雨泪弾に滲み撃ち殺された負犬共
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「近藤さん‥撤退は負けじゃねぇよ。勝利に繋げる為の術だろ?」
撤退をするという行為に、どうしても納得出来ず‥そして危うくは自暴自棄に陥りそうに成る近藤を宥め落ち付かせたのは、やはり此の漢ーー原田であった。
ポツ、ポツ、サアアアーー‥
冷たく様々なブツを詰めた雨玉は、哀しく濡らし戦場をシラけさせては嘲笑い注ぐのだが、果て、この急な雨天はもがき苦しむ近藤自身と共鳴し、せめてもの情けなのであろうか?
先程まで見事な晴天を掲げていた筈の群青は、銃口から上がる煙と同じ灰色に完膚無きまでに潰されては、助けて、と白旗を挙げるしか無く‥巨きな大きな涙を地上に溢れさせては足場を悪くさせ人々を困らせる。
(洟と泪を汚く垂れ流す、空目)
「撤退‥するぞ」
人生経験も人望も厚い彼に投げかけられれば、幾ら局長の立場で在ろう近藤でさえも観念するしか無かったのだが‥故に余裕など等に無い彼の鼓膜に、未だに木霊する銃器の耳障りな鳴き声や、先程まで仲間であった人物の泣き声から亡き乞へと無惨な姿と成り地に転がる情景は、やはり近藤を許しては呉れず追い詰め‥戦の厳しい現実を酷く叩きつけたのだった。
己の生命、名声、明成
混濁した心臓の要を無理矢理として戦に賭け生きているのは、敵も同じ事で在って、無論、我々が視点を併せている新選組だけでは無い虚しくも血肉抉る、悲しくも平等である自然の摂理ーー
(戦いは、勝者が正義)
「俺は‥一体、何をやっているんだ‥たくさんの仲間を死なせてしまった挙句‥こんな‥こんな事‥!」
後に、新選組への神の鉄槌は無情にも下って終い、彼らの撤退中に天霧単独の襲来により苦戦を強いられ、ギリギリ間に合い合流した土方が仲間の庇いに入れば、何とか襲来は回避出来たものの、故に代償として、土方羅刹化の秘密と羅刹の寿命の事柄について‥総てを近藤はじめとするその場全員に暴かれて仕舞えば、近藤は今度こそガラガラ‥と音を立てて奈落へと崩れ落ちた。
唯、唯、冷たい雨が降り注ぐ。
戦場の血飛沫や肉片を洗い流し、泥に混ぜてはまるで絵具かの如く鮮明に絵画を完成させる過程の中で、近藤は雨に打ち付けられながら唯唯‥泣く事しか出来ず、冷たく感じ無ければ成らない筈の雨玉が血液の様に生暖かく、生臭く錯覚して終い、大罪に陥り拘束された。
suffer a stinging defeat.
(痛い敗北を被る)
痛い、痛いよ
身体は寒く、心臓は苦しく
此処に、居たく無い
阻止たら、痛く無いのに
(低声な喉鳴らし)(痙攣する欠陥)
ーーー
「‥滑稽だな。雨で苦すむ銃器の黒煙は‥まるで逝急ぐ狼煙の様だ。」
ますます人間の醜さを知った、と放ちながら、雨でシラけた先程の戦の高みの見物を終えると、溜息と供に零し共感を得ようとする鬼の頭領ーー風間は、新選組から離れては、虚しくも恒例になった吐血行為を行っていた同胞、なまえに語り掛けていた。
「‥‥、」
二人を纏う雨音は何故か其の情景だけ贔屓され、嫌に心地良く、途切れ途切れになまえの吐き出した鮮血を洗い流してやれば、なまえは意地悪そうにオマケにもう一つ、と口内に溜まり残っていた血塊をベッ、と勢い良く吐き出し、雨と泥と血で汚れた左腕の包帯で口元をグッ‥と拭い、べろっ、と舌舐めずりを行う。
「‥奴らはどうした?
あれほど俺に仲間がどうのとほざき啖呵斬っていた筈だが‥まさか敗北を知り仲間を見捨て我が先に逃げたか?」
反吐が出る、と続け呆れる風間になまえは「あーあ‥折角のおべべ、もったいね、」と呟きながら己の着用する卸したての洋服に触れては風間を軽くあしらえば、紅月に冴え逆らい光を遮り濡らす空から堕ちる罪になまえは心を傷ませた。
「‥近藤さんが、泣いてる、」
雨は誰かの涙、と続ける妖鬼に先程まで難しい表情をしていた純潔鬼は、黙って彼の言の葉に耳を傾ければ、紅月は美しく輝きながら「俺が死んでまた産まれた日も、雨が降ってた、」と雨音に爆ぜては厭に綺麗に汚く咲きーー全く同時刻の刻、新選組の現在を求めるだけの為に雨液を全身に受けながらもズルズルと滑る足場の悪い中、懸命に走る蒼犬は、無論、ぬめる泥や土に足を滑らせ盛大に坂を転がり落ちては「いってえー‥!ったく、急に降ってきやがって‥!」と頭を摩り痛みを逃がしながらも、蒼犬‥井吹は、新選組の無事ばかり願った。
「‥千景、ごめんね?
‥あんたの目の前にいるみょうじは、あんたが求めてるみょうじじゃねーよ、」
今からでも俺と共に来い、なんて再度、風間に口説かれたなまえは、やれやれ‥と半ば呆れた様な笑みを浮かべては、己の汚れた左腕の包帯をシュルシュル‥とゆっくり解き、あれよあれよと露わに成り、そして見事に裂き誇る火傷華を風間へ魅せてやれば、流石の風間も喉を鳴らし悲観しながら必死で理由を探し、最近から過去のなまえの事柄を結び着けながら探っていけば、不意に、とある誓約を脳裏へと鮮明に映し混ませると「‥まさか‥連結鍵の‥」と息と零せなまえは静かに微笑んだ。
「消え掛けの灯火の本体、此のじゃじゃ馬が見過して許す訳が無い」
彼の左腕に燃え上がる桜花は、生臭い雨に濡れながら業火の如く十字架を散らせば、なまえの背負う全てを風間に植え付けては伝達をすると、其れを悟り知る風間は表情を完膚無きまでに殺し、故に納得せざる得なくする。
「‥‥っ‥‥くっ‥ ‥!」
降り頻る黒灯雨、亜麻色の傷み。
その場しのぎの血は洗い流しても、過去の罪を傷に染み渡らせる消毒液である雨は、時に純潔でさえも悔しみと哀しみで身体を震わせながら、いくら純潔である頭領で冴えも逆らえぬ運命論に苦虫を噛み擦り潰す。
どうしてだろう?
‥降り頻る雨が非道く生温く心地良い。
体温と同じ涙と同調するからなのか?
なまえの腰で揺れる印籠は、本来の主である人物が薄桜の歴史を其の瞳で観る刻を、徐々に徐々に狭めて愈く連れに比例して、中身の飴玉にガラッ‥と亀裂を刳り菓子の甘い香りを抹消させて逝く。
「ちーちゃん、風邪ひかないようにね、」
幾ら鬼とはいえこれ以上、冷たい空の下況してや此の時期が放つ冷たい気温の中、此の儘でいれば互いに身体を冷やすだろうと思い、未まだ放心状態に近い風間に一言告げたなまえは、後に静かに黙って其の場を去ると、彼の声を聞きやっとの思いで身体が動いた風間は、雨で被せた温かいモノを頬に流れさせながらも彼に背を向け、何も言の葉を言い返す事も出来ず、ザッ‥と地に足を擦らせ一歩退いた。
「‥なまえと始めて会ったあの晩に‥本来であれば死ぬ筈であった俺が更に生き、なまえより生かされる運命に‥俺は今迄味わった事の無い葛藤に狩られている‥!」
百鬼夜行、血泪筋の道ーー
今宵の雨は、簡単には止まない。
ひび割れた飴玉に映る妖の幾つもの鏡面から紅月を覗く姿見は、蜃気楼の様に儚く何処か滑稽で、嗚咽する程に意義を催し、やがて粉々に砕かれ踏み潰された飴玉は、蟻に群がられ朽ち果てるのだ。
(血反吐滲む泥雨、泥水啜った飴液)
ーーー
「‥なまえちゃん‥っ!今まで何処ほっつき歩いてやがったんだ!?‥っ、こんなにビショビショに濡れちまって‥!」
なまえの後に追い付く、との言葉を信じて先に撤退していた連中だったが、余りにも合流が遅い愛おしい姫を心配になり探しに行く事に成り、此の酷い雨の中、ビシャ、ビシャ‥ッと泥水を踏み潰し分けながら必死に探してようやくなまえを一番に見つけたのは、先日、少々揉めて仕舞った永倉であった。
「新八、‥あったけ、」
なまえは、ごめんな、と素直に安心しきる様に永倉の胸へと自ら収まる様に抱きつけば、永倉は、己の胸をズキンーー‥と傷ませながらも、思いきりなまえを抱き締めながら、己が抱いている桜樹木の決意と、今迄のなまえとの思い出を脳裏と心裏に描き満開にすれば、無意識になまえを抱き締める力は強く成り、さすがのなまえも息苦しさを覚え永倉の頬をむにっ、と摘めば「‥あんだよ、やっぱり怒ってんの‥?」とおずおず‥と質問して仕舞う。
「‥俺、もう新八にあんな瞳、むけられたくねー‥」
なまえは眉を下げながら悲しい表情をし、この間、一度だけ永倉の怒を含む瞳を向けられた事柄を思い出して仕舞えば、今は身体も弱っているからであろうか?意地を張る事もせず、心底から本音を永倉にぶつけては、正直に気持ちを放って仕舞うのであった。
「‥なまえちゃん‥」
「謝るから、俺を拒んだりしないで‥?」
滅多にお目に掛かる事の無いなまえの一面に、つい昔の頃の永倉であれば「俺がなまえちゃんを拒むわけないだろ!?可愛いなあ」と鼻の下を伸ばしながらデレッとしていたのだが、やはり状況と時代は其れを許す事は無く‥今の永倉は、なまえに優しい言葉を掛けられる度に、胸に大きな溝を刻まれ立派な傷跡を遺されて終い、酷く傷付いた表情をして魅せては伝達して仕舞うのである。
「‥ばってん、可愛い顔が台無し、」
無論、気持ちの良い程に正直で真っ直ぐな漢である永倉で在るからこそ、其れはダイレクトになまえへと見事に伝われば、永倉の放つ表情の意味をなまえながらに必死に探すと、やはり己の所為では無いか?と結論を結びつけて行き、ごめん、と悲しそうに続け顔を俯かせるしか出来ずに折、伝達が苦手ななまえは、卑怯で在るが永倉の次の言の葉に縋るしか術は無かった。
絆は、時として過剰な傷と為り、
邪道な未知は、蛇道な道を彷徨う。
「‥なまえちゃん、此の儘ーー黙って聞いてくれねぇかな?」
不思議だな、撃たれる雨弾が心地良い‥と呟いて、項垂れるなまえを今度は壊れ物を扱うかの様に優しく己の胸へと収めた永倉は、懺悔と決心を雨に熨せ、己の桜樹木を凛と主張させなまえに認めさせ酔うと観念した。
ーーズクン、ズクン
唯、唯、今宵の雨は止まない。
雨は残弾に変幻、灼熱し爛れた液体へと嘲笑えば、極寒の膿へ足枷を両脚へ嵌められれば、己の名前を呼ばれる事の、何度か体験済みの恐怖に狩られた。
ズクン、ズクン、ズクンーー!
欠陥だらけな心臓が痛い?
痛い、抱い、此処に居たい、
「実はよ‥俺‥いや、俺と左之‥」
やめてくれ、堪忍して下さい。
ーーその前置きは、もう懲り懲りだ。
米と味噌汁の関係からか、以前にも味わっているトラウマからなのか。
永倉の口から放たれる前から、今から彼が何をほざくか理解して終うなまえは、目を細めながら消え掛かる紅月を光らせれば、傷口から滴る血液の様な泪をツゥッ‥と綺麗な筋を抉り、永倉の洋服をギリギリ‥と掴みながらも意識を遠のかせ、ガクッと気を失うのであった。
「‥っ、大丈夫か!?‥何やってんだよ、バカか俺は‥!早く皆のとこへ戻って温めてやらねぇと‥っ!」
多々の疲れや逃げたい現実やらで身体が悲鳴を挙げ、無意識に意識を遮断する事で【生命】をやっとの想いで繋げた、彼なりの精一杯の無駄な抵抗故に、今だけは逃げる事をそっと許して欲しい。
誰かの言葉を借りれば、撤退は負けでは無く、勝利に繋げる術なのだからーー‥
唯、爛、雨は病まない。
腐って腐敗し、泥ドロに溶け、
地に舞満れては這い唾り、
其の儘、地獄絵までおいで?
手招く亜麻色蜜、真似く罠、
証である筈の連結鍵は、灼熱に負ければ垢錆を膿み、貫禄を喪って逝った。
雨泪弾に滲み撃ち殺された負犬共
(ほら見ろ)(服従した結果が此の様だ)
ーーー
二月に裂いた紫陽花は、殺戮を彩る火傷華炎舞
「桜花の家紋に、王者の貫禄を」
撤退をするという行為に、どうしても納得出来ず‥そして危うくは自暴自棄に陥りそうに成る近藤を宥め落ち付かせたのは、やはり此の漢ーー原田であった。
ポツ、ポツ、サアアアーー‥
冷たく様々なブツを詰めた雨玉は、哀しく濡らし戦場をシラけさせては嘲笑い注ぐのだが、果て、この急な雨天はもがき苦しむ近藤自身と共鳴し、せめてもの情けなのであろうか?
先程まで見事な晴天を掲げていた筈の群青は、銃口から上がる煙と同じ灰色に完膚無きまでに潰されては、助けて、と白旗を挙げるしか無く‥巨きな大きな涙を地上に溢れさせては足場を悪くさせ人々を困らせる。
(洟と泪を汚く垂れ流す、空目)
「撤退‥するぞ」
人生経験も人望も厚い彼に投げかけられれば、幾ら局長の立場で在ろう近藤でさえも観念するしか無かったのだが‥故に余裕など等に無い彼の鼓膜に、未だに木霊する銃器の耳障りな鳴き声や、先程まで仲間であった人物の泣き声から亡き乞へと無惨な姿と成り地に転がる情景は、やはり近藤を許しては呉れず追い詰め‥戦の厳しい現実を酷く叩きつけたのだった。
己の生命、名声、明成
混濁した心臓の要を無理矢理として戦に賭け生きているのは、敵も同じ事で在って、無論、我々が視点を併せている新選組だけでは無い虚しくも血肉抉る、悲しくも平等である自然の摂理ーー
(戦いは、勝者が正義)
「俺は‥一体、何をやっているんだ‥たくさんの仲間を死なせてしまった挙句‥こんな‥こんな事‥!」
後に、新選組への神の鉄槌は無情にも下って終い、彼らの撤退中に天霧単独の襲来により苦戦を強いられ、ギリギリ間に合い合流した土方が仲間の庇いに入れば、何とか襲来は回避出来たものの、故に代償として、土方羅刹化の秘密と羅刹の寿命の事柄について‥総てを近藤はじめとするその場全員に暴かれて仕舞えば、近藤は今度こそガラガラ‥と音を立てて奈落へと崩れ落ちた。
唯、唯、冷たい雨が降り注ぐ。
戦場の血飛沫や肉片を洗い流し、泥に混ぜてはまるで絵具かの如く鮮明に絵画を完成させる過程の中で、近藤は雨に打ち付けられながら唯唯‥泣く事しか出来ず、冷たく感じ無ければ成らない筈の雨玉が血液の様に生暖かく、生臭く錯覚して終い、大罪に陥り拘束された。
suffer a stinging defeat.
(痛い敗北を被る)
痛い、痛いよ
身体は寒く、心臓は苦しく
此処に、居たく無い
阻止たら、痛く無いのに
(低声な喉鳴らし)(痙攣する欠陥)
ーーー
「‥滑稽だな。雨で苦すむ銃器の黒煙は‥まるで逝急ぐ狼煙の様だ。」
ますます人間の醜さを知った、と放ちながら、雨でシラけた先程の戦の高みの見物を終えると、溜息と供に零し共感を得ようとする鬼の頭領ーー風間は、新選組から離れては、虚しくも恒例になった吐血行為を行っていた同胞、なまえに語り掛けていた。
「‥‥、」
二人を纏う雨音は何故か其の情景だけ贔屓され、嫌に心地良く、途切れ途切れになまえの吐き出した鮮血を洗い流してやれば、なまえは意地悪そうにオマケにもう一つ、と口内に溜まり残っていた血塊をベッ、と勢い良く吐き出し、雨と泥と血で汚れた左腕の包帯で口元をグッ‥と拭い、べろっ、と舌舐めずりを行う。
「‥奴らはどうした?
あれほど俺に仲間がどうのとほざき啖呵斬っていた筈だが‥まさか敗北を知り仲間を見捨て我が先に逃げたか?」
反吐が出る、と続け呆れる風間になまえは「あーあ‥折角のおべべ、もったいね、」と呟きながら己の着用する卸したての洋服に触れては風間を軽くあしらえば、紅月に冴え逆らい光を遮り濡らす空から堕ちる罪になまえは心を傷ませた。
「‥近藤さんが、泣いてる、」
雨は誰かの涙、と続ける妖鬼に先程まで難しい表情をしていた純潔鬼は、黙って彼の言の葉に耳を傾ければ、紅月は美しく輝きながら「俺が死んでまた産まれた日も、雨が降ってた、」と雨音に爆ぜては厭に綺麗に汚く咲きーー全く同時刻の刻、新選組の現在を求めるだけの為に雨液を全身に受けながらもズルズルと滑る足場の悪い中、懸命に走る蒼犬は、無論、ぬめる泥や土に足を滑らせ盛大に坂を転がり落ちては「いってえー‥!ったく、急に降ってきやがって‥!」と頭を摩り痛みを逃がしながらも、蒼犬‥井吹は、新選組の無事ばかり願った。
「‥千景、ごめんね?
‥あんたの目の前にいるみょうじは、あんたが求めてるみょうじじゃねーよ、」
今からでも俺と共に来い、なんて再度、風間に口説かれたなまえは、やれやれ‥と半ば呆れた様な笑みを浮かべては、己の汚れた左腕の包帯をシュルシュル‥とゆっくり解き、あれよあれよと露わに成り、そして見事に裂き誇る火傷華を風間へ魅せてやれば、流石の風間も喉を鳴らし悲観しながら必死で理由を探し、最近から過去のなまえの事柄を結び着けながら探っていけば、不意に、とある誓約を脳裏へと鮮明に映し混ませると「‥まさか‥連結鍵の‥」と息と零せなまえは静かに微笑んだ。
「消え掛けの灯火の本体、此のじゃじゃ馬が見過して許す訳が無い」
彼の左腕に燃え上がる桜花は、生臭い雨に濡れながら業火の如く十字架を散らせば、なまえの背負う全てを風間に植え付けては伝達をすると、其れを悟り知る風間は表情を完膚無きまでに殺し、故に納得せざる得なくする。
「‥‥っ‥‥くっ‥ ‥!」
降り頻る黒灯雨、亜麻色の傷み。
その場しのぎの血は洗い流しても、過去の罪を傷に染み渡らせる消毒液である雨は、時に純潔でさえも悔しみと哀しみで身体を震わせながら、いくら純潔である頭領で冴えも逆らえぬ運命論に苦虫を噛み擦り潰す。
どうしてだろう?
‥降り頻る雨が非道く生温く心地良い。
体温と同じ涙と同調するからなのか?
なまえの腰で揺れる印籠は、本来の主である人物が薄桜の歴史を其の瞳で観る刻を、徐々に徐々に狭めて愈く連れに比例して、中身の飴玉にガラッ‥と亀裂を刳り菓子の甘い香りを抹消させて逝く。
「ちーちゃん、風邪ひかないようにね、」
幾ら鬼とはいえこれ以上、冷たい空の下況してや此の時期が放つ冷たい気温の中、此の儘でいれば互いに身体を冷やすだろうと思い、未まだ放心状態に近い風間に一言告げたなまえは、後に静かに黙って其の場を去ると、彼の声を聞きやっとの思いで身体が動いた風間は、雨で被せた温かいモノを頬に流れさせながらも彼に背を向け、何も言の葉を言い返す事も出来ず、ザッ‥と地に足を擦らせ一歩退いた。
「‥なまえと始めて会ったあの晩に‥本来であれば死ぬ筈であった俺が更に生き、なまえより生かされる運命に‥俺は今迄味わった事の無い葛藤に狩られている‥!」
百鬼夜行、血泪筋の道ーー
今宵の雨は、簡単には止まない。
ひび割れた飴玉に映る妖の幾つもの鏡面から紅月を覗く姿見は、蜃気楼の様に儚く何処か滑稽で、嗚咽する程に意義を催し、やがて粉々に砕かれ踏み潰された飴玉は、蟻に群がられ朽ち果てるのだ。
(血反吐滲む泥雨、泥水啜った飴液)
ーーー
「‥なまえちゃん‥っ!今まで何処ほっつき歩いてやがったんだ!?‥っ、こんなにビショビショに濡れちまって‥!」
なまえの後に追い付く、との言葉を信じて先に撤退していた連中だったが、余りにも合流が遅い愛おしい姫を心配になり探しに行く事に成り、此の酷い雨の中、ビシャ、ビシャ‥ッと泥水を踏み潰し分けながら必死に探してようやくなまえを一番に見つけたのは、先日、少々揉めて仕舞った永倉であった。
「新八、‥あったけ、」
なまえは、ごめんな、と素直に安心しきる様に永倉の胸へと自ら収まる様に抱きつけば、永倉は、己の胸をズキンーー‥と傷ませながらも、思いきりなまえを抱き締めながら、己が抱いている桜樹木の決意と、今迄のなまえとの思い出を脳裏と心裏に描き満開にすれば、無意識になまえを抱き締める力は強く成り、さすがのなまえも息苦しさを覚え永倉の頬をむにっ、と摘めば「‥あんだよ、やっぱり怒ってんの‥?」とおずおず‥と質問して仕舞う。
「‥俺、もう新八にあんな瞳、むけられたくねー‥」
なまえは眉を下げながら悲しい表情をし、この間、一度だけ永倉の怒を含む瞳を向けられた事柄を思い出して仕舞えば、今は身体も弱っているからであろうか?意地を張る事もせず、心底から本音を永倉にぶつけては、正直に気持ちを放って仕舞うのであった。
「‥なまえちゃん‥」
「謝るから、俺を拒んだりしないで‥?」
滅多にお目に掛かる事の無いなまえの一面に、つい昔の頃の永倉であれば「俺がなまえちゃんを拒むわけないだろ!?可愛いなあ」と鼻の下を伸ばしながらデレッとしていたのだが、やはり状況と時代は其れを許す事は無く‥今の永倉は、なまえに優しい言葉を掛けられる度に、胸に大きな溝を刻まれ立派な傷跡を遺されて終い、酷く傷付いた表情をして魅せては伝達して仕舞うのである。
「‥ばってん、可愛い顔が台無し、」
無論、気持ちの良い程に正直で真っ直ぐな漢である永倉で在るからこそ、其れはダイレクトになまえへと見事に伝われば、永倉の放つ表情の意味をなまえながらに必死に探すと、やはり己の所為では無いか?と結論を結びつけて行き、ごめん、と悲しそうに続け顔を俯かせるしか出来ずに折、伝達が苦手ななまえは、卑怯で在るが永倉の次の言の葉に縋るしか術は無かった。
絆は、時として過剰な傷と為り、
邪道な未知は、蛇道な道を彷徨う。
「‥なまえちゃん、此の儘ーー黙って聞いてくれねぇかな?」
不思議だな、撃たれる雨弾が心地良い‥と呟いて、項垂れるなまえを今度は壊れ物を扱うかの様に優しく己の胸へと収めた永倉は、懺悔と決心を雨に熨せ、己の桜樹木を凛と主張させなまえに認めさせ酔うと観念した。
ーーズクン、ズクン
唯、唯、今宵の雨は止まない。
雨は残弾に変幻、灼熱し爛れた液体へと嘲笑えば、極寒の膿へ足枷を両脚へ嵌められれば、己の名前を呼ばれる事の、何度か体験済みの恐怖に狩られた。
ズクン、ズクン、ズクンーー!
欠陥だらけな心臓が痛い?
痛い、抱い、此処に居たい、
「実はよ‥俺‥いや、俺と左之‥」
やめてくれ、堪忍して下さい。
ーーその前置きは、もう懲り懲りだ。
米と味噌汁の関係からか、以前にも味わっているトラウマからなのか。
永倉の口から放たれる前から、今から彼が何をほざくか理解して終うなまえは、目を細めながら消え掛かる紅月を光らせれば、傷口から滴る血液の様な泪をツゥッ‥と綺麗な筋を抉り、永倉の洋服をギリギリ‥と掴みながらも意識を遠のかせ、ガクッと気を失うのであった。
「‥っ、大丈夫か!?‥何やってんだよ、バカか俺は‥!早く皆のとこへ戻って温めてやらねぇと‥っ!」
多々の疲れや逃げたい現実やらで身体が悲鳴を挙げ、無意識に意識を遮断する事で【生命】をやっとの想いで繋げた、彼なりの精一杯の無駄な抵抗故に、今だけは逃げる事をそっと許して欲しい。
誰かの言葉を借りれば、撤退は負けでは無く、勝利に繋げる術なのだからーー‥
唯、爛、雨は病まない。
腐って腐敗し、泥ドロに溶け、
地に舞満れては這い唾り、
其の儘、地獄絵までおいで?
手招く亜麻色蜜、真似く罠、
証である筈の連結鍵は、灼熱に負ければ垢錆を膿み、貫禄を喪って逝った。
雨泪弾に滲み撃ち殺された負犬共
(ほら見ろ)(服従した結果が此の様だ)
ーーー
二月に裂いた紫陽花は、殺戮を彩る火傷華炎舞
「桜花の家紋に、王者の貫禄を」