印籠の中の星屑、罪樹屑糸
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「‥拷問は俺の得意分野だぜ?
俺の気が悪くならねェ内に、てめェはさっさと諦めて吐くんだな。」
「‥その脅し、結構前に聞いた、」
おー怖、と苦笑いを落としながらもヒクヒクと怯む妖鬼一匹に対し、鋭く綺麗な紫を突き刺しては、酷く重い重圧感でジリジリと問答無用で攻め立てる鬼‥いや、人間一人が創り出す何とも言えない此の複雑な渦巻く状況は、どう説明すれば良いので在ろうか?
「‥其の包帯の下の痛々しい火傷突ついて、直接聞いても良いなァ?」
唯、言える事としては何人で在ろうとも、今此の雰囲気を邪魔出来る状況で無い事だけは確かで有るのだが‥とりあえず、此の人間の皮を被った鬼が先程から怖すぎる。
桃太郎がいれば鬼退治でも頼めるか?‥否、多寡が団子如きで釣り上げた数だけの即席では、到底適うまいと諦め鼻水でも啜ろうか。
「‥センセから貰った塗薬でやっと痛みやら膿やら抑えてんの、」
ばってん、降参、と放ち身の危険を感じ、やっぱり火傷はバレバレだったのね、と白旗を上げては、んべっと悪戯に舌を出す妖鬼‥なまえは、先程から恐ろしい言葉を放ち痛ぶってくる人間‥土方に対し溜息を交え静かに謝れば、土方は「ハナから素直に居りゃァいーんだよ、この馬鹿獣」と、今に成って優しさを含みフッと鼻で笑うと、少し不貞腐れてるなまえの頭をわしゃわしゃと撫で回し「‥少し、言い過ぎたかもな?」と僅かながらに申し訳成さそうに放った。
「そーだそーだ、俺には黙秘権もプライバシーもねーの?」
むすっ、とした表情をしつつ土方の多少なりの謝罪を聞くと、もしかしたら足掻きのチャンス到来か?と腹の中で悪魔の尻尾を生やし笑み、悪戯に駄々後ねるなまえに対し、土方は眉間にピキッと血管を浮かび上がらせれば、先程の柔らかな雰囲気を捻曲げ眉間に皺を寄せると、無情にも「俺の飼い獣だろ」と黒く効いた声で墜とせば、なまえの腕の包帯の余った部分(土方曰くリード替り)をグイッと引っ張り、彼を自分の元へ思い切り引き寄せた。
「全く‥おめェは‥」
泪と血で錆、涯を背負うなまえの連結鍵が、ゆらりゆらりと寂しく悲しく空を足掻けば、なまえは、土方の服をギュッと握りながら土方の温かい小言を、鼓膜にシトシトと染み込ませていった。
連結鍵の如し自身が醜く変化して逝こうとも、昔も今も決して変わる事の無い土方の小言が癒を施す温かい緑茶の様で、なまえの心音はトクン、トクン、と穏やかに奏で、確実に安心感を覚えるのだ。
【現実は甘くない誘惑、硝子の靴は粉々に砕けリミットから裸足で逃げる】
「‥土方さん鬼畜、‥あったけ、」
「‥で?隠さず全て話せ‥三度目はねェぞ。」
(垢錆に触れた紫指、泪で血塗れる欠落)
ーーー‥
「‥っ‥‥!」
襖から覗き目、襖の奥に耳
『嗚呼、だからなのか』己に総て痛みが返ってくるから、大切な人の秘密事を狡く隠れ聞きし、無理矢理暴く行為なんてしては成らないのか、納得せざる得ない。
「‥俺は‥なまえに一体何が出来る‥?此の儘、新選組の旗を護り掲げる事で合ってるのか‥?
俺が望む武士を貫くと云う事は、こんなにもこんなにも心臓を貫かれる様な痛みをも背負うのか‥?」
故に其れは、現実を直ちに受け止め埋め込む為のショートカットに過ぎず、結局はこのザマで嘲笑う。
斎藤の肩が悔しさと現実に震えれば、供に彼の心に懐く【誠】の旗がヒュゥッと静かに靡けば静かに騙ると、彼の路を残像が追う羽目に成り侮辱に添う。
桜の様に‥永遠に語り継がれる貫禄の如く、自身の武士道には変わらぬ勇ましさを臨んで来たのに、
(残痕な桜冠)(破棄打数)
そういえば、幾ら其れを仕事で在ろうが敵で在ろうが土足で踏み込んで此の行為を行い、監察方特有の汚れ仕事も難なく熟してきた山崎には、全員脱帽しかないな、と‥まぁ其れだけ彼は、仕事に誇りを駆け持ち尚且つ並行し、半端な想いなぞ抱く訳無く生命を賭けてきた事を、今更改めて新選組の歴史に共鳴させた。
(困難【コンナ】事を、聴きたかったんじゃない)
なまえの背に被さる重たい十字架は一体、どれだけ彼や己らを苦しめ刳れば気が炭、許しを得、権利を得る?
‥義務はとっくに支払い済みでは無いか。
「コイツ(連結鍵)が、俺を見限った代償、」
淡々と放つなまえの言霊を頷きもせず唯、唯、無言で受け止め納得せざるしかない現実を抱える土方と斎藤は、供に部屋を共有している訳では無いのだが、感情は共鳴し行場に困り激しく当たりぶつかり合い、ジッポの金具の音の様にガチャガチャガチャ‥と和音を奏でる今宵の同じ刻ーー
槍を力強く振れば【新選組十番隊長】と叫び、其れは其れは美しく【誠】の旗を背で力強く背負い翳し靡かせる一人の漢が、銃器を扱う一匹の鬼と手を組み、ある森林の奥深い一本道で、何十も居る多勢を敵に廻し死闘な戦をしていたと云う。
どうやら漢は、やらなきゃならない事‥【後には生命と引き換えにしなければならない程】大切な何かを護る為、槍を懸命に奮ったとの事らしいが‥成らば、漢が戦っていた多勢の敵は其の漢の大切な組織にとって絶対に通すべく排除しなければ成らない、との件迄は理解出来るが、しかし其れ程迄して他事の為に漢が槍を奮った真実とは一体ーー‥?
【哀しき叶、過去の指揮】
真実は、漢が最期まで使用し何十の多勢を全滅させ故に何十のも血で錆びて折れた、地に刺さる一本の槍のみぞ知る。
(俺たちは、多寡が金属や鉛に冴えも太刀打ち出来ない弱者なのかも知れない)
自慢だったで在ろう漢の腹の古傷からは三途の川の水が溢れ爛れ、亡き仲間が宿る桜樹木へ己の魂をも宿す術く、トクトクと流れる血液は、散ってゆく桜の花弁の様にも夜桜の供に酌す祝酒の様にも魅え、見事、杯に汲まれた。
「新八のとこ‥戻らねぇと‥‥の前に‥‥なまえ‥‥会いてぇ‥」
向こうの世界で待つ心地よい太陽と酒を交わそうと、直様隣で銃の手入れを行いながら己に話し掛けて来る一匹の鬼の放つ言葉を子守唄にしつつ、フッ‥と、最期の望みを呟き魂に燈しながら静かに目を瞑れば、漢が見る歴史は此処で幕を綴じ、二度と眼を覚ます事は無かった。
麻酔針を刺青の痕に彷徨う涙、
誘う現在を目隠しする弱さなぞ特区の塔に過去へと唾と供に吐き捨てた自身が、ズタズタに傷付くのでは無く結して解けぬ絆を護った赤黄は、鮮血を意地でも宝酒に混ぜ徳利に継い、後頭部に自尊心を叩きつけ槍拳を減り込ませ引っ掻り抉く。
(殺られたのは脆い人間では無く、鬼を履き違えた貴様の脳)
「‥っ、沖田!‥あんた、大丈夫なのか?顔色が悪いじゃないか‥なんで昼は殆ど休んでるのに、こんな夜更けに動き回ってんだ?」
「‥君は相変わらず煩いなぁ‥言ったでしょ?僕が新選組って知られると構われて面倒になるから、主に夜しか大きく動けないんだってば‥!あんまり煩いと斬っちゃうよ?」
馬の蹄が地を力強く叩く音と比例し、沖田と井吹は夜遅く深い森林を【嘘吐】で塗り潰しながら、懸命に駆け巡る。
荒々しい吐息を繰り返す沖田にとって馬に乗り揺さぶられる衝撃は、井吹の言う事は強ち間違えでも無く僅かながらも沖田の身体に堪え、もはや巻き戻せ無い積み木と知る。
「‥ったく、あんたも相変わらずだよな。俺と偶々会った時も誰かと一戦、交えた後だったんだろ?序でに馬に乗せて貰ってる立場で言うのも何だが、あんまり無茶するのは‥」
「‥久しぶりに会ったと思えば、随分軽くなった髪型になってるね?‥ああ、そういえば君を逃がしてくれた時序でに、君の頭の中と同じ御揃いにって、わざわざなまえさんが君の重たくて邪魔な髪の毛切ってくれたんだっけ?良かったね、感謝しなきゃ。」
「なっ‥!なんだと!?」
少し懐かしい二人の戯れ合い(?)は置いておき、然し何故、此の意外な二人が道を供にしているのかと云うと‥話せば長い理由が有りまして、まあ、少しずつ紐解いて綺麗なアヤトリの方式を徐々に崩して行きましょうか。
ーーー
『久しぶりだね、沖田。
まだ生きてたの?‥クスッ、僕のあげたアレに感謝してよ?』
井吹と沖田の二人が合流する少し前、確かに井吹の言う様に沖田は南雲薫と一戦を交えて居た。
沖田が居た付近は新選組との合流も近い道程の途中であった為か、其の付近を監視して居た薫と偶然に会い、薫も久々に会う沖田に対し腕慣らし程度にと軽くお遊び程度に構ってやろうとちょっかいを出したのだが、然し、羅刹の力を持つ沖田からすれば薫なぞ到底敵では無く、虚しくも彼の野望と共に心臓を貫かれ破壊されては、一瞬で事は終えるのであった。
『ははっ、君如きがなまえさんを‥何するだって?』
其れは、夜更けと云う幸いな時間帯であった事、沖田の瞳にはもう既に薫なぞ映っては居らずなまえ一色で染まって折、一刻も早く彼に会わなければ成らないとの使命感から邪魔する者は問答無用に排除する事から、そして決定的であった事柄として、そんな感情を渦巻く沖田の前で、安易に薫自身がなまえの命を狙っている件を放って仕舞った事で、沖田の感情を逆なでし憤怒させ彼を本気にして終う。
余りにも沖田を纏うオーラが狂気に感じた薫は、最期に『‥ズルイ‥どうして僕ばっかり苦しい‥の‥?‥』と、吐息と嫉妬と刹那さと未練を零し、悔しげにボロボロと涙を流しながら逝けば、千羽は厭に嘲笑った。
(同化、不可、
大切な人を護る為の術から産まれる不平等な強さの問いに答えて呉れる薔薇は、未まだ宵の蜃気楼でも咲き誇る?)
ーーー
「‥あれが交えるなんて言えたのかな?
あの子が軽々しくなまえさんの命を如何の斯うのとか、ほざいてるから悪いんだよ。僕の大切な人に手を出すなんて‥誰であろうと許さない‥!僕はあの人の為に生きなくちゃいけない。」
井吹君こそ、新選組の今の自体を理解して此処に居るの?死んじゃう前に帰れば?と沖田が意地悪く微笑み逆に井吹に問い返せば、井吹は眉間に皺を寄せ深く頷くと「‥それでも俺は、新選組の歴史に触れなきゃいけない義務がある。」と強い想いを込めて沖田へ言い返すと、沖田は呆れた表情をしながら短い溜息を零した。
「‥あっそ‥死んじゃう時は一人でこっそり死んじゃってね?邪魔だから。」
「なっ‥!あんた、昔より更に磨きがかかって性格悪くなってないか!?」
(だが‥どうしても解らない‥)
井吹は沖田と此うして森林を駆け巡っている間はまだまだ僅かな時間であったが、其んな僅かな時間の中で冴えも、多数の疑問がバラバラとパズルのピースの様に井吹の脳裏に散り撒かれ「知りたけりゃ、完成させてみろ」と軽々しく煽られる幻覚に襲われる。
何故、新選組と沖田は別行動しているのか?(何かの作戦で隊が別れたのか)
何故、沖田は昼夜逆転の生活なのか?(先程、理由は聞いているが)
先程、卸立ての洋の服を屯所から取って来たが、其の屯所には既に見張りも番人も誰も居なかったーー本来であれば沖田は此処で彼らと合流する筈だったのだが、屯所内の様子から見て未だそう遠くは離れては居ないで在ろう彼らは一体何処に?
(畜生‥っ‥!)
頭を使って考えれば考える程、井吹は頭痛の様な痛みに襲われ、此れ以上踏み込むなと言われ警告かの様に、無理矢理、考える事をも遮断されては脳裏と心理の矛盾に苦しめられて仕舞う。
新選組の真実を語り告げるには、此れ位の痛みならば軽く飲み込めって事なのだろうか?
吐息を数えて、痛点の苛立ちを凌いだ。
(魚の目の監視)(痛感信号)
そろそろ夜も明け夜が眠りに入り朝が目覚める狭間で、沖田の痛覚と井吹の痛覚を通貨に変換させ、新選組の基へともう少しだけ許して欲しいと、脚を僅かに急がせる。
(皆既日食で宵を浸食する紅月が、毎晩【誠】の旗に照らして威厳を踏み倒されずに酔、最強集団が儚に犯され渇くなんて真っ平御免だ)
珍しく目が冴える夜明け前の一刻
既に天へと落札された黄色の焔の圧に、妖鬼はふっと珍しく握る筆を止め、ほぁっと外の空を眺めて空気を感じれば、当て付けな空耳に気がついて仕舞い、残念に想った。
「‥左之‥?」
刻が一瞬だけ不思議に停止し、原田が己に向けて何かを呟いた様な錯覚に陥ったのだが、しかし気の所為、か‥と少し残念そうに眉を下げては、別れてから其処まで日がたたない仲間の事を思い出したなまえは、元気にやってるかな、あいつら‥と気遣いを溢し、己が筆を走らせた恐らく手紙であろう紙に視線を戻せば、静かに目伏せをする。
「‥あーあ、これじゃ遺書みてーじゃん、」
何かを書き上げ静かに筆をコトッと机に置けば、なまえが言う(遺書のような事が記してある紙)を己の腰から下げて菓子入れ代わりにしている印籠の底の部分のみ外し、紙を丁寧に小さく折り曲げ隠し収めると、また元通りに印籠の底を戻し、小さく含み笑いを落とした。
「この印籠の底の仕組み、龍は気付いてたんかなー?」
モノクロな新色、螺旋の甘味革命
未まだ金平糖やら飴やらと小さな星達を閉じ込めて逃がさずに要る印籠を、遊ぶ様に軽く降りジャラジャラ‥と音を奏でると、本来である印籠の主人の顔を、印籠の中の星達が思い浮かべて呉れれば、なまえは、軌跡に馳せて強く祈った。
(赦して欲しい、此れが最後の我儘だと刻がほくそ笑み)
何度も何度も忘れたいと、耳鳴りで押さえ付けて付け焼き刃で脅したが、恋は枯れずに信じてると跳ね返され、互いに傷付いて消えてくれない震える弱い手に、傷みを負えない君に焦がれて苦しい。
【脳裏で殺した筈が心裏で染み込む情、煙草の火種で灰にして】
「‥っ‥、げ‥ぼっ‥!」
なまえは、どう足掻こうが決して逆らえぬ運命を吐き出しつつ、しかし何処か安心して仕舞う自分に気が付いて仕舞う。
先程の件で、物凄く辛そうな表情を暁に浮かべていた彼にとって、皮肉にも其の吐血行為が彼の心情渦巻く理由を誤魔化して呉れた。
己自身の身体にも限界が近いのは、言うことを聞かなく為って来た妖鬼の身体、無情にも吐き出される血液の色や量や質、壊れかけた懐中時計の様な心音などを察すれば、其れは嫌でも理解が出来る。
「‥は‥っ‥、血吐いて滑稽に生きるのも‥死んで近藤さん置き去りにして逃げるのも‥どう転んでも、俺‥汚ね‥、」
警鐘は鳴り、霞んで逝く紅月
己が残り幾日、呼吸を繰り返し生命を宿すのを許され、近藤の側に居てやれるのかは彼自身にも無論解らないが、兎に角、土方や斎藤の足は引っ張る様な真似は避けたいと思い、出来る限りの体調管理だけは備える為、眠りが浅くとも布団に入り、軽く休憩を取ったのだった。
ーーー
下総・流山『金子邸』現在
既に、もう戦に交わる事を怖れる様に成って仕舞った近藤を、土方が必死に説得をし、近藤の重い腰を上げ、会津に行く準備が整うまでは、此処で調練を続けるという。
『‥悩む俺自身を物凄く恥じた。
俺の役割は、俺やなまえの信念である新選組の【誠】を命に代えても護る事。
なまえに誓い、供に造り上げてきた武士道を、我が命散る時迄、恥じぬ事無く貫く為に‥』
斎藤は、市川という異なる場所で連隊に新式装備の訓練を行って降り、己の信念を最後まで貫く為に男の意を結した。
(徐々に彼等の桜がヒラヒラと舞い、堕ちるかの如く)
叶えたい、君達が明日の歴史を駆け温もりに護られる様に。
極彩色を持たぬ淡い彼らを汚れた指でなぞり、蜘蛛の巣で六角星を張られた視界で、背を追い掛ける事しか出来ない傍観者達へ
ーーー
「子供の頃は、思ってたもんだよ。
いつか関聖帝君みたいに立派な武将になって、自分ではない誰かの為に戦おうって。
唯、願うだけでは名将にはなれんのだな‥。それに気付くのが、ちと遅かったようだ。」
近藤が目伏せながら千鶴に言葉を放ち、互いに新選組の事柄を題に混じり併せてた数日後の現在、険しい表情をした土方となまえ、そして島田が、二人が居る部屋へと飛び込んで来た。
「‥っ、なまえさん!土方さんも島田さんまで‥一体、どうしたんですか?」
なまえさんは未だお顔の色が優れません‥今、お茶を運ぼうと思ってたんです、お部屋で休んでいて下さい。と千鶴がなまえに放ち近付き彼の体調を気遣いながら彼の腕を抱き締めれば、なまえは、千鶴の手首をぎゅっと掴み阻止し、無言で千鶴に優しい表情だけ向けると、その場を動かずに黙って土方の次の言葉を待った。
「すぐ逃げる準備をしてくれ。
‥此処は、敵に囲まれてる」
印籠の中の星屑、罪樹屑糸
(赤黄の閃光月下)(決意の桜刺青)
ーーー
所謂、痛くて可哀想な可愛い自分の為では無く
決して痛覚は繋ぎ合う筈の無い他人の為に闘う
今でも崩れそうな絆の舐め哀、
弱くて強い人間の体温
俺の気が悪くならねェ内に、てめェはさっさと諦めて吐くんだな。」
「‥その脅し、結構前に聞いた、」
おー怖、と苦笑いを落としながらもヒクヒクと怯む妖鬼一匹に対し、鋭く綺麗な紫を突き刺しては、酷く重い重圧感でジリジリと問答無用で攻め立てる鬼‥いや、人間一人が創り出す何とも言えない此の複雑な渦巻く状況は、どう説明すれば良いので在ろうか?
「‥其の包帯の下の痛々しい火傷突ついて、直接聞いても良いなァ?」
唯、言える事としては何人で在ろうとも、今此の雰囲気を邪魔出来る状況で無い事だけは確かで有るのだが‥とりあえず、此の人間の皮を被った鬼が先程から怖すぎる。
桃太郎がいれば鬼退治でも頼めるか?‥否、多寡が団子如きで釣り上げた数だけの即席では、到底適うまいと諦め鼻水でも啜ろうか。
「‥センセから貰った塗薬でやっと痛みやら膿やら抑えてんの、」
ばってん、降参、と放ち身の危険を感じ、やっぱり火傷はバレバレだったのね、と白旗を上げては、んべっと悪戯に舌を出す妖鬼‥なまえは、先程から恐ろしい言葉を放ち痛ぶってくる人間‥土方に対し溜息を交え静かに謝れば、土方は「ハナから素直に居りゃァいーんだよ、この馬鹿獣」と、今に成って優しさを含みフッと鼻で笑うと、少し不貞腐れてるなまえの頭をわしゃわしゃと撫で回し「‥少し、言い過ぎたかもな?」と僅かながらに申し訳成さそうに放った。
「そーだそーだ、俺には黙秘権もプライバシーもねーの?」
むすっ、とした表情をしつつ土方の多少なりの謝罪を聞くと、もしかしたら足掻きのチャンス到来か?と腹の中で悪魔の尻尾を生やし笑み、悪戯に駄々後ねるなまえに対し、土方は眉間にピキッと血管を浮かび上がらせれば、先程の柔らかな雰囲気を捻曲げ眉間に皺を寄せると、無情にも「俺の飼い獣だろ」と黒く効いた声で墜とせば、なまえの腕の包帯の余った部分(土方曰くリード替り)をグイッと引っ張り、彼を自分の元へ思い切り引き寄せた。
「全く‥おめェは‥」
泪と血で錆、涯を背負うなまえの連結鍵が、ゆらりゆらりと寂しく悲しく空を足掻けば、なまえは、土方の服をギュッと握りながら土方の温かい小言を、鼓膜にシトシトと染み込ませていった。
連結鍵の如し自身が醜く変化して逝こうとも、昔も今も決して変わる事の無い土方の小言が癒を施す温かい緑茶の様で、なまえの心音はトクン、トクン、と穏やかに奏で、確実に安心感を覚えるのだ。
【現実は甘くない誘惑、硝子の靴は粉々に砕けリミットから裸足で逃げる】
「‥土方さん鬼畜、‥あったけ、」
「‥で?隠さず全て話せ‥三度目はねェぞ。」
(垢錆に触れた紫指、泪で血塗れる欠落)
ーーー‥
「‥っ‥‥!」
襖から覗き目、襖の奥に耳
『嗚呼、だからなのか』己に総て痛みが返ってくるから、大切な人の秘密事を狡く隠れ聞きし、無理矢理暴く行為なんてしては成らないのか、納得せざる得ない。
「‥俺は‥なまえに一体何が出来る‥?此の儘、新選組の旗を護り掲げる事で合ってるのか‥?
俺が望む武士を貫くと云う事は、こんなにもこんなにも心臓を貫かれる様な痛みをも背負うのか‥?」
故に其れは、現実を直ちに受け止め埋め込む為のショートカットに過ぎず、結局はこのザマで嘲笑う。
斎藤の肩が悔しさと現実に震えれば、供に彼の心に懐く【誠】の旗がヒュゥッと静かに靡けば静かに騙ると、彼の路を残像が追う羽目に成り侮辱に添う。
桜の様に‥永遠に語り継がれる貫禄の如く、自身の武士道には変わらぬ勇ましさを臨んで来たのに、
(残痕な桜冠)(破棄打数)
そういえば、幾ら其れを仕事で在ろうが敵で在ろうが土足で踏み込んで此の行為を行い、監察方特有の汚れ仕事も難なく熟してきた山崎には、全員脱帽しかないな、と‥まぁ其れだけ彼は、仕事に誇りを駆け持ち尚且つ並行し、半端な想いなぞ抱く訳無く生命を賭けてきた事を、今更改めて新選組の歴史に共鳴させた。
(困難【コンナ】事を、聴きたかったんじゃない)
なまえの背に被さる重たい十字架は一体、どれだけ彼や己らを苦しめ刳れば気が炭、許しを得、権利を得る?
‥義務はとっくに支払い済みでは無いか。
「コイツ(連結鍵)が、俺を見限った代償、」
淡々と放つなまえの言霊を頷きもせず唯、唯、無言で受け止め納得せざるしかない現実を抱える土方と斎藤は、供に部屋を共有している訳では無いのだが、感情は共鳴し行場に困り激しく当たりぶつかり合い、ジッポの金具の音の様にガチャガチャガチャ‥と和音を奏でる今宵の同じ刻ーー
槍を力強く振れば【新選組十番隊長】と叫び、其れは其れは美しく【誠】の旗を背で力強く背負い翳し靡かせる一人の漢が、銃器を扱う一匹の鬼と手を組み、ある森林の奥深い一本道で、何十も居る多勢を敵に廻し死闘な戦をしていたと云う。
どうやら漢は、やらなきゃならない事‥【後には生命と引き換えにしなければならない程】大切な何かを護る為、槍を懸命に奮ったとの事らしいが‥成らば、漢が戦っていた多勢の敵は其の漢の大切な組織にとって絶対に通すべく排除しなければ成らない、との件迄は理解出来るが、しかし其れ程迄して他事の為に漢が槍を奮った真実とは一体ーー‥?
【哀しき叶、過去の指揮】
真実は、漢が最期まで使用し何十の多勢を全滅させ故に何十のも血で錆びて折れた、地に刺さる一本の槍のみぞ知る。
(俺たちは、多寡が金属や鉛に冴えも太刀打ち出来ない弱者なのかも知れない)
自慢だったで在ろう漢の腹の古傷からは三途の川の水が溢れ爛れ、亡き仲間が宿る桜樹木へ己の魂をも宿す術く、トクトクと流れる血液は、散ってゆく桜の花弁の様にも夜桜の供に酌す祝酒の様にも魅え、見事、杯に汲まれた。
「新八のとこ‥戻らねぇと‥‥の前に‥‥なまえ‥‥会いてぇ‥」
向こうの世界で待つ心地よい太陽と酒を交わそうと、直様隣で銃の手入れを行いながら己に話し掛けて来る一匹の鬼の放つ言葉を子守唄にしつつ、フッ‥と、最期の望みを呟き魂に燈しながら静かに目を瞑れば、漢が見る歴史は此処で幕を綴じ、二度と眼を覚ます事は無かった。
麻酔針を刺青の痕に彷徨う涙、
誘う現在を目隠しする弱さなぞ特区の塔に過去へと唾と供に吐き捨てた自身が、ズタズタに傷付くのでは無く結して解けぬ絆を護った赤黄は、鮮血を意地でも宝酒に混ぜ徳利に継い、後頭部に自尊心を叩きつけ槍拳を減り込ませ引っ掻り抉く。
(殺られたのは脆い人間では無く、鬼を履き違えた貴様の脳)
「‥っ、沖田!‥あんた、大丈夫なのか?顔色が悪いじゃないか‥なんで昼は殆ど休んでるのに、こんな夜更けに動き回ってんだ?」
「‥君は相変わらず煩いなぁ‥言ったでしょ?僕が新選組って知られると構われて面倒になるから、主に夜しか大きく動けないんだってば‥!あんまり煩いと斬っちゃうよ?」
馬の蹄が地を力強く叩く音と比例し、沖田と井吹は夜遅く深い森林を【嘘吐】で塗り潰しながら、懸命に駆け巡る。
荒々しい吐息を繰り返す沖田にとって馬に乗り揺さぶられる衝撃は、井吹の言う事は強ち間違えでも無く僅かながらも沖田の身体に堪え、もはや巻き戻せ無い積み木と知る。
「‥ったく、あんたも相変わらずだよな。俺と偶々会った時も誰かと一戦、交えた後だったんだろ?序でに馬に乗せて貰ってる立場で言うのも何だが、あんまり無茶するのは‥」
「‥久しぶりに会ったと思えば、随分軽くなった髪型になってるね?‥ああ、そういえば君を逃がしてくれた時序でに、君の頭の中と同じ御揃いにって、わざわざなまえさんが君の重たくて邪魔な髪の毛切ってくれたんだっけ?良かったね、感謝しなきゃ。」
「なっ‥!なんだと!?」
少し懐かしい二人の戯れ合い(?)は置いておき、然し何故、此の意外な二人が道を供にしているのかと云うと‥話せば長い理由が有りまして、まあ、少しずつ紐解いて綺麗なアヤトリの方式を徐々に崩して行きましょうか。
ーーー
『久しぶりだね、沖田。
まだ生きてたの?‥クスッ、僕のあげたアレに感謝してよ?』
井吹と沖田の二人が合流する少し前、確かに井吹の言う様に沖田は南雲薫と一戦を交えて居た。
沖田が居た付近は新選組との合流も近い道程の途中であった為か、其の付近を監視して居た薫と偶然に会い、薫も久々に会う沖田に対し腕慣らし程度にと軽くお遊び程度に構ってやろうとちょっかいを出したのだが、然し、羅刹の力を持つ沖田からすれば薫なぞ到底敵では無く、虚しくも彼の野望と共に心臓を貫かれ破壊されては、一瞬で事は終えるのであった。
『ははっ、君如きがなまえさんを‥何するだって?』
其れは、夜更けと云う幸いな時間帯であった事、沖田の瞳にはもう既に薫なぞ映っては居らずなまえ一色で染まって折、一刻も早く彼に会わなければ成らないとの使命感から邪魔する者は問答無用に排除する事から、そして決定的であった事柄として、そんな感情を渦巻く沖田の前で、安易に薫自身がなまえの命を狙っている件を放って仕舞った事で、沖田の感情を逆なでし憤怒させ彼を本気にして終う。
余りにも沖田を纏うオーラが狂気に感じた薫は、最期に『‥ズルイ‥どうして僕ばっかり苦しい‥の‥?‥』と、吐息と嫉妬と刹那さと未練を零し、悔しげにボロボロと涙を流しながら逝けば、千羽は厭に嘲笑った。
(同化、不可、
大切な人を護る為の術から産まれる不平等な強さの問いに答えて呉れる薔薇は、未まだ宵の蜃気楼でも咲き誇る?)
ーーー
「‥あれが交えるなんて言えたのかな?
あの子が軽々しくなまえさんの命を如何の斯うのとか、ほざいてるから悪いんだよ。僕の大切な人に手を出すなんて‥誰であろうと許さない‥!僕はあの人の為に生きなくちゃいけない。」
井吹君こそ、新選組の今の自体を理解して此処に居るの?死んじゃう前に帰れば?と沖田が意地悪く微笑み逆に井吹に問い返せば、井吹は眉間に皺を寄せ深く頷くと「‥それでも俺は、新選組の歴史に触れなきゃいけない義務がある。」と強い想いを込めて沖田へ言い返すと、沖田は呆れた表情をしながら短い溜息を零した。
「‥あっそ‥死んじゃう時は一人でこっそり死んじゃってね?邪魔だから。」
「なっ‥!あんた、昔より更に磨きがかかって性格悪くなってないか!?」
(だが‥どうしても解らない‥)
井吹は沖田と此うして森林を駆け巡っている間はまだまだ僅かな時間であったが、其んな僅かな時間の中で冴えも、多数の疑問がバラバラとパズルのピースの様に井吹の脳裏に散り撒かれ「知りたけりゃ、完成させてみろ」と軽々しく煽られる幻覚に襲われる。
何故、新選組と沖田は別行動しているのか?(何かの作戦で隊が別れたのか)
何故、沖田は昼夜逆転の生活なのか?(先程、理由は聞いているが)
先程、卸立ての洋の服を屯所から取って来たが、其の屯所には既に見張りも番人も誰も居なかったーー本来であれば沖田は此処で彼らと合流する筈だったのだが、屯所内の様子から見て未だそう遠くは離れては居ないで在ろう彼らは一体何処に?
(畜生‥っ‥!)
頭を使って考えれば考える程、井吹は頭痛の様な痛みに襲われ、此れ以上踏み込むなと言われ警告かの様に、無理矢理、考える事をも遮断されては脳裏と心理の矛盾に苦しめられて仕舞う。
新選組の真実を語り告げるには、此れ位の痛みならば軽く飲み込めって事なのだろうか?
吐息を数えて、痛点の苛立ちを凌いだ。
(魚の目の監視)(痛感信号)
そろそろ夜も明け夜が眠りに入り朝が目覚める狭間で、沖田の痛覚と井吹の痛覚を通貨に変換させ、新選組の基へともう少しだけ許して欲しいと、脚を僅かに急がせる。
(皆既日食で宵を浸食する紅月が、毎晩【誠】の旗に照らして威厳を踏み倒されずに酔、最強集団が儚に犯され渇くなんて真っ平御免だ)
珍しく目が冴える夜明け前の一刻
既に天へと落札された黄色の焔の圧に、妖鬼はふっと珍しく握る筆を止め、ほぁっと外の空を眺めて空気を感じれば、当て付けな空耳に気がついて仕舞い、残念に想った。
「‥左之‥?」
刻が一瞬だけ不思議に停止し、原田が己に向けて何かを呟いた様な錯覚に陥ったのだが、しかし気の所為、か‥と少し残念そうに眉を下げては、別れてから其処まで日がたたない仲間の事を思い出したなまえは、元気にやってるかな、あいつら‥と気遣いを溢し、己が筆を走らせた恐らく手紙であろう紙に視線を戻せば、静かに目伏せをする。
「‥あーあ、これじゃ遺書みてーじゃん、」
何かを書き上げ静かに筆をコトッと机に置けば、なまえが言う(遺書のような事が記してある紙)を己の腰から下げて菓子入れ代わりにしている印籠の底の部分のみ外し、紙を丁寧に小さく折り曲げ隠し収めると、また元通りに印籠の底を戻し、小さく含み笑いを落とした。
「この印籠の底の仕組み、龍は気付いてたんかなー?」
モノクロな新色、螺旋の甘味革命
未まだ金平糖やら飴やらと小さな星達を閉じ込めて逃がさずに要る印籠を、遊ぶ様に軽く降りジャラジャラ‥と音を奏でると、本来である印籠の主人の顔を、印籠の中の星達が思い浮かべて呉れれば、なまえは、軌跡に馳せて強く祈った。
(赦して欲しい、此れが最後の我儘だと刻がほくそ笑み)
何度も何度も忘れたいと、耳鳴りで押さえ付けて付け焼き刃で脅したが、恋は枯れずに信じてると跳ね返され、互いに傷付いて消えてくれない震える弱い手に、傷みを負えない君に焦がれて苦しい。
【脳裏で殺した筈が心裏で染み込む情、煙草の火種で灰にして】
「‥っ‥、げ‥ぼっ‥!」
なまえは、どう足掻こうが決して逆らえぬ運命を吐き出しつつ、しかし何処か安心して仕舞う自分に気が付いて仕舞う。
先程の件で、物凄く辛そうな表情を暁に浮かべていた彼にとって、皮肉にも其の吐血行為が彼の心情渦巻く理由を誤魔化して呉れた。
己自身の身体にも限界が近いのは、言うことを聞かなく為って来た妖鬼の身体、無情にも吐き出される血液の色や量や質、壊れかけた懐中時計の様な心音などを察すれば、其れは嫌でも理解が出来る。
「‥は‥っ‥、血吐いて滑稽に生きるのも‥死んで近藤さん置き去りにして逃げるのも‥どう転んでも、俺‥汚ね‥、」
警鐘は鳴り、霞んで逝く紅月
己が残り幾日、呼吸を繰り返し生命を宿すのを許され、近藤の側に居てやれるのかは彼自身にも無論解らないが、兎に角、土方や斎藤の足は引っ張る様な真似は避けたいと思い、出来る限りの体調管理だけは備える為、眠りが浅くとも布団に入り、軽く休憩を取ったのだった。
ーーー
下総・流山『金子邸』現在
既に、もう戦に交わる事を怖れる様に成って仕舞った近藤を、土方が必死に説得をし、近藤の重い腰を上げ、会津に行く準備が整うまでは、此処で調練を続けるという。
『‥悩む俺自身を物凄く恥じた。
俺の役割は、俺やなまえの信念である新選組の【誠】を命に代えても護る事。
なまえに誓い、供に造り上げてきた武士道を、我が命散る時迄、恥じぬ事無く貫く為に‥』
斎藤は、市川という異なる場所で連隊に新式装備の訓練を行って降り、己の信念を最後まで貫く為に男の意を結した。
(徐々に彼等の桜がヒラヒラと舞い、堕ちるかの如く)
叶えたい、君達が明日の歴史を駆け温もりに護られる様に。
極彩色を持たぬ淡い彼らを汚れた指でなぞり、蜘蛛の巣で六角星を張られた視界で、背を追い掛ける事しか出来ない傍観者達へ
ーーー
「子供の頃は、思ってたもんだよ。
いつか関聖帝君みたいに立派な武将になって、自分ではない誰かの為に戦おうって。
唯、願うだけでは名将にはなれんのだな‥。それに気付くのが、ちと遅かったようだ。」
近藤が目伏せながら千鶴に言葉を放ち、互いに新選組の事柄を題に混じり併せてた数日後の現在、険しい表情をした土方となまえ、そして島田が、二人が居る部屋へと飛び込んで来た。
「‥っ、なまえさん!土方さんも島田さんまで‥一体、どうしたんですか?」
なまえさんは未だお顔の色が優れません‥今、お茶を運ぼうと思ってたんです、お部屋で休んでいて下さい。と千鶴がなまえに放ち近付き彼の体調を気遣いながら彼の腕を抱き締めれば、なまえは、千鶴の手首をぎゅっと掴み阻止し、無言で千鶴に優しい表情だけ向けると、その場を動かずに黙って土方の次の言葉を待った。
「すぐ逃げる準備をしてくれ。
‥此処は、敵に囲まれてる」
印籠の中の星屑、罪樹屑糸
(赤黄の閃光月下)(決意の桜刺青)
ーーー
所謂、痛くて可哀想な可愛い自分の為では無く
決して痛覚は繋ぎ合う筈の無い他人の為に闘う
今でも崩れそうな絆の舐め哀、
弱くて強い人間の体温