罪罰の十字架を刻む左手、「誠」を護る右手
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「…っ、くしゅっ…!」
床の間に癒な暉が注し軟らかな橙に中てられながらも、致し方なく布団に就き病を抱える沖田は、不安と不服を抱き故に掻き消そうとするかの様に嚔を一つ落とすと、自身の持つ双方の翡翠を揺らす。
(…近藤さんとなまえさん…体調大丈夫かな?
くそっ…!僕がこんな状態じゃなければ常に二人の側に居られるのにっ…!!)
感情が高ぶったその瞬間と供に、沖田の体内から吐き出される煩わしい咳と朱く染まる運命を青白い掌に握りながら、醜く侵食されて塗り潰されてゆく己の本体に苦虫を噛み潰す。
何故、己の意志に反する身体に魂を宿し、望まない休息をしなければならない?
(どうして僕の身体は、言うことを聞いてくれないの…?)
其の本体の意志は、誰よりも何よりも代え難い在る二人の容態を優先に気に掛かけ、何時も来る日も時を刻む事に段々と更に青白くなって逝く己の肌と比例し重ねる毎にーー想いは痛い程儚く、温もりを求める要に強くなっていった。
「げほっ…!ごぼっ…っ…!
…っ…せめて僕が足手纏いにならないで動ける時間が少しでもあれば…!それまではムカつくけど…土方さんに頼るしかないよね…」
朱に染まる運命と黎く滲む呼吸怨、思念の祈りが青白い掌から拳へと落を裁てて爪を肉へ抉り込みながら翡翠から垢へと飼える沖田を余所に、時間帯という平等で残酷な針は、新選組屯所へと視点を換え、大きな歴史書を呼去へと遺す。
「…昔も今も此からも…俺は近藤さんと近藤さん率いる新選組を護る、…それは譲れない、」
矧がれて路、虚しい昼下がり。
沖田の掌が血滲む同刻、静かに香りながら寄せては孵す拭えない咲みを誇る譲れない紅の十字架は、哀しくも時に残酷、故に手段を問わず生々しく輝き存在を叩きつけ植え込んだ。
嗚呼…此が新選組の看板位置、みょうじだと体内に二酸化炭素と酸素を巡らせ示め伏せ愛に飢えれば、莫迦な鶏も黙って鶏冠を提げるだろう。
源争、幻想、眩找
景で乱す綴り綟、雫石の壊吐論理。
(鋼の喚、不協和音)
今の現状のみ脇の土方を基めとし、なまえが煙を散らす刃の世に鋭利で硝子砂が舞い散る感覚に…一味は様々に悲喜混まれる個々の感情に嘘は無く、また惟こそが『新選組』と諦め、幼き子供の様な我儘に似た心で武装を纏い包、癒に爛れる紅月に触れて仕舞った永倉は、其れは其れは酷く傷吐いた光彩を零し、握拳をギリッ…と鳴らし俯いて仕舞う事しか手段は残される事は亡く。
「…なまえ…」
こんな情景をこれ以上、瞳に灼き漬けるなんて冗談じゃないと感じた原田がなまえの名を呼び、今、自分が出来る最大の庇いを入れようとするが、永倉は「…左之…、もういい…」と掠れた声で呟き阻止を第一、第二に「…俺も、俺だって譲れねぇ信念を抱えてるのは一緒だからな…!」と放った後、先程作ったやり場のない握拳を壁にドンっと殴りつけ行き場の無い気持ちを八つ当たりする。
「…っ…!?」
心中穏やかでは無いが其れでも親愛なる彼の為だと黙って見守っていたが、今の合図で堪忍袋の緒が切れそうになって仕舞う斎藤が横槍を入れようと前に体を出すが、賺さずなまえが斎藤の肩をぽんっ、と叩き宥めた後に、永倉に「上等!俺と新八ってそういうめんどくせー所、似てんだよなー?」と柔らかく微笑み返せば、もうこれ以上誰も何も逆らう事は無論、感情を剥き出しもせず返す事は無くーーその場は皆、何とも言えない情を抱いた儘、解散するのであった。
あの状況で皆が集まる事無く、寧ろ話さなければ良かったなんて、新選組である職務を全うする筈の会議なのに…後悔の渦だけが彼らを襲う。
(火眩の定義、螺旋折れる冠)
ーーー
「新八…さっきのは流石に…」
「わかってる…!俺が大人気なかった事くらい…っ…!」
皆の者が解散した後、原田と永倉は裏庭に二人で足を運び、そして先程の発言に後悔の塊を背負いながらやるせない想いを吐き出せば、どうにかしてでも浄化させたいと願って仕舞う。
同時に、結構前から永倉が心に抱いていた或る一つの【桜樹木】について「…あのよ…」と口を開き先陣を斬れば、原田は黙って頷き耳を傾く体勢が整い、男と男の真剣な内緒話を咲かせ花弁が舞う。
「…結構、前から…」と、永倉の唇が動くと同時に、風が舞い上がり淀む波を熾し、新選組の【運命】の吹は一閃の浅葱色を山形に刻んでは叫んだ。
「疾風」「櫻吹雪」
桜樹の枝は、小さな粒華を幾つも咲かせ堂々たる威厳樹なり王者の風格を示す為に、何本の道を造って儚き命を誇らせば、人や動物や他植物を魅了させ絶対的に誇るのだ。
其れは、日本史を司る【新選組】も同じ事で徳ーー…
(揺るぎなき信念、敬愛なる覚悟)
1日は過ぎ、また日を重ね…
飛び散る金糸雀の四季折々、
すれ違い交わる方針演義。
(暖光が哀しそうに洟)
「…先程はすまんな…。
いかん!俺がしっかりとしていれば…なまえにまでも、とばっちりが行くような真似は無かっただろうに…。」
近藤が悲しい表情を浮かべ言の吐を漏らせば、なまえはズキズキ…と痛む己の左腕を包帯の上から擦りながら「んー?あんたは堂々と今みたく俺達の前に立っててくれりゃいい、」と柔らかく微笑み掛けるが、やはり先程のやり取りの情景を思いだして仕舞う。
「…新八のあの眼を食らうとはな、」
永倉の漢気溢れる真っ直ぐな瞳に睨まれ尚且つ敵意を抱く色彩に中てられれば、さすがのなまえも胸に鈍痛が走り、急いで誤魔化す様に外の景色へと視線を投げ、紅月の瞳の丸みを平らにし口を三日月に刺せば、屯所から眺める庭の情景を眺め瞬に秒針が止まる錯覚に陥ると、暖かい太陽と平助の笑顔が暈なり、癒をなまえに施しを与えた。
『ったくー!早く仲直りしろよなー?』
…そんな鉄砲玉の囁きをポンッと乗せたかの様な、しかし癒に心地よく風が舞うと、なまえの心に香がシトシトと浸透していけば、太陽の咲みを持つ平助がこうして本物の太陽になっても彼には世話を掛けちまうんだなー、なんて苦笑いを落としながら、なまえは静かに次に産まれる言葉を紡ぐ。
「…たまには、ぶつかるのもいーべ?」
いつでも仲良しこよしなんて味気ねー、なんてなまえが悪戯に続ければ、近藤は「そうか…?」と放ち、しかし眉を八の字に下げた儘応えれば、先程からのなまえの仕草に疑問を覚え「左腕…どうかしたのか?」と不思議そうに問いかけた。
「ん…?いーやー?」
近藤の前なのに己に余裕が無く気回らなかった、と我に返りパッと己の左腕から手を放せば、なまえは、行き場のない手を誤魔化すかの様に目の前の湯呑に手を掛け茶を啜れば、近藤は鋭い視線で「…左腕、怪我したのか?最近のお前の包帯の巻き方…痛々しい程にギッチリしていないか…?以前は緩く手首あたりまで巻いてたのが、今は肩までキツく巻いておるし…。包帯は格好の一つでは無かったのか?」と核心に突き、近藤はなまえを辛く攻めれば、なまえの心臓は爆音を奏でながら、どうすればこの状況から逃れられるかを必死で脳裏と心裏で堪えを探すしか術は無くーー
「…っ、あ…」
なまえは、近藤に怒哀を含む感情で何かを問われる時が最も苦手としており、視界が揺らぐ様な眩暈に襲われそうになりながら無意識にジリジリ…と退いていけば、近藤は、「…なまえ…?」と八の字の眉から逆八の字の眉を描き初め、眉間に皺を寄せながら困り果てる彼を許す事もせず逆に問い詰めゆっくりと迫りながら「…左腕を見せなさい。」となまえに投げかけ壁際に追い詰めると、なまえは吐息を漏らし、そして額からは大量の汗が流れ空気を飲むのであった。
(…っ…冗談だべ…?)
ーー…
「あの…斎藤さん。斎藤さんは、自身の利き手である左手を優先に使って物を掴んだり作業をしたりしますよね…?」
其れと同じ頃ーー…
本日の飯担当である千鶴と斎藤は、湯を沸かせたり食材の下拵えを行えば、その場からはトントン、とリズミカルに包丁が鳴る音や、飯を思い浮かばせる様に食欲を誘う音を点てており、食欲を湧かせる場景を描いていた。
「…無論、己の利き手だからな。
今もこうして俺は左手で包丁を扱っているだろう?
…何故、そんな解りきった事を聞く?」
「そうですよね!…いきなり変な事を伺ってごめんなさい。
あの…私の勘違いなら良いのですが、最近…なまえさんの様子がおかしい様に見えまして…。
先程、仰った様に、本来なら一度差し出した利き手の左手で作業を優先に行うと思うのですが…でもなまえさんは差し出した左手を何故か引っ込めて、わざわざ右手に代えて作業をする事を何度か目にして…。
何故だか…痛みから左を庇うみたいに。」
それに特に夜中、物凄く苦しそうな咳をする回数が多くなって…と、小さく続けた千鶴が調理の手を止めたと思えば、今にも泣き出しそうな表情をして唇を噛むと、「…私の思い過ごしですよね?」と、斎藤に否定の答えを無意識に求める。
「…っ…」
話題の彼の【真実】を知る斎藤の碧は哀しく揺れ胸をドクンー…!と鳴らし、どうしても強烈な悲愴に襲われて終えば、つい己が奏でていた包丁のリズミカルな音を止ませて終っては、思い切り眼を瞑り、一瞬、沈黙を置くしか出来ずにいた
(…くっ…!何故、雪村が気付く程のなまえの仕草を…俺は気が付かなかったのだ…!)
己のまだ知らない【猛毒】が未だ有り、左手の件は聞き捨てならずーー…いくら新選組隊士の人数が少ない故に斎藤が携わる仕事も徐々に増えたとは言えど、親愛なるなまえの仕草を見落とし、尚且つ僅かな年数しか供にしていない千鶴に気がついて報告されるとは…斎藤本人が己を己で許せなく、今後は更になまえに気遣う事を己と約束を交わした。
「…あんたは誰に向かってその様な心配をしている?…なまえは、無論、大丈夫だ…」
手に握る包丁をカタカタ…と震わせながら放つ嘘は、自身の声帯や声までにも伝染させようとする事を必死に堪えながら、斎藤も親愛なる彼の最期まで信じたいと願う祈りと逃れられぬ運命の苛立ちを、哀しく千鶴にぶつけて終いーー…
「…そうですよね!」
一体、碧の貫く太い武士道は、なまえの生涯にどれだけ深く関わっていけるのか?
結局、それさえも自己満足であって彼に対して出来る事なんて所詮、何も無いのだ。
千鶴の安心しきる表情が、斎藤の芯を不覚、深く、抉り殺す、
「ちょっ…近藤さん…!」
壁際に追い詰めては、全力で嫌がるなまえの左腕の包帯を無理矢理解いていく近藤の表情は、なまえ自身も始めて見る程の辛く苦しそうな表情であり、正直、今、自身が放つ静止の言葉は、己の秘密を暴かれそうに成る事よりも、親愛なる彼の其の最も辛そうな表情を止めさせたくて放つ方が強いのかもしれないと、なまえは深く感じて終う。
【身体と試が同時に凍り、粉々に砕け散る感覚に陥り、否応無し】
「…俺は、もう…楽に成りたいのかもしれんな…。」
なまえの左腕の包帯をゆっくりと解きながら零し、光と闇のコントラストを浮かび上がせながら放つ近藤の背負う重さと言葉の意味に、なまえは、自身が近藤の為に成ると思い今まで行ってきた事は、逆に親愛なる彼を酷く疵突けて居たのでは無いのか?と勘ぐり気付き、紅月は洟水面にゆらゆらと哀しく不安定に揺れ泣いた。
「…近藤さん…俺…、」
「…ははっ、すまんな?ついついなまえに八つ当たって仕舞った様だな…!お前が嫌がってるのに、すまなかった。」
暫くの沈黙が続いた後、近藤が何かを想い、そして苦笑いを貶しながら無理矢理解いて仕舞ったなまえの包帯をもう一度、ゆっくりと丁寧に基の様に巻いてやれば、なまえは「…ごめん、」と一言漏らし、後は表情と共に顔を俯かせるしか無かった。
「なまえが何故謝る?悪いのは俺だろう?
お前にはすぐ甘えてしまうからな…俺の悪い癖だな。」
昔からどうしてもな…と続けて近藤が申し訳無さそうに言えば、なまえは「っ…!近藤さんになら何言われても…」とハッとした表情になり喰って掛かるように言い返すと、近藤はまた哀しそうな表情をし「…俺はお前の事…ちゃんと解ってやれているのだろうか…?」と辛そうに零したと同時に左腕の包帯は綺麗に巻き直しが完成すると、優しくポンっと撫でてやれば「出来たぞ。純粋な白は眩しいな…」と目を細めてなまえに続けたのだった。
「…俺が近藤さんの事を解っていれば、それでいい、」
俺さえ近藤さんを見て護れれば、と紅月を力強く輝かせれば、底に偽り等全く無い事が誰にでも理解でき、其れが逆に近藤をどうしても疵突けて終う事に成ってもなまえは手段を問えず意志を貫き通す。
現に近藤は、なまえの【猛毒】の件については知る術も訳も無く居る訳であって。
「…なまえ」と彼の名を零す近藤の声をわざと遮ったなまえは「…あー、トシ、トシ、ばっかり言って土方さん贔屓だと俺、ヤキモチやいちまうかも?」とにっ、と悪戯に笑いを零し続けては、近藤を「…かなわんなあ」と返させばーー此がなまえ自身、此の「隠し事」を持つ事を最も望み尚且つ必ず貫き通す事を決心し、譲る気は毛頭無いのだから、もう此で良いのでは無かろうか?
(俺に残されてる灯が消えかかっているのなら、どうか此の儘で、)
日溜まりも心地よく、緑茶も巧い。
瞬の幸せな季位ーー…逃れられぬ運命って奴も、今だけで良いから。
頼むから、黙って言う事聞いて呉れやしないか?
ーーー
「…っ、なまえさん〃とても素敵ですっ…〃」
甲府に向かう朝が訪れ千鶴も皆の集まる広場に足を運べば、隊士達は何時もよりも早く起きて準備を終わらせており、良く見ると彼らは洋装へと身を包ませている場面を目にすると、無論、己の愛しい男の姿が早々と写れば、千鶴は案の定暫くなまえの洋装に思いきり見惚れて仕舞い、ハッと我に返りわたわたと慌て赤面しながらも声を掛けた。
「…ん、動きやすい、」
ジャラ…ッとした連結鍵の鎖を奏でながら軽く身体をグッと伸びをしたなまえは、声を掛けてきた千鶴に目を合わせ歯をにっ、とさせ微笑むような表情を返すと、千鶴は物凄く嬉しそうな表情をした後、なまえの包帯に目線を落としつつ気付いて仕舞い、すぐさま不安そうな表情へと崩しながら「包帯、今までのように腕までではなく、肩にかけてまでキツく巻く様にしたのですか…?」と続けて漏らして仕舞えば、付近にいた斎藤と土方の雰囲気は反応する様に、鋭く重く変化した。
「…包帯無いと、左だけ寒いべ?」
長袖の洋服だったのにー?わざと左の袖だけ鬼副長様に切られた。なんかみっともねーから包帯で誤魔化してみたんだけどよー、と続けながら、二人の変化を瞬時に悟ったなまえは、その場の囲気を和ませ換える為に、軽く悪戯にかましてみては、ひそひそと千鶴の耳許で「内緒だぜ?」と囁いた。
「さすが土方の兄貴。センスねー、」
わざと敢えて土方に聞こえる様に放つなまえは、頬をぷくーっと膨ませ土方を甘く睨むと、ぽかんと拍子抜けした土方から次の瞬間、問答無用に飴玉がスコンッとなまえの頭に投げつけられ「…ちっ!いいから、お前は戦前に血糖値あげとけよ?」とやれやれ…と溜息を含まれながら吐き捨てられた。
「…む、土方さんの意地悪、」
恐らく血糖値とは、なまえの吐血と関連させ暗示ており、やはりなまえより上手だった土方の倍返しには流石のなまえも慌てて、しーっ、と口に一指し指をあてすぐさま謝罪を入れれば、次は土方が悪戯に微笑む番であった。
「おめェの包帯を繋ぎ紐代わりにして、俺が見張りながら引っ張って置かねーとな?バカ獣」
リード変わりだから、その軽く垂れてる部分以外は外れねェ様にちゃんとキツく縛っておけよ?と紫を光らせながら土方に言われれば、なまえは悪戯に身体を震わせると(情け無いが)千鶴の背にコッソリと隠れて仕舞いながらも、背からひょこっと顔だけを覗き出しオマケに舌をんべっ、と出せば「紐引かれんなら、おっかねー土方さんより優しい一がいい。」とキッパリ放てば、なまえのそんな調子に巻き込まれた斎藤も「…副長、なまえの傍には俺が居るので、御安心を。」と、続ける彼もすっかり雰囲気を元に戻しては、含み笑いを落としながら放つのであった。
「新八も左之も居るし、俺って幸せ者ー、」
先程のやり取りを羨ましそうに眺めていた永倉と原田に、急にむぎゅーっ、と力強く抱き付いたなまえは、気まずい気持ちと驚く気持ちを隠せない二人に向かって「…米と味噌汁の関係だもんな?」と真剣な表情と力強い紅月を輝かせ問い掛ける。
斯うして、いつの間にかなまえが空気を握る。
此があの時代に轟く「新選組」なので在ろうか?
薄桜の歴史を学んだ者には、是が非でも知って頂きたいーー
新選組のみょうじは、こんな人物である。
「…ああ…!」
二人は物凄く柔らかい笑みを浮かべ、静かにゆっくり頷きそしてなまえを真ん中にして二人で彼を挟めば、頬と髪に軽く口付けを落としながら、原田が「お前は俺らの大切な姫だからな…?」と愛おしそうになまえを抱きしめれば、永倉も「あっ…!左之、ずりぃぞ!?」といつもの調子であれよあれよとなまえ争奪戦の開始である。
「…なまえちゃん…、わるかったな…。」
やっと素直になれた永倉は、この間の件から、ずっと心に引っかかっていた事総てを今の一言に詰め込むと、なまえは「…ったくよ!」と照れ笑いしながら永倉の頬を強くむぎぎっ、と引っ張り彼なりの愛情表現を精一杯贈れば、いつもの永倉の「いひゃ、いひゃひゃ」との、甘えた声が広間全体にキラキラと広がった。
ーーー
『松本先生、アイツの腕の事なんだが…。』
土方は、なまえの左腕の件を何となく堪付き、なまえの腕について松本に問い相談したところ、松本の口からは「先日の戦の際に火傷を負ったから、彼からは塗り薬を求められた」とのみの応えしか返って来ず、しかし其れが又しても一つ、土方の心配の種と成っていたのだ。
「よし!お前ら、そろそろ時刻だ!
戦中、気ィ抜くんじゃねェぞ」
土方の説明だと、敵は全員洋装で有り此方の方が都合が良いとの事らしく…洋装である為、和に合っていた長い髪もバッサリ切った者も多く、スタイリッシュな印象が強く出て織り、新選組一同、改めて仕切り直しの声を掛け、新たなる誠に火を掲げる。
部屋の隅に置かれ、唯一つだけ卸される事無くそのまま綺麗に箱に入っている洋装は、何処か寂しそうで在ったーー
こうして新選組は【甲陽鎮撫隊】と名を改め、八王子経由で甲府へ向かう事と成ったがーーしかし甲府城が既に敵の手に渡って仕舞っているとの情報が廻り、其れが新入りの隊士達を激しく動揺させて仕舞う結果と成り、当初は三百人程だった隊士達の半分以上が脱走し、百人程まで減って仕舞う疫病が彼らを襲う。
永倉や原田は撤退するべきだと主張したが、近藤は此処に陣を敷き、あくまでも徹底抗戦するつもりの様でーー幕府から武器や資金を与えられているのに、何もせず引き返す事は出来ない…此が近藤の主張であった。
「…とりあえず俺ァ、江戸に駐屯している増援部隊を呼んで来る。…此処で負け戦をする訳にゃ、いかねェからな。」
隊士には此の後、援軍が到着するって伝えておいてくれ、と続ける土方の命に、斎藤やなまえはすぐに隊士達の元へと走れば、残った千鶴は土方と供に走り、私に何か出来る事があれば!と心の底から願するのだが、やはり流石に断られて仕舞った。
「もし新政府軍の連中と戦闘になって危ねェ状況になったら、斎藤やなまえと協力してなんとしてでも近藤さんを逃がせ。
だが決して無茶はすんじゃねェぞ?いいな…!」
千鶴と土方が【武士の誓い】を立て刀の交わる音を幻想的に奏でる余所に、現実は哀しくも常に動いて折り、血の流れる響と飛沫、銃や大砲が泣き喚く煩わしい呼も、それぞれが抱く強く儚く優しく暁る個々の想いも熨せ、生死を賭けた戦場に虚しく響き淡く降り注いだ。
【草の波は逃げる溶に悲喜、火の海へと一瞬にして変貌する無条件降下】
ーーー
「…っ、甲府城が…!?」
風の便りや人の声の便り、そして信頼し確実である供に生活する平間からの情報で、己自身の耳に改めて新選組の件が伝わった井吹は、昔、なまえが綺麗だと誉めてくれた瞳を拡張させながら息を飲んだ。
「…やはり彼らが気になりますか?井吹君…。」
眉を下げながら然し当時と変わる事無く柔らかい表情で優しく笑む平間の問いに、井吹は核心を突かれ伏せるが、故に揺るぎない決心を胸に抱き、其れを負けずに貫く事を選んだ。
「芹沢さんへの恩返し…俺がやらなければならない事。
今、その時だと思う…!」
なまえに救われた此の命。
あの時、井吹に道を示して呉れた今は亡き芹沢の目となり足となり…今後の時代を生き抜き彼に伝えていく恩返しをしたいーー
「平間さん、ごめん…行ってくる…!」
此の誓いを決して忘れては居ない井吹は、強き一人の男として、決して安全では無いであろう戦地を追い掛け地に足を踏む。
黎明から刻まれた男太刀の絆は、何年時を刻もうが「誠」の旗の基に集いし契約。
【息吹に桜花を熨せ、新選組の声明を世に舞う叶如く】
契斬れる事の無い鎖は、龍の息吹の鱗に絡み腐り、外れ解ける事は決して許さない。
(鍵を背負う蒼犬、暁を超え奇譚を駆けるーー)
罪罰の十字架を刻む左手、「誠」を護る右手
(桜火の浸食)(黎明と奇譚)
ーーー
繋ぎ留めたい主張の包帯
左腕を千切るか、誠を契るか
床の間に癒な暉が注し軟らかな橙に中てられながらも、致し方なく布団に就き病を抱える沖田は、不安と不服を抱き故に掻き消そうとするかの様に嚔を一つ落とすと、自身の持つ双方の翡翠を揺らす。
(…近藤さんとなまえさん…体調大丈夫かな?
くそっ…!僕がこんな状態じゃなければ常に二人の側に居られるのにっ…!!)
感情が高ぶったその瞬間と供に、沖田の体内から吐き出される煩わしい咳と朱く染まる運命を青白い掌に握りながら、醜く侵食されて塗り潰されてゆく己の本体に苦虫を噛み潰す。
何故、己の意志に反する身体に魂を宿し、望まない休息をしなければならない?
(どうして僕の身体は、言うことを聞いてくれないの…?)
其の本体の意志は、誰よりも何よりも代え難い在る二人の容態を優先に気に掛かけ、何時も来る日も時を刻む事に段々と更に青白くなって逝く己の肌と比例し重ねる毎にーー想いは痛い程儚く、温もりを求める要に強くなっていった。
「げほっ…!ごぼっ…っ…!
…っ…せめて僕が足手纏いにならないで動ける時間が少しでもあれば…!それまではムカつくけど…土方さんに頼るしかないよね…」
朱に染まる運命と黎く滲む呼吸怨、思念の祈りが青白い掌から拳へと落を裁てて爪を肉へ抉り込みながら翡翠から垢へと飼える沖田を余所に、時間帯という平等で残酷な針は、新選組屯所へと視点を換え、大きな歴史書を呼去へと遺す。
「…昔も今も此からも…俺は近藤さんと近藤さん率いる新選組を護る、…それは譲れない、」
矧がれて路、虚しい昼下がり。
沖田の掌が血滲む同刻、静かに香りながら寄せては孵す拭えない咲みを誇る譲れない紅の十字架は、哀しくも時に残酷、故に手段を問わず生々しく輝き存在を叩きつけ植え込んだ。
嗚呼…此が新選組の看板位置、みょうじだと体内に二酸化炭素と酸素を巡らせ示め伏せ愛に飢えれば、莫迦な鶏も黙って鶏冠を提げるだろう。
源争、幻想、眩找
景で乱す綴り綟、雫石の壊吐論理。
(鋼の喚、不協和音)
今の現状のみ脇の土方を基めとし、なまえが煙を散らす刃の世に鋭利で硝子砂が舞い散る感覚に…一味は様々に悲喜混まれる個々の感情に嘘は無く、また惟こそが『新選組』と諦め、幼き子供の様な我儘に似た心で武装を纏い包、癒に爛れる紅月に触れて仕舞った永倉は、其れは其れは酷く傷吐いた光彩を零し、握拳をギリッ…と鳴らし俯いて仕舞う事しか手段は残される事は亡く。
「…なまえ…」
こんな情景をこれ以上、瞳に灼き漬けるなんて冗談じゃないと感じた原田がなまえの名を呼び、今、自分が出来る最大の庇いを入れようとするが、永倉は「…左之…、もういい…」と掠れた声で呟き阻止を第一、第二に「…俺も、俺だって譲れねぇ信念を抱えてるのは一緒だからな…!」と放った後、先程作ったやり場のない握拳を壁にドンっと殴りつけ行き場の無い気持ちを八つ当たりする。
「…っ…!?」
心中穏やかでは無いが其れでも親愛なる彼の為だと黙って見守っていたが、今の合図で堪忍袋の緒が切れそうになって仕舞う斎藤が横槍を入れようと前に体を出すが、賺さずなまえが斎藤の肩をぽんっ、と叩き宥めた後に、永倉に「上等!俺と新八ってそういうめんどくせー所、似てんだよなー?」と柔らかく微笑み返せば、もうこれ以上誰も何も逆らう事は無論、感情を剥き出しもせず返す事は無くーーその場は皆、何とも言えない情を抱いた儘、解散するのであった。
あの状況で皆が集まる事無く、寧ろ話さなければ良かったなんて、新選組である職務を全うする筈の会議なのに…後悔の渦だけが彼らを襲う。
(火眩の定義、螺旋折れる冠)
ーーー
「新八…さっきのは流石に…」
「わかってる…!俺が大人気なかった事くらい…っ…!」
皆の者が解散した後、原田と永倉は裏庭に二人で足を運び、そして先程の発言に後悔の塊を背負いながらやるせない想いを吐き出せば、どうにかしてでも浄化させたいと願って仕舞う。
同時に、結構前から永倉が心に抱いていた或る一つの【桜樹木】について「…あのよ…」と口を開き先陣を斬れば、原田は黙って頷き耳を傾く体勢が整い、男と男の真剣な内緒話を咲かせ花弁が舞う。
「…結構、前から…」と、永倉の唇が動くと同時に、風が舞い上がり淀む波を熾し、新選組の【運命】の吹は一閃の浅葱色を山形に刻んでは叫んだ。
「疾風」「櫻吹雪」
桜樹の枝は、小さな粒華を幾つも咲かせ堂々たる威厳樹なり王者の風格を示す為に、何本の道を造って儚き命を誇らせば、人や動物や他植物を魅了させ絶対的に誇るのだ。
其れは、日本史を司る【新選組】も同じ事で徳ーー…
(揺るぎなき信念、敬愛なる覚悟)
1日は過ぎ、また日を重ね…
飛び散る金糸雀の四季折々、
すれ違い交わる方針演義。
(暖光が哀しそうに洟)
「…先程はすまんな…。
いかん!俺がしっかりとしていれば…なまえにまでも、とばっちりが行くような真似は無かっただろうに…。」
近藤が悲しい表情を浮かべ言の吐を漏らせば、なまえはズキズキ…と痛む己の左腕を包帯の上から擦りながら「んー?あんたは堂々と今みたく俺達の前に立っててくれりゃいい、」と柔らかく微笑み掛けるが、やはり先程のやり取りの情景を思いだして仕舞う。
「…新八のあの眼を食らうとはな、」
永倉の漢気溢れる真っ直ぐな瞳に睨まれ尚且つ敵意を抱く色彩に中てられれば、さすがのなまえも胸に鈍痛が走り、急いで誤魔化す様に外の景色へと視線を投げ、紅月の瞳の丸みを平らにし口を三日月に刺せば、屯所から眺める庭の情景を眺め瞬に秒針が止まる錯覚に陥ると、暖かい太陽と平助の笑顔が暈なり、癒をなまえに施しを与えた。
『ったくー!早く仲直りしろよなー?』
…そんな鉄砲玉の囁きをポンッと乗せたかの様な、しかし癒に心地よく風が舞うと、なまえの心に香がシトシトと浸透していけば、太陽の咲みを持つ平助がこうして本物の太陽になっても彼には世話を掛けちまうんだなー、なんて苦笑いを落としながら、なまえは静かに次に産まれる言葉を紡ぐ。
「…たまには、ぶつかるのもいーべ?」
いつでも仲良しこよしなんて味気ねー、なんてなまえが悪戯に続ければ、近藤は「そうか…?」と放ち、しかし眉を八の字に下げた儘応えれば、先程からのなまえの仕草に疑問を覚え「左腕…どうかしたのか?」と不思議そうに問いかけた。
「ん…?いーやー?」
近藤の前なのに己に余裕が無く気回らなかった、と我に返りパッと己の左腕から手を放せば、なまえは、行き場のない手を誤魔化すかの様に目の前の湯呑に手を掛け茶を啜れば、近藤は鋭い視線で「…左腕、怪我したのか?最近のお前の包帯の巻き方…痛々しい程にギッチリしていないか…?以前は緩く手首あたりまで巻いてたのが、今は肩までキツく巻いておるし…。包帯は格好の一つでは無かったのか?」と核心に突き、近藤はなまえを辛く攻めれば、なまえの心臓は爆音を奏でながら、どうすればこの状況から逃れられるかを必死で脳裏と心裏で堪えを探すしか術は無くーー
「…っ、あ…」
なまえは、近藤に怒哀を含む感情で何かを問われる時が最も苦手としており、視界が揺らぐ様な眩暈に襲われそうになりながら無意識にジリジリ…と退いていけば、近藤は、「…なまえ…?」と八の字の眉から逆八の字の眉を描き初め、眉間に皺を寄せながら困り果てる彼を許す事もせず逆に問い詰めゆっくりと迫りながら「…左腕を見せなさい。」となまえに投げかけ壁際に追い詰めると、なまえは吐息を漏らし、そして額からは大量の汗が流れ空気を飲むのであった。
(…っ…冗談だべ…?)
ーー…
「あの…斎藤さん。斎藤さんは、自身の利き手である左手を優先に使って物を掴んだり作業をしたりしますよね…?」
其れと同じ頃ーー…
本日の飯担当である千鶴と斎藤は、湯を沸かせたり食材の下拵えを行えば、その場からはトントン、とリズミカルに包丁が鳴る音や、飯を思い浮かばせる様に食欲を誘う音を点てており、食欲を湧かせる場景を描いていた。
「…無論、己の利き手だからな。
今もこうして俺は左手で包丁を扱っているだろう?
…何故、そんな解りきった事を聞く?」
「そうですよね!…いきなり変な事を伺ってごめんなさい。
あの…私の勘違いなら良いのですが、最近…なまえさんの様子がおかしい様に見えまして…。
先程、仰った様に、本来なら一度差し出した利き手の左手で作業を優先に行うと思うのですが…でもなまえさんは差し出した左手を何故か引っ込めて、わざわざ右手に代えて作業をする事を何度か目にして…。
何故だか…痛みから左を庇うみたいに。」
それに特に夜中、物凄く苦しそうな咳をする回数が多くなって…と、小さく続けた千鶴が調理の手を止めたと思えば、今にも泣き出しそうな表情をして唇を噛むと、「…私の思い過ごしですよね?」と、斎藤に否定の答えを無意識に求める。
「…っ…」
話題の彼の【真実】を知る斎藤の碧は哀しく揺れ胸をドクンー…!と鳴らし、どうしても強烈な悲愴に襲われて終えば、つい己が奏でていた包丁のリズミカルな音を止ませて終っては、思い切り眼を瞑り、一瞬、沈黙を置くしか出来ずにいた
(…くっ…!何故、雪村が気付く程のなまえの仕草を…俺は気が付かなかったのだ…!)
己のまだ知らない【猛毒】が未だ有り、左手の件は聞き捨てならずーー…いくら新選組隊士の人数が少ない故に斎藤が携わる仕事も徐々に増えたとは言えど、親愛なるなまえの仕草を見落とし、尚且つ僅かな年数しか供にしていない千鶴に気がついて報告されるとは…斎藤本人が己を己で許せなく、今後は更になまえに気遣う事を己と約束を交わした。
「…あんたは誰に向かってその様な心配をしている?…なまえは、無論、大丈夫だ…」
手に握る包丁をカタカタ…と震わせながら放つ嘘は、自身の声帯や声までにも伝染させようとする事を必死に堪えながら、斎藤も親愛なる彼の最期まで信じたいと願う祈りと逃れられぬ運命の苛立ちを、哀しく千鶴にぶつけて終いーー…
「…そうですよね!」
一体、碧の貫く太い武士道は、なまえの生涯にどれだけ深く関わっていけるのか?
結局、それさえも自己満足であって彼に対して出来る事なんて所詮、何も無いのだ。
千鶴の安心しきる表情が、斎藤の芯を不覚、深く、抉り殺す、
「ちょっ…近藤さん…!」
壁際に追い詰めては、全力で嫌がるなまえの左腕の包帯を無理矢理解いていく近藤の表情は、なまえ自身も始めて見る程の辛く苦しそうな表情であり、正直、今、自身が放つ静止の言葉は、己の秘密を暴かれそうに成る事よりも、親愛なる彼の其の最も辛そうな表情を止めさせたくて放つ方が強いのかもしれないと、なまえは深く感じて終う。
【身体と試が同時に凍り、粉々に砕け散る感覚に陥り、否応無し】
「…俺は、もう…楽に成りたいのかもしれんな…。」
なまえの左腕の包帯をゆっくりと解きながら零し、光と闇のコントラストを浮かび上がせながら放つ近藤の背負う重さと言葉の意味に、なまえは、自身が近藤の為に成ると思い今まで行ってきた事は、逆に親愛なる彼を酷く疵突けて居たのでは無いのか?と勘ぐり気付き、紅月は洟水面にゆらゆらと哀しく不安定に揺れ泣いた。
「…近藤さん…俺…、」
「…ははっ、すまんな?ついついなまえに八つ当たって仕舞った様だな…!お前が嫌がってるのに、すまなかった。」
暫くの沈黙が続いた後、近藤が何かを想い、そして苦笑いを貶しながら無理矢理解いて仕舞ったなまえの包帯をもう一度、ゆっくりと丁寧に基の様に巻いてやれば、なまえは「…ごめん、」と一言漏らし、後は表情と共に顔を俯かせるしか無かった。
「なまえが何故謝る?悪いのは俺だろう?
お前にはすぐ甘えてしまうからな…俺の悪い癖だな。」
昔からどうしてもな…と続けて近藤が申し訳無さそうに言えば、なまえは「っ…!近藤さんになら何言われても…」とハッとした表情になり喰って掛かるように言い返すと、近藤はまた哀しそうな表情をし「…俺はお前の事…ちゃんと解ってやれているのだろうか…?」と辛そうに零したと同時に左腕の包帯は綺麗に巻き直しが完成すると、優しくポンっと撫でてやれば「出来たぞ。純粋な白は眩しいな…」と目を細めてなまえに続けたのだった。
「…俺が近藤さんの事を解っていれば、それでいい、」
俺さえ近藤さんを見て護れれば、と紅月を力強く輝かせれば、底に偽り等全く無い事が誰にでも理解でき、其れが逆に近藤をどうしても疵突けて終う事に成ってもなまえは手段を問えず意志を貫き通す。
現に近藤は、なまえの【猛毒】の件については知る術も訳も無く居る訳であって。
「…なまえ」と彼の名を零す近藤の声をわざと遮ったなまえは「…あー、トシ、トシ、ばっかり言って土方さん贔屓だと俺、ヤキモチやいちまうかも?」とにっ、と悪戯に笑いを零し続けては、近藤を「…かなわんなあ」と返させばーー此がなまえ自身、此の「隠し事」を持つ事を最も望み尚且つ必ず貫き通す事を決心し、譲る気は毛頭無いのだから、もう此で良いのでは無かろうか?
(俺に残されてる灯が消えかかっているのなら、どうか此の儘で、)
日溜まりも心地よく、緑茶も巧い。
瞬の幸せな季位ーー…逃れられぬ運命って奴も、今だけで良いから。
頼むから、黙って言う事聞いて呉れやしないか?
ーーー
「…っ、なまえさん〃とても素敵ですっ…〃」
甲府に向かう朝が訪れ千鶴も皆の集まる広場に足を運べば、隊士達は何時もよりも早く起きて準備を終わらせており、良く見ると彼らは洋装へと身を包ませている場面を目にすると、無論、己の愛しい男の姿が早々と写れば、千鶴は案の定暫くなまえの洋装に思いきり見惚れて仕舞い、ハッと我に返りわたわたと慌て赤面しながらも声を掛けた。
「…ん、動きやすい、」
ジャラ…ッとした連結鍵の鎖を奏でながら軽く身体をグッと伸びをしたなまえは、声を掛けてきた千鶴に目を合わせ歯をにっ、とさせ微笑むような表情を返すと、千鶴は物凄く嬉しそうな表情をした後、なまえの包帯に目線を落としつつ気付いて仕舞い、すぐさま不安そうな表情へと崩しながら「包帯、今までのように腕までではなく、肩にかけてまでキツく巻く様にしたのですか…?」と続けて漏らして仕舞えば、付近にいた斎藤と土方の雰囲気は反応する様に、鋭く重く変化した。
「…包帯無いと、左だけ寒いべ?」
長袖の洋服だったのにー?わざと左の袖だけ鬼副長様に切られた。なんかみっともねーから包帯で誤魔化してみたんだけどよー、と続けながら、二人の変化を瞬時に悟ったなまえは、その場の囲気を和ませ換える為に、軽く悪戯にかましてみては、ひそひそと千鶴の耳許で「内緒だぜ?」と囁いた。
「さすが土方の兄貴。センスねー、」
わざと敢えて土方に聞こえる様に放つなまえは、頬をぷくーっと膨ませ土方を甘く睨むと、ぽかんと拍子抜けした土方から次の瞬間、問答無用に飴玉がスコンッとなまえの頭に投げつけられ「…ちっ!いいから、お前は戦前に血糖値あげとけよ?」とやれやれ…と溜息を含まれながら吐き捨てられた。
「…む、土方さんの意地悪、」
恐らく血糖値とは、なまえの吐血と関連させ暗示ており、やはりなまえより上手だった土方の倍返しには流石のなまえも慌てて、しーっ、と口に一指し指をあてすぐさま謝罪を入れれば、次は土方が悪戯に微笑む番であった。
「おめェの包帯を繋ぎ紐代わりにして、俺が見張りながら引っ張って置かねーとな?バカ獣」
リード変わりだから、その軽く垂れてる部分以外は外れねェ様にちゃんとキツく縛っておけよ?と紫を光らせながら土方に言われれば、なまえは悪戯に身体を震わせると(情け無いが)千鶴の背にコッソリと隠れて仕舞いながらも、背からひょこっと顔だけを覗き出しオマケに舌をんべっ、と出せば「紐引かれんなら、おっかねー土方さんより優しい一がいい。」とキッパリ放てば、なまえのそんな調子に巻き込まれた斎藤も「…副長、なまえの傍には俺が居るので、御安心を。」と、続ける彼もすっかり雰囲気を元に戻しては、含み笑いを落としながら放つのであった。
「新八も左之も居るし、俺って幸せ者ー、」
先程のやり取りを羨ましそうに眺めていた永倉と原田に、急にむぎゅーっ、と力強く抱き付いたなまえは、気まずい気持ちと驚く気持ちを隠せない二人に向かって「…米と味噌汁の関係だもんな?」と真剣な表情と力強い紅月を輝かせ問い掛ける。
斯うして、いつの間にかなまえが空気を握る。
此があの時代に轟く「新選組」なので在ろうか?
薄桜の歴史を学んだ者には、是が非でも知って頂きたいーー
新選組のみょうじは、こんな人物である。
「…ああ…!」
二人は物凄く柔らかい笑みを浮かべ、静かにゆっくり頷きそしてなまえを真ん中にして二人で彼を挟めば、頬と髪に軽く口付けを落としながら、原田が「お前は俺らの大切な姫だからな…?」と愛おしそうになまえを抱きしめれば、永倉も「あっ…!左之、ずりぃぞ!?」といつもの調子であれよあれよとなまえ争奪戦の開始である。
「…なまえちゃん…、わるかったな…。」
やっと素直になれた永倉は、この間の件から、ずっと心に引っかかっていた事総てを今の一言に詰め込むと、なまえは「…ったくよ!」と照れ笑いしながら永倉の頬を強くむぎぎっ、と引っ張り彼なりの愛情表現を精一杯贈れば、いつもの永倉の「いひゃ、いひゃひゃ」との、甘えた声が広間全体にキラキラと広がった。
ーーー
『松本先生、アイツの腕の事なんだが…。』
土方は、なまえの左腕の件を何となく堪付き、なまえの腕について松本に問い相談したところ、松本の口からは「先日の戦の際に火傷を負ったから、彼からは塗り薬を求められた」とのみの応えしか返って来ず、しかし其れが又しても一つ、土方の心配の種と成っていたのだ。
「よし!お前ら、そろそろ時刻だ!
戦中、気ィ抜くんじゃねェぞ」
土方の説明だと、敵は全員洋装で有り此方の方が都合が良いとの事らしく…洋装である為、和に合っていた長い髪もバッサリ切った者も多く、スタイリッシュな印象が強く出て織り、新選組一同、改めて仕切り直しの声を掛け、新たなる誠に火を掲げる。
部屋の隅に置かれ、唯一つだけ卸される事無くそのまま綺麗に箱に入っている洋装は、何処か寂しそうで在ったーー
こうして新選組は【甲陽鎮撫隊】と名を改め、八王子経由で甲府へ向かう事と成ったがーーしかし甲府城が既に敵の手に渡って仕舞っているとの情報が廻り、其れが新入りの隊士達を激しく動揺させて仕舞う結果と成り、当初は三百人程だった隊士達の半分以上が脱走し、百人程まで減って仕舞う疫病が彼らを襲う。
永倉や原田は撤退するべきだと主張したが、近藤は此処に陣を敷き、あくまでも徹底抗戦するつもりの様でーー幕府から武器や資金を与えられているのに、何もせず引き返す事は出来ない…此が近藤の主張であった。
「…とりあえず俺ァ、江戸に駐屯している増援部隊を呼んで来る。…此処で負け戦をする訳にゃ、いかねェからな。」
隊士には此の後、援軍が到着するって伝えておいてくれ、と続ける土方の命に、斎藤やなまえはすぐに隊士達の元へと走れば、残った千鶴は土方と供に走り、私に何か出来る事があれば!と心の底から願するのだが、やはり流石に断られて仕舞った。
「もし新政府軍の連中と戦闘になって危ねェ状況になったら、斎藤やなまえと協力してなんとしてでも近藤さんを逃がせ。
だが決して無茶はすんじゃねェぞ?いいな…!」
千鶴と土方が【武士の誓い】を立て刀の交わる音を幻想的に奏でる余所に、現実は哀しくも常に動いて折り、血の流れる響と飛沫、銃や大砲が泣き喚く煩わしい呼も、それぞれが抱く強く儚く優しく暁る個々の想いも熨せ、生死を賭けた戦場に虚しく響き淡く降り注いだ。
【草の波は逃げる溶に悲喜、火の海へと一瞬にして変貌する無条件降下】
ーーー
「…っ、甲府城が…!?」
風の便りや人の声の便り、そして信頼し確実である供に生活する平間からの情報で、己自身の耳に改めて新選組の件が伝わった井吹は、昔、なまえが綺麗だと誉めてくれた瞳を拡張させながら息を飲んだ。
「…やはり彼らが気になりますか?井吹君…。」
眉を下げながら然し当時と変わる事無く柔らかい表情で優しく笑む平間の問いに、井吹は核心を突かれ伏せるが、故に揺るぎない決心を胸に抱き、其れを負けずに貫く事を選んだ。
「芹沢さんへの恩返し…俺がやらなければならない事。
今、その時だと思う…!」
なまえに救われた此の命。
あの時、井吹に道を示して呉れた今は亡き芹沢の目となり足となり…今後の時代を生き抜き彼に伝えていく恩返しをしたいーー
「平間さん、ごめん…行ってくる…!」
此の誓いを決して忘れては居ない井吹は、強き一人の男として、決して安全では無いであろう戦地を追い掛け地に足を踏む。
黎明から刻まれた男太刀の絆は、何年時を刻もうが「誠」の旗の基に集いし契約。
【息吹に桜花を熨せ、新選組の声明を世に舞う叶如く】
契斬れる事の無い鎖は、龍の息吹の鱗に絡み腐り、外れ解ける事は決して許さない。
(鍵を背負う蒼犬、暁を超え奇譚を駆けるーー)
罪罰の十字架を刻む左手、「誠」を護る右手
(桜火の浸食)(黎明と奇譚)
ーーー
繋ぎ留めたい主張の包帯
左腕を千切るか、誠を契るか