連続三角紋
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【誠】を語る唇を神契る楔、桜歌する神風に律する誓約
『…自然の摂理に逆らえる程、灰色なブツが生きる事を許されるなんて思うなよ?』
『買い被りすぎ。
近藤さん悲しませる事が起きなきゃ俺は何も言わねーよ?あんたが何考えてるのか、何企んでんのか…興味ねー、』
ーーー…
“ 「みょうじ君‥‥っ‥‥ご覧なさい!!
此れが‥‥新選組総長だった男ですーー…!!」 ”
薄い桜が瞞す蜃気楼に囚われていた新選組の裏事情の要である雪村綱道との決戦は、山南の長ける頭脳戦略と剣客の自尊心を羅刹の力に馳せ、忠誠を誓った誠心を賭け立ち向かった結果、新選組の勝利で幕を引き、彼らが育んだ悲しき因縁の歴史は此処で終えた。
互いに退く事も無く一筋縄ではいかない闘いだった事は、情景と両者の身体を見れば一目瞭然であり、且つ故に指摘点も産まれる。
既に持つ羅刹の力や剣客の地位、頭脳戦略が幾ら長けていた山南だとしても、古傷を庇う腕にハンディを背負っている筈の山南たった一人で、どうやって雪村綱道を倒したのかと言う疑問符が旋律に残った。
雪村綱道には、彼率いる彼御自慢の専属の羅刹兵器軍隊が何十と存在した筈である。
気になる疑問を抱いて仕舞った濃厚な激戦を振り返せば、山南が雪村綱道と刀を交えた戦の中で、雪村綱道自身の発言に於いて彼率いる羅刹兵器軍隊は他者の手により全滅したと発言の峰が有り、彼の発言通り軍隊の姿は無く、其して且つ彼自身も相当な深手を負っていて、山南との激闘の際には、雪村綱道自ら変若水を飲まなければ成らない状態であったとの解説に至る。
『‥‥っ、あの者めが‥‥っ‥‥!
この私にまで‥‥深い負傷を追わせよって‥‥!おのれ‥‥又しても新選組による邪魔が入るかっ‥‥!!』
変若水を飲んでも尚、既に身体に不具合を抱えなければならない状態にある雪村綱道に対して、確かにハンディを背負う山南に多少なりとも有利な状況での激闘であり、其れから繋がる勝利ならば納得がいく。
では更に深く追求すれば何故、雪村綱道は相当なる深手を負い、率いる羅刹兵器軍隊は全滅していたのだろうか?
ーー‥‥『‥‥っ、あの者めが‥‥っ‥‥!
この私にまで‥‥深い負傷を追わせよって‥‥!おのれ‥‥又しても新選組による邪魔が入るかっ‥‥!!』
強き優しい赤黄の桜が舞い散り、揺るぎない焔へ誘えば、徳利に酒を傾けトクトク…と注がれる背景に映え、この激闘に隠れた一人の漢の信念を貫いた背中と律儀な腹の古傷が物語る【誠】の旗を、芯を徹して力強く靡かせ、絶対的な要を新選組に織る千羽鶴へと護り、此の時代の運命を生きる為に新たなる選択を組織に託した。
漢の生命を賭けてでも繋げ託し抗わなければ為らない武装組織に、形は離れても心は共に強く繋がる志に脱帽する。
様々な物事の背景には必ずしも重要な鍵が存在し、最終的に興味深き歴史を暴き語り継ぐ事に成る故、真実を完璧に欺く事は並大抵の事では無いのかもしれない。
是にて、雪村綱道と新選組との関係は終止符を打つ事と成るが、故に其の激闘の代償は強く比例して深く鋭い物と成った為、新選組は誠を掲げる桜樹木に生命の蕾を又一つ、与える事に為って終う。
「土方君‥‥!
‥‥っ‥‥私は‥‥私の考えつかない事をやり遂げ、そして更に前を行き、常に最前線を突き進む貴方が…物凄く羨ましくもあり…少しだけ嫉ましくもありました‥‥私は貴方と僅かに肩を並べる事が、やっとの思いでしたから…」
神は許す事無く時は訪れ、山南の背負う宿命の限界が訪れれば、傍に居た土方と千鶴に看取られながら物語の結末の決まり文句を淡々と放ち、其れが己には似合うと悟りながら、当たり障りの無い終焉を迎え様と試む。
山南の身体は羅刹の定めし哀しき契約に基づき、サラサラ‥‥と灰に変わる最期の瞬を静かに過ごそうと目を瞑り、新選組の生涯を思い返すのだったが、然しどうしても否応なしに看板地位である彼の姿が、彼の心裏や脳裏に映し出されて仕舞うのだった。
「ふふっ、全く‥‥みょうじ‥‥君には‥‥散々手を焼かせられましたね‥…時に意見相違し憎たらしいかと思えば…彼はとても純粋で……」
且つ、其んな彼に放たれた言の葉を影像と共にリフレインさせては、山南の心裏と脳裏をズクン、ズクンーー!と荒波の如く巡らせ、瞑っていた目をガッと開き、己が掲げる新選組の誠を叫び放てち、新選組総長の威厳を劫火に燃え上がれさせ、彼らしくない最期を灰煙に馳せては迎え逝った。
「ーーなまえは、あんたに認めて貰おうと必死に腕伸ばして空を仰いでたんだぜ?
それに俺ァ‥‥あんたが裏で指揮とってくれたから安心して前へ進むだけで、不安でその場に立ち竦んじまう事も膝抱える事も無かったんだ…誰か俺に喝入れてたと思ってやがる…」
それに結局、あんたもアイツの事想ってんじゃねェか‥‥と口に含み、其して様々な漢達の様々な想いを背負う土方は、山南へと語り掛ける様な優しい言葉を放ちながら、己の紫に山南が託した新選組の想いを更に刻み込んだ後、ふと己の隣に居る千鶴に紫を移し見てやれば、彼女の大きな黒い瞳は今より更なる先を見据える様に、深い決意を映していた。
「‥‥私はもう、泣きません。
明日の証明よりも現在の正銘を残したいから」
父親の件も含め何かに吹っ切れ凜とし真っ直ぐ貫く千鶴は、決して屈する事の無い信念を抱き山南の最期に触れながら、浅葱に至らす要の千羽を十字に背負い、若き娘には酷である声明を志に熾す。
其の様子を見た土方は胸を熱くさせ「千鶴‥‥お前、強くなったな。」と微笑みながら語りかけた後、静かにスッ…と目を伏せながら「どうか、安らかに永眠ってくれーー‥‥」と願い、土方から山南へと贈られた鎮魂歌は、灰へと遂げて逝く山南の表情を狭間の中で、安らかで優しい者へと変えていけば、哀しき宿命を迎えた新選組のブレーンは、無防備に無抵抗に召されては春の桜を映えさせ、鶴に救いの羽を差し上げ己と代引き、樹木に大人しく蕾んだ。
多寡が一匹の妖の若僧に、決して一筋縄では到底いかない暴れん坊が集う新選組を、裏で強く首根っこ掴み縛りながら、大いに深く影で支えてきた者の測り知れない苦悩や精神力、責任力、総合的な絶対力は、絶対に知る由も無いのだから。満月の眼球、錆びた爪伽で抉り
紅い涙石、混濁し逃げ堕した雨水
溜息を吐く空は、幸か不幸か物語の結末を蒼穹に臨む
雨水を舐め啜る紫陽花
濡らす花弁を端麗に染め挙句、哀色に冷酷を嘲笑い滴らせる。
(梅雨の瞞し、愛想尽き果てる)
沖田の色白い腕は、翡翠の強欲の底深さを思い知らせるかの如く懸命に足掻き、唯、悪夢から目覚めたいと虚栄心に鼓動を訴え、煩わしい静寂に誰か雑音をと叫んだ。
「此の戦場に咲いた花‥‥どうやら紫の風信子‥‥とでも言った所か。
花言葉は「悲しみ」「悲哀」「許してください」ーー
‥‥まさに土方の瞳、若しくはなまえの幻影肢とでも言うか‥‥」
紅月には紫が良く似合う、と静かに語りながら竦む沖田と井吹の前に現れたのは、双方に紅蓮を灯らせる清き純血の鬼。
故に彼も、己の所持印だと示す為の在る首筋の刺青からの嫌な伝達からか、若しくは己自身で悟る只ならぬ胸騒ぎに乗じたのか、兎に角、只事では無いと此の場に駆け付け現れた一人なのであった。
彼が耀かせる紅蓮には、唯唯、無力と無念の哀しみが映し出され浸食された所為か、赤紫に濁り澱んでいた。
「‥‥黙れ、斬り殺すよ?」
紫に濁る紅蓮を脅す、無力な翡翠に沈黙が突き刺す様に痛い状況の中で、寧ろ脅しに縋る卑屈でどう足掻いても今の情景を変えることが出来ない事実、目の前の今という現実に、己自身を冷酷に焼突き刺し殺された感覚に陥る。
猛者の剣以前に新選組の盾にすら成れていなかったのかと己の心裏に問えば、螺旋の中で破壊と滅亡を司る天に首を締められ囁かれては、無力を突き付けられては行き場を失いそうに成った。
‥‥否、今行き場を失えば、己が傷付く事柄から逃げる理由を吐き散らす事が許されるかもしれない。
「…皮肉だな。
なまえが浅葱を徹し誠を掲げ、信念を貫き通した現実が今この目の前にある。
…沖田、貴様はどう見る?」
奴なりの餞か、と静かにポツリと零し、札板は血に滲み皹、液体が収められていた瓶は粉々に割れて無残にも破壊された連結鍵を拾い握り締める風間の低音に委ね、沖田は嫌々ながらも彼の言う結果を指でなぞれば、白の半紙に黒の墨で画いた紅月が鎖爛れる一つの歴史を全身全霊で受け止めたが、今の彼の器に於いて耐え難い衝撃からか、ゴポゴポッ…と大量に血液を吐き出して仕舞った。
「‥‥挙句は、現実から目を背け、紛い者に成り下がった只の負け犬が。
所詮口だけか‥‥やはり貴様は剣など疎か盾以前に‥‥誰も護れなどしない‥‥!」
敢えての死装束(浅葱)なら貴様にお似合いか、と続けた風間は、チャキッ‥‥と己の刀を抜きながら、己の持つ紅蓮を忌々しい者を映す様に怒りを含み再び燃え上がらせ、目の前の現実に項垂れる沖田の喉付近に刃を翳し見下しながら降伏を問えば、逃れられぬ現実と比例する如く血反吐垂らす沖田は、地這いつくばった状態から己を捉える紅蓮を定め首筋寄りに向けられた刃に対し、ブチブチブチッ…!と片方の掌を素手で握り血を痛々しくも溢れさせ、言葉は不必要な威圧的を放って魅せた。
「‥‥不愉快だな。何の真似だ?」
人間でも無い鬼でも無い紛い物な上に病に侵食され醜い生命だとしても、何時でも己を一番に探し見つける親愛なる御方の居場所を、今度は己がと懸命に探しやっと見つけ手を伸ばしたと思えば、此の後での更なる運命に、叩き壊されたのは紛れもない事実。
唯、更に堅い決意を括い、新たなる己に出会えた事は、此の運命に感謝しなくては成らないのかも知れない。
【大切な者を護る勇猛な剣、真の強き者】
羅刹に陥った己の身体に、清き親愛なる妖鬼を自身の左胸に焼き混ぜ、近藤率いる浅葱の羽織を背負い己の抱く強き剣の生き様、他人からは底辺の如く無様だと嘲笑われようが、自身の身体が自身の命令に従え動く最期迄、誠実とは程遠い激情な歴史を懸命に這い奮いたい。
此れが、一番隊組長の【誠】の旗、沖田総司と云う者が馳せる信念且つ忠誠、強がる者から強き者へと変幻させ後世の踏台に成り下がった妖鬼の罪深き代償
「強がりの者から、強き者へと変幻する」
新選組の猛者の剣と轟く為に、親愛なる御方の誠の意思を継ぐ盾に成る為にーー!!
ギリギリ‥‥ッと己の首根っこ掴む天を、己の血塗れの腕で意思を決して祓えば、風間の刀を握り締める掌の血液の量を合図に、先程まで喪い欠けていた翡翠に一筋の誓がガッと宿ると、沖田の其の様子を見た風間は、口元を三日月に描いた。
「ふっ‥‥故にどんな形であろうとも貴様の下品な血で俺の刀を穢すとは…そして負け犬如きに刀を向けた己自身と滑稽な貴様に、忌々しく反吐が出る。」
直ちに表情を変え三日月を引っ込ませたと思えば、冷酷な言葉を放ち嘲笑いながら見下したうえ、膝をつき座り込む沖田の肩を思い切りガッーー!!と蹴り飛ばし、其の儘、沖田を地にザザザッ…!と肩から地面へ擦り付けた風間は、舌打ちを合図に紅蓮の威厳を滾らせ、小さく唸る沖田に見透かす様に吐き捨てる。
「貴様如きが、嵩取るな。
地這い擦り廻って血反吐垂らし、地獄の底辺から這い上がって来い。
浅葱の山形を死装束に朽ち堕とすか‥‥将又、日本歴史を轟かす蛇の鱗とするか…
何方の運命に転ぶか、見物だな‥‥」
花弁の色彩共々移り変え意味合いをも変幻させる紫陽花は、此の戦場に咲く風信子の裏語を雨水でそっと暴き、大量に啜った血液を洗い流せば、隠蔽された花札を開花させた。
(悲しみを超えた愛) 「‥‥此れは、俺が預かろう」
異論など無く当然かの如く、血泥錆び果てた鎖をジャラッ‥‥と辛うじて鳴らすが、最早これまでである連結鍵と、罪と罰を報いる雷光を亀裂に刻んだ印籠を掴み、自身の着物の内に収めようとする風間に、今迄のやり取りを静かに見守っていた井吹は、一瞬にして鋭い目付きへと変え瞬時に動けば「ちょっと待ってくれ。」と勢い良く放ち、風間の腕をガッ‥‥!と力強く掴んだ。
「‥‥っ!?何だ、貴様は…!」
人間風情が此の俺に触れるとは‥‥!と憤怒の紅蓮を燃やしながら井吹に掴まれた腕を払い、思いきり退けては刀へと手を持っていこうとする風間に対し、井吹は決して怯むことなく寧ろ更にギリギリ‥‥ッと風間の腕を掴めば「‥‥印籠は返してくれ。」と一言、重圧に放つ。
「…井吹君っ…何言ってるの?
…大体、何で勝手に持ち去ろうとしてるのさ…なまえさんの連結鍵も返せ…!」
黎明の頃の逃げ怯えながら僅な灯りを懸命に費やす面影は無く、自身の使命を左に抱いて瞬の時代を掻い潜る鼈甲の赫きは、既に新選組に並ぶ瞳の強さであり、体力も残らない沖田が異議を発する前で、井吹は意外な言葉を投げ掛けたのだ。
「‥‥あんたと沖田のやり取り、後は俺の野生の勘で、あんたに連結鍵は渡しても問題無いと思った。‥‥ただ、印籠だけは渡せない。」
純血の鬼を目の当たりにしている筈の人間如きの揺るぎない瞳に、風間の眉間の皺は多少なりとも優しく溶け、尊大な彼にしては珍しく理由を問えば、井吹はスッ‥‥と視線を落とし、印籠の底の仕掛けから少しはみ出ている手紙の様な物に「鈴」と云う字が書かれているのを眺め、井吹の脳裏には、可愛い風車と小さな鈴の音色が淡く意図しく浮かび上がった。
情景に思い当たる節が連結するのならば尚更だ、と更に力強い瞳を風間の紅蓮へ戻し焦点を合わせれば「其の印籠は、元々俺がなまえに預けた御守りだからな。‥‥なまえ以外の他の者に預けるつもりなんてない。」と放てば、無論、風間も、なまえが大切そうに腰に下げ(菓子入れにしていたが)印籠だと知って居たからこそ、初対面であり何者だかも解らない者に対して疑いの念や譲りたくない気持ちもあり、不愉快に舌打ちをし「‥‥貴様、知らぬ顔だが‥‥偽りは無いな?」と煽り、井吹の鼈甲の瞳を紅蓮で焼溶かす如く、鋭く強く威嚇した。
相手は人間?格下?
自然の摂理に基づき、なまえの物を奪い合っている現実に於いて、愚問であって一切関係無い。
譲れないのは、鬼も人間も同じ事だ。
(‥‥沖田と共に行動しているとなれば此の者も新選組か‥‥しかし知らぬ顔だが‥‥何者だ?)
風間は威圧を解くこと無く井吹を何者だか探るが、井吹の鼈甲は鬼の威嚇から決して恐怖で溶け割れる所か、怯むこと無く罅割れる事無く真実を含む純粋を保ちつつ、二言と濁りの皆無を嫌という程証明し知らしめれば、ほう‥‥と口端を上げた風間は「‥‥人間にしては、なかなかやるな」と認めては、印籠だけを井吹の前へ差し出した。
「嘘偽りの瞳、その場逃れの心、‥‥幾つもの人間の戯言を見てきた故、ある程度見抜く。
なまえが貴様を想ってからか、何故此の印籠に、貴様の瞳に似た鼈甲飴やらを入れていたのかと、僅かに理解した気がする。」
印籠から、焼け溶けた鼈甲飴の滓と僅かに混じる甘ったるい残り香が溢れ落ちれば、井吹は「‥‥俺が疑問に思ってたなまえの印籠の使い方を、まさか初対面のあんたに教えて貰うなんてな‥‥」と小さく苦笑いを落とし、風間に御礼と次いでに己が何者なのかを明かす。
「‥‥生きる事から逃げ迷う俺を殺したのが、なまえだった。」
井吹の鼈甲が静かに幕引きの頃合だと合図を送れば、風間は時の流れと共に一連の流れを感じた後、連結鍵の鎖を鳴らす錆びた音だけが響く無言を奏でなから、其の場を去っていった。
「…今回の件に促され、アイツも自身の何かに腹括ったんだな。
勿論、其れが何に対してのケジメなのか俺には解らないが、置かれる自身の立ち位置の定め、時代の狭間に揺れる鬼の宿命の決着をーーそんな感覚を憶えた。」
沖田が井吹に対して「…井吹君、何勝手な事…!」と言葉を発したが井吹からの意味深な言葉に遮られ、発言を邪魔された沖田はムッとしながら「…何でそんな事が君に解るの?信憑性も無いよね。大体、連結鍵を渡した理由だって…!」と強く突っ掛かる様に返せば、井吹は「確かに、沖田の言う通り信憑性は無いかも知れないな。…勝手な事して、すまない。言い訳に聞こえるが…俺の今の職業は、言葉を発しない食物を相手に種から心身込めて育ててる。奴らが立派に育たなきゃ俺は飯食っていけない分、絶対に奴らの気持ちを心身で感じ取らなきゃいけない。…その所為もあってか、言葉無くとも雰囲気や鼓動で、何となく解るんだ。」と静かに零せば、沖田は自身の翡翠を僅かに脱力させ、代わりに僅かに優しく灯らせた。
「…井吹君、すっかり忘れてる様だから思い出させてあげるけど…君はあの時、なまえさんに殺されてとっくにお陀仏の設定なんだけど?」
「…っ!?…お、おう…」
「全く、のうのうと農家生活なんて良い御身分だよねー?
それに折角、なまえさんが助けてくれた命なのに、自分の恩返しは~とかカッコつけちゃった挙句、此んな場所まで付いてきちゃって…本当に君は馬鹿だよね。単細胞の首突っ込みたがり者。」
たっぷりと井吹に向かって嫌味を零した後、沖田は、目の前の戦慄を奏でた激戦場を、己の体幹に酸素と選ばれた五感覚で再度、又しても強く感じ取りながら、自身の持つ翡翠から、一筋の涙をツゥッーー…と頬に、不覚、深く、痛く、居たく、刻む。
ーー…ガリッーー!!
頬を刻んだ生暖かい痛みに、なまえに対する今も変わる事の無い絶対服従に…沖田なりの敬礼の表意なのであろうか、地に撒かれた焦げ臭い金平糖と鼈甲飴の滓、其れに彼の千切れた左腕だった残灰を賭け、口に含んで噛み砕いた後、苦くて甘い忠誠を舌舐めずり、一途で一心な翡翠に誓約する。
「なまえさん、僕ねーー」
「ーーその後に俺らが建物の中に入った時には、近藤さんの姿は既に無かったんだ。」
井吹は己の鼈甲に焼き写した情景を、ありのまま情報伝達の言語に変換させ、合流した土方達に事実を伝えれば「ーー井吹、総司、御苦労だったな…」と、総てを司る帝王の紫は鬼火の如くゆらゆらと揺れれば、羅刹の味方となる深い夜更けに厄を脅かす強き本物の鬼と成りて、確実に其の場の空気を一新に変え、物事の重大さを示した。
黎明から奇譚の今迄、旗を掲げては戦場を駆け抜けてきた人生は、不思議な噺と逸脱し薄桜を語るのは余り似つかわしく無く、己の掲げる【誠】と生死の覚悟に耐え抜き、自身の定義に基づく正義に撤するしか術は無い。
“浅葱の山形を死装束に朽ち堕とすか、日本歴史を轟かす蛇の鱗とするかーー”
煙草を蝋燭に垂らし、赫焉
歴史の座標軸は、新選組に意義を申し立てる。
連続三角紋
(飴水が纏う残灰)(龍の3枚の鱗)
ーーー
過去を棄てるのは、
原罪(現在)を償う所為、
「蛇に唆され、林檎を囓った。」
『…自然の摂理に逆らえる程、灰色なブツが生きる事を許されるなんて思うなよ?』
『買い被りすぎ。
近藤さん悲しませる事が起きなきゃ俺は何も言わねーよ?あんたが何考えてるのか、何企んでんのか…興味ねー、』
ーーー…
“ 「みょうじ君‥‥っ‥‥ご覧なさい!!
此れが‥‥新選組総長だった男ですーー…!!」 ”
薄い桜が瞞す蜃気楼に囚われていた新選組の裏事情の要である雪村綱道との決戦は、山南の長ける頭脳戦略と剣客の自尊心を羅刹の力に馳せ、忠誠を誓った誠心を賭け立ち向かった結果、新選組の勝利で幕を引き、彼らが育んだ悲しき因縁の歴史は此処で終えた。
互いに退く事も無く一筋縄ではいかない闘いだった事は、情景と両者の身体を見れば一目瞭然であり、且つ故に指摘点も産まれる。
既に持つ羅刹の力や剣客の地位、頭脳戦略が幾ら長けていた山南だとしても、古傷を庇う腕にハンディを背負っている筈の山南たった一人で、どうやって雪村綱道を倒したのかと言う疑問符が旋律に残った。
雪村綱道には、彼率いる彼御自慢の専属の羅刹兵器軍隊が何十と存在した筈である。
気になる疑問を抱いて仕舞った濃厚な激戦を振り返せば、山南が雪村綱道と刀を交えた戦の中で、雪村綱道自身の発言に於いて彼率いる羅刹兵器軍隊は他者の手により全滅したと発言の峰が有り、彼の発言通り軍隊の姿は無く、其して且つ彼自身も相当な深手を負っていて、山南との激闘の際には、雪村綱道自ら変若水を飲まなければ成らない状態であったとの解説に至る。
『‥‥っ、あの者めが‥‥っ‥‥!
この私にまで‥‥深い負傷を追わせよって‥‥!おのれ‥‥又しても新選組による邪魔が入るかっ‥‥!!』
変若水を飲んでも尚、既に身体に不具合を抱えなければならない状態にある雪村綱道に対して、確かにハンディを背負う山南に多少なりとも有利な状況での激闘であり、其れから繋がる勝利ならば納得がいく。
では更に深く追求すれば何故、雪村綱道は相当なる深手を負い、率いる羅刹兵器軍隊は全滅していたのだろうか?
ーー‥‥『‥‥っ、あの者めが‥‥っ‥‥!
この私にまで‥‥深い負傷を追わせよって‥‥!おのれ‥‥又しても新選組による邪魔が入るかっ‥‥!!』
強き優しい赤黄の桜が舞い散り、揺るぎない焔へ誘えば、徳利に酒を傾けトクトク…と注がれる背景に映え、この激闘に隠れた一人の漢の信念を貫いた背中と律儀な腹の古傷が物語る【誠】の旗を、芯を徹して力強く靡かせ、絶対的な要を新選組に織る千羽鶴へと護り、此の時代の運命を生きる為に新たなる選択を組織に託した。
漢の生命を賭けてでも繋げ託し抗わなければ為らない武装組織に、形は離れても心は共に強く繋がる志に脱帽する。
様々な物事の背景には必ずしも重要な鍵が存在し、最終的に興味深き歴史を暴き語り継ぐ事に成る故、真実を完璧に欺く事は並大抵の事では無いのかもしれない。
是にて、雪村綱道と新選組との関係は終止符を打つ事と成るが、故に其の激闘の代償は強く比例して深く鋭い物と成った為、新選組は誠を掲げる桜樹木に生命の蕾を又一つ、与える事に為って終う。
「土方君‥‥!
‥‥っ‥‥私は‥‥私の考えつかない事をやり遂げ、そして更に前を行き、常に最前線を突き進む貴方が…物凄く羨ましくもあり…少しだけ嫉ましくもありました‥‥私は貴方と僅かに肩を並べる事が、やっとの思いでしたから…」
神は許す事無く時は訪れ、山南の背負う宿命の限界が訪れれば、傍に居た土方と千鶴に看取られながら物語の結末の決まり文句を淡々と放ち、其れが己には似合うと悟りながら、当たり障りの無い終焉を迎え様と試む。
山南の身体は羅刹の定めし哀しき契約に基づき、サラサラ‥‥と灰に変わる最期の瞬を静かに過ごそうと目を瞑り、新選組の生涯を思い返すのだったが、然しどうしても否応なしに看板地位である彼の姿が、彼の心裏や脳裏に映し出されて仕舞うのだった。
「ふふっ、全く‥‥みょうじ‥‥君には‥‥散々手を焼かせられましたね‥…時に意見相違し憎たらしいかと思えば…彼はとても純粋で……」
且つ、其んな彼に放たれた言の葉を影像と共にリフレインさせては、山南の心裏と脳裏をズクン、ズクンーー!と荒波の如く巡らせ、瞑っていた目をガッと開き、己が掲げる新選組の誠を叫び放てち、新選組総長の威厳を劫火に燃え上がれさせ、彼らしくない最期を灰煙に馳せては迎え逝った。
「ーーなまえは、あんたに認めて貰おうと必死に腕伸ばして空を仰いでたんだぜ?
それに俺ァ‥‥あんたが裏で指揮とってくれたから安心して前へ進むだけで、不安でその場に立ち竦んじまう事も膝抱える事も無かったんだ…誰か俺に喝入れてたと思ってやがる…」
それに結局、あんたもアイツの事想ってんじゃねェか‥‥と口に含み、其して様々な漢達の様々な想いを背負う土方は、山南へと語り掛ける様な優しい言葉を放ちながら、己の紫に山南が託した新選組の想いを更に刻み込んだ後、ふと己の隣に居る千鶴に紫を移し見てやれば、彼女の大きな黒い瞳は今より更なる先を見据える様に、深い決意を映していた。
「‥‥私はもう、泣きません。
明日の証明よりも現在の正銘を残したいから」
父親の件も含め何かに吹っ切れ凜とし真っ直ぐ貫く千鶴は、決して屈する事の無い信念を抱き山南の最期に触れながら、浅葱に至らす要の千羽を十字に背負い、若き娘には酷である声明を志に熾す。
其の様子を見た土方は胸を熱くさせ「千鶴‥‥お前、強くなったな。」と微笑みながら語りかけた後、静かにスッ…と目を伏せながら「どうか、安らかに永眠ってくれーー‥‥」と願い、土方から山南へと贈られた鎮魂歌は、灰へと遂げて逝く山南の表情を狭間の中で、安らかで優しい者へと変えていけば、哀しき宿命を迎えた新選組のブレーンは、無防備に無抵抗に召されては春の桜を映えさせ、鶴に救いの羽を差し上げ己と代引き、樹木に大人しく蕾んだ。
多寡が一匹の妖の若僧に、決して一筋縄では到底いかない暴れん坊が集う新選組を、裏で強く首根っこ掴み縛りながら、大いに深く影で支えてきた者の測り知れない苦悩や精神力、責任力、総合的な絶対力は、絶対に知る由も無いのだから。満月の眼球、錆びた爪伽で抉り
紅い涙石、混濁し逃げ堕した雨水
溜息を吐く空は、幸か不幸か物語の結末を蒼穹に臨む
雨水を舐め啜る紫陽花
濡らす花弁を端麗に染め挙句、哀色に冷酷を嘲笑い滴らせる。
(梅雨の瞞し、愛想尽き果てる)
沖田の色白い腕は、翡翠の強欲の底深さを思い知らせるかの如く懸命に足掻き、唯、悪夢から目覚めたいと虚栄心に鼓動を訴え、煩わしい静寂に誰か雑音をと叫んだ。
「此の戦場に咲いた花‥‥どうやら紫の風信子‥‥とでも言った所か。
花言葉は「悲しみ」「悲哀」「許してください」ーー
‥‥まさに土方の瞳、若しくはなまえの幻影肢とでも言うか‥‥」
紅月には紫が良く似合う、と静かに語りながら竦む沖田と井吹の前に現れたのは、双方に紅蓮を灯らせる清き純血の鬼。
故に彼も、己の所持印だと示す為の在る首筋の刺青からの嫌な伝達からか、若しくは己自身で悟る只ならぬ胸騒ぎに乗じたのか、兎に角、只事では無いと此の場に駆け付け現れた一人なのであった。
彼が耀かせる紅蓮には、唯唯、無力と無念の哀しみが映し出され浸食された所為か、赤紫に濁り澱んでいた。
「‥‥黙れ、斬り殺すよ?」
紫に濁る紅蓮を脅す、無力な翡翠に沈黙が突き刺す様に痛い状況の中で、寧ろ脅しに縋る卑屈でどう足掻いても今の情景を変えることが出来ない事実、目の前の今という現実に、己自身を冷酷に焼突き刺し殺された感覚に陥る。
猛者の剣以前に新選組の盾にすら成れていなかったのかと己の心裏に問えば、螺旋の中で破壊と滅亡を司る天に首を締められ囁かれては、無力を突き付けられては行き場を失いそうに成った。
‥‥否、今行き場を失えば、己が傷付く事柄から逃げる理由を吐き散らす事が許されるかもしれない。
「…皮肉だな。
なまえが浅葱を徹し誠を掲げ、信念を貫き通した現実が今この目の前にある。
…沖田、貴様はどう見る?」
奴なりの餞か、と静かにポツリと零し、札板は血に滲み皹、液体が収められていた瓶は粉々に割れて無残にも破壊された連結鍵を拾い握り締める風間の低音に委ね、沖田は嫌々ながらも彼の言う結果を指でなぞれば、白の半紙に黒の墨で画いた紅月が鎖爛れる一つの歴史を全身全霊で受け止めたが、今の彼の器に於いて耐え難い衝撃からか、ゴポゴポッ…と大量に血液を吐き出して仕舞った。
「‥‥挙句は、現実から目を背け、紛い者に成り下がった只の負け犬が。
所詮口だけか‥‥やはり貴様は剣など疎か盾以前に‥‥誰も護れなどしない‥‥!」
敢えての死装束(浅葱)なら貴様にお似合いか、と続けた風間は、チャキッ‥‥と己の刀を抜きながら、己の持つ紅蓮を忌々しい者を映す様に怒りを含み再び燃え上がらせ、目の前の現実に項垂れる沖田の喉付近に刃を翳し見下しながら降伏を問えば、逃れられぬ現実と比例する如く血反吐垂らす沖田は、地這いつくばった状態から己を捉える紅蓮を定め首筋寄りに向けられた刃に対し、ブチブチブチッ…!と片方の掌を素手で握り血を痛々しくも溢れさせ、言葉は不必要な威圧的を放って魅せた。
「‥‥不愉快だな。何の真似だ?」
人間でも無い鬼でも無い紛い物な上に病に侵食され醜い生命だとしても、何時でも己を一番に探し見つける親愛なる御方の居場所を、今度は己がと懸命に探しやっと見つけ手を伸ばしたと思えば、此の後での更なる運命に、叩き壊されたのは紛れもない事実。
唯、更に堅い決意を括い、新たなる己に出会えた事は、此の運命に感謝しなくては成らないのかも知れない。
【大切な者を護る勇猛な剣、真の強き者】
羅刹に陥った己の身体に、清き親愛なる妖鬼を自身の左胸に焼き混ぜ、近藤率いる浅葱の羽織を背負い己の抱く強き剣の生き様、他人からは底辺の如く無様だと嘲笑われようが、自身の身体が自身の命令に従え動く最期迄、誠実とは程遠い激情な歴史を懸命に這い奮いたい。
此れが、一番隊組長の【誠】の旗、沖田総司と云う者が馳せる信念且つ忠誠、強がる者から強き者へと変幻させ後世の踏台に成り下がった妖鬼の罪深き代償
「強がりの者から、強き者へと変幻する」
新選組の猛者の剣と轟く為に、親愛なる御方の誠の意思を継ぐ盾に成る為にーー!!
ギリギリ‥‥ッと己の首根っこ掴む天を、己の血塗れの腕で意思を決して祓えば、風間の刀を握り締める掌の血液の量を合図に、先程まで喪い欠けていた翡翠に一筋の誓がガッと宿ると、沖田の其の様子を見た風間は、口元を三日月に描いた。
「ふっ‥‥故にどんな形であろうとも貴様の下品な血で俺の刀を穢すとは…そして負け犬如きに刀を向けた己自身と滑稽な貴様に、忌々しく反吐が出る。」
直ちに表情を変え三日月を引っ込ませたと思えば、冷酷な言葉を放ち嘲笑いながら見下したうえ、膝をつき座り込む沖田の肩を思い切りガッーー!!と蹴り飛ばし、其の儘、沖田を地にザザザッ…!と肩から地面へ擦り付けた風間は、舌打ちを合図に紅蓮の威厳を滾らせ、小さく唸る沖田に見透かす様に吐き捨てる。
「貴様如きが、嵩取るな。
地這い擦り廻って血反吐垂らし、地獄の底辺から這い上がって来い。
浅葱の山形を死装束に朽ち堕とすか‥‥将又、日本歴史を轟かす蛇の鱗とするか…
何方の運命に転ぶか、見物だな‥‥」
花弁の色彩共々移り変え意味合いをも変幻させる紫陽花は、此の戦場に咲く風信子の裏語を雨水でそっと暴き、大量に啜った血液を洗い流せば、隠蔽された花札を開花させた。
(悲しみを超えた愛) 「‥‥此れは、俺が預かろう」
異論など無く当然かの如く、血泥錆び果てた鎖をジャラッ‥‥と辛うじて鳴らすが、最早これまでである連結鍵と、罪と罰を報いる雷光を亀裂に刻んだ印籠を掴み、自身の着物の内に収めようとする風間に、今迄のやり取りを静かに見守っていた井吹は、一瞬にして鋭い目付きへと変え瞬時に動けば「ちょっと待ってくれ。」と勢い良く放ち、風間の腕をガッ‥‥!と力強く掴んだ。
「‥‥っ!?何だ、貴様は…!」
人間風情が此の俺に触れるとは‥‥!と憤怒の紅蓮を燃やしながら井吹に掴まれた腕を払い、思いきり退けては刀へと手を持っていこうとする風間に対し、井吹は決して怯むことなく寧ろ更にギリギリ‥‥ッと風間の腕を掴めば「‥‥印籠は返してくれ。」と一言、重圧に放つ。
「…井吹君っ…何言ってるの?
…大体、何で勝手に持ち去ろうとしてるのさ…なまえさんの連結鍵も返せ…!」
黎明の頃の逃げ怯えながら僅な灯りを懸命に費やす面影は無く、自身の使命を左に抱いて瞬の時代を掻い潜る鼈甲の赫きは、既に新選組に並ぶ瞳の強さであり、体力も残らない沖田が異議を発する前で、井吹は意外な言葉を投げ掛けたのだ。
「‥‥あんたと沖田のやり取り、後は俺の野生の勘で、あんたに連結鍵は渡しても問題無いと思った。‥‥ただ、印籠だけは渡せない。」
純血の鬼を目の当たりにしている筈の人間如きの揺るぎない瞳に、風間の眉間の皺は多少なりとも優しく溶け、尊大な彼にしては珍しく理由を問えば、井吹はスッ‥‥と視線を落とし、印籠の底の仕掛けから少しはみ出ている手紙の様な物に「鈴」と云う字が書かれているのを眺め、井吹の脳裏には、可愛い風車と小さな鈴の音色が淡く意図しく浮かび上がった。
情景に思い当たる節が連結するのならば尚更だ、と更に力強い瞳を風間の紅蓮へ戻し焦点を合わせれば「其の印籠は、元々俺がなまえに預けた御守りだからな。‥‥なまえ以外の他の者に預けるつもりなんてない。」と放てば、無論、風間も、なまえが大切そうに腰に下げ(菓子入れにしていたが)印籠だと知って居たからこそ、初対面であり何者だかも解らない者に対して疑いの念や譲りたくない気持ちもあり、不愉快に舌打ちをし「‥‥貴様、知らぬ顔だが‥‥偽りは無いな?」と煽り、井吹の鼈甲の瞳を紅蓮で焼溶かす如く、鋭く強く威嚇した。
相手は人間?格下?
自然の摂理に基づき、なまえの物を奪い合っている現実に於いて、愚問であって一切関係無い。
譲れないのは、鬼も人間も同じ事だ。
(‥‥沖田と共に行動しているとなれば此の者も新選組か‥‥しかし知らぬ顔だが‥‥何者だ?)
風間は威圧を解くこと無く井吹を何者だか探るが、井吹の鼈甲は鬼の威嚇から決して恐怖で溶け割れる所か、怯むこと無く罅割れる事無く真実を含む純粋を保ちつつ、二言と濁りの皆無を嫌という程証明し知らしめれば、ほう‥‥と口端を上げた風間は「‥‥人間にしては、なかなかやるな」と認めては、印籠だけを井吹の前へ差し出した。
「嘘偽りの瞳、その場逃れの心、‥‥幾つもの人間の戯言を見てきた故、ある程度見抜く。
なまえが貴様を想ってからか、何故此の印籠に、貴様の瞳に似た鼈甲飴やらを入れていたのかと、僅かに理解した気がする。」
印籠から、焼け溶けた鼈甲飴の滓と僅かに混じる甘ったるい残り香が溢れ落ちれば、井吹は「‥‥俺が疑問に思ってたなまえの印籠の使い方を、まさか初対面のあんたに教えて貰うなんてな‥‥」と小さく苦笑いを落とし、風間に御礼と次いでに己が何者なのかを明かす。
「‥‥生きる事から逃げ迷う俺を殺したのが、なまえだった。」
井吹の鼈甲が静かに幕引きの頃合だと合図を送れば、風間は時の流れと共に一連の流れを感じた後、連結鍵の鎖を鳴らす錆びた音だけが響く無言を奏でなから、其の場を去っていった。
「…今回の件に促され、アイツも自身の何かに腹括ったんだな。
勿論、其れが何に対してのケジメなのか俺には解らないが、置かれる自身の立ち位置の定め、時代の狭間に揺れる鬼の宿命の決着をーーそんな感覚を憶えた。」
沖田が井吹に対して「…井吹君、何勝手な事…!」と言葉を発したが井吹からの意味深な言葉に遮られ、発言を邪魔された沖田はムッとしながら「…何でそんな事が君に解るの?信憑性も無いよね。大体、連結鍵を渡した理由だって…!」と強く突っ掛かる様に返せば、井吹は「確かに、沖田の言う通り信憑性は無いかも知れないな。…勝手な事して、すまない。言い訳に聞こえるが…俺の今の職業は、言葉を発しない食物を相手に種から心身込めて育ててる。奴らが立派に育たなきゃ俺は飯食っていけない分、絶対に奴らの気持ちを心身で感じ取らなきゃいけない。…その所為もあってか、言葉無くとも雰囲気や鼓動で、何となく解るんだ。」と静かに零せば、沖田は自身の翡翠を僅かに脱力させ、代わりに僅かに優しく灯らせた。
「…井吹君、すっかり忘れてる様だから思い出させてあげるけど…君はあの時、なまえさんに殺されてとっくにお陀仏の設定なんだけど?」
「…っ!?…お、おう…」
「全く、のうのうと農家生活なんて良い御身分だよねー?
それに折角、なまえさんが助けてくれた命なのに、自分の恩返しは~とかカッコつけちゃった挙句、此んな場所まで付いてきちゃって…本当に君は馬鹿だよね。単細胞の首突っ込みたがり者。」
たっぷりと井吹に向かって嫌味を零した後、沖田は、目の前の戦慄を奏でた激戦場を、己の体幹に酸素と選ばれた五感覚で再度、又しても強く感じ取りながら、自身の持つ翡翠から、一筋の涙をツゥッーー…と頬に、不覚、深く、痛く、居たく、刻む。
ーー…ガリッーー!!
頬を刻んだ生暖かい痛みに、なまえに対する今も変わる事の無い絶対服従に…沖田なりの敬礼の表意なのであろうか、地に撒かれた焦げ臭い金平糖と鼈甲飴の滓、其れに彼の千切れた左腕だった残灰を賭け、口に含んで噛み砕いた後、苦くて甘い忠誠を舌舐めずり、一途で一心な翡翠に誓約する。
「なまえさん、僕ねーー」
「ーーその後に俺らが建物の中に入った時には、近藤さんの姿は既に無かったんだ。」
井吹は己の鼈甲に焼き写した情景を、ありのまま情報伝達の言語に変換させ、合流した土方達に事実を伝えれば「ーー井吹、総司、御苦労だったな…」と、総てを司る帝王の紫は鬼火の如くゆらゆらと揺れれば、羅刹の味方となる深い夜更けに厄を脅かす強き本物の鬼と成りて、確実に其の場の空気を一新に変え、物事の重大さを示した。
黎明から奇譚の今迄、旗を掲げては戦場を駆け抜けてきた人生は、不思議な噺と逸脱し薄桜を語るのは余り似つかわしく無く、己の掲げる【誠】と生死の覚悟に耐え抜き、自身の定義に基づく正義に撤するしか術は無い。
“浅葱の山形を死装束に朽ち堕とすか、日本歴史を轟かす蛇の鱗とするかーー”
煙草を蝋燭に垂らし、赫焉
歴史の座標軸は、新選組に意義を申し立てる。
連続三角紋
(飴水が纏う残灰)(龍の3枚の鱗)
ーーー
過去を棄てるのは、
原罪(現在)を償う所為、
「蛇に唆され、林檎を囓った。」