焔焔に滅せずんば炎炎を如何せん
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慶応四年一月三日
後に言う「鳥羽・伏見の戦い」が始まり激戦と滓、伏見奉行所にも大砲が引っ切りなしに撃ち込まれると、舞台上に銃器の爆音の地割れが熾きた故に響鬼が目覚め、不愉快だと怒り吐散らせ劫火手前の焔を地に降らせば、新選組で冴えも怯み其して撤退をせざる得なかった一つの苦い戦を、歴史に不覚刻む事と成る。
「…っ…はぁっ…!」
千鶴は淀城に向かう為走る中、どうしても其の事柄を脳裏と心裏へ血飛沫や爆音も含めては、先日の苦戦を鮮明に浮かび景て仕舞っていた。
ーーー…
「土方さん!もう無理だ…!奴ら、坂の上にバカでかい大砲を仕掛けてやがる!」
「逆を登ろうとした端から撃ち殺されるって事か…、斬り合いに持ち込むのは妖鬼の俺でも厳しいかもしれねーけど…俺が盾になって一か八かやってみる?」
「馬鹿言ってんじゃねぇよなまえ!
奴らの持ってる銃、射程が恐ろしく長くてかなり離れてる距離でも二発に一発は命中してるんだぜ!?」
原田の叱責に「それでも退くなとの命令なら俺は行く、」と漆黒刀を握るなまえに対し原田の黄色は愕然の彩を映すと、其れを遮る様に横から「だが、永倉が戻って来てねェ…!」と土方が放てば、原田は「…二番隊十五名と共に敵陣へ斬り込みに行っちまいやがった…!」と渋った表情で返し「敵陣に斬り込みなんて…生きて帰って来れる筈ねぇのによ…っ…!!」と原田の積み重なった我慢や悔しさや怒りで表情は滲み、正に白包帯が真っ赤な血液で汚される情景が見事当てはまる遙に見えれば、土方は青ざめる程に強く唇を噛みしめその場に立ち尽くした。
「冗談じゃねーよ、新八のとこ行って…あいつら引きずり戻してくる、」
大砲の爆音が響く外へと視線を向け、浅葱の羽織を靡かせ気合いを入れ仲間を助けに行こうとするなまえに、原田が今度こそはと譲らぬ制止の声をなまえにあげ散らせ、その場の誰もが永倉の死を予感した瞬間「なまえちゃん!皆、ただいまっ!今戻ったぜ!」と永倉が丁度良く姿を見せれば、周りからは驚きと安堵の声をあげたのであった。
「新八!…っ、ばーか!」
なまえは、若干涙声になりながら憎まれ口を叩き、永倉の頬を何時もの様にむぎぎぎっ…と摘むと、永倉は「なまえちゃ…?むががっ…」と黙って摘まれなまえなりの抱擁を何時ものように、暖炉へと温まる様に承け癒されると「…悪かったな。」と謝りながらなまえを優しく抱き締めた。
「…土方さんよ…此処は退こうぜ?
隊士の何人かも深手を負ってるし、此の儘だと大切な者を失っちまいそうで…」
なまえを優しく抱き締めていた筈の腕は僅かに震えを覚え、腕の中の大切な者を抱き閉う様に力を籠めれば、土方へと静かに懇願する。
永倉の生き戻って来た現実と「敵本陣に飛び込むのはこれ以上は無理だ。」とこの身を持って味わって来た彼の強く重たい言葉に、土方は憤怒の表情を浮かべた其の矢先ーー
「…っ、げぼっ…!なんだこれ…煙…?
っげ…ごぼっ…げぼっ…!」
なまえが咳をし異変に気が付けば、周りの連中は「大砲の火が奉行所に燃え移った!逃げるぞ!」と土方に撤退をと急かすのだが、土方は、それでもなかなか頭をあげず唇を噛みしめながら無言を通した。
今までずっと負け知らずである筈の新選組で冴えも、薩長連合軍に為す術も無く圧されて檻ーー
(凛と立つ一本桜、血のペンキで穢く濡り潰される)
「…トシさん…」
心血注いで新選組を作り上げた土方にすれば、この決断は何より受け入れ難い事実である事位、長く供に傍に居た井上は誰よりも胸を痛ませ、鋭く深く理解していた。
「…げ、ぼっ…は…っ…!…わり…大丈夫…」
先程、火煙を吸って終ったなまえの心臓に負担が懸かった所為か、気管支から響く痛々しい咳が収まらなくなり、ヒュー…ヒュー…とか細い呼吸を繰り返す彼に土方も気付き、周りの連中もなまえの異様な咳に酷く心配に成り「…大丈夫か?」と背中をさすってやる状況が決め手と成れば、土方の口から「…もう、刀や槍の時代じゃねェって事なのか…」と零れ墜ち、ギリギリと固く握る両の拳から血が滲み始めた瞬間「…撤退だ」と決断したのであった。
「まだ負けた訳じゃねェ…この借りは必ず返してやるからな…」
悔しさに全身を萠え焔を纏い、咳をし続けるなまえの肩を持ち抱えると、戦場から背を向け誓いを裁て、次への一歩を進むのであったーー
「私は、刀としてまるっきり勇さん達の役に立たないと理解している…ただこんな私でも、新選組を勝たせる為に出来る事は…きっと何かある筈だ…!」
だから頑張ろうな、とふと口にした井上は、千鶴が考えていた事柄に何か察したのであろう己の気持ちを素直に放てば、千鶴は井上の言葉に肯き己が新選組の為に成るであろうの今の目的を胸に抱き、数刻の時を経て淀城へと辿り着いたのであったーー…
「っ…げぼ…っ…ごぼぉっ…!」
なまえは、ビチャ、ビチャビチャッ…と酷く見苦しく地に血喇針、人の気配の無い薄暗く狭い裏道で吐血で膿まれる血蛆を己の腐濁った紅月で弱々しく照らせば、ヒュー…ヒュー…と未だ酸素を求め続けながら…酷い虚無感に襲われて終い眩暈さえ覚えると、空しくも地に己の体内から吐堕した大量の血液の上に、ビチャッ…!と音を裁て己の両手を付きその場に四つん這いに成り、血堕落の妖鬼は威厳を亡くして鬻。
肩から鎖で繋がれた連結鍵がなまえの基から千切れる様にズルッと滑り落、血液の上に水音を殺陣汚く転がれば、札板が血に滲み文字が怪我された瞬間ーー
「…っ…!!コイツが俺を見限るのも…時間の問題かもな…、」
連結鍵を持つ主の定めとして、連結鍵から認められない者はーー
ジュュウッ…!と肉が焼焦がれた熱点と痛覚に蝕まれ、己の左腕手首に刻まれた罰をジッと見てやれば、酷く爛れた火傷華として手首に華麗に咲き埃り悼む桜花を鬱陶しく思い、己の包帯で華をギチギチッ…と封印の様に斯し隠蔽した。
連結鍵の認めし者、最狂で有るべしーー
【紅月蝶が舞う砂時計、余砂は罪罰の火傷と比例して】
「先程、源さんと千鶴に伝令を命じたが…少し心配だ。悪いが少し席を外す…」
新選組隊士と部屋で待機していた土方は、何か嫌な胸騒ぎを覚え其の場に居る隊士に説明し外に出れば「待って、土方さん…俺も連れてって、」と己の呼ぶ聞き慣れた声が響き立ち止まると、其の者の姿を見ずとも声の人物の名を呼び「おめェは部屋に戻ってろ!」と制止させた。
「…ん、…大丈夫…、」
先程、大量の血液を吐き出した所為で未だ若干の眩暈は起こるが、吐血の後処理をした後に少し身体を休ませながら、未だ使用できる連結鍵でカチカチ…ッと血液と力の濃度を無理矢理調節させたなまえは、 土方の制止に突っかかり「頼む…!俺の身体が言う事聞く間…俺が出来る事を出来る間に…、」と懇願すれば、土方は初めてなまえの【真実】を聞きだした肖の晩の事を、脳裏と心裏で鮮明に映し描いては思い出して仕舞った。
「…てめェの身体くらいてめェで護れよ…男だろ?」
土方は物凄く辛い表情をし、しかし無理矢理に己を納得させる為これ以上、なまえの顔を見ない為に背をむけ「…ついて来い」とだけ放てば、なまえは「…恩に着る、」と礼を言い漆黒刀を右差しに構え、紫衣の背に黙ってついて行くのであった。
ーー…
「…どうしてっ…!?」
土方となまえが後を追う其の頃、淀城に到着した井上と千鶴は、余りにも物静かな城内を不思議に思いながらも「我々は新選組だ。援軍要請に参ったのだが…」 と要件を伝え城の者を呼び出そうとした瞬間、一発の銃声の鳴く響が鳴り運命の引き金を放てば、井上と千鶴の頭の中で警鐘が鳴り響く。
ーーガウンッ!ガウンーー!!
「…もう、此処も新選組の敵地って事だな…!」
井上が千鶴を庇いながら急いで立ち退けば、淀城から一斉に銃弾の雨が降り堕ち、井上は此でもかという程の瞬発力で雨に濡れる事をギリギリに避け千鶴の手を引きながら人気の無い道へと逃げ混むが、奥に潜んでいた敵に呆気なく見つかり「…その羽織…新選組か…!」と銃口をジャキ…ッと向けられて終った。
「…雪村君、逃げなさい。
此処は私1人でーー!!」
千鶴を背に庇い、此処からは一人で逃げ帰る様に指示をする井上に、千鶴は「井上さんを置いてなんて…嫌です!」と首を横に振りながら返せば、井上は「私が新選組の為に出来るたった今を、武士の命をも賭けて証明しているんだ!!…君にも未だ新選組の為に出来る事が在るんだろう?…まずはトシさんに私からの言葉を伝えてくれないか…?力不足で申し訳ない、最後まで共に在れなかった事を許してほしい、と…。こんな私を一緒に連れて…最後の夢を魅せてくれて感謝してもしきれない……!!」と、太陽と刀と共に貫禄を映えさせながら井上の背後から見た彼の背負う【誠】の信念に、千鶴は涙がボロボロ…ッと篤く溢れさせては涙石を何石も何石も熟ませる。
「はぁぁぁっーー!!」
刀を奮り相手に立ち向かう井上に、敵は拳銃をガウン、ガウンッー!と撃ちつければ、何発も井上の身体へと鉛の弾が突き刺し貫通し、意図も簡単に人間を地に沈ませ血で全身を汚すのは容易くーー…
(銃器の嘲笑、刀の堕天使)
「井上さんっ!!いやぁぁぁっ…!!」
刀の軋む響も互いがぶつかる振動も進撃も、命の痛覚も重さも血腥さも温かさも、肉を切裂き命を奪う重大な責任も、武士として最期の刀疵もー…何も手に入らない儘、無意味を正銘する綺麗な刀は鈍い劣を殺陣、奈落に転げ堕ちる様に地に這い蹲りながら虚しい現実を叩きつけられ、井上は鉛から与えられる痛覚と焼けた傷口から舞い上がる焦げた臭い、無念を抱きながら終焉を迎えた。
「同士であろうが容赦なく惨く、故に望む刀で殺されぬ事亡くーー…人間の残酷さ、此で理解出来ただろう…」
見苦しい、との五文字カウントで銃器を扱っていた敵の首をザンッ…と言葉とは似つかわしく無く華麗に斬り落とせば、彼の持つ紅蓮は怒と憐を強く纏いながら千鶴の前に降臨する。
「…っ…!風間さん…!」
銃声を聞いた土方となまえは、更に足を急がせ淀城へと向かいながら「っ…まさか…!間に合え…!」と唇を噛み森林の中を駆け、其して淀城に向かう度に比例して、なまえの首元の刺青の刻印が灼ける様に熱くなる感覚をどうしても意味深に覚えながら、もう直ぐ着くと云うその時…二人は足を止め、願いは虚しく其して哀しく息を飲み込んで仕舞った。
「…っ、は…?源…さん…?」
ハァハァ、と息を切らしながら目の前の井上の息絶えた姿を目するなまえは、屍の横に力尽きた様にザッ…と哀しく跪けば、銃弾で無惨に撃ち抜かれ血を流す井上の屍に優しく手を当て、微かに残る体温を感じながら臨終時刻が余り絶っていない事を知ると、本来の目的でもある井上の援護に間に合わなかった事を心から悔やむ。
「…銃弾に撃ち抜かれた皮膚から未だ煙があがってやがるってこたァ…つい先程、って訳か…!…ふざけやがって…!!」
土方が怒鬼を背負いながら紫の鋭利の眼差しを、若干遠めにいる風間に殺意と共に睨み付ければ、刀を鳴らしジャキ…ッと構え「源さんをやりやがったのはてめェか!」と怒鳴り散らし、風間と土方のやり取りと千鶴の仲裁が始まるが、なまえは跪いた継、井上の傍から離れようとはしなかった。
「なまえの傍で転がってるたかが塵ーー俺が殺して何が問題ある?
…弱い犬程、よく吠える…」
「!?ーー言いやがったな…!!てめェーー!!」
刀と刀が交わる度に熱い火花が散り、紫と紅蓮は互いの【信念】を掲げて尊重する芯は、決して違いが譲る事無く生命を燃やす篤い生き様を轟かせ、故に、斬っても斬っても千切れはしない、強き二匹の儚き薄桜の強制契約ーー
(淡い橙の霄は、艶笑を浮かべて)
「こんなに綺麗な人を…鉛なんかで何発も何発も撃ちやがって…っ…!!
せめて武士として…刀で死ぬ事も許されねーのかよ…っ…!!」
淀む紅月から純粋な雫を膿みだせば、井上の顔にポタッ…ポタッと体温が零れ落ち…最期に井上の血塗れた手に己の手を置きながら「…お嬢を護ったんだろ…?あんたはいつも…俺らの背中を押してくれてんのに…ある時は自分の背中で庇い護ってくれるもんな…」とボロボロ…と言葉と涙を同時に放ち零し、井上の顔にポタポタ…と涙石を落とした。
『だって…俺、すぐ源さんに甘えちまうんだから、しゃーねーべ?』
『ははっ…子供扱いしてるつもりは無いんだが…もし気を悪くさせたら申し訳無い。…私に子供が居たらと考える時があってね…きっとなまえ君と其れ程変わらない歳だろうからーー…何故か、なまえ君の事を息子だと勝手に思えてしまうんだ…。
年寄りの戯れ言だ、まあ許してやってくれないか。』
今迄、井上と過ごした時間の情景が想い出と蘇り、なまえの脳心に広く温かく写り描きながら深い感謝と最期の別れをすれば、土方と彼の後ろから共についてきた山崎を呼び、井上の遺体を土に孵し静かに永眠させた。
「千景は、銃を使わねーよ…、」
井上の土葬が終わった後、山崎と共に二匹が繰り広げる闘いを眺めながらなまえがポツリと呟けば、山崎は其処で冷静になり風間の所持する刀を見てハッと気付く。
「…紛い物の羅刹の俺が…おまえを倒せば、俺たちは本物になれるって事だよなァ!!」
土方は生きて闘う為に、変若水を体内に取り込み自らの意志で紛いものの鬼と成りて、本物の鬼へと立ち向かい信念の一撃を喰らわせる事と成り…後に、風間と土方の二人の此の戦いは、大きな誇りと深い誓いを裁て、薄桜を永久に靡かせる歴史と稔るのであった。
「俺たちは、元から愚か者の集団だ。馬鹿げた夢を見て、それだけをひたすら追いかけて此処まで来たーー今はまだ、坂道を登ってる途中でこんな所でぶっ倒れて…転げ落ちちまう訳にゃいかねェんだよーー!」
羅刹となった土方になまえは辛く成るがしかし其れに勝る位、土方の決意に左胸が熱くなり「…あんたの本物の武士道ーー今後…新選組を牽いるのは、確実あんただ…、」と未来予想を口にして仕舞う程、土方が背負う鬼桜は威厳と貫禄をその場の全員に魅せ衝ける。
「…っ…みょうじさん…失礼!」
「…は?山崎…待っ…!」
炎に油酒を注ぎ混み更に燃え上がった二匹の闘いに、いい加減制止をかける天霧と山崎により一度終止符を打つ事に成るが、燃えあがり暴れる炎を消火させた大きな代償として、山崎は制止の際に怪我を負い、後に自らの命と引換に「…何をしているんですか…。貴方は我々の頭でしょう…?私の様な手足なら代えがききます…しかし頭がやられて仕舞ったら、組織はどうするおつもりですか…!?」と土方に放った後「…みょうじさん…あの晩の誓い…守れそうに無いかもしれません…どうかお許しください…」と最期まで【信念】と【忠誠】を貫き通し、新選組の武士として橙の霄に召され霄漢へーー
山崎は、慶応四年一月一三日、江戸へ撤退の際に富士山丸の船上で死亡し紀州沖で水葬され、新選組は大切な生命を貳(ふたつ)、喪う事と成って終うのであった。
誠を掲げる桜樹木に、新たに貳の蕾が成りて三に愛けり。
刀疵を抉られ鉛に犯された樹木、何事にも譲る事無く凛と聳えれば、武士の鏡と稔りて君臨。
代償、逃げる事など決してせずーー目の前の現実に刀を奮う。
焔焔に滅せずんば炎炎を如何せん
(誠の炎威)(橙の死化粧)
ーーー
彼らは何故、生涯を終える瞬間でさえ揺らぐ事無い【新選組】を貫き通すの?
後に言う「鳥羽・伏見の戦い」が始まり激戦と滓、伏見奉行所にも大砲が引っ切りなしに撃ち込まれると、舞台上に銃器の爆音の地割れが熾きた故に響鬼が目覚め、不愉快だと怒り吐散らせ劫火手前の焔を地に降らせば、新選組で冴えも怯み其して撤退をせざる得なかった一つの苦い戦を、歴史に不覚刻む事と成る。
「…っ…はぁっ…!」
千鶴は淀城に向かう為走る中、どうしても其の事柄を脳裏と心裏へ血飛沫や爆音も含めては、先日の苦戦を鮮明に浮かび景て仕舞っていた。
ーーー…
「土方さん!もう無理だ…!奴ら、坂の上にバカでかい大砲を仕掛けてやがる!」
「逆を登ろうとした端から撃ち殺されるって事か…、斬り合いに持ち込むのは妖鬼の俺でも厳しいかもしれねーけど…俺が盾になって一か八かやってみる?」
「馬鹿言ってんじゃねぇよなまえ!
奴らの持ってる銃、射程が恐ろしく長くてかなり離れてる距離でも二発に一発は命中してるんだぜ!?」
原田の叱責に「それでも退くなとの命令なら俺は行く、」と漆黒刀を握るなまえに対し原田の黄色は愕然の彩を映すと、其れを遮る様に横から「だが、永倉が戻って来てねェ…!」と土方が放てば、原田は「…二番隊十五名と共に敵陣へ斬り込みに行っちまいやがった…!」と渋った表情で返し「敵陣に斬り込みなんて…生きて帰って来れる筈ねぇのによ…っ…!!」と原田の積み重なった我慢や悔しさや怒りで表情は滲み、正に白包帯が真っ赤な血液で汚される情景が見事当てはまる遙に見えれば、土方は青ざめる程に強く唇を噛みしめその場に立ち尽くした。
「冗談じゃねーよ、新八のとこ行って…あいつら引きずり戻してくる、」
大砲の爆音が響く外へと視線を向け、浅葱の羽織を靡かせ気合いを入れ仲間を助けに行こうとするなまえに、原田が今度こそはと譲らぬ制止の声をなまえにあげ散らせ、その場の誰もが永倉の死を予感した瞬間「なまえちゃん!皆、ただいまっ!今戻ったぜ!」と永倉が丁度良く姿を見せれば、周りからは驚きと安堵の声をあげたのであった。
「新八!…っ、ばーか!」
なまえは、若干涙声になりながら憎まれ口を叩き、永倉の頬を何時もの様にむぎぎぎっ…と摘むと、永倉は「なまえちゃ…?むががっ…」と黙って摘まれなまえなりの抱擁を何時ものように、暖炉へと温まる様に承け癒されると「…悪かったな。」と謝りながらなまえを優しく抱き締めた。
「…土方さんよ…此処は退こうぜ?
隊士の何人かも深手を負ってるし、此の儘だと大切な者を失っちまいそうで…」
なまえを優しく抱き締めていた筈の腕は僅かに震えを覚え、腕の中の大切な者を抱き閉う様に力を籠めれば、土方へと静かに懇願する。
永倉の生き戻って来た現実と「敵本陣に飛び込むのはこれ以上は無理だ。」とこの身を持って味わって来た彼の強く重たい言葉に、土方は憤怒の表情を浮かべた其の矢先ーー
「…っ、げぼっ…!なんだこれ…煙…?
っげ…ごぼっ…げぼっ…!」
なまえが咳をし異変に気が付けば、周りの連中は「大砲の火が奉行所に燃え移った!逃げるぞ!」と土方に撤退をと急かすのだが、土方は、それでもなかなか頭をあげず唇を噛みしめながら無言を通した。
今までずっと負け知らずである筈の新選組で冴えも、薩長連合軍に為す術も無く圧されて檻ーー
(凛と立つ一本桜、血のペンキで穢く濡り潰される)
「…トシさん…」
心血注いで新選組を作り上げた土方にすれば、この決断は何より受け入れ難い事実である事位、長く供に傍に居た井上は誰よりも胸を痛ませ、鋭く深く理解していた。
「…げ、ぼっ…は…っ…!…わり…大丈夫…」
先程、火煙を吸って終ったなまえの心臓に負担が懸かった所為か、気管支から響く痛々しい咳が収まらなくなり、ヒュー…ヒュー…とか細い呼吸を繰り返す彼に土方も気付き、周りの連中もなまえの異様な咳に酷く心配に成り「…大丈夫か?」と背中をさすってやる状況が決め手と成れば、土方の口から「…もう、刀や槍の時代じゃねェって事なのか…」と零れ墜ち、ギリギリと固く握る両の拳から血が滲み始めた瞬間「…撤退だ」と決断したのであった。
「まだ負けた訳じゃねェ…この借りは必ず返してやるからな…」
悔しさに全身を萠え焔を纏い、咳をし続けるなまえの肩を持ち抱えると、戦場から背を向け誓いを裁て、次への一歩を進むのであったーー
「私は、刀としてまるっきり勇さん達の役に立たないと理解している…ただこんな私でも、新選組を勝たせる為に出来る事は…きっと何かある筈だ…!」
だから頑張ろうな、とふと口にした井上は、千鶴が考えていた事柄に何か察したのであろう己の気持ちを素直に放てば、千鶴は井上の言葉に肯き己が新選組の為に成るであろうの今の目的を胸に抱き、数刻の時を経て淀城へと辿り着いたのであったーー…
「っ…げぼ…っ…ごぼぉっ…!」
なまえは、ビチャ、ビチャビチャッ…と酷く見苦しく地に血喇針、人の気配の無い薄暗く狭い裏道で吐血で膿まれる血蛆を己の腐濁った紅月で弱々しく照らせば、ヒュー…ヒュー…と未だ酸素を求め続けながら…酷い虚無感に襲われて終い眩暈さえ覚えると、空しくも地に己の体内から吐堕した大量の血液の上に、ビチャッ…!と音を裁て己の両手を付きその場に四つん這いに成り、血堕落の妖鬼は威厳を亡くして鬻。
肩から鎖で繋がれた連結鍵がなまえの基から千切れる様にズルッと滑り落、血液の上に水音を殺陣汚く転がれば、札板が血に滲み文字が怪我された瞬間ーー
「…っ…!!コイツが俺を見限るのも…時間の問題かもな…、」
連結鍵を持つ主の定めとして、連結鍵から認められない者はーー
ジュュウッ…!と肉が焼焦がれた熱点と痛覚に蝕まれ、己の左腕手首に刻まれた罰をジッと見てやれば、酷く爛れた火傷華として手首に華麗に咲き埃り悼む桜花を鬱陶しく思い、己の包帯で華をギチギチッ…と封印の様に斯し隠蔽した。
連結鍵の認めし者、最狂で有るべしーー
【紅月蝶が舞う砂時計、余砂は罪罰の火傷と比例して】
「先程、源さんと千鶴に伝令を命じたが…少し心配だ。悪いが少し席を外す…」
新選組隊士と部屋で待機していた土方は、何か嫌な胸騒ぎを覚え其の場に居る隊士に説明し外に出れば「待って、土方さん…俺も連れてって、」と己の呼ぶ聞き慣れた声が響き立ち止まると、其の者の姿を見ずとも声の人物の名を呼び「おめェは部屋に戻ってろ!」と制止させた。
「…ん、…大丈夫…、」
先程、大量の血液を吐き出した所為で未だ若干の眩暈は起こるが、吐血の後処理をした後に少し身体を休ませながら、未だ使用できる連結鍵でカチカチ…ッと血液と力の濃度を無理矢理調節させたなまえは、 土方の制止に突っかかり「頼む…!俺の身体が言う事聞く間…俺が出来る事を出来る間に…、」と懇願すれば、土方は初めてなまえの【真実】を聞きだした肖の晩の事を、脳裏と心裏で鮮明に映し描いては思い出して仕舞った。
「…てめェの身体くらいてめェで護れよ…男だろ?」
土方は物凄く辛い表情をし、しかし無理矢理に己を納得させる為これ以上、なまえの顔を見ない為に背をむけ「…ついて来い」とだけ放てば、なまえは「…恩に着る、」と礼を言い漆黒刀を右差しに構え、紫衣の背に黙ってついて行くのであった。
ーー…
「…どうしてっ…!?」
土方となまえが後を追う其の頃、淀城に到着した井上と千鶴は、余りにも物静かな城内を不思議に思いながらも「我々は新選組だ。援軍要請に参ったのだが…」 と要件を伝え城の者を呼び出そうとした瞬間、一発の銃声の鳴く響が鳴り運命の引き金を放てば、井上と千鶴の頭の中で警鐘が鳴り響く。
ーーガウンッ!ガウンーー!!
「…もう、此処も新選組の敵地って事だな…!」
井上が千鶴を庇いながら急いで立ち退けば、淀城から一斉に銃弾の雨が降り堕ち、井上は此でもかという程の瞬発力で雨に濡れる事をギリギリに避け千鶴の手を引きながら人気の無い道へと逃げ混むが、奥に潜んでいた敵に呆気なく見つかり「…その羽織…新選組か…!」と銃口をジャキ…ッと向けられて終った。
「…雪村君、逃げなさい。
此処は私1人でーー!!」
千鶴を背に庇い、此処からは一人で逃げ帰る様に指示をする井上に、千鶴は「井上さんを置いてなんて…嫌です!」と首を横に振りながら返せば、井上は「私が新選組の為に出来るたった今を、武士の命をも賭けて証明しているんだ!!…君にも未だ新選組の為に出来る事が在るんだろう?…まずはトシさんに私からの言葉を伝えてくれないか…?力不足で申し訳ない、最後まで共に在れなかった事を許してほしい、と…。こんな私を一緒に連れて…最後の夢を魅せてくれて感謝してもしきれない……!!」と、太陽と刀と共に貫禄を映えさせながら井上の背後から見た彼の背負う【誠】の信念に、千鶴は涙がボロボロ…ッと篤く溢れさせては涙石を何石も何石も熟ませる。
「はぁぁぁっーー!!」
刀を奮り相手に立ち向かう井上に、敵は拳銃をガウン、ガウンッー!と撃ちつければ、何発も井上の身体へと鉛の弾が突き刺し貫通し、意図も簡単に人間を地に沈ませ血で全身を汚すのは容易くーー…
(銃器の嘲笑、刀の堕天使)
「井上さんっ!!いやぁぁぁっ…!!」
刀の軋む響も互いがぶつかる振動も進撃も、命の痛覚も重さも血腥さも温かさも、肉を切裂き命を奪う重大な責任も、武士として最期の刀疵もー…何も手に入らない儘、無意味を正銘する綺麗な刀は鈍い劣を殺陣、奈落に転げ堕ちる様に地に這い蹲りながら虚しい現実を叩きつけられ、井上は鉛から与えられる痛覚と焼けた傷口から舞い上がる焦げた臭い、無念を抱きながら終焉を迎えた。
「同士であろうが容赦なく惨く、故に望む刀で殺されぬ事亡くーー…人間の残酷さ、此で理解出来ただろう…」
見苦しい、との五文字カウントで銃器を扱っていた敵の首をザンッ…と言葉とは似つかわしく無く華麗に斬り落とせば、彼の持つ紅蓮は怒と憐を強く纏いながら千鶴の前に降臨する。
「…っ…!風間さん…!」
銃声を聞いた土方となまえは、更に足を急がせ淀城へと向かいながら「っ…まさか…!間に合え…!」と唇を噛み森林の中を駆け、其して淀城に向かう度に比例して、なまえの首元の刺青の刻印が灼ける様に熱くなる感覚をどうしても意味深に覚えながら、もう直ぐ着くと云うその時…二人は足を止め、願いは虚しく其して哀しく息を飲み込んで仕舞った。
「…っ、は…?源…さん…?」
ハァハァ、と息を切らしながら目の前の井上の息絶えた姿を目するなまえは、屍の横に力尽きた様にザッ…と哀しく跪けば、銃弾で無惨に撃ち抜かれ血を流す井上の屍に優しく手を当て、微かに残る体温を感じながら臨終時刻が余り絶っていない事を知ると、本来の目的でもある井上の援護に間に合わなかった事を心から悔やむ。
「…銃弾に撃ち抜かれた皮膚から未だ煙があがってやがるってこたァ…つい先程、って訳か…!…ふざけやがって…!!」
土方が怒鬼を背負いながら紫の鋭利の眼差しを、若干遠めにいる風間に殺意と共に睨み付ければ、刀を鳴らしジャキ…ッと構え「源さんをやりやがったのはてめェか!」と怒鳴り散らし、風間と土方のやり取りと千鶴の仲裁が始まるが、なまえは跪いた継、井上の傍から離れようとはしなかった。
「なまえの傍で転がってるたかが塵ーー俺が殺して何が問題ある?
…弱い犬程、よく吠える…」
「!?ーー言いやがったな…!!てめェーー!!」
刀と刀が交わる度に熱い火花が散り、紫と紅蓮は互いの【信念】を掲げて尊重する芯は、決して違いが譲る事無く生命を燃やす篤い生き様を轟かせ、故に、斬っても斬っても千切れはしない、強き二匹の儚き薄桜の強制契約ーー
(淡い橙の霄は、艶笑を浮かべて)
「こんなに綺麗な人を…鉛なんかで何発も何発も撃ちやがって…っ…!!
せめて武士として…刀で死ぬ事も許されねーのかよ…っ…!!」
淀む紅月から純粋な雫を膿みだせば、井上の顔にポタッ…ポタッと体温が零れ落ち…最期に井上の血塗れた手に己の手を置きながら「…お嬢を護ったんだろ…?あんたはいつも…俺らの背中を押してくれてんのに…ある時は自分の背中で庇い護ってくれるもんな…」とボロボロ…と言葉と涙を同時に放ち零し、井上の顔にポタポタ…と涙石を落とした。
『だって…俺、すぐ源さんに甘えちまうんだから、しゃーねーべ?』
『ははっ…子供扱いしてるつもりは無いんだが…もし気を悪くさせたら申し訳無い。…私に子供が居たらと考える時があってね…きっとなまえ君と其れ程変わらない歳だろうからーー…何故か、なまえ君の事を息子だと勝手に思えてしまうんだ…。
年寄りの戯れ言だ、まあ許してやってくれないか。』
今迄、井上と過ごした時間の情景が想い出と蘇り、なまえの脳心に広く温かく写り描きながら深い感謝と最期の別れをすれば、土方と彼の後ろから共についてきた山崎を呼び、井上の遺体を土に孵し静かに永眠させた。
「千景は、銃を使わねーよ…、」
井上の土葬が終わった後、山崎と共に二匹が繰り広げる闘いを眺めながらなまえがポツリと呟けば、山崎は其処で冷静になり風間の所持する刀を見てハッと気付く。
「…紛い物の羅刹の俺が…おまえを倒せば、俺たちは本物になれるって事だよなァ!!」
土方は生きて闘う為に、変若水を体内に取り込み自らの意志で紛いものの鬼と成りて、本物の鬼へと立ち向かい信念の一撃を喰らわせる事と成り…後に、風間と土方の二人の此の戦いは、大きな誇りと深い誓いを裁て、薄桜を永久に靡かせる歴史と稔るのであった。
「俺たちは、元から愚か者の集団だ。馬鹿げた夢を見て、それだけをひたすら追いかけて此処まで来たーー今はまだ、坂道を登ってる途中でこんな所でぶっ倒れて…転げ落ちちまう訳にゃいかねェんだよーー!」
羅刹となった土方になまえは辛く成るがしかし其れに勝る位、土方の決意に左胸が熱くなり「…あんたの本物の武士道ーー今後…新選組を牽いるのは、確実あんただ…、」と未来予想を口にして仕舞う程、土方が背負う鬼桜は威厳と貫禄をその場の全員に魅せ衝ける。
「…っ…みょうじさん…失礼!」
「…は?山崎…待っ…!」
炎に油酒を注ぎ混み更に燃え上がった二匹の闘いに、いい加減制止をかける天霧と山崎により一度終止符を打つ事に成るが、燃えあがり暴れる炎を消火させた大きな代償として、山崎は制止の際に怪我を負い、後に自らの命と引換に「…何をしているんですか…。貴方は我々の頭でしょう…?私の様な手足なら代えがききます…しかし頭がやられて仕舞ったら、組織はどうするおつもりですか…!?」と土方に放った後「…みょうじさん…あの晩の誓い…守れそうに無いかもしれません…どうかお許しください…」と最期まで【信念】と【忠誠】を貫き通し、新選組の武士として橙の霄に召され霄漢へーー
山崎は、慶応四年一月一三日、江戸へ撤退の際に富士山丸の船上で死亡し紀州沖で水葬され、新選組は大切な生命を貳(ふたつ)、喪う事と成って終うのであった。
誠を掲げる桜樹木に、新たに貳の蕾が成りて三に愛けり。
刀疵を抉られ鉛に犯された樹木、何事にも譲る事無く凛と聳えれば、武士の鏡と稔りて君臨。
代償、逃げる事など決してせずーー目の前の現実に刀を奮う。
焔焔に滅せずんば炎炎を如何せん
(誠の炎威)(橙の死化粧)
ーーー
彼らは何故、生涯を終える瞬間でさえ揺らぐ事無い【新選組】を貫き通すの?