる!」
そして、激戦が始まる。
階段を何人もの人の足で踏みたたかれる音や、誰かの断末魔に、宿内は大きく色々な音が響き渡った。
先程の、永倉の助けを呼ぶ声で理解したのだが、どうやら平助と沖田は怪我をしてしまった様で、千鶴は、自分が出来る事はないかと考えた後、池田屋から怪我人を連れて出ていけると思い、震えながらも池田屋に入る。
「…っ、平助君!沖田さん!」
千鶴は周りに気を付けながら、少し声をだせば、すぐ側の部屋から「お嬢…!?」と声が聞こえ、千鶴は急いで振り向き走った。
その呼び方、その聞き慣れた声に千鶴は一気に安心し、「…なまえさんっ…! 」と彼を思いきり抱きしめると、なまえは「…ったく、何で入ってくんだよ、」なんて言いながら千鶴の頭を撫で、小さく謝る千鶴に「まあ…今は助かった、」と放ち、なまえの腕で意識を失う平助を千鶴に託した。
驚く千鶴に、「止血はしといたから、見てやってて、」と嘆くと、すっと腰をあげる。
「なまえさん、何処にいくんですか…!?」
千鶴は、泣きそうになりながらなまえの浅葱を握ると、なまえは「にゃんこの所、飼い主の俺が迎えにいかねーと」と零し、頼んだぜ、と背中を向けて駆けて、急いで行ったのだった。
ーーー
(…っ、総司…!)
なまえは沖田を助けに行くべく、階段を駆け上る。
足を踏む度に比例して、己の首元の刺青が熱くなるのを無視し、室内の蒸し暑さと、嫌と言うほど充満する血生臭さのせいで、更に彼の心臓に酷く負担がのし掛かり、ヒュー…ヒュー…と呼吸を乱す。
「…っ…は…ぁっ…!、近藤さん…!」
階段を登り終えた後、近藤の姿が見え、近藤は「なまえ!」と安心した声を放ち、頼む、二階にいる沖田を見てやってくれ、と託してきた。
「総司に限って負けはせんだろうが、手傷を負うかもしれん。敵も相当の手馴れだ。」
近藤の言葉に、なまえは小さく頷き、急な階段を駆け上った。
ーーー
「総司!」
呼吸を乱しながら辿り着いたその先に居たのはーー沖田と、浪士が一人。
「…っ…ぐ…ぎっ…!」
今宵は特に調子の悪い己の心臓を、何故今だ、と恨みながら、掌で左胸の着物を握りしめるなまえは、ズンー…!と急に痛いほど懐かしい気を感じると、首元の「楔」の刺青が、ジュウウウ…ッ!!と音を立て反応し、痛みに汗をポタッ…と垂らした瞬間ーー
ーーギィィンーー!
ーーキィィィンーッー!
なまえの鼓膜に、金属と金属の触れる鈍い音が響き、視界には、闇の中を白刃がきらめきつつ紅蓮に燃える、懐かしい目を持つ男の姿を凛と埋めた。
「…なまえ…久しいな…」
なまえの登場を予測していたかのように、待ちわびたぞ、と独特な低い声で舐めるように放てば、なまえも彼の名を呟く。
「千景…、」
敵であろう浪士の名を、ふっ…と呟くなまえを見て、沖田は、知り合い?と、思いきり眉間に皺を寄せて放つと、風間はなまえに近づき、首元の刺青に手をあてがう。
「…フッ、似合っている…」
ウットリした表情でなまえの刺青を指で擦れば、さすがは俺の所有印、と放ちニタッ…と笑う風間に、沖田はハッと目の色を変えて「…その、腸煮えくり返る刺青…あんたが犯人だったんだね…!斬り殺すよ?」と食いかかり、又しても刀を当て金属の音を奏でるのであった。
「…何だ、貴様は…俺のなまえを誑かすか、」
なまえの浅葱の羽織を見て風間は嫌そうな表情をし舌打ちを鳴らせ、浅葱の不満を全て籠もらさせ、思いきり沖田に怒りをぶつけ壁に叩きつける。
「…っ、ぐはぁっ…!」
風間の圧倒的な強さに沖田は悔しそうに床にうなだれ、風間を睨みつければ「なまえが供にするのは、この程度の連中か」と風間は見下しながら投げ吐き、チャキッ…と刀を沖田に突きつけた。
「…やめろ、千景…、」
沖田を背に庇うように風間の前に立てば、沖田は切なそうになまえの名を呟くと、風間はウンザリしたように「…こんな奴らと居て、貴様が勿体ない…」となまえの顎を掴んで囁く。
なまえが、風間の言葉に眉間に皺を寄せ不愉快な顔をしながら「っせーよ、俺の生きる道は…新選…」と風間に言い返そうとした瞬間ーー…
ーーズグンッ…!!
なまえの心臓が酷く痛み、目の前の風間の顔が歪み始め、激しく吐気が襲い、ドクン、ドクン、ドクン、と嫌な汗を噴き出させながら、なまえの心臓は壊音を刻んでいく。
(…っ、冗談…だろ…?)
やめてくれ、と願いながら、なまえは目の前の風間を思いきり突き飛ばすと、ガクガク…と震えながら床に膝を付き、苦しみながらうずくまった。
「…なまえさ…ん…?!」
なまえの只ならぬ雰囲気に、沖田と風間は顔を青くし、なまえに、恐る恐る手をかける。
(やめろ、病め、ヤメロー…)
ー…俺に、触るな!!ーー
ズグンッ…ズグンッ…ズグンッ…!!
最後に大きな鼓動がブッ…!と腫ち切れた瞬間、なまえは苦しそうな呻き声を上げ、大量の血液を嘔吐して仕舞った。
ーー…
「え…?なまえさん…!?」
「…なまえ…?」
グチャ…、ビチャッ、ビチャッ…と広くて大きな血の水溜まりが出来れば、二人の男の哀しい声が響くが、なまえの鼓膜にはうっすらとしか聞こえず、意識が朦朧としヒュー…ヒュー…と呼吸をする。
「…なまえさん…なまえ…!!」と嘆きながら震える沖田に、風間は怒りに震え、沖田の胸ぐらを掴み、壁に思いっきり叩きつけ寄せた。
「貴様等、塵が…!!
なまえに一体、何をしたのだ!!」
風間は怒りに塗れ我を忘れたせいか、髪の色は銀に、目の色は黄金へと徐々に変わっていくが、沖田はそんな事を気にしている暇も与えられず、涙を浮かべなまえに縋ろうと暴れる。
「なまえ…さん…っ、まさか…あの時の…猛毒…!?」
前に一度だけ同じ症状を見たことがある場面が、脳内に鮮明に再生され、あの時の…と唇を震わせながら沖田が紡ぐ言葉に、確実に目付と色を変えた風間は、刀を沖田に向け、貫こうとするとーー…
「…千、景…!!」
ヒュー…ヒュー…と呼吸をしながら、なまえは四つん這いに鳴りながら風間に血だらけの手を伸ばすと、風間は沖田を床に投げつけた。
「…っ…気休めにしかならんが…!」
なまえの身体を抱き上げた後、風間は、己の腕を刀で…ブッッ…!と切ると、ボタタタ…ッと鮮明な血液を溢れさせ、それを己の口に含み、なまえの髪の毛を鷲掴んで唇を奪い合わせ、ズルッ…と舌を使いながら、己の血をなまえの体内へ送った。
「…ふ…、っ…」
なまえは、こくんこくっ、と風間の血液を口移しで呑むと、はぁっ…と熱い吐息を吐き、血液と涎で、でろぉっ…と糸をひく、己と風間の舌を見ながら意識を失ったーー…
風間は、すっと口を拭いながら、なまえの顔に手を当て様子を看る。
風間の純潔の鬼の血はなまえの体内を巡り、彼の血と混ざり生きる糧となっていき、なまえの顔色が徐々に良くなっていくのを確認し、とりあえずは安心して一つ息をつけば、側で震える沖田を鋭い眼差しで、ユラユラと炎が燃えるように睨みつけた。
「…っ…!」
先程の刀の傷が癒え、なまえの血液に触れても火傷しない様子を見れば、風間は純粋の鬼なんだ、と頭で理解した沖田は、悔しそうに思いきり風間をギリッ…と睨みつける。
「…貴様、先程の猛毒とやらは何だ、吐け。」
答えぬのなら死ね、と鬼の気と殺気を混ぜたモノを最大限に放出しながら刀を当ててくる風間に、沖田は思いきり表情を歪まし、悔しそうに口を開くーー
「…僕達の敵に、僕達の大事ななまえさんの事を、何で話さなきゃならないの…?」
なまえさんの顔色は良くなったのは御礼を言わなくちゃいけないけど、唇を奪うなんて…と怒りを込めながら、何の前触れも無い動きで沖田は床を蹴った。
再びふたりは切り結び、風間の我流の剣に、沖田は繊細な技巧で対抗する。
剣術の腕で言えば、間違いなく沖田が優れているが…しかし、かみ合った剣が離れるとき、体制を崩したのは沖田であった。
「死ね…人間が…!!」
風間の剣は、速くて重たく、純粋な力勝負では風間に分があり、重たい剣を玩具のように振り回し、沖田を圧倒していく。
「…っ…!くそっ…!」
なまえとはまた違う我流に、沖田は息を切らせ、汗を垂らしながら堪えるが、僅かに体制を崩して仕舞い、その隙を見逃さず風間は、腕力と同じく凄まじい脚力で沖田を蹴りつけると、沖田は「…ご、ぶっ…!」とくぐもり、その衝撃に床を転がり、胸元を押さえながら赤い血を吐く。
「…愚かな。今の貴様なぞ、なまえの盾の役にも、新選組の槍の役にも立つまい」
風間が冷酷な紅蓮で沖田を見下せば、沖田は「ーー黙れよ、うるさいな!僕は、役立たずなんかじゃない…っ!」と怒りをあらわに声を荒げたのだった。
そんな沖田を、端から見れば冷徹に見え、実は物凄く冷酷な紅蓮を燃やす風間は、ギリッ…と刀を構え己の憤怒の委ね、意識が遠退きそうになる沖田に、全力で剣を振り下ろした。
「…貴様の果敢無さと、往生際の悪さを…恨むが良い!!」
剥き出しの紅蓮柘榴、嘘の終焉
(無様)(俺を、視るな)
ーーー
嘘を敷き詰める柘榴、
剥き出しながら、汚く
ビチャビチャ垂らす、汁液
後に、新選組の歴史を語るに重要な一節の事柄を描き、墨を飛び散らすには、中々相性は良い画用紙では無かろうか。
「…風間、池田屋で長州の会合が始まります。」
天霧…、と、風間と呼ばれた男が放てば、眉間に皺を寄せ不機嫌な表情をしながら、目的の場に向かう。
(…ちっ…)
本来であれば何故この俺が、と激しく文句を言いたい所だが、義理堅い性分故、致し方なく足を進める。
「…!?…この気は…」
目的地に足を運ぶに連れ、懐かしく愛おしい気を、己の第六感で感じ取る風間は、先ほどまで気が向かなかった仕事も、何かを察すれば、もしや今宵…と形の良い唇で頬笑みを表現した。
(…なまえ…)
ーーー…
「なまえー!」
同じ頃、屯所は急に騒がしくなって皆がバタバタと走り回る中、がばっ、といきなり抱きついてきた平助をなまえは予想するわけもなく、「…ぐえっ、」と潰れた声を出しながら平助を支える。
「あんだよ、」
いきなり何すんだ、と文句を垂れながら平助の頭をグシャグシャに撫でれば、平助は「うわっ!鉢金、せっかく気合い入れて結んだのに!」と慌てながら直し、へへっと笑いながらなまえの隣を独占する。
「いーっつも総司や一君やらになまえの隣、独占されちまうんだもん。
たまにはオレが貰ってもいいだろー?」
討ち入り前で、他の皆は緊張した空気を張り巡らしているが、平助のみはニコニコしながらなまえに擦り寄った。
(忘れてた、こいつ、戦場を楽しみながら駆け巡る奴だった…)
なまえは、擦り寄る平助を、やれやれ…と見ながら彼の頬をむぎっ、と軽く握れば、「…むぅ…っ、」とくぐもる声が発せられた。
わりーわりー、と言いその後、平助の頭をよしよし、と撫でながら、なまえは何となく自分のふとした勘に逆らえなく、言葉を放って仕舞う。
「平助、楽しむのも悪くねーけど、今日は、ちと抑えて気をつけろ、」
いいな?と真剣な目で平助を撫でると、平助はきょとん、とした顔をし、すぐさま何時もの笑顔に戻る。
「特攻隊長なんだから、オレ!」
でもまぁ…なまえが言うなら、と頬をぽり…と掻きながら小さく頷けば、なまえは、よしよし、イイコ、と言いながら、ぺちんと平助の頭を軽く叩いた。
「近藤さんの隊は十名で動くそうだ。」
斎藤が静かに放てば、原田は、俺ら土方さんの隊は二十四人だったか?隊士の半分が、腹痛って笑えないよな、なんて言いながら笑っていた。
近藤達は池田屋に向かい、土方達は四国屋に向かう。
ーーー
ーー戌の刻。
千鶴は伝令役として近藤達と池田屋に到着し、周辺を走り回った千鶴が、池田屋の前に戻って来た時にはー…
「こっちが当たりか。
まさか長州藩邸のすぐ裏で会合とはなあ」
永倉が呟けば、沖田と世話話のような軽い口調で話しており、二人からは緊張を感じられなかった。
「…なまえさん、そろそろですね…?」
千鶴は、隣に居るなまえに話し掛けてみても、何も返事がなく、不思議に思い彼に顔を向けてみると…。
「…なまえさんっ…!?首がどうかしたのですか…?」
なまえは、顔をしかめながら己の首元の「楔」の刺青を手で抑えては庇い、「…や、別に、」と、酷く痛そうな表情をするなまえに千鶴は心配になるが、二度目に質問した際には、頭をぽんぽん、と撫でられ「いーから、大人しくして此処にいやがれ、」と少し力を込められ頭をぐいっと押されて仕舞うが、千鶴が「楔」の字をふっと見た時に、何かに反応するかのように紅蓮を灯り…蛍のように輝いているように見えた。
千鶴は、なまえの事が心配で心を痛めたが、平助から「会津藩とか所司代の役人、まだ来てなかったか?」と聞かれれば小さく頷き、平助に返答する。
(…っ、…!)
風間につけられた首輪が、燃えるように熱く、なまえは火傷のような痛みに耐えながら、お役人を待っていたーー。
ーー亥の刻。
池田屋に着いた頃より、ずいぶんと月の位置も傾いている。
「さすがに、ちょっと遅すぎるな。」
永倉の声に沖田も反応し、みすみす逃しちゃったら無様ですよ、と近藤に問いかけ指示を待つと、それまでずっと沈黙を守り続けてきた近藤は不意に立ち上がり、そして池田屋に踏み入った。
「会津中将お預かり浪士隊、新選組。
ーー詮議のため、宿内を改める!」
高らかな宣言に、小さな悲鳴が続いた。
わざわざ大声で討ち入りを知らせちゃうとか、すごく近藤さんらしいよね、と声を弾ませる沖田に、なまえは、それが俺の大好きな近藤さんだ…と小さく微笑むと、永倉も平助も、どこか楽しげに笑みを浮かべる。
「御用改めである!
手向かいすれば、容赦なく斬り捨てる!」
そして、激戦が始まる。
階段を何人もの人の足で踏みたたかれる音や、誰かの断末魔に、宿内は大きく色々な音が響き渡った。
先程の、永倉の助けを呼ぶ声で理解したのだが、どうやら平助と沖田は怪我をしてしまった様で、千鶴は、自分が出来る事はないかと考えた後、池田屋から怪我人を連れて出ていけると思い、震えながらも池田屋に入る。
「…っ、平助君!沖田さん!」
千鶴は周りに気を付けながら、少し声をだせば、すぐ側の部屋から「お嬢…!?」と声が聞こえ、千鶴は急いで振り向き走った。
その呼び方、その聞き慣れた声に千鶴は一気に安心し、「…なまえさんっ…! 」と彼を思いきり抱きしめると、なまえは「…ったく、何で入ってくんだよ、」なんて言いながら千鶴の頭を撫で、小さく謝る千鶴に「まあ…今は助かった、」と放ち、なまえの腕で意識を失う平助を千鶴に託した。
驚く千鶴に、「止血はしといたから、見てやってて、」と嘆くと、すっと腰をあげる。
「なまえさん、何処にいくんですか…!?」
千鶴は、泣きそうになりながらなまえの浅葱を握ると、なまえは「にゃんこの所、飼い主の俺が迎えにいかねーと」と零し、頼んだぜ、と背中を向けて駆けて、急いで行ったのだった。
ーーー
(…っ、総司…!)
なまえは沖田を助けに行くべく、階段を駆け上る。
足を踏む度に比例して、己の首元の刺青が熱くなるのを無視し、室内の蒸し暑さと、嫌と言うほど充満する血生臭さのせいで、更に彼の心臓に酷く負担がのし掛かり、ヒュー…ヒュー…と呼吸を乱す。
「…っ…は…ぁっ…!、近藤さん…!」
階段を登り終えた後、近藤の姿が見え、近藤は「なまえ!」と安心した声を放ち、頼む、二階にいる沖田を見てやってくれ、と託してきた。
「総司に限って負けはせんだろうが、手傷を負うかもしれん。敵も相当の手馴れだ。」
近藤の言葉に、なまえは小さく頷き、急な階段を駆け上った。
ーーー
「総司!」
呼吸を乱しながら辿り着いたその先に居たのはーー沖田と、浪士が一人。
「…っ…ぐ…ぎっ…!」
今宵は特に調子の悪い己の心臓を、何故今だ、と恨みながら、掌で左胸の着物を握りしめるなまえは、ズンー…!と急に痛いほど懐かしい気を感じると、首元の「楔」の刺青が、ジュウウウ…ッ!!と音を立て反応し、痛みに汗をポタッ…と垂らした瞬間ーー
ーーギィィンーー!
ーーキィィィンーッー!
なまえの鼓膜に、金属と金属の触れる鈍い音が響き、視界には、闇の中を白刃がきらめきつつ紅蓮に燃える、懐かしい目を持つ男の姿を凛と埋めた。
「…なまえ…久しいな…」
なまえの登場を予測していたかのように、待ちわびたぞ、と独特な低い声で舐めるように放てば、なまえも彼の名を呟く。
「千景…、」
敵であろう浪士の名を、ふっ…と呟くなまえを見て、沖田は、知り合い?と、思いきり眉間に皺を寄せて放つと、風間はなまえに近づき、首元の刺青に手をあてがう。
「…フッ、似合っている…」
ウットリした表情でなまえの刺青を指で擦れば、さすがは俺の所有印、と放ちニタッ…と笑う風間に、沖田はハッと目の色を変えて「…その、腸煮えくり返る刺青…あんたが犯人だったんだね…!斬り殺すよ?」と食いかかり、又しても刀を当て金属の音を奏でるのであった。
「…何だ、貴様は…俺のなまえを誑かすか、」
なまえの浅葱の羽織を見て風間は嫌そうな表情をし舌打ちを鳴らせ、浅葱の不満を全て籠もらさせ、思いきり沖田に怒りをぶつけ壁に叩きつける。
「…っ、ぐはぁっ…!」
風間の圧倒的な強さに沖田は悔しそうに床にうなだれ、風間を睨みつければ「なまえが供にするのは、この程度の連中か」と風間は見下しながら投げ吐き、チャキッ…と刀を沖田に突きつけた。
「…やめろ、千景…、」
沖田を背に庇うように風間の前に立てば、沖田は切なそうになまえの名を呟くと、風間はウンザリしたように「…こんな奴らと居て、貴様が勿体ない…」となまえの顎を掴んで囁く。
なまえが、風間の言葉に眉間に皺を寄せ不愉快な顔をしながら「っせーよ、俺の生きる道は…新選…」と風間に言い返そうとした瞬間ーー…
ーーズグンッ…!!
なまえの心臓が酷く痛み、目の前の風間の顔が歪み始め、激しく吐気が襲い、ドクン、ドクン、ドクン、と嫌な汗を噴き出させながら、なまえの心臓は壊音を刻んでいく。
(…っ、冗談…だろ…?)
やめてくれ、と願いながら、なまえは目の前の風間を思いきり突き飛ばすと、ガクガク…と震えながら床に膝を付き、苦しみながらうずくまった。
「…なまえさ…ん…?!」
なまえの只ならぬ雰囲気に、沖田と風間は顔を青くし、なまえに、恐る恐る手をかける。
(やめろ、病め、ヤメロー…)
ー…俺に、触るな!!ーー
ズグンッ…ズグンッ…ズグンッ…!!
最後に大きな鼓動がブッ…!と腫ち切れた瞬間、なまえは苦しそうな呻き声を上げ、大量の血液を嘔吐して仕舞った。
ーー…
「え…?なまえさん…!?」
「…なまえ…?」
グチャ…、ビチャッ、ビチャッ…と広くて大きな血の水溜まりが出来れば、二人の男の哀しい声が響くが、なまえの鼓膜にはうっすらとしか聞こえず、意識が朦朧としヒュー…ヒュー…と呼吸をする。
「…なまえさん…なまえ…!!」と嘆きながら震える沖田に、風間は怒りに震え、沖田の胸ぐらを掴み、壁に思いっきり叩きつけ寄せた。
「貴様等、塵が…!!
なまえに一体、何をしたのだ!!」
風間は怒りに塗れ我を忘れたせいか、髪の色は銀に、目の色は黄金へと徐々に変わっていくが、沖田はそんな事を気にしている暇も与えられず、涙を浮かべなまえに縋ろうと暴れる。
「なまえ…さん…っ、まさか…あの時の…猛毒…!?」
前に一度だけ同じ症状を見たことがある場面が、脳内に鮮明に再生され、あの時の…と唇を震わせながら沖田が紡ぐ言葉に、確実に目付と色を変えた風間は、刀を沖田に向け、貫こうとするとーー…
「…千、景…!!」
ヒュー…ヒュー…と呼吸をしながら、なまえは四つん這いに鳴りながら風間に血だらけの手を伸ばすと、風間は沖田を床に投げつけた。
「…っ…気休めにしかならんが…!」
なまえの身体を抱き上げた後、風間は、己の腕を刀で…ブッッ…!と切ると、ボタタタ…ッと鮮明な血液を溢れさせ、それを己の口に含み、なまえの髪の毛を鷲掴んで唇を奪い合わせ、ズルッ…と舌を使いながら、己の血をなまえの体内へ送った。
「…ふ…、っ…」
なまえは、こくんこくっ、と風間の血液を口移しで呑むと、はぁっ…と熱い吐息を吐き、血液と涎で、でろぉっ…と糸をひく、己と風間の舌を見ながら意識を失ったーー…
風間は、すっと口を拭いながら、なまえの顔に手を当て様子を看る。
風間の純潔の鬼の血はなまえの体内を巡り、彼の血と混ざり生きる糧となっていき、なまえの顔色が徐々に良くなっていくのを確認し、とりあえずは安心して一つ息をつけば、側で震える沖田を鋭い眼差しで、ユラユラと炎が燃えるように睨みつけた。
「…っ…!」
先程の刀の傷が癒え、なまえの血液に触れても火傷しない様子を見れば、風間は純粋の鬼なんだ、と頭で理解した沖田は、悔しそうに思いきり風間をギリッ…と睨みつける。
「…貴様、先程の猛毒とやらは何だ、吐け。」
答えぬのなら死ね、と鬼の気と殺気を混ぜたモノを最大限に放出しながら刀を当ててくる風間に、沖田は思いきり表情を歪まし、悔しそうに口を開くーー
「…僕達の敵に、僕達の大事ななまえさんの事を、何で話さなきゃならないの…?」
なまえさんの顔色は良くなったのは御礼を言わなくちゃいけないけど、唇を奪うなんて…と怒りを込めながら、何の前触れも無い動きで沖田は床を蹴った。
再びふたりは切り結び、風間の我流の剣に、沖田は繊細な技巧で対抗する。
剣術の腕で言えば、間違いなく沖田が優れているが…しかし、かみ合った剣が離れるとき、体制を崩したのは沖田であった。
「死ね…人間が…!!」
風間の剣は、速くて重たく、純粋な力勝負では風間に分があり、重たい剣を玩具のように振り回し、沖田を圧倒していく。
「…っ…!くそっ…!」
なまえとはまた違う我流に、沖田は息を切らせ、汗を垂らしながら堪えるが、僅かに体制を崩して仕舞い、その隙を見逃さず風間は、腕力と同じく凄まじい脚力で沖田を蹴りつけると、沖田は「…ご、ぶっ…!」とくぐもり、その衝撃に床を転がり、胸元を押さえながら赤い血を吐く。
「…愚かな。今の貴様なぞ、なまえの盾の役にも、新選組の槍の役にも立つまい」
風間が冷酷な紅蓮で沖田を見下せば、沖田は「ーー黙れよ、うるさいな!僕は、役立たずなんかじゃない…っ!」と怒りをあらわに声を荒げたのだった。
そんな沖田を、端から見れば冷徹に見え、実は物凄く冷酷な紅蓮を燃やす風間は、ギリッ…と刀を構え己の憤怒の委ね、意識が遠退きそうになる沖田に、全力で剣を振り下ろした。
「…貴様の果敢無さと、往生際の悪さを…恨むが良い!!」
剥き出しの紅蓮柘榴、嘘の終焉
(無様)(俺を、視るな)
ーーー
嘘を敷き詰める柘榴、
剥き出しながら、汚く
ビチャビチャ垂らす、汁液