雨石で流れ款、血涙託
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「滑稽だね… みょうじ なまえ」
不快い闇の中を辛苦の垢を口内より破棄、ゆらゆらと浮かび上がるなまえのその状況に、余りにも似つかわしく無い華やかに凛としたお淑やかな姿が、悪戯に月光を背負いつつ静かに舞い降りる。
その姿が静かに一つ歩けば、何処か悲しみの鈴が“淋”…と鳴く幼に聞こえた。
(同化、僕自身を認めて)
(…なまえ…っ…!)
未だ物陰から隠れて様子を見ていた、正しくはその場から動けず立ちすくんでいた斎藤は、心の奥深くでなまえの名を叫んだ。
何時だって冷静な彼も、己自身の葛藤に苦しむ事に成るが…唯一只、こうして見守り隠れている事しかやはり手段は無かったー…
「…薫、」
値打ちの無い寸劇に、致し方ないと慰めを降らせる桜時雨ーー…
なまえが言うにはどうやら其の凛とした姿の正体は「薫」という者の様であって。
「こんな真夜中に、何?」
なまえは眉間に皺を寄せながら、己の口内の血塊をベッと地に叩きつける様を画けば、本来ならば滑稽だと放つ薫の顔面に叩きつけてやりたいと意味を抱きながら、彼に見せつけ忌み放ち…何がそんなに笑えるのか、ほざいてみろとでも言う様に威嚇する。
「覚えていて頂けたとは…光栄です。
フッ…聞いたよ?その症状…人間が開発した対鬼用の猛毒粉にやられたんだって?」
未だ幼さの残る顔ー…ある日、原田が余りにも似すぎていると嘆いていた千鶴と似た顔でクスクス…と悪戯に笑えば、孵化し続ける血蛆に体内這われ吐血し続ける妖鬼を軽々と見下すと「…あー、女装の鬼とか珍しくて覚えてた、」と、なまえが何時もの調子で言葉を交わした瞬間、薫の表情から冷たい笑顔さえも失い始めるのだった。
「何処で情報を得たか知らねーけど?
俺を嗅ぎ回ったり、新選組の邪魔したりとは…あんたも良い度胸してんな、」
「…は?何ほざいてんの?この死に損ない」
漆黒の悪魔は妖に牙を向け、寂しさを誤魔化し鈴を鳴らす。
「…っ、あんたに僕の何が解る…!」
くりくりっとした薫の漆黒に彼の過去が纏い始めると「怒」や「哀」といった負の感情に支配されてゆく様に、なまえは一つ大きな溜め息と共に「…知るわけねーべ?聞いてもねーんだから、」と漆黒に向き合い返したその瞬間、ガキィンー…!と刀の音が鳴れば其の情景を見た夜空の月は、驚いたかの様に時間外の月光をその時だけ放った。
薫が刀を抜き、建物の横に寄りかかっていたなまえの顔面横に刀を突き刺し、ガルルッと威嚇する情景に、月灯りの宥めを頼りに軌道させてやれば、多少は見映えも甘く綺麗に映るだろうか?
この瞬間だけ、真夜中が月灯りに満ちた不思議な現象
「…っ…あんたみたいに…!悲劇のヒロイン演じてる様な鬼に説明しても無駄なんだよ!」
薫が言葉を引き金にギリギリッ…!と力強く刀に重を構えれば、なまえの真横の刀は主人の意志を尊重し建物を抉り「敵」を嚇すと、その刀の敵のなまえは顔色一つ変えずに呼吸を続けていた。
「…薫の鈴音と俺の笛の音、同じ音を奏でる気がする…」
「…ふざけんなっ!!」
意味解んない事言ってんじゃない!と漆黒を闇に照らせば、薫は刀を建物から引き抜き、なまえの頬をザクッと斬りつけ一筋の紅を垂れ流してやると「御自慢の眼球、潰してあげようか?」と見下し嗤いかければ、なまえは「最近は見たくもねーもんまで見えちまうから、それもいいかもな…?」と真剣な眼差しで返した。
「ハッ…!その余裕こいた表情…更に気に食わないなあ…!あんまり図に乗ってると殺すよ?
あんたの寿命は残り僅かなんだからさぁ…その貴重な時間を全うしたいでしょ?」
少し位、可愛く命乞い出来ないの?と蔑む漆黒が語りかければ、物陰にいる斎藤は呆気なく辛い現実を…しかも斎藤が望んでは居なかったなまえの口からでは無く他人からの口から知って仕舞う仕打ちにあって終う。
「…残り少ない時間だからこそ」
刀を向けられた状況で命乞いこそ滑稽だ、と吐き出し肯定するなまえに「…っ…!…何故…」と、なまえが猛毒粉を吸った事を知らなかった斎藤の碧からは、止め処なく零れ落ちる涙石に比例して、空からもポツポツ…と雨が降ってくれば、もうこれ以上は…と、斎藤の視界を涙と雨が静かに塞がれると、武士を背負う1人の男は只誰にも知られぬ様に、膝を地につき息を押し殺し、摂理に逆らえずただただ泣いた。
ポツ…ポツ…
サアアッー…ーー
「ちっ!雨か…シラけたね。
腸煮え繰り返るけど…まあいいや、あんたの血に協力を得たいから会いに来てやってんの…あんたがくたばるまでまだ僅かに時間はあるだろうし…またお会いしましょうね、なまえさん?」
現実をその瞬間だけ誤魔化す雨音達は、その代償に威圧を含ませ身体を冷やせば、薫は瞬に霧を斬り姿を消したのだった。
ポツポツ優しく降っていた筈の雫が進化し、容赦無く叩きつける雨石に変化した水に痛覚と冷感を覚えるなまえは、次いでに身体に這った血蛆を洗い流してやりながら、薫とのやり取りを脳内で再生させている中、残されたもう1人の人物ーー斎藤は、未だ雨石を被り続け、己の碧は色を失うが、だが雨に負けずと虚しく涙石を産み零れ落としていったーー…
しつこく、時に嫌らしく…己の感情を貫き、愛しの者が隠す【毒】を暴こうとした報いなのか?
真実を知る代価は余りにも大きい
「…ごめんな、これが俺の隠してた【真実】ーー」
初めから斎藤の存在を気がついていたなまえは、地に跪いていた斎藤の側まで身体を引き摺る様に、ザッザッ…と寄り歩むと、スッ…と静かに手を差し伸べた。
冷たい手に、滴る血と雨
「真実を隠す為に…嘘偽で塗り固めてきた、汚いよな…」
大罪を含む涙雨を身体も心にも討ち当てて、謝罪の意思を籠めると供に、足掻きとして血液を洗い流し証拠を揉み消す無駄な行為を斎藤へ見せれば、死んだ魚の様な眼をした碧は、ゆっくりと顔をあげ未だ「生きている」と懸命に主張する紅い月を見上げるのであった。
「…猛毒粉とは…なんだ…」
斎藤にとっては味方となる雨を恩と抱きながら、なまえの差し出した手を払いのけ、此処も個々もズタズタに傷ついたというならば…と、己が予想していた【毒】の正体を暴き掴みたく立ち上がれば、苦笑いを落とすなまえに容赦無く問いただした。
「…芹沢さん暗殺のあの晩も、雨が降ってたな、」
なまえが紅月を閉ざしながら放てば、ザアア…と激しく鳴く雨音は優しくあの晩を蘇えさせて呉れ、彼の言葉を素直に聞き入れる斎藤は「俺と新八が戦っていた時ーー…屯所で何か起こったのだな?」と、当時の己の状況を口にすると、なまえは静かに頷き「…芹沢さん暗殺時に、新見さんが開発した対鬼用の猛毒粉を使用されちまって…吸った、」と素直に白状すれば、これまでの状況や己の寿命等をすべて碧に吐き出し決めの足掻きを見せ、真実を知るのは数人だと虚しく言い訳をし、口止めを願い出るのであったーー…
「……先程の者はー…」
正直、苦しい現実を受け止めたばかりの斎藤にとって、これ以上は彼の口から悲しい言葉を突きつけられるのは拷問とて同じ事であったのだったが、なまえがやっと己に真実を語る覚悟を前に斎藤も逃げ出せる筈も無く、先程のもう一つの気になる事柄を問えば、なまえも首を傾げ「…おそらく、俺の妖鬼の血狙い?」と推測でしか放つ様子であった。
「…俺がもう…一に嘘をつく事はねーよ、」
知るのは薫という名と千鶴に似る姿とだけ、と放てば、斎藤は「そうか…」と頷くと、なまえは哀しい表情をしながら「血が狙いって事は鬼関連の件だろ…まぁ俺の背負う十字架だべな、」と皮肉に語り、連結鍵を優しく握れば、鍵はジャラッ…と存在感を主張させるのであった。
ザアアッ…と怯む術を覚える事なく転がり続ける雨石は、今この時まで貪り続けてきたなまえの【毒】と比例する様を写したく、真夜中の空がスクリーンと成り下がり斎藤の蒼を汚して許、消炎して罪を鎮痛させていけば「…俺はどうすれば良い…」と涙声でなまえに最後の問い掛けをする。
「…俺は、なまえの傍にいたい…」
いくら雨で誤魔化しても涙声で証明させられて終う斎藤の訴えに、なまえは何時もと同じ様に斎藤の頭をぽんぽん…と撫でれば「うん、居て?」と語りかけるのであった。
「…一は俺の消炎鎮痛剤、」
無茶する俺のストッパーは一だろ?と放った後、ぐしゃぐしゃに濡れ乱れた斎藤の髪を少し乱暴に掻きあげながら、なまえが頬を染め「あ、精神安定剤…?一が生涯、武士でいるのは構わねーけど、とにかく俺の傍に居ないと困る、」と静かに続けて放てば、それを受けた斎藤は「…なまえらしいな…」と含み笑いを落とし、ギュッとなまえを抱きしめた。
「…あーもー…二度と手離したくねー…、」
斎藤が仕事で伊藤派につくって言った事柄の時、無論止めはしなかったが…やはり感情私情全てひっくるめ入れば話は別だった様で、なまえは改めて斎藤の存在の大切さを知る事となる。
「…俺が死んだらさ…土方さんや…新選組の事…どうか頼む…」
いつか新選組を引っ張っていくのは、きっと土方さんだろうからと、近藤を慕うなまえの珍しい発言や真剣な頼み事、そして僅かに震える其の身体に…斎藤は一つ一つゆっくり受け止めながら…なまえの人柄や情を噛みしめ、更に温かい涙をボロボロと零したのであった。
「俺も【誠】や【信念】をぶち貫く武士として、この身体が朽ち果て灰に成る瞬間まで、この激動に臨み生き続けてやる。」
「…完膚無きまで付き合おう。
心服するあんたの生涯と…新選組に。」
重く懐く、冷え切った身体をお互いの抱擁で蟠り含め溶かしていく中で、斎藤もなまえに忠誠を誓いーー
そして未だトクトク…と鳴り続けるなまえの鼓動を確かめながら、彼の体温を味わい貪るのであった。
結局、己ら武士は戦場でしか価値を示せない。
ならばそのステージで、己の生き様を深く歴史に刻んでやろう。
決して綺麗な物質だけで構成された訳ではない、我ら新選組のーー誰にも譲れない【誠】
寧ろ、見るに耐えない汚い物質で多く形成されてる様にも思うが…だがしかし、日本に轟く大きな歴史を賭ける事を、此処に約束しよう。
人間と妖鬼の、崩れる事は許されない、完膚なきまで揺るぎ無く命を賭ける【信念】
どうか、大きな拍手をーー
雨石で流れ款、血涙託
(temperature)(涙の温度)
ーーー
情火に火傷、蟠りの消炎
不快い闇の中を辛苦の垢を口内より破棄、ゆらゆらと浮かび上がるなまえのその状況に、余りにも似つかわしく無い華やかに凛としたお淑やかな姿が、悪戯に月光を背負いつつ静かに舞い降りる。
その姿が静かに一つ歩けば、何処か悲しみの鈴が“淋”…と鳴く幼に聞こえた。
(同化、僕自身を認めて)
(…なまえ…っ…!)
未だ物陰から隠れて様子を見ていた、正しくはその場から動けず立ちすくんでいた斎藤は、心の奥深くでなまえの名を叫んだ。
何時だって冷静な彼も、己自身の葛藤に苦しむ事に成るが…唯一只、こうして見守り隠れている事しかやはり手段は無かったー…
「…薫、」
値打ちの無い寸劇に、致し方ないと慰めを降らせる桜時雨ーー…
なまえが言うにはどうやら其の凛とした姿の正体は「薫」という者の様であって。
「こんな真夜中に、何?」
なまえは眉間に皺を寄せながら、己の口内の血塊をベッと地に叩きつける様を画けば、本来ならば滑稽だと放つ薫の顔面に叩きつけてやりたいと意味を抱きながら、彼に見せつけ忌み放ち…何がそんなに笑えるのか、ほざいてみろとでも言う様に威嚇する。
「覚えていて頂けたとは…光栄です。
フッ…聞いたよ?その症状…人間が開発した対鬼用の猛毒粉にやられたんだって?」
未だ幼さの残る顔ー…ある日、原田が余りにも似すぎていると嘆いていた千鶴と似た顔でクスクス…と悪戯に笑えば、孵化し続ける血蛆に体内這われ吐血し続ける妖鬼を軽々と見下すと「…あー、女装の鬼とか珍しくて覚えてた、」と、なまえが何時もの調子で言葉を交わした瞬間、薫の表情から冷たい笑顔さえも失い始めるのだった。
「何処で情報を得たか知らねーけど?
俺を嗅ぎ回ったり、新選組の邪魔したりとは…あんたも良い度胸してんな、」
「…は?何ほざいてんの?この死に損ない」
漆黒の悪魔は妖に牙を向け、寂しさを誤魔化し鈴を鳴らす。
「…っ、あんたに僕の何が解る…!」
くりくりっとした薫の漆黒に彼の過去が纏い始めると「怒」や「哀」といった負の感情に支配されてゆく様に、なまえは一つ大きな溜め息と共に「…知るわけねーべ?聞いてもねーんだから、」と漆黒に向き合い返したその瞬間、ガキィンー…!と刀の音が鳴れば其の情景を見た夜空の月は、驚いたかの様に時間外の月光をその時だけ放った。
薫が刀を抜き、建物の横に寄りかかっていたなまえの顔面横に刀を突き刺し、ガルルッと威嚇する情景に、月灯りの宥めを頼りに軌道させてやれば、多少は見映えも甘く綺麗に映るだろうか?
この瞬間だけ、真夜中が月灯りに満ちた不思議な現象
「…っ…あんたみたいに…!悲劇のヒロイン演じてる様な鬼に説明しても無駄なんだよ!」
薫が言葉を引き金にギリギリッ…!と力強く刀に重を構えれば、なまえの真横の刀は主人の意志を尊重し建物を抉り「敵」を嚇すと、その刀の敵のなまえは顔色一つ変えずに呼吸を続けていた。
「…薫の鈴音と俺の笛の音、同じ音を奏でる気がする…」
「…ふざけんなっ!!」
意味解んない事言ってんじゃない!と漆黒を闇に照らせば、薫は刀を建物から引き抜き、なまえの頬をザクッと斬りつけ一筋の紅を垂れ流してやると「御自慢の眼球、潰してあげようか?」と見下し嗤いかければ、なまえは「最近は見たくもねーもんまで見えちまうから、それもいいかもな…?」と真剣な眼差しで返した。
「ハッ…!その余裕こいた表情…更に気に食わないなあ…!あんまり図に乗ってると殺すよ?
あんたの寿命は残り僅かなんだからさぁ…その貴重な時間を全うしたいでしょ?」
少し位、可愛く命乞い出来ないの?と蔑む漆黒が語りかければ、物陰にいる斎藤は呆気なく辛い現実を…しかも斎藤が望んでは居なかったなまえの口からでは無く他人からの口から知って仕舞う仕打ちにあって終う。
「…残り少ない時間だからこそ」
刀を向けられた状況で命乞いこそ滑稽だ、と吐き出し肯定するなまえに「…っ…!…何故…」と、なまえが猛毒粉を吸った事を知らなかった斎藤の碧からは、止め処なく零れ落ちる涙石に比例して、空からもポツポツ…と雨が降ってくれば、もうこれ以上は…と、斎藤の視界を涙と雨が静かに塞がれると、武士を背負う1人の男は只誰にも知られぬ様に、膝を地につき息を押し殺し、摂理に逆らえずただただ泣いた。
ポツ…ポツ…
サアアッー…ーー
「ちっ!雨か…シラけたね。
腸煮え繰り返るけど…まあいいや、あんたの血に協力を得たいから会いに来てやってんの…あんたがくたばるまでまだ僅かに時間はあるだろうし…またお会いしましょうね、なまえさん?」
現実をその瞬間だけ誤魔化す雨音達は、その代償に威圧を含ませ身体を冷やせば、薫は瞬に霧を斬り姿を消したのだった。
ポツポツ優しく降っていた筈の雫が進化し、容赦無く叩きつける雨石に変化した水に痛覚と冷感を覚えるなまえは、次いでに身体に這った血蛆を洗い流してやりながら、薫とのやり取りを脳内で再生させている中、残されたもう1人の人物ーー斎藤は、未だ雨石を被り続け、己の碧は色を失うが、だが雨に負けずと虚しく涙石を産み零れ落としていったーー…
しつこく、時に嫌らしく…己の感情を貫き、愛しの者が隠す【毒】を暴こうとした報いなのか?
真実を知る代価は余りにも大きい
「…ごめんな、これが俺の隠してた【真実】ーー」
初めから斎藤の存在を気がついていたなまえは、地に跪いていた斎藤の側まで身体を引き摺る様に、ザッザッ…と寄り歩むと、スッ…と静かに手を差し伸べた。
冷たい手に、滴る血と雨
「真実を隠す為に…嘘偽で塗り固めてきた、汚いよな…」
大罪を含む涙雨を身体も心にも討ち当てて、謝罪の意思を籠めると供に、足掻きとして血液を洗い流し証拠を揉み消す無駄な行為を斎藤へ見せれば、死んだ魚の様な眼をした碧は、ゆっくりと顔をあげ未だ「生きている」と懸命に主張する紅い月を見上げるのであった。
「…猛毒粉とは…なんだ…」
斎藤にとっては味方となる雨を恩と抱きながら、なまえの差し出した手を払いのけ、此処も個々もズタズタに傷ついたというならば…と、己が予想していた【毒】の正体を暴き掴みたく立ち上がれば、苦笑いを落とすなまえに容赦無く問いただした。
「…芹沢さん暗殺のあの晩も、雨が降ってたな、」
なまえが紅月を閉ざしながら放てば、ザアア…と激しく鳴く雨音は優しくあの晩を蘇えさせて呉れ、彼の言葉を素直に聞き入れる斎藤は「俺と新八が戦っていた時ーー…屯所で何か起こったのだな?」と、当時の己の状況を口にすると、なまえは静かに頷き「…芹沢さん暗殺時に、新見さんが開発した対鬼用の猛毒粉を使用されちまって…吸った、」と素直に白状すれば、これまでの状況や己の寿命等をすべて碧に吐き出し決めの足掻きを見せ、真実を知るのは数人だと虚しく言い訳をし、口止めを願い出るのであったーー…
「……先程の者はー…」
正直、苦しい現実を受け止めたばかりの斎藤にとって、これ以上は彼の口から悲しい言葉を突きつけられるのは拷問とて同じ事であったのだったが、なまえがやっと己に真実を語る覚悟を前に斎藤も逃げ出せる筈も無く、先程のもう一つの気になる事柄を問えば、なまえも首を傾げ「…おそらく、俺の妖鬼の血狙い?」と推測でしか放つ様子であった。
「…俺がもう…一に嘘をつく事はねーよ、」
知るのは薫という名と千鶴に似る姿とだけ、と放てば、斎藤は「そうか…」と頷くと、なまえは哀しい表情をしながら「血が狙いって事は鬼関連の件だろ…まぁ俺の背負う十字架だべな、」と皮肉に語り、連結鍵を優しく握れば、鍵はジャラッ…と存在感を主張させるのであった。
ザアアッ…と怯む術を覚える事なく転がり続ける雨石は、今この時まで貪り続けてきたなまえの【毒】と比例する様を写したく、真夜中の空がスクリーンと成り下がり斎藤の蒼を汚して許、消炎して罪を鎮痛させていけば「…俺はどうすれば良い…」と涙声でなまえに最後の問い掛けをする。
「…俺は、なまえの傍にいたい…」
いくら雨で誤魔化しても涙声で証明させられて終う斎藤の訴えに、なまえは何時もと同じ様に斎藤の頭をぽんぽん…と撫でれば「うん、居て?」と語りかけるのであった。
「…一は俺の消炎鎮痛剤、」
無茶する俺のストッパーは一だろ?と放った後、ぐしゃぐしゃに濡れ乱れた斎藤の髪を少し乱暴に掻きあげながら、なまえが頬を染め「あ、精神安定剤…?一が生涯、武士でいるのは構わねーけど、とにかく俺の傍に居ないと困る、」と静かに続けて放てば、それを受けた斎藤は「…なまえらしいな…」と含み笑いを落とし、ギュッとなまえを抱きしめた。
「…あーもー…二度と手離したくねー…、」
斎藤が仕事で伊藤派につくって言った事柄の時、無論止めはしなかったが…やはり感情私情全てひっくるめ入れば話は別だった様で、なまえは改めて斎藤の存在の大切さを知る事となる。
「…俺が死んだらさ…土方さんや…新選組の事…どうか頼む…」
いつか新選組を引っ張っていくのは、きっと土方さんだろうからと、近藤を慕うなまえの珍しい発言や真剣な頼み事、そして僅かに震える其の身体に…斎藤は一つ一つゆっくり受け止めながら…なまえの人柄や情を噛みしめ、更に温かい涙をボロボロと零したのであった。
「俺も【誠】や【信念】をぶち貫く武士として、この身体が朽ち果て灰に成る瞬間まで、この激動に臨み生き続けてやる。」
「…完膚無きまで付き合おう。
心服するあんたの生涯と…新選組に。」
重く懐く、冷え切った身体をお互いの抱擁で蟠り含め溶かしていく中で、斎藤もなまえに忠誠を誓いーー
そして未だトクトク…と鳴り続けるなまえの鼓動を確かめながら、彼の体温を味わい貪るのであった。
結局、己ら武士は戦場でしか価値を示せない。
ならばそのステージで、己の生き様を深く歴史に刻んでやろう。
決して綺麗な物質だけで構成された訳ではない、我ら新選組のーー誰にも譲れない【誠】
寧ろ、見るに耐えない汚い物質で多く形成されてる様にも思うが…だがしかし、日本に轟く大きな歴史を賭ける事を、此処に約束しよう。
人間と妖鬼の、崩れる事は許されない、完膚なきまで揺るぎ無く命を賭ける【信念】
どうか、大きな拍手をーー
雨石で流れ款、血涙託
(temperature)(涙の温度)
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情火に火傷、蟠りの消炎