指切りげんまん
n a m e
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「‥どうして‥っ‥!‥っ‥どうしてですか!?貴方が側に居ておきながら‥何なんですか此のザマは!?‥返答しだいでは貴方を斬り殺す‥っ‥!!」
大きな声を張り上げながら土方に掴みかかろうとする沖田の翡翠から溢れ零れる大きな涙石は、残酷にも純粋に澄んで折、沖田の真っ白な頬をグシャグシャに穢せば、昂る感情に負けそうに成る沖田を掴み抑えながらも、其の純粋な情景を目の当たりにする島田は、胸を酷く痛ませて仕舞った。
此処は、沖田の怒声で静まり返った在る森林の在る一角。
つい先程とも言っても良いで有ろう、土方率いる新選組の組と沖田と序でに井吹のコンビが久しい再会にしては息荒く、どうも穏やかでは無い合流を交わしたばかりである夜更けの時間帯。
「‥沖田さんっ、落ち着いてお話を聞いてください!
‥土方さんは‥本当は自分を盾にして残ろうと‥っ‥!‥私もお側についており、始終見て参りましたので解ります!」
「‥耳障りだから君は黙ってて!
僕は其処のスかした鬼副長サマに聞いてるんだ‥。ねぇ、さっきから黙ってるけど‥何も答えないまま僕に殺されて死にたいの?」
重なる鎖、辛なる連鎖
千鶴の土方に対して庇いの言葉に冴えも苛立ちを覚え、其の彼女にも八つ当たり散らし、己の腰の刀の柄に手を掛け土方に脅しに掛かる沖田の少し後ろで、ある男が腰から下げていた印籠の本来の主である井吹は、風穴が空いた様に割れ其の傷口からは落雷の形をした亀裂が走り無惨にも破損している其の印籠を、無意識に震えては右手で強く握りしめていた。
此の印籠は普段なら特別な使い方をされ可愛らしいお菓子を収めていた筈なのだが、悲しい事にその役割は見るからに果たせそうも無く‥序でに破損した底の特殊なカラクリ部分からは、誰かが意図的に仕込んだのであろう小さな手紙の様な物がちらつく様に漏れ見えては、唯唯、悲しみに沈み駄々を捏ねて泣いていた。
‥折角、数年振りに本来の主の手へと戻って来たと云うのに。
「‥聞こえないの‥?
‥っ‥!黙ってないで、何か答えろって言ってんだよ!」
更に周りから沖田へ制止の声が掛かっている中で、鎮まぬ感情を現らにし土方へ牙を向けるのを止めない処か、沖田の怒りの火はバチバチと飛び散れば、己の真横に立つ森林樹へ八つ当たりするかの様にゴッ‥!と鈍い音を立て横殴りしながら土方へと言葉を散らすのだが、森林樹に八つ当たりした代価は対した物で、彼のその手からは痛々しい垢が滲む。
「‥俺は、生半可な荷物を託され背負わせられて此処まで来た訳じゃねェ‥!
男と男の約束を交わして此処にいんだよ‥!
総司‥てめェもそうだろう?」
沖田の力任せな問い掛けから僅かな沈黙の後、先程まで無言を保っていた彼の薄っすらとしか確認出来なかった強き意思を宿らせた鋭く哀しい紫は、スッ‥とゆっくり輝きを灯らせれば、新選組の【誠】の旗と儚き桜の花弁が背景を司り、土方の威厳を最大限に盛り立てる背景の裏の現実、哀しき事か喜ばしい事か‥土方の紫は、幾多の修羅場を這い蹲っては潜り抜け生きてきた者の眼孔で在り、此んな眼を出来る人間など世に数少ないのでは無いだろうか?
皮肉にも哀しき男の宿命ーー
「‥は‥?‥っ‥ふざけろ‥冗談じゃない‥!やめろ‥いやだ‥嫌だ嫌だ嫌だ‥!!
‥だって‥っ‥僕の目の前で‥あんな‥!」
僕の目の前で、との発言からしてフラッシュバックに襲われたのか、もう言葉に成らないとでも云うかの如く膝からガタガタと崩れ落ち、苦悶な表情をする新選組の剣神に、普段の彼からは絶対に想像しがたい彼を目の当たりにした周りの人物は無論、唖然して仕舞った。
奈落の底で翡翠は翠を溶解の如く、純粋な眼液をボタボタと溢れ堕す。
此の儘、器諸共無くなって生花良いのにーー‥
表向きでは生きる責任を説いながらも、所詮、裏向きでは纏わりつく綺麗事で塗り固めた義務から逃げたくなる。
何か間違っているか?理由が無いのに懸命に追い求めるのは馬鹿を見るだけだろう?
「‥土方さん、頼むよ。
どうして現状に至るのか‥俺や沖田に解るように最初から説明してくれないか?
‥そしたら、さっき俺達が見てきた現状、全て話すからさ‥」
周りの雰囲気を無理矢理にでも吐き捨てるかの様に言葉を放った井吹は、ある男が綺麗だと言ってくれた己の目の色彩を殺しながら右手に印籠をギリギリ‥ッと握り締め、未だ新選組から印籠を隠せば、新選組が知る井吹から想像出来ない様な異様で恐怖心に襲われる様な雰囲気を醸し出し、一芯の息吹を吹けば、土方を始め彼を知る人物は、つい身構えて仕舞いながら息を飲む。
‥どうやら異様な雰囲気を醸し出し、あの新選組を不意であろうが瞬であろうが怯ませる眼色を映せて仕舞った彼も土方同様、地獄絵図を見てきたのかもしれない。
唯一人、千鶴だけは、井吹とはつい先程に会い今日が初対面なので、彼は一体‥?と心の中で思い不思議に想いながら、井吹の深い言葉を一つ一つ拾うのであった。
「ーー‥‥何処から話そうか。」
ーーー
ーー
ー
「すぐ逃げる準備をしてくれ。
‥此処は、敵に囲まれてる」
土方の急速な此の指示にてトリガーがガチャリと弾かれたのを合図とし、彼等の運命の桜樹木の枝別れが覆いに生じる事と成るーー
(薄桜の歴史に鋏、
安定の真っ直ぐなど在り得なく、だんだら山形の冷たい鋭利角)
「既に敵兵は二、三百は居ます‥!」
未だ奴らに気付かれて居ない裏口から此処へ戻って来たと、後に島田が荒い息を吐き出しながら続ければ、土方やなまえは舌打ちをしながら忌々しそうに窓の外を見やり現状把握の整理をすると、無論、敵兵から囲まれてる現状の今からでは斎藤らを呼び戻す時間など全く無く、土方は紫を鋭くさせては「此処は俺が何とかするしかない‥!」と吐き出せば、其処に居合わせる皆は唖然としつつも土方の体調や敵兵の数を考え、其れはやはり無茶だろうと周りからは制止の声が上がるが、土方は、其れでもやってみないと解らないと啖呵を斬り、意を決し刀をギリッ‥と握る。
「‥手足は代わりがきくけど、頭が撃たれちゃどーすんの?
‥なーんて、誰かの言葉から拝借、」
心配すんな、俺が残るよ、と荒ぶる周りの連中を優しく宥める様にゆっくりと発言した筈なのだが、しかし更に情景を氷点下の如く凍らせたのは先程まで黙っていたなまえであり、立派に創り上げられた雪国の氷柱が其の場に居た連中の心臓に深く突き刺さる様な衝撃を産み出した。
「‥っ‥いやっ‥!嫌ですっ!!だって‥それに‥なまえさんだって‥体調が‥!!
‥それに私‥っ‥放れたくない‥ずっと貴方のお側に‥っ‥ひっく‥」
聞き捨てならない親愛なる彼からの発言に、如何なる場合も勝って仕舞う恋する乙女心は、長い此の先の将来より大切な彼と居る瞬の今を選んで仕舞う。
千鶴の其の大きな瞳からは大粒の涙を幾つも幾つも溢れさせ、愛おしく存在意義であるなまえの胸元へと身を沈めると、絶対に放すもんかと力強くなまえを小さな腕で抱き締めれば、なまえは、其んな必死な彼女を可愛く想ったのか‥小さく微笑む様な表情をしながら、何時ものように彼女の後頭部を優しくぽんぽんっ、と撫でながら其の儘、ぎゅっ‥と抱き締めると「‥俺の大切な休憩場、今度は新選組‥あー、土方さんに、か?‥いつまでも俺が占領できねーもん、‥だから‥頼んだぜ、千鶴、」と囁いてやれば、無言のままなまえの顔を見上げた千鶴の瞳からは、更に涙がボロボロボロ‥と溢れ零し、何て言って言いか解らない代わりに嗚咽を漏らすしか無かった。
「‥ひっく‥ふぇぇ‥」
それでも、ねぇ、どうして?
どうして‥こんなにもこんなにも愛おしいのにーー
なまえさんのお側に居られるだけで幸せで‥私の想いは叶わなくても片想いの儘で彼を想っていられるだけで良いのに、それなのに私から彼を引き離そうとするなんて‥どうして神様は意地悪するの?
(贅沢なんて一切言ってないじゃない‥!)
「‥っ‥!てめェ‥!馬鹿獣!何ほざいて‥ッ‥!」
なまえの放つ誰かから拝借したという先程の台詞を、其の該当する人物から土方に直々目の前で発せられた過去の場面を、壊れ欠けた呼吸音や血生臭い臭いまで細かく鮮明にフラッシュバックさせて仕舞った土方は、もがき苦しむ程に辛く行き場の無い湧き上がる感情を、どうしようもない怒りで露わにする方法しか術は無かった。
(『貴方はーー我々の頭でしょう‥?』)
‥該当する彼の、己を庇って亡くなる直前の最期の其の言葉と供に彼特有の力強く揺るぎ無い眼が、土方の脳裏や心裏から一切離れる事無く、二度と忘れられない事柄の一つであり、其の悲惨な深い罪からは逃れる事は出来ない。
「‥っ、どいつもこいつも‥!黙ってりゃァ、とんでもなく重てェ荷物‥背負わせやがって‥!!」
土方は、亡くなって逝った大切な桜樹木の蕾を一つ一つ思い出して行きながら拳を握り締めれば、爪が食い込む掌からは羅刹の垢が零れ出させ、己に問い其して思い返して仕舞う。
もうこれ以上、己の非力の所為で大切な誰かを犠牲にするのは懲り懲りで在って。
「‥揉めてる時間なんてねーべ、黙って近藤さん連れて逃げるのが、あんたの宿命なんだよ、」
慌てる島田に泣きじゃくる千鶴、なまえからズッシリと重たい言葉を放たれ悔しさに震える土方を背に、とっとといけ、と吐き捨てる様に踵を返し、印籠から飴玉を一つ、コロン‥と取り出し口に含めば彼の準備は整った筈だったのだが‥一連の流れを掴んだ筈のなまえの肩をぽんっ、と叩きながらなまえをも制止する近藤の次の言の葉に、なまえは口に含んだばかりであった飴玉を噛み潰す事と成り、舌先で破片をザラザラと触れては傷付き、寂を味わう事と成る。
「‥あ、?」
「‥ざけんな‥!」
恐らく此れが最初で最後であろう‥なまえにとって親愛なる近藤に対し、信じ固く汚ない言葉を吐き出して仕舞った劇場に。
(恩赦の眼差し)(生命の繋頼り)
然し、其んななまえを気にする事も無く寧ろ我が子をあやす様に微笑む近藤は、なまえの背中を撫でてやりながら淡々と「もちろん、新選組の近藤だとは名乗らんよ‥偽名を使って別人に成りすまし向こうの本陣へ出向かう。その間にお前たちが逃げる時間くらいは稼げる筈だ。」と言葉を力強く放てば、土方を始めとする者達は無論、先程まで勇ましく発言していたなまえも硬直してしまった。
「‥笑えねーんだけど‥、」
ドロドロの硬直の中、感情のみ激しく揺さ振られるなまえの紅月は、酷く動揺し妖鬼の色へと混濁してゆく。
「自分で何言ってるのか解ってンのか‥!?そんな甘い連中じゃないって事は、あんたも散々見てきたじゃねェか!
‥奴らが俺らを恨んでねェ筈がねェんだ‥頼むから‥あんたが其んな事‥言わねェでくれよ‥!」
近藤を慕うのはなまえだけでは無く‥彼と同じく親愛なる近藤から思いもよらない事を放たれ、酷く苦しそうに反論する土方を突っぱね、己は身分を貰ってるから簡単に殺されたりはしないと其れでも続けて言う近藤に、更に叫ぶ様に言葉を発し意地でも静止を掛けようと近藤の両肩を掴む土方の様子は、これ以上、俺を壊さないで、と‥普段は新選組から気迫が凄まじいと恐れられ、鬼副長と言われ様々なモノを背負う土方とは思えない様な、多寡が人間如きに必死に縋っては懸命に助けを求めて居る様に映えた。
然し、近藤は、今にも割れて仕舞いそうな土方の訴えなぞ悪しらうかの様な一種の冷徹ささえ感じる瞳で見据えた後、冷酷に「お前が何を言っても無駄だ。‥もう俺が決めた事なんだ。」と放てば土方はガクガク‥と震え、何時もの冷静沈着な土方が激情家の近藤を嗜めると云った二人の姿は、もう何処にも残って居らず、儚く綺麗に消え失せて終っていた。
「ふざけんじゃねェッ‥!!
大将のあんたがいなくて‥何が新選組だァ!?
‥俺はっ‥あんたを引きずってでも連れて行くからな!!」
今更逃げ出すなんて絶対に許さない。あんたの身体はもう、あんた一人のものじゃない、と今でも崩れ泣きそうな紫に涙を讃えながら近藤の肩を勢い良く掴み、今後は二度と御目にかかる事は無いであろう酷く動揺する今の土方に対し、残念ながら決して負けること無く決して屈する事無くーー近藤は土方の剣幕を寧ろ凌駕する勢いで「‥っ!‥ならばこれは命令だ!お前は率いて市川の隊と合流せよ!」と土方に命令を下し、喝を含み投げ放ったのだった。
「‥俺に命令するのか‥?あんたが‥っ‥!なに‥似合わねェ真似してんだよ‥ッ‥!」
世の刻が近藤の今の喝で強制停止が生じたのかと錯覚する程の近藤の剣幕‥初めての命令にーー土方は大切な何かを喪い、声に成らない声は涙を大量に含ませ多いに泣き、故に堂々と顔表情では泣けない土方の代わりと言っては何だが‥なまえの混濁した瞳は、様々な深い想いを何層にも重ね持った一筋の涙を、ツゥッーー‥と細い斬傷を白い頬に描くような残痕を鋭利に刻む。
「ーー局長の命令は、絶対なんだろう。
隊士達には切腹や羅刹化を命じておいて、自分たちは特別扱いか?‥それが、俺達の望んだ武士の姿か‥?」
新選組を守る為ーー武士の生き方を示す為に隊規を徹底させたのは他の誰でもない土方であったからこそ、此の近藤の大砲の鉛の様な言葉に酷く心臓に撃ち殺されると同時に、己の立場をグンッと現実に引き戻されては、己は結局此うして近藤に生かされ組織を繋がせる事に、故に物凄く重要なモノを託されるのであった。
「副長‥みょうじさん。
私、先にいって他の者と準備を‥」
「‥っ、島田、待て‥俺も行く。
千鶴、なまえ‥お前たちは此処で待ってろ‥っ‥すぐに呼びに迎えに来るからよ‥」
吹っ切る様に前だけを見て進んで行く土方の背に、近藤は小さな声で「トシ‥頼んだぞ‥」と伝えては嬉しそうに微笑みながら、未だ己の側で頬に涙の切傷を浮かべるなまえの頬をなぞってやれば、それは物凄く愛おしそうに「‥全くおまえは‥だが、本当に俺にとって‥‥なまえ‥体調に気をつけるんだぞ?」と声を掛け、最後に労わりをそっと落とした。
近藤には全て解っていたのだろうーー近藤は千鶴とも最後の別れの挨拶をし、土方の事を託せば僅かながらの資金を握らせ、土方が呼びに現れ千鶴が先にと土方に連れられ、僅かながら近藤と其の場に二人きりになったなまえは、ではいざ別れと言う其の時にーー‥
「‥俺、局長命令違反で切腹でいーよ、介錯は土方さんに頼みてーけど。
‥だから最後まであんたの側に居させて?‥父さん、」
必死に厳格と威厳を貫いていた近藤は、なまえから己の事を父親だと呼ばれ温かく包み護られれば、今まで幾つもの我慢と疲れ責任と厳格と‥数え切れない程の、楽に成りたい事柄から一気に開放されたかの様に膝からガタガタッ‥と崩れ落ち、新選組の世代交代を終えた今こそーー誰にも魅せて来なかった大粒の涙石をゴロゴロと産み出し溢れさせれば、なまえを抱き締めながら「‥っ‥!ぅぅぅっ‥!!」と泣きじゃくるしか無かったのであった。
「‥お前まで‥っ‥なまえ‥!!」
生きる覚悟と死ぬ覚悟、賭けた決断と決意をなまえから聞かされ、故になまえの総てを知る土方の持つ強き優しい紫は、もうこれ以上は限界だ、と溶けそうな程に視界共々大きく揺らぐが、それでもなまえは土方に全てを託し賭けては供に行かず、局長命令違反として切腹の術を選び死で償う事を臨めば、其れでも世代交代を終えた近藤の側を選ぶのだった。
「俺の最期の我儘、恩返し、
‥大丈夫、前にも言われた通り、あんたの言う様に俺は【猛毒】じゃ死なない。
俺はあんたに殺されて死ぬつもりだから、」
今までありがとう、土方さん、となまえは力強く儚い紅月を輝かせ利き腕の左手をスッ‥と土方の顔の前に出すと、にっ、と優しい表情をしながら「武士として生きたいけど‥やっぱり俺、約束するならこっちが好き。‥ね、土方さん‥俺と指切りしよーぜ?‥新選組の事、頼む‥、ごめんな?あんたばっかりに重てぇもん背負わしちまって、」と力強く放てば、土方も力強い紫に涙を浮かべては黙って己の左手を差し出し「‥俺ァ、右利きなんだよ、馬鹿獣。‥てめェ、首洗って待ってろよ‥俺が直々に介錯して綺麗に殺してやるから‥ッ‥!!」っと涙を含む様な震える声でガタガタ‥と放ち、其の想く重たいモノをなまえから託されつつ、二人の小指が互いにキュッ、と力強く何にも変える事の出来ない絆を結び、【誠】の意図と今迄創り上げてきた信頼と誠実‥総てを命と供に指切りに賭ければ、二人の千切れる事の無い楔、永久を此処に誓う。
季節外れの桜が舞い散り、
二匹の鬼の名残り酒の汲み併せ
日本の風流ーー侍魂、此処に
「上等、」
にーっ、と悪戯に笑う様な表情をするなまえに、土方は指切りした手で其の儘拳を造り、コツン、となまえの左胸に軽く落とせば「‥絶対に死ぬんじゃねェぞ、なまえ」と一言放った直後、グッ勢い良くなまえから背を向け、島田らを連れ其の場を離れるのであった。
後ろはもう二度と振り還らないーー
男と男の生命を賭けた誓いに、誰も邪魔する権利は無く、決して許しはしない。
計り知れぬ寡黙に、獄である極に‥男はたった二足の両脚で宿命を背負い、浮世歴史を相手に人生を駆けて行く。
「なまえさん!!」
舌を噛み切る想いで戦場を舞い踊る浅葱に、薄桜の神風はどう風吹き歴史を馳せ、其して在る満月の宵、大きな意味を懐き新選組に降った千羽鶴は、一体、何を願い縁を及ぼすのか?
生命を賭け戦う情景に、鶴の眼からは桃色の涙石がボロボロ‥と溢れ、唯、唯、
【淡い恋など戦場の渦中では、最も邪魔故に吐き捨てる嶽】
多寡が、鬼の面を被る紛い物であった筈の紫の、其して孰れ必ず本物の‥強き鬼の化身と成った彼が揮う刀で、綺麗に殺され完膚なきまで違反を償う其の時迄、紅月は欠け喪い、野垂れ死ぬわけにはいかないのかも知れない。
指切りげんまん
(生死を賭ける)(譲れない覚悟)
ーーー
戦場に誇る桜、浅葱の花形
土方が総てを背負った、新選組
大きな声を張り上げながら土方に掴みかかろうとする沖田の翡翠から溢れ零れる大きな涙石は、残酷にも純粋に澄んで折、沖田の真っ白な頬をグシャグシャに穢せば、昂る感情に負けそうに成る沖田を掴み抑えながらも、其の純粋な情景を目の当たりにする島田は、胸を酷く痛ませて仕舞った。
此処は、沖田の怒声で静まり返った在る森林の在る一角。
つい先程とも言っても良いで有ろう、土方率いる新選組の組と沖田と序でに井吹のコンビが久しい再会にしては息荒く、どうも穏やかでは無い合流を交わしたばかりである夜更けの時間帯。
「‥沖田さんっ、落ち着いてお話を聞いてください!
‥土方さんは‥本当は自分を盾にして残ろうと‥っ‥!‥私もお側についており、始終見て参りましたので解ります!」
「‥耳障りだから君は黙ってて!
僕は其処のスかした鬼副長サマに聞いてるんだ‥。ねぇ、さっきから黙ってるけど‥何も答えないまま僕に殺されて死にたいの?」
重なる鎖、辛なる連鎖
千鶴の土方に対して庇いの言葉に冴えも苛立ちを覚え、其の彼女にも八つ当たり散らし、己の腰の刀の柄に手を掛け土方に脅しに掛かる沖田の少し後ろで、ある男が腰から下げていた印籠の本来の主である井吹は、風穴が空いた様に割れ其の傷口からは落雷の形をした亀裂が走り無惨にも破損している其の印籠を、無意識に震えては右手で強く握りしめていた。
此の印籠は普段なら特別な使い方をされ可愛らしいお菓子を収めていた筈なのだが、悲しい事にその役割は見るからに果たせそうも無く‥序でに破損した底の特殊なカラクリ部分からは、誰かが意図的に仕込んだのであろう小さな手紙の様な物がちらつく様に漏れ見えては、唯唯、悲しみに沈み駄々を捏ねて泣いていた。
‥折角、数年振りに本来の主の手へと戻って来たと云うのに。
「‥聞こえないの‥?
‥っ‥!黙ってないで、何か答えろって言ってんだよ!」
更に周りから沖田へ制止の声が掛かっている中で、鎮まぬ感情を現らにし土方へ牙を向けるのを止めない処か、沖田の怒りの火はバチバチと飛び散れば、己の真横に立つ森林樹へ八つ当たりするかの様にゴッ‥!と鈍い音を立て横殴りしながら土方へと言葉を散らすのだが、森林樹に八つ当たりした代価は対した物で、彼のその手からは痛々しい垢が滲む。
「‥俺は、生半可な荷物を託され背負わせられて此処まで来た訳じゃねェ‥!
男と男の約束を交わして此処にいんだよ‥!
総司‥てめェもそうだろう?」
沖田の力任せな問い掛けから僅かな沈黙の後、先程まで無言を保っていた彼の薄っすらとしか確認出来なかった強き意思を宿らせた鋭く哀しい紫は、スッ‥とゆっくり輝きを灯らせれば、新選組の【誠】の旗と儚き桜の花弁が背景を司り、土方の威厳を最大限に盛り立てる背景の裏の現実、哀しき事か喜ばしい事か‥土方の紫は、幾多の修羅場を這い蹲っては潜り抜け生きてきた者の眼孔で在り、此んな眼を出来る人間など世に数少ないのでは無いだろうか?
皮肉にも哀しき男の宿命ーー
「‥は‥?‥っ‥ふざけろ‥冗談じゃない‥!やめろ‥いやだ‥嫌だ嫌だ嫌だ‥!!
‥だって‥っ‥僕の目の前で‥あんな‥!」
僕の目の前で、との発言からしてフラッシュバックに襲われたのか、もう言葉に成らないとでも云うかの如く膝からガタガタと崩れ落ち、苦悶な表情をする新選組の剣神に、普段の彼からは絶対に想像しがたい彼を目の当たりにした周りの人物は無論、唖然して仕舞った。
奈落の底で翡翠は翠を溶解の如く、純粋な眼液をボタボタと溢れ堕す。
此の儘、器諸共無くなって生花良いのにーー‥
表向きでは生きる責任を説いながらも、所詮、裏向きでは纏わりつく綺麗事で塗り固めた義務から逃げたくなる。
何か間違っているか?理由が無いのに懸命に追い求めるのは馬鹿を見るだけだろう?
「‥土方さん、頼むよ。
どうして現状に至るのか‥俺や沖田に解るように最初から説明してくれないか?
‥そしたら、さっき俺達が見てきた現状、全て話すからさ‥」
周りの雰囲気を無理矢理にでも吐き捨てるかの様に言葉を放った井吹は、ある男が綺麗だと言ってくれた己の目の色彩を殺しながら右手に印籠をギリギリ‥ッと握り締め、未だ新選組から印籠を隠せば、新選組が知る井吹から想像出来ない様な異様で恐怖心に襲われる様な雰囲気を醸し出し、一芯の息吹を吹けば、土方を始め彼を知る人物は、つい身構えて仕舞いながら息を飲む。
‥どうやら異様な雰囲気を醸し出し、あの新選組を不意であろうが瞬であろうが怯ませる眼色を映せて仕舞った彼も土方同様、地獄絵図を見てきたのかもしれない。
唯一人、千鶴だけは、井吹とはつい先程に会い今日が初対面なので、彼は一体‥?と心の中で思い不思議に想いながら、井吹の深い言葉を一つ一つ拾うのであった。
「ーー‥‥何処から話そうか。」
ーーー
ーー
ー
「すぐ逃げる準備をしてくれ。
‥此処は、敵に囲まれてる」
土方の急速な此の指示にてトリガーがガチャリと弾かれたのを合図とし、彼等の運命の桜樹木の枝別れが覆いに生じる事と成るーー
(薄桜の歴史に鋏、
安定の真っ直ぐなど在り得なく、だんだら山形の冷たい鋭利角)
「既に敵兵は二、三百は居ます‥!」
未だ奴らに気付かれて居ない裏口から此処へ戻って来たと、後に島田が荒い息を吐き出しながら続ければ、土方やなまえは舌打ちをしながら忌々しそうに窓の外を見やり現状把握の整理をすると、無論、敵兵から囲まれてる現状の今からでは斎藤らを呼び戻す時間など全く無く、土方は紫を鋭くさせては「此処は俺が何とかするしかない‥!」と吐き出せば、其処に居合わせる皆は唖然としつつも土方の体調や敵兵の数を考え、其れはやはり無茶だろうと周りからは制止の声が上がるが、土方は、其れでもやってみないと解らないと啖呵を斬り、意を決し刀をギリッ‥と握る。
「‥手足は代わりがきくけど、頭が撃たれちゃどーすんの?
‥なーんて、誰かの言葉から拝借、」
心配すんな、俺が残るよ、と荒ぶる周りの連中を優しく宥める様にゆっくりと発言した筈なのだが、しかし更に情景を氷点下の如く凍らせたのは先程まで黙っていたなまえであり、立派に創り上げられた雪国の氷柱が其の場に居た連中の心臓に深く突き刺さる様な衝撃を産み出した。
「‥っ‥いやっ‥!嫌ですっ!!だって‥それに‥なまえさんだって‥体調が‥!!
‥それに私‥っ‥放れたくない‥ずっと貴方のお側に‥っ‥ひっく‥」
聞き捨てならない親愛なる彼からの発言に、如何なる場合も勝って仕舞う恋する乙女心は、長い此の先の将来より大切な彼と居る瞬の今を選んで仕舞う。
千鶴の其の大きな瞳からは大粒の涙を幾つも幾つも溢れさせ、愛おしく存在意義であるなまえの胸元へと身を沈めると、絶対に放すもんかと力強くなまえを小さな腕で抱き締めれば、なまえは、其んな必死な彼女を可愛く想ったのか‥小さく微笑む様な表情をしながら、何時ものように彼女の後頭部を優しくぽんぽんっ、と撫でながら其の儘、ぎゅっ‥と抱き締めると「‥俺の大切な休憩場、今度は新選組‥あー、土方さんに、か?‥いつまでも俺が占領できねーもん、‥だから‥頼んだぜ、千鶴、」と囁いてやれば、無言のままなまえの顔を見上げた千鶴の瞳からは、更に涙がボロボロボロ‥と溢れ零し、何て言って言いか解らない代わりに嗚咽を漏らすしか無かった。
「‥ひっく‥ふぇぇ‥」
それでも、ねぇ、どうして?
どうして‥こんなにもこんなにも愛おしいのにーー
なまえさんのお側に居られるだけで幸せで‥私の想いは叶わなくても片想いの儘で彼を想っていられるだけで良いのに、それなのに私から彼を引き離そうとするなんて‥どうして神様は意地悪するの?
(贅沢なんて一切言ってないじゃない‥!)
「‥っ‥!てめェ‥!馬鹿獣!何ほざいて‥ッ‥!」
なまえの放つ誰かから拝借したという先程の台詞を、其の該当する人物から土方に直々目の前で発せられた過去の場面を、壊れ欠けた呼吸音や血生臭い臭いまで細かく鮮明にフラッシュバックさせて仕舞った土方は、もがき苦しむ程に辛く行き場の無い湧き上がる感情を、どうしようもない怒りで露わにする方法しか術は無かった。
(『貴方はーー我々の頭でしょう‥?』)
‥該当する彼の、己を庇って亡くなる直前の最期の其の言葉と供に彼特有の力強く揺るぎ無い眼が、土方の脳裏や心裏から一切離れる事無く、二度と忘れられない事柄の一つであり、其の悲惨な深い罪からは逃れる事は出来ない。
「‥っ、どいつもこいつも‥!黙ってりゃァ、とんでもなく重てェ荷物‥背負わせやがって‥!!」
土方は、亡くなって逝った大切な桜樹木の蕾を一つ一つ思い出して行きながら拳を握り締めれば、爪が食い込む掌からは羅刹の垢が零れ出させ、己に問い其して思い返して仕舞う。
もうこれ以上、己の非力の所為で大切な誰かを犠牲にするのは懲り懲りで在って。
「‥揉めてる時間なんてねーべ、黙って近藤さん連れて逃げるのが、あんたの宿命なんだよ、」
慌てる島田に泣きじゃくる千鶴、なまえからズッシリと重たい言葉を放たれ悔しさに震える土方を背に、とっとといけ、と吐き捨てる様に踵を返し、印籠から飴玉を一つ、コロン‥と取り出し口に含めば彼の準備は整った筈だったのだが‥一連の流れを掴んだ筈のなまえの肩をぽんっ、と叩きながらなまえをも制止する近藤の次の言の葉に、なまえは口に含んだばかりであった飴玉を噛み潰す事と成り、舌先で破片をザラザラと触れては傷付き、寂を味わう事と成る。
「‥あ、?」
「‥ざけんな‥!」
恐らく此れが最初で最後であろう‥なまえにとって親愛なる近藤に対し、信じ固く汚ない言葉を吐き出して仕舞った劇場に。
(恩赦の眼差し)(生命の繋頼り)
然し、其んななまえを気にする事も無く寧ろ我が子をあやす様に微笑む近藤は、なまえの背中を撫でてやりながら淡々と「もちろん、新選組の近藤だとは名乗らんよ‥偽名を使って別人に成りすまし向こうの本陣へ出向かう。その間にお前たちが逃げる時間くらいは稼げる筈だ。」と言葉を力強く放てば、土方を始めとする者達は無論、先程まで勇ましく発言していたなまえも硬直してしまった。
「‥笑えねーんだけど‥、」
ドロドロの硬直の中、感情のみ激しく揺さ振られるなまえの紅月は、酷く動揺し妖鬼の色へと混濁してゆく。
「自分で何言ってるのか解ってンのか‥!?そんな甘い連中じゃないって事は、あんたも散々見てきたじゃねェか!
‥奴らが俺らを恨んでねェ筈がねェんだ‥頼むから‥あんたが其んな事‥言わねェでくれよ‥!」
近藤を慕うのはなまえだけでは無く‥彼と同じく親愛なる近藤から思いもよらない事を放たれ、酷く苦しそうに反論する土方を突っぱね、己は身分を貰ってるから簡単に殺されたりはしないと其れでも続けて言う近藤に、更に叫ぶ様に言葉を発し意地でも静止を掛けようと近藤の両肩を掴む土方の様子は、これ以上、俺を壊さないで、と‥普段は新選組から気迫が凄まじいと恐れられ、鬼副長と言われ様々なモノを背負う土方とは思えない様な、多寡が人間如きに必死に縋っては懸命に助けを求めて居る様に映えた。
然し、近藤は、今にも割れて仕舞いそうな土方の訴えなぞ悪しらうかの様な一種の冷徹ささえ感じる瞳で見据えた後、冷酷に「お前が何を言っても無駄だ。‥もう俺が決めた事なんだ。」と放てば土方はガクガク‥と震え、何時もの冷静沈着な土方が激情家の近藤を嗜めると云った二人の姿は、もう何処にも残って居らず、儚く綺麗に消え失せて終っていた。
「ふざけんじゃねェッ‥!!
大将のあんたがいなくて‥何が新選組だァ!?
‥俺はっ‥あんたを引きずってでも連れて行くからな!!」
今更逃げ出すなんて絶対に許さない。あんたの身体はもう、あんた一人のものじゃない、と今でも崩れ泣きそうな紫に涙を讃えながら近藤の肩を勢い良く掴み、今後は二度と御目にかかる事は無いであろう酷く動揺する今の土方に対し、残念ながら決して負けること無く決して屈する事無くーー近藤は土方の剣幕を寧ろ凌駕する勢いで「‥っ!‥ならばこれは命令だ!お前は率いて市川の隊と合流せよ!」と土方に命令を下し、喝を含み投げ放ったのだった。
「‥俺に命令するのか‥?あんたが‥っ‥!なに‥似合わねェ真似してんだよ‥ッ‥!」
世の刻が近藤の今の喝で強制停止が生じたのかと錯覚する程の近藤の剣幕‥初めての命令にーー土方は大切な何かを喪い、声に成らない声は涙を大量に含ませ多いに泣き、故に堂々と顔表情では泣けない土方の代わりと言っては何だが‥なまえの混濁した瞳は、様々な深い想いを何層にも重ね持った一筋の涙を、ツゥッーー‥と細い斬傷を白い頬に描くような残痕を鋭利に刻む。
「ーー局長の命令は、絶対なんだろう。
隊士達には切腹や羅刹化を命じておいて、自分たちは特別扱いか?‥それが、俺達の望んだ武士の姿か‥?」
新選組を守る為ーー武士の生き方を示す為に隊規を徹底させたのは他の誰でもない土方であったからこそ、此の近藤の大砲の鉛の様な言葉に酷く心臓に撃ち殺されると同時に、己の立場をグンッと現実に引き戻されては、己は結局此うして近藤に生かされ組織を繋がせる事に、故に物凄く重要なモノを託されるのであった。
「副長‥みょうじさん。
私、先にいって他の者と準備を‥」
「‥っ、島田、待て‥俺も行く。
千鶴、なまえ‥お前たちは此処で待ってろ‥っ‥すぐに呼びに迎えに来るからよ‥」
吹っ切る様に前だけを見て進んで行く土方の背に、近藤は小さな声で「トシ‥頼んだぞ‥」と伝えては嬉しそうに微笑みながら、未だ己の側で頬に涙の切傷を浮かべるなまえの頬をなぞってやれば、それは物凄く愛おしそうに「‥全くおまえは‥だが、本当に俺にとって‥‥なまえ‥体調に気をつけるんだぞ?」と声を掛け、最後に労わりをそっと落とした。
近藤には全て解っていたのだろうーー近藤は千鶴とも最後の別れの挨拶をし、土方の事を託せば僅かながらの資金を握らせ、土方が呼びに現れ千鶴が先にと土方に連れられ、僅かながら近藤と其の場に二人きりになったなまえは、ではいざ別れと言う其の時にーー‥
「‥俺、局長命令違反で切腹でいーよ、介錯は土方さんに頼みてーけど。
‥だから最後まであんたの側に居させて?‥父さん、」
必死に厳格と威厳を貫いていた近藤は、なまえから己の事を父親だと呼ばれ温かく包み護られれば、今まで幾つもの我慢と疲れ責任と厳格と‥数え切れない程の、楽に成りたい事柄から一気に開放されたかの様に膝からガタガタッ‥と崩れ落ち、新選組の世代交代を終えた今こそーー誰にも魅せて来なかった大粒の涙石をゴロゴロと産み出し溢れさせれば、なまえを抱き締めながら「‥っ‥!ぅぅぅっ‥!!」と泣きじゃくるしか無かったのであった。
「‥お前まで‥っ‥なまえ‥!!」
生きる覚悟と死ぬ覚悟、賭けた決断と決意をなまえから聞かされ、故になまえの総てを知る土方の持つ強き優しい紫は、もうこれ以上は限界だ、と溶けそうな程に視界共々大きく揺らぐが、それでもなまえは土方に全てを託し賭けては供に行かず、局長命令違反として切腹の術を選び死で償う事を臨めば、其れでも世代交代を終えた近藤の側を選ぶのだった。
「俺の最期の我儘、恩返し、
‥大丈夫、前にも言われた通り、あんたの言う様に俺は【猛毒】じゃ死なない。
俺はあんたに殺されて死ぬつもりだから、」
今までありがとう、土方さん、となまえは力強く儚い紅月を輝かせ利き腕の左手をスッ‥と土方の顔の前に出すと、にっ、と優しい表情をしながら「武士として生きたいけど‥やっぱり俺、約束するならこっちが好き。‥ね、土方さん‥俺と指切りしよーぜ?‥新選組の事、頼む‥、ごめんな?あんたばっかりに重てぇもん背負わしちまって、」と力強く放てば、土方も力強い紫に涙を浮かべては黙って己の左手を差し出し「‥俺ァ、右利きなんだよ、馬鹿獣。‥てめェ、首洗って待ってろよ‥俺が直々に介錯して綺麗に殺してやるから‥ッ‥!!」っと涙を含む様な震える声でガタガタ‥と放ち、其の想く重たいモノをなまえから託されつつ、二人の小指が互いにキュッ、と力強く何にも変える事の出来ない絆を結び、【誠】の意図と今迄創り上げてきた信頼と誠実‥総てを命と供に指切りに賭ければ、二人の千切れる事の無い楔、永久を此処に誓う。
季節外れの桜が舞い散り、
二匹の鬼の名残り酒の汲み併せ
日本の風流ーー侍魂、此処に
「上等、」
にーっ、と悪戯に笑う様な表情をするなまえに、土方は指切りした手で其の儘拳を造り、コツン、となまえの左胸に軽く落とせば「‥絶対に死ぬんじゃねェぞ、なまえ」と一言放った直後、グッ勢い良くなまえから背を向け、島田らを連れ其の場を離れるのであった。
後ろはもう二度と振り還らないーー
男と男の生命を賭けた誓いに、誰も邪魔する権利は無く、決して許しはしない。
計り知れぬ寡黙に、獄である極に‥男はたった二足の両脚で宿命を背負い、浮世歴史を相手に人生を駆けて行く。
「なまえさん!!」
舌を噛み切る想いで戦場を舞い踊る浅葱に、薄桜の神風はどう風吹き歴史を馳せ、其して在る満月の宵、大きな意味を懐き新選組に降った千羽鶴は、一体、何を願い縁を及ぼすのか?
生命を賭け戦う情景に、鶴の眼からは桃色の涙石がボロボロ‥と溢れ、唯、唯、
【淡い恋など戦場の渦中では、最も邪魔故に吐き捨てる嶽】
多寡が、鬼の面を被る紛い物であった筈の紫の、其して孰れ必ず本物の‥強き鬼の化身と成った彼が揮う刀で、綺麗に殺され完膚なきまで違反を償う其の時迄、紅月は欠け喪い、野垂れ死ぬわけにはいかないのかも知れない。
指切りげんまん
(生死を賭ける)(譲れない覚悟)
ーーー
戦場に誇る桜、浅葱の花形
土方が総てを背負った、新選組