友を誇り絆す代償、武士血潮に溺れた史跡
n a m e
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
一陣の風が、ザァッ…と響をたてながら落ち葉を掃除する様子は、京の大通りを駆ける冷たい木枯らしと共に、これから迎える冬を歓迎するかの様であって。
小さく細く声高く唄っている風を受け、否応無しに身体に染み渡せたなまえの身体は、小さくブルッと震えるのであった。
「…さみ…、」
ついこの間まで、冷たい物を食べたい、なんて斎藤に駄々をこねていた自分を思いだし、そして序でに連結する苦い思いも蘇って仕舞い、蔑む様に苦笑いを浮かべるなまえは、すぐさま思考を切り替え様と「…すぅっ…」と、冷たい空気を体内に取り込む為、吸った。
「…はぁ…、」
動物が心臓を動かす為、酸素を体内に取り込み血液と共に流れ、巡り巡った後、体内で変化した二酸化炭素を吐き出し、そして自然にまた戻れば、其れを緑が餌とし【光合成】をしてまた酸素を生み出す…という摂理を巡ると同じ様に、季節季節も情景や風景、四季折々を画いては巡る。
だがしかし、特に最近は、驚く程あっと言う間に過ぎて行って仕舞う時の速さに、なまえの心は何処かしらズキンー、と切なく痛むのであった。
ただ単に、機械的に同じ事を繰り返し巡り巡っている訳では無く、一呼吸が何かしらの意味を持ち、変化しながら繰り返しているのだ。
自然界も、歴史も、生命もーー…
「なまえ、冷えるだろ?大丈夫か?」
肌寒く成った十一月。
なまえの白い肌が一層透明に見え、更に此の寒さのせいで青白く写り、不安と心配に陥った原田は、すぐさまなまえの手をとり「…はぁぁ~…」と己の吐いた暖かい息をなまえの手にあててやりながら、優しく擦って温めてやった。
「…頼んでねーけど…、」
じとっ…とした紅い月が原田の黄を射抜けば、原田は「んな冷たい事言うなよ?ほーら、眉間にそんなに皺寄せてっと…綺麗な顔が台無しだぜ?」と、女を口説くようになまえを宥めながら人差し指で額をツンッ…と悪戯につつけば、なまえは、ムスッとした表情をしながら、無言のまま俯いて仕舞うのだった。
「…なまえ、おいで?」
原田は黙りこくるなまえの手を握り引っ張る様に進むと「…ここんとこ、世間も新選組も大きな動きがあって…少しお疲れか?あんまり無理すんなよ?」と気遣いの言葉を送ってやれば「…幕府が朝廷へ政権返した事だべ、」と、なまえはぶっきらぼうに返すのであった。
「いや、それもあるけど…俺が心配してるのはなまえの…」
原田が言い掛けたその時、なまえの背後からいきなり永倉が現れ、なまえをいきなりガバッと抱きしめながら「左之!!白昼の大通りで堂々と俺のなまえちゃん口説いてるんだよ!!」と大きな声が響いた。
「!?」
急な展開にビクッと身体を跳ねさせ驚き、硬直したまま永倉に後ろから抱かれているなまえは、不覚にも永倉の存在に気が付かなかった様で…、なんだかんだ言いつつも原田の暖かい気持ちが、彼の心にほっこりと沁みていたようだった。
「…左之と新八は、なんも変わんねーのな、」
ギャーギャー言い合って言葉使いはぶっきらぼうであるが、二人の仲の良さについ頬を緩ませ語り掛けたなまえに「なーに言ってんだよ?俺達は俺達だろー?なまえちゃん一筋なのも変わんねぇからよ!」と言いながら、永倉は、なまえの頭をなでなで…と優しく撫でながら眩しく笑えば、なまえは頬を染めながら「…どあほ、」と小さく零し、永倉の片頬をぐににっ、と摘むのだった。
「…にはー!俺、実は、なまえちゃんに頬摘まれんの好きなんだよな!」
なまえに片頬を引っ張られ、グニャっとした顔に成りながらも太陽の様に笑う永倉に、なまえは「…おー、痛いの好きなんだ?…おまけ、」と永倉のもう片方の頬にも手をやり、ぐににっ、と摘んだ。
「…いひゃ、いひゃひゃ」
「何言ってんのかわかんねー、」
(ったく、新八の奴…良いとこ持っていくんだからよ…)
じゃれ合う永倉となまえを隣で見ていた原田は、頭をポリポリ…と掻きながら羨ましいと思いつつ、久しぶりに見たなまえの柔らかい表情に、ほっ…と安心する。
(…でも、サンキューな…新八)
半年程前…平助や斎藤が抜けてから、なまえの様子が変わって仕舞った事に対して、勿論、原田も気付いており、心配する余り何処かしらなまえに対して、もしかしたら、腫れ物を扱う様な態度になっていたのかもしれないー…と気が付き、安心したと共に反省し、其れに気がつかせてくれた永倉に、心の中で御礼を言うのであった。
「…左之、手」
寒いのと、新八のせいで疲れた、と、むーっとした表情をしながら、考え込んでいた原田に話かけ手を出したなまえは、先程の様に繋いで引っ張って、と口に出しては言わず雰囲気で言うと、原田は笑いながら「ははっ!…姫様の仰せのままに?」と手を取るのだった。
「…女扱いすんじゃねーよ、どあほ、」
ーー…
『…ほらー!左之さんがまたなまえの事女扱いするから、怒っちまったじゃねーかー!』
(時に強い絆は、幻覚を仕向ける)
「ーー…坂本竜馬が、暗殺されたらしい」
坂本は、大政奉還を主導した事で有名な人物で、薩摩や長州との繋がりが深い土佐藩の浪人であり、一時期は新選組も血眼になって探していた事もあったが、先日の大政奉還を機会に、坂本に手を出すなとの命が下っており、新選組にとっても此の名は久しく聞いていなかった筈だが、坂本の件で屯所に調べが入った様だった。
渋く顔を歪ましながら、調べに入った彼らの証言によれば、坂本が殺された現場には、新選組隊士の鞘が落ちていた様でー…しかも其の鞘は原田の物だと言う。
「なんだ、左之さんが斬ったんだ?僕も呼んで欲しかったなぁ」
沖田が原田に問えば、原田は「馬鹿言え!俺の鞘は此処にあんだろ!」と面倒そうに肩をすくめる原田に、井上は微笑しながら「皆も最初から疑ってないよ。…世間が信じてくれるかわからんのが困るなあ…」と呟いた。
「新選組のせいにしたい奴もいんだろ?…俺らが知らねーなら新選組が手を下すわけない」
でも、近藤さんの手出すなって命令を破る奴が新選組にいりゃ、俺も黙ってねーよ、なんて付け足して放つなまえに、沖田は微笑みながら「なまえさんらしいですね」と返した後、「山南さんが勝手に動いたんだとしたら、別ですけど」と投げれば、その場は静まり返ったー…
「あの人…大丈夫なのか…?」
周りから見ても、彼らの夜の巡察のやり方は酷く、山南自身が血に餓えている様にさえ見え、もう周りの己らが羅刹隊を隠し通す様に気をつけるしかない、と語っていれば「その件についてだが…」と業と会話を遮る様な大きな声が聞こえ、近藤と土方が部屋に入り、そしてーー…
「…は、じめ…?」
近藤と土方の背に、御陵衛士についた筈の斎藤の姿が見えれば、なまえも、周りの他の連中も、思わず目を擦り驚き唖然する。
「…なまえ…」
なまえが放った斎藤の名を呼ぶ第一声に、斎藤は、宝石の様な物凄く意味を持つ碧瞳の意志を放ち輝かせ、真っ直ぐとなまえの紅い月と向き合えば、周りの人物は関係無い程、そして時間が止まったと思わせる程、二人の意識だけぶつかり、強く輝くのであった。
『 …今のあんたには、付いて行こうとは思えぬな… 』
斎藤が新選組を離れる前に、なまえを刺す様に放った言霊が、なまえの全身を巡り、哀しくリフレインする。
「…っ、」
己についてきて欲しいとか、自意識過剰な意味で願っていた訳では無かったが、なまえの恐れる事柄(己への拒絶)を、しかも信頼していた者から放たれて仕舞った現状に、やはり心臓がドクン、ドクンと鳴り、痛く気不味くー…
無言で、しかし恐いほど力強くぶつかってくる碧から、なまえは逃げる様にふっ…と視線を外した瞬間、土方から「本日付けで斎藤は新選組に復帰する。」と断言するのであった。
「…俺は元々、伊東派ではない」
騒ぎが収まらない連中に、斎藤は此処でやっとなまえから視線を外し一つ咳払いをし、訂正を…と続ければ、「彼は、トシの命を受けて間者として伊東派に混じっていたんだよ」と近藤の説明が入り、ようやく周りの連中も落ち着きー…敵を騙すにはまず味方から、と斎藤は伊東派のフリをしていただけであった様だった。
「…なーんだ、一君が居なくなってくれた御陰で、なまえさんをたっぷり独占できてたのにー。
また邪魔者が復活するなんて…面倒だなあ…」
沖田が悪戯に睨みながら笑えば、斎藤は「…甘いな、まず俺がなまえから離れる事など…俺の意志ではありえぬ。今回は仕事だ。総司の思い通りになると思うな。」と余裕綽々と返し翡翠を見下せば、沖田はムッと表情が強ばり「あっそう…なんか一君、また一段と良い性格になったんじゃない?」と、2人の間にバチバチと火花が散り始める。
「帰ってきた早々、お決まりのなまえちゃん争奪戦やめろ!お前らほんと変わんねぇな!?」
見かねた永倉が二人をベリッと引き剥がせば、「にしても、肝が冷えたぜ…近藤さん達も人が悪ぃよ」と嘆くのだった。
「極秘だったものでな」と語る近藤に、周りは兎に角、斎藤が戻って来たのを喜んで居たが、なまえは未だに整理が出来ず、頭では、戻って来た斉藤に対し、喜ばしい声を掛けてやれれば…と思うのだが、うまく言葉が見つからず、無言を突き通す事となった。
あの時の斎藤と、今の斎藤がグルグルと脳内を廻るのだが…とりあえずその件は後に置いて置き、兎に角、御陵衛士の件を優先させ内部事情を問う事にする。
「…伊東達は新選組に対して、明らかな敵対行動を取ろうとしてる」
なまえから話しかけられた斎藤は、どうしても表情が一瞬だが緩んで仕舞ったが、すぐさま真剣な表情に戻し、説明を続けた。
伊東は、幕府を失墜させる為、羅刹隊の存在を公表しようとしているとの事、その為に薩摩と手を組んだ話もあるとの事ー…
羅刹の存在が明るみに出て、幕府お抱えの新選組が関わったと知れれば、きっと新選組は罪に問われ幕府も大打撃、との狙いとの事ーー
「そして、より差し迫った問題が一つ…。
伊東派は新選組局長暗殺計画を練っている」
なまえはその発言を耳にした途端、物凄く怒りに満ちた表情をし、目突きと髪の色と雰囲気が大きく変わり妖鬼に変化する途中であったが、近藤がなまえを宥める様に彼の頭を抱え込む様に撫で、しかし無言で黙りこくる近藤に気付けば、なまえは悲しそうに近藤の腕に縋る様に触れ、額をあて黙ってうなだれた。
「御陵衛士は既に新選組潰しに動き始めている。」
紀州藩の三浦が新選組に坂本暗殺を以来し、そして殺したのは新選組の原田だと噂を流したのも御陵衛士の連中だ、と土方が語り続ければ、その件に身に覚えの無い三浦の警護に斎藤をつかせると放つと、斎藤はほとぼりが冷めるまでは新選組から離れると静かに頷いた。
「…残念な事だが、伊東さんには死んでもらうしかないな」
前置きは此処までだ、と土方が【鬼】を背負い語れば、その場に居たホンモノの【妖鬼】は、殺意と怒りと血液が満ちる月を、眩しい程に輝かせながら「ーー…俺が殺ってやんよ、」と静かに放てば、その雰囲気につい周りは唾を飲み、そして今回初めてなまえの【鬼】を部分を目の当たりにした千鶴は、ガタガタ…怯え、震え上がって仕舞った。「待て!なまえ…!お前にはやって欲しい事がある…」
妖と鬼が混合する負のオーラを纏い放つなまえに、土方だけが冷静に指示を出せば、なまえは納得がいかず眉間に皺を寄せながらも、黙って土方の言葉を拾う。
「原田、永倉、なまえ…、てめェらは実行隊に入れ。
俺が伊東をおびき寄せ殺し、お前らはその遺体を使って御陵衛士を脅しにかけ、斬る。」
いいな?と背に鬼を背負い、紫をギリリッ…と光らせ短いが力強く放てば「…でも…」と漏らすが続けるのを諦め、なまえは黙って頷いた。
「…平助の事だが、説得するのなら今回が最後の機会となる…刃向かう様なら斬り殺せ…!」
土方は呟くかの様に、静かに平助の件を最後に語った後…其のまま部屋を去れば、土方が何故その仕事を己にふったのかを全て理解したなまえは、意識の中で土方の気配を追い「…御意、」と視線を床に貶、恩恵を込めながら返す。
納得がいかない千鶴は「説得に応じなかったら斬るなんて…そんな…!土方さんは平助君の事、どうなったっていいってーーそういうことですか!?」と、部屋中に響き渡る声で叫べば「…っ…!そんなわけなかろう!!トシは本心では助けたいとも思っているし、心配にもなるし、苦しいに決まっている!!」と、今まで黙っていた近藤が、苦しげに怒鳴るように放つと、千鶴はハッとした表情をし「…ごめんなさい…取り乱して…」と静かに謝った。
「…お嬢も平助の事、心配なんだよな、」
なまえは、落ち込む千鶴の頭をぽんぽん、と撫でながら慰める様に「…でもな、やっぱりあの人は誰よりも俺らの事を思って心配してる。…だから土方さんには頭あがんねーよ、」と優しく教えた。
「永倉、原田、なまえ。
局長としてではなく近藤勇として頼む。…平助を見逃してやれ。
出来るなら、戻るように説得して欲しい。」
近藤の指示が皆に行き渡れば此の夜、又しても新選組にとって、大きな歴史を刻む事柄…京の都にある無数の裏道の一つ、油小路に出向かうのであった。
ーーー…
「そろそろ来る頃だな…」
暗殺された伊東の遺体を引き取りにくる御陵衛士達を、誘き寄せ罠にかける…其んな汚い仕事を暉す様、空の月は位置を変え始めた。
「伊東先生?!…一体、誰がこのような真似を…!?」
伊東の遺体の元へ全部で六、七人の御陵衛士が駆けつけ、彼らの怒鳴り声や悲しむ声などが混じり合い、大きく騒ぎ始める。
(…平助、)
無論、その中には平助の姿があり…未だ此方の様子に気付いていないのか、俯き加減に歩く平助の姿を見る永倉と原田は、一瞬だけ目を閉じた。
「…行くべ、」
なまえが二人に掛け声を掛けると、両者同時に返事をし、突撃するかの様に御陵衛士の前へとザッ…と現れ、新選組に気が付いた御陵衛士は怒号を言い散らせば、何かを呟いた平助の言葉は、その時に見事かき消されて仕舞うのだった。
ーーバァンッーー!!
…だが其れと同時に、衛士の怒鳴り声も一発の銃声に掻き消される事と成り、何事だ!?と衛士が戸惑っている様子を見れば、新選組でも、御陵衛士でも無いと知る。
「よう、人間ーーああ、ついでに妖鬼ちゃん。遊びに来てやったぜ…」
闇に轟く二つの影はーー天霧と不知火であり、悪戯に微笑む不知火がヒラヒラと片手で合図をすれば、薩摩の連中を沢山集め、御陵衛士共々包囲する。
「…薩摩の藩命かよ。…天霧はともかく、不知火は長州の関係者じゃ無かったか?」
原田が苦笑いの様に口角をあげ問えば、「生憎、薩摩長州は仲良しこよしってな?」と小馬鹿にしたような不知火の答えを合図に、急に包囲がぐっ…と狭まるのであった。
「…めんどくせ、」
なまえが舌打ちをした後、ゆっくり刀を抜くと同時に不知火の合図の拳銃が響き、薩摩の藩士たちは一斉に動き、暴れ狂い暴れる様に動き出す。
ギィン、ギィンーー!!
痛々しい金属音、そして生臭い血の噴き出す水音の中、天霧は呆れた様な表情でなまえに「…黙って我々についてきた方が、あなたの身の為でもありますよ?」と忠告を入れれば、「…お気遣い、どーも。」と返し、なまえは戦場の中で舞い踊る。
欠け崩れた満月を背にして、血飛沫と刀悲鳴を風景に筆卸してやれば、目を背けたくなる様な殺戮が嘲笑い、宵を冷酷酒で酔わせる黙認殺傷ーー
「ぐっ…ああああっ…!!」
奏でられる楽器の立場である薩摩藩士の悲鳴とは真逆で汚いが、華麗に美しく、酷く残酷に、ザシュっ、ザシュっ、と意図も簡単に華麗に演奏していくなまえに「チョーシこきすぎだぜ?妖鬼ちゃんよー…!!」と叫んだ不知火は、不愉快そうに銃を向け、怒りを込めた銃弾を連続でブッ離し、黙らせ止めさせようと狙い撃つ。
「這い蹲りな、クソガキ!」
ーーガウン、ガウンガウンガウンーッ…!!
不知火の殺意に近い銃弾が放たれる呼で、やっと狙われていたと気がついたなまえは「…ちっ、汚ねーな!」と睨みながら、銃弾との僅かな距離で数発は避けてみるが、残り数発は急所を避けた体内に埋めり込み貫通し、傷口から勢いよくブッッ…!と、血を噴き出させた。
「なまえ!!」
「なまえちゃん?!」
原田に永倉、そして平助も、顔を青くし銃弾を受けた彼の名を叫ぶが、自分達に向かってくる連中の相手もせざる得なく、金属音を止む事も出来ず、彼の側に駆け寄る事も出来なかった。
「…ちっ…、」
銃に対しての対応力も知識も持っていないなまえにとって、対銃に慣れるにはやはり時間が欲しいとこであり…傷口は徐々に鬼の能力で塞がってはいくが、痛覚は半端なく強い故に、火傷から浮かび上がる酷く不愉快な焦げ臭さ、急所ならあの世いきと戒め、口内から溢れてくる煩わしい血液をベッ、と地面に吐き捨て舌打ちをする。
「あーあ…銃でブチ込んでも、黙ってくたばらねぇで呼吸してやがるのが更にウゼェんだよなー…やっぱり脳天にブチかまさねぇと駄目か?」
不知火は、不愉快そうにギリリッ…となまえを睨みつければ、己の銃の弾の部分をガチガチガチ…と悪戯に弄った。
「…っ…左之さん!新八っあん!どうにかしてなまえ担いで撤退しろ!!
…此処はオレが…オレがどうにかするから…っ…!!」
今まで黙っていた平助が、我を忘れたように叫びながら刀を振り上げれば、不知火はニヤリと不気味に微笑み、銃をジャキッ…と平助へと向けた。
「新選組を危険に晒したのはこのオレでもある…!今夜の襲撃の計画を知っていながらも…とめられなかった…ッ…!!」
「…っ、平助!
待て!!やめ…っ…ぐっ…!!」
傷口からは銃弾で焼かれた為、シュゥゥッ…と未だに煙出ているなまえは、傷口を庇い抑えながらも平助を追い、彼に向け制止を望む為、懸命に手を伸ばす。
「自分の道って、人についていくだけじゃ…駄目だったんだ…!!
…だから最期くらいは…自分の道を自分で決めるーー…!!」
御陵衛士は平助を見た瞬間、叫びながら「何をしている!まずは新選組から斬れ!」という命令を怒鳴りつけるが、平助は其れを無視し立ち向かい、不知火までの道を塞いでいる、邪魔する薩摩藩士や御陵衛士を斬りながら、刀と共に戦場を駆け巡っていた。
「ーーお前らは、オレが絶対に守ってやるー…!!」
新選組が知るいつもの平助の明るい表情を魅せた後、ギリリッ…と真剣な表情をし刀を握り直し、不知火との距離まで後僅かと速さを更に増せた瞬間ーー…
ーーブッ、ビチャッ…!!
頭に血が上り周りが見えない不知火に少し冷静になれと制止をかけるのを目的と、御陵衛士が倒されている現状を見てそろそろ撤退は近いと判断し、不知火と平助の間に割入った天霧は、平助の喉と心臓の間付近を、思い切り手刀で突き抉り、そして地面に叩き飛ばした。
「…っ、ァ…がはっ…!!」
全く同時の頃、神の悪戯か運命か、屯所で待機していた沖田も、平助と同じ量である大量の血液を吐き出し…哀しくシンクロした二人は、大量の鉄を地床に血螺ばせば、赤黒い薔薇を綺麗に咲き誇らせて終うーー…
『…ッ…ゴボ……ッ…!!』
ーーー
「平助!?」
「っ…ちくしょ…テメェらどけェーー!!」
原田も永倉も、先程のなまえの件と、平助の今の状況を確認して終い、完璧に怒りが頂点になり、薩摩藩士を異常な速さで片付けていけば、薩摩藩士は降参するしか術は無く「勘弁してくれ…!撤退だ!!」と次々と逃げていく。
「…へーすけ…」
意識が朦朧とする中で、薔薇が咲き誇る絶景を特等席で見て終ったなまえは、その場に膝をガクンーーと堕ち崩れ、紅月に涙石を宿し産み出し、身体の痙攣を指揮にしては、流れる涙石の数と比例して瞳の色の混合色は強く成っていった。
「…よー…死に損ない…」
完璧に興奮し冷静さを取り戻せず、其れさえも気が付かなかった不知火は、地面に膝をつき座り込むなまえの目の前に仁王立ちし、なまえの眉間にゴリッ…と銃口をあて、カチリと構えるのであった。
「…よせ!不知火!!」
ただならぬ妖と鬼の気を察知した天霧は、焦りながら不知火に叫び呼び戻そうとするが、不知火は聞き耳持たず「妖鬼ちゃんよぉ…今度こそ命剥ぎ取ってやんよ…テメェもアレと仲良く共に死にな?」と放った後、首でクイッと平助を指しながらなまえを煽った次の瞬間ー…なまえの身体全体から溢れる冷たくて哀しい気を直に受け、此処でやっとなまえのただならぬ雰囲気に気が付いた不知火は、無意識にガタガタと震える身体を我慢しながら「…テメェっ…!」と歯を食いしばり、銃の引き金を引こうとしたがーー…
顔を俯むかせていたなまえの顔が、ゆっくりと見上げてきたと思えば、次の瞬間、無言でニタァッ…とした眼の色が完全に混合色と成ったなまえと眼が合った瞬間、なまえの【絶対零度】の恐怖を全身で味わって終った不知火は、今まで味わった事の無い恐怖に食い千切られ顔面蒼白に成れば、本能に従い己の全身全霊を賭け、其処からザザッと離れて、天霧と急いで撤退するのであった。
「…っ、畜生…っ!」
己の全身全霊で逃れた筈が、気がつけば銃を握っていた手の甲の肉を深く抉り千切られており、余りの痛覚に、表情を思い切り歪ませた。
「…其れで済んだと思えば、これ以上無い幸いだ。いくぞ…」
普段、決して見ることの無いであろう…天霧の思い詰めるような表情を見れば、僅かに残る薩摩藩士と鬼二人は、速やかに去っていったのだった。
ーーー…
「…ヒュー…ヒュー…」
御陵衛士の死体が転がり、先程までの騒がしさがまるで嘘の様に静まり返った油小路は、平助の吐き出す言葉と吐息と共に、朱く赤く証く、染り汚されていた。
「…ははっ…ドジっちまった…痛ぇ…」
「っ…くそっ…傷が深すぎる…っ…!」
「平助!こんなとこで死ぬんじゃねぇよっ…ッ!」
真っ赤に染まりながらも笑う平助に、原田や永倉が声を掛ければ、平助は更にニコッ…と笑い、先程から黙っているなまえの頬に手をやり「…なーに泣いてんだよ…良い男が台無しだぜ…?でもオレ…なまえが泣いてるとこ初めてみた…ラッキー…」と悪戯に放てば、平助もボロボロボロボロ…ッ…と涙を零すのだった。
「…は…、何言ってんだよ…泣いてやがんのは平助と新八と左之だろ…?さすが三馬鹿…!」
いつの間にか妖鬼から普段の姿に戻ったなまえは、紅い月から止まる事の無い涙石をボタボタ…ッと数え切れない程産み出せば、隣の二人から溢れる涙を指でグイッと拭ってやれば、永倉は「…は…はははっ!三馬鹿+なまえちゃん、だろ?米には無条件で味噌汁が付いてくるってのと同じだ…!はっはっは…!!」と叫び、思い切りボタボタと泣きながら笑い飛ばす。
「なんだそれ!相変わらず意味わかんねぇよ…新八…っ…!」
「…あっはっははっ…!
でも新八っあんの…解る気ィする…!!…なまえ、ざまあみやがれー!」
「…ったく、おめーらは俺がいねーと…馬鹿なままで終わっちまうから…しゃーねーべな…」
遮っても遮っても、トクトク…と、とめどなく流れ溢れる平助の血液。
赤ワインが床に零れ、真っ白なカーペットに大きな染みが広がったような赤色に、平助を抱える三人の腕は、虚しく深く刻まれ染まっていったーー
「…ッ…ゲボッ…」
馬鹿みたく談笑して暫く、ヒュー…ヒュー…と呼吸する平助が更に苦しそうに息を求めれば「…くそっ…!ちゃんと止血してやるからな…!」と、他の三人は懸命に止血をしてやるのだが、平助は、血塗れでベトベトしている腕の中の…なまえの腕をグッ…と掴むと、又してもいつもの明るい笑顔でニコッと微笑み「…頼む…、お前らの手で、オレを楽にしてくれねぇかな…?」とゆっくりと語り掛けた。
「…は?お前…自分が何言ってるのか解ってんのか!?
止血したら屯所に連れてってやるから待っ…」
原田が声を荒げ食いかかるが、平助は彼の言葉を無理矢理遮り「…オレはさ、新選組を危険に晒したし、御陵衛士も裏切ったーー…一番やっちゃいけない事しちまった…それに、最期くらいは本当に自分の意志を貫き通して、カッコいいとこ見せてぇじゃん…?」と続けるのだった。
「…このまま屯所戻って、変若水飲んで延命なんて…絶対嫌だ…!」
恐らく誰よりも新選組に依存し、信頼していた平助は、変若水や羅刹といった事柄を引き金に、己が新選組から裏切られた様に感じていったのかもしれない。
「…は…この生殺し状態…?傷口がさ…死ぬ程…痛ぇし…?」
そして、己の傷口を見れば嫌でも理解する。
屯所に戻ったところで、此んな深い傷を治す術も無く、只只、死を待つのみーーならばと生きる為に最終的に縋るのは【変若水】であって。
そんな元凶に至った薬なんぞに命乞いするなら、さっさと死んだ方がマシだーー…
「…頼む…」
新選組を出て御陵衛士に入る際に、なまえにも意志を曲げないと約束し、其れに先程、こんな形だけど大切な人を守るって意志を貫き通せたーー…もう悔いは無い、と、語りながら平助は、涙をボロボロ…と溢れさせ「…へへっ…最期をお前らと共に過ごせて良かった…」と、とても明るく綺麗に笑うのであった。
「…俺が、近藤さんの命に一度でも背く事があるなんて…ありえねー…、」
なまえの悶え震える声に、原田も永倉もボロボロボロボロ…ッと涙を零せば、「…俺たちは…近藤さんや土方さんに…なんて言えば良いんだよ…!この駄々こね平助…!」と平助を、強く強く強く抱きしめた。
「…わりぃ…嫌な役、押しつけちまって…」
原田も永倉も、そしてなまえも、平助の堅く強き揺るぎない意志に、一人の武士として頷く事しか出来ず、4人で抱き合い僅かな貴重な時間を過ごし最期の別れをすれば、なまえの漆黒刀を一度地に突き刺し、原田と永倉は黒々しく光る刀に、グッ…と手を添える。
「…平助…此処に胡座、組めるか?」
なまえが静かに平助に手を貸し誘導させ、漆黒刀が刺さる地のすぐ隣に平助を座らせれば、平助はなまえの紅い月を真剣に覗きながら「…死ぬ前に見ても、なまえの瞳は…綺麗だな…」と呟くのであった。
「…平助だけだぜ?
なまえの眼好きだー、なんて言ってくれんの、 」
「…なまえ、あのさ…ごめん…!
…あん時の大嫌いって嘘だから。
あれからずっと胸が痛くて…ずっと謝りたくて……大好きだぜ、なまえ…!!」と泣きながら続ける。
「…先逝って、大福の用意しといてやるよ!」
照れ隠しの為に冗談の様に言い、また茶会しような、と真剣に言えば、大好きななまえと指切りげんまんをする為、小指を差し出してきた平助に、なまえは「どあほ…嘘だって知ってる、…俺だって大好きだ、」と泣きながら指切りげんまんを交わした後、なまえも漆黒刀に手を添え、三人で真剣にチャキッ…と構えた。
「左之さん、新八っあん…なまえ!!
オレが見れなかった歴史を…お前らは懸命に生きやがれ…!!」
闇の中さえも、神秘的に浮かび上がる漆黒刀を、涙を流しながら見つめた後、ニッ…といつもの眩しい平助特有の笑顔を咲かし照らせば、三人は、その暖かい光に導かれる様に、漆黒刀を平助の心臓へと全身全霊で突き刺し、永久に消えない絆を結ぶーー…
長く永い一夜の宵は摂理、
暁に叩かれ、邪魔退かれ、
武士道と云うは死ぬ事と見付けり
雨は闇、血は降らずとも、
涙と洟は、暁にさえも渇かせず
生物、特にヒトにとって『情』は必要不可欠で有りけり。
生命体の底力、
最も強し武器【紲】ーー…
『いつか、きっとまた4人で』
友を誇り絆す代償、武士血潮に溺れた史跡
(穢れ許されぬ)(一生の疵亡)
ーーー
血潮を啜り、代償を賭けた故の
凛凛と誇る、摩天楼桜樹木
男達の【紲】
同化、永久、永眠
小さく細く声高く唄っている風を受け、否応無しに身体に染み渡せたなまえの身体は、小さくブルッと震えるのであった。
「…さみ…、」
ついこの間まで、冷たい物を食べたい、なんて斎藤に駄々をこねていた自分を思いだし、そして序でに連結する苦い思いも蘇って仕舞い、蔑む様に苦笑いを浮かべるなまえは、すぐさま思考を切り替え様と「…すぅっ…」と、冷たい空気を体内に取り込む為、吸った。
「…はぁ…、」
動物が心臓を動かす為、酸素を体内に取り込み血液と共に流れ、巡り巡った後、体内で変化した二酸化炭素を吐き出し、そして自然にまた戻れば、其れを緑が餌とし【光合成】をしてまた酸素を生み出す…という摂理を巡ると同じ様に、季節季節も情景や風景、四季折々を画いては巡る。
だがしかし、特に最近は、驚く程あっと言う間に過ぎて行って仕舞う時の速さに、なまえの心は何処かしらズキンー、と切なく痛むのであった。
ただ単に、機械的に同じ事を繰り返し巡り巡っている訳では無く、一呼吸が何かしらの意味を持ち、変化しながら繰り返しているのだ。
自然界も、歴史も、生命もーー…
「なまえ、冷えるだろ?大丈夫か?」
肌寒く成った十一月。
なまえの白い肌が一層透明に見え、更に此の寒さのせいで青白く写り、不安と心配に陥った原田は、すぐさまなまえの手をとり「…はぁぁ~…」と己の吐いた暖かい息をなまえの手にあててやりながら、優しく擦って温めてやった。
「…頼んでねーけど…、」
じとっ…とした紅い月が原田の黄を射抜けば、原田は「んな冷たい事言うなよ?ほーら、眉間にそんなに皺寄せてっと…綺麗な顔が台無しだぜ?」と、女を口説くようになまえを宥めながら人差し指で額をツンッ…と悪戯につつけば、なまえは、ムスッとした表情をしながら、無言のまま俯いて仕舞うのだった。
「…なまえ、おいで?」
原田は黙りこくるなまえの手を握り引っ張る様に進むと「…ここんとこ、世間も新選組も大きな動きがあって…少しお疲れか?あんまり無理すんなよ?」と気遣いの言葉を送ってやれば「…幕府が朝廷へ政権返した事だべ、」と、なまえはぶっきらぼうに返すのであった。
「いや、それもあるけど…俺が心配してるのはなまえの…」
原田が言い掛けたその時、なまえの背後からいきなり永倉が現れ、なまえをいきなりガバッと抱きしめながら「左之!!白昼の大通りで堂々と俺のなまえちゃん口説いてるんだよ!!」と大きな声が響いた。
「!?」
急な展開にビクッと身体を跳ねさせ驚き、硬直したまま永倉に後ろから抱かれているなまえは、不覚にも永倉の存在に気が付かなかった様で…、なんだかんだ言いつつも原田の暖かい気持ちが、彼の心にほっこりと沁みていたようだった。
「…左之と新八は、なんも変わんねーのな、」
ギャーギャー言い合って言葉使いはぶっきらぼうであるが、二人の仲の良さについ頬を緩ませ語り掛けたなまえに「なーに言ってんだよ?俺達は俺達だろー?なまえちゃん一筋なのも変わんねぇからよ!」と言いながら、永倉は、なまえの頭をなでなで…と優しく撫でながら眩しく笑えば、なまえは頬を染めながら「…どあほ、」と小さく零し、永倉の片頬をぐににっ、と摘むのだった。
「…にはー!俺、実は、なまえちゃんに頬摘まれんの好きなんだよな!」
なまえに片頬を引っ張られ、グニャっとした顔に成りながらも太陽の様に笑う永倉に、なまえは「…おー、痛いの好きなんだ?…おまけ、」と永倉のもう片方の頬にも手をやり、ぐににっ、と摘んだ。
「…いひゃ、いひゃひゃ」
「何言ってんのかわかんねー、」
(ったく、新八の奴…良いとこ持っていくんだからよ…)
じゃれ合う永倉となまえを隣で見ていた原田は、頭をポリポリ…と掻きながら羨ましいと思いつつ、久しぶりに見たなまえの柔らかい表情に、ほっ…と安心する。
(…でも、サンキューな…新八)
半年程前…平助や斎藤が抜けてから、なまえの様子が変わって仕舞った事に対して、勿論、原田も気付いており、心配する余り何処かしらなまえに対して、もしかしたら、腫れ物を扱う様な態度になっていたのかもしれないー…と気が付き、安心したと共に反省し、其れに気がつかせてくれた永倉に、心の中で御礼を言うのであった。
「…左之、手」
寒いのと、新八のせいで疲れた、と、むーっとした表情をしながら、考え込んでいた原田に話かけ手を出したなまえは、先程の様に繋いで引っ張って、と口に出しては言わず雰囲気で言うと、原田は笑いながら「ははっ!…姫様の仰せのままに?」と手を取るのだった。
「…女扱いすんじゃねーよ、どあほ、」
ーー…
『…ほらー!左之さんがまたなまえの事女扱いするから、怒っちまったじゃねーかー!』
(時に強い絆は、幻覚を仕向ける)
「ーー…坂本竜馬が、暗殺されたらしい」
坂本は、大政奉還を主導した事で有名な人物で、薩摩や長州との繋がりが深い土佐藩の浪人であり、一時期は新選組も血眼になって探していた事もあったが、先日の大政奉還を機会に、坂本に手を出すなとの命が下っており、新選組にとっても此の名は久しく聞いていなかった筈だが、坂本の件で屯所に調べが入った様だった。
渋く顔を歪ましながら、調べに入った彼らの証言によれば、坂本が殺された現場には、新選組隊士の鞘が落ちていた様でー…しかも其の鞘は原田の物だと言う。
「なんだ、左之さんが斬ったんだ?僕も呼んで欲しかったなぁ」
沖田が原田に問えば、原田は「馬鹿言え!俺の鞘は此処にあんだろ!」と面倒そうに肩をすくめる原田に、井上は微笑しながら「皆も最初から疑ってないよ。…世間が信じてくれるかわからんのが困るなあ…」と呟いた。
「新選組のせいにしたい奴もいんだろ?…俺らが知らねーなら新選組が手を下すわけない」
でも、近藤さんの手出すなって命令を破る奴が新選組にいりゃ、俺も黙ってねーよ、なんて付け足して放つなまえに、沖田は微笑みながら「なまえさんらしいですね」と返した後、「山南さんが勝手に動いたんだとしたら、別ですけど」と投げれば、その場は静まり返ったー…
「あの人…大丈夫なのか…?」
周りから見ても、彼らの夜の巡察のやり方は酷く、山南自身が血に餓えている様にさえ見え、もう周りの己らが羅刹隊を隠し通す様に気をつけるしかない、と語っていれば「その件についてだが…」と業と会話を遮る様な大きな声が聞こえ、近藤と土方が部屋に入り、そしてーー…
「…は、じめ…?」
近藤と土方の背に、御陵衛士についた筈の斎藤の姿が見えれば、なまえも、周りの他の連中も、思わず目を擦り驚き唖然する。
「…なまえ…」
なまえが放った斎藤の名を呼ぶ第一声に、斎藤は、宝石の様な物凄く意味を持つ碧瞳の意志を放ち輝かせ、真っ直ぐとなまえの紅い月と向き合えば、周りの人物は関係無い程、そして時間が止まったと思わせる程、二人の意識だけぶつかり、強く輝くのであった。
『 …今のあんたには、付いて行こうとは思えぬな… 』
斎藤が新選組を離れる前に、なまえを刺す様に放った言霊が、なまえの全身を巡り、哀しくリフレインする。
「…っ、」
己についてきて欲しいとか、自意識過剰な意味で願っていた訳では無かったが、なまえの恐れる事柄(己への拒絶)を、しかも信頼していた者から放たれて仕舞った現状に、やはり心臓がドクン、ドクンと鳴り、痛く気不味くー…
無言で、しかし恐いほど力強くぶつかってくる碧から、なまえは逃げる様にふっ…と視線を外した瞬間、土方から「本日付けで斎藤は新選組に復帰する。」と断言するのであった。
「…俺は元々、伊東派ではない」
騒ぎが収まらない連中に、斎藤は此処でやっとなまえから視線を外し一つ咳払いをし、訂正を…と続ければ、「彼は、トシの命を受けて間者として伊東派に混じっていたんだよ」と近藤の説明が入り、ようやく周りの連中も落ち着きー…敵を騙すにはまず味方から、と斎藤は伊東派のフリをしていただけであった様だった。
「…なーんだ、一君が居なくなってくれた御陰で、なまえさんをたっぷり独占できてたのにー。
また邪魔者が復活するなんて…面倒だなあ…」
沖田が悪戯に睨みながら笑えば、斎藤は「…甘いな、まず俺がなまえから離れる事など…俺の意志ではありえぬ。今回は仕事だ。総司の思い通りになると思うな。」と余裕綽々と返し翡翠を見下せば、沖田はムッと表情が強ばり「あっそう…なんか一君、また一段と良い性格になったんじゃない?」と、2人の間にバチバチと火花が散り始める。
「帰ってきた早々、お決まりのなまえちゃん争奪戦やめろ!お前らほんと変わんねぇな!?」
見かねた永倉が二人をベリッと引き剥がせば、「にしても、肝が冷えたぜ…近藤さん達も人が悪ぃよ」と嘆くのだった。
「極秘だったものでな」と語る近藤に、周りは兎に角、斎藤が戻って来たのを喜んで居たが、なまえは未だに整理が出来ず、頭では、戻って来た斉藤に対し、喜ばしい声を掛けてやれれば…と思うのだが、うまく言葉が見つからず、無言を突き通す事となった。
あの時の斎藤と、今の斎藤がグルグルと脳内を廻るのだが…とりあえずその件は後に置いて置き、兎に角、御陵衛士の件を優先させ内部事情を問う事にする。
「…伊東達は新選組に対して、明らかな敵対行動を取ろうとしてる」
なまえから話しかけられた斎藤は、どうしても表情が一瞬だが緩んで仕舞ったが、すぐさま真剣な表情に戻し、説明を続けた。
伊東は、幕府を失墜させる為、羅刹隊の存在を公表しようとしているとの事、その為に薩摩と手を組んだ話もあるとの事ー…
羅刹の存在が明るみに出て、幕府お抱えの新選組が関わったと知れれば、きっと新選組は罪に問われ幕府も大打撃、との狙いとの事ーー
「そして、より差し迫った問題が一つ…。
伊東派は新選組局長暗殺計画を練っている」
なまえはその発言を耳にした途端、物凄く怒りに満ちた表情をし、目突きと髪の色と雰囲気が大きく変わり妖鬼に変化する途中であったが、近藤がなまえを宥める様に彼の頭を抱え込む様に撫で、しかし無言で黙りこくる近藤に気付けば、なまえは悲しそうに近藤の腕に縋る様に触れ、額をあて黙ってうなだれた。
「御陵衛士は既に新選組潰しに動き始めている。」
紀州藩の三浦が新選組に坂本暗殺を以来し、そして殺したのは新選組の原田だと噂を流したのも御陵衛士の連中だ、と土方が語り続ければ、その件に身に覚えの無い三浦の警護に斎藤をつかせると放つと、斎藤はほとぼりが冷めるまでは新選組から離れると静かに頷いた。
「…残念な事だが、伊東さんには死んでもらうしかないな」
前置きは此処までだ、と土方が【鬼】を背負い語れば、その場に居たホンモノの【妖鬼】は、殺意と怒りと血液が満ちる月を、眩しい程に輝かせながら「ーー…俺が殺ってやんよ、」と静かに放てば、その雰囲気につい周りは唾を飲み、そして今回初めてなまえの【鬼】を部分を目の当たりにした千鶴は、ガタガタ…怯え、震え上がって仕舞った。「待て!なまえ…!お前にはやって欲しい事がある…」
妖と鬼が混合する負のオーラを纏い放つなまえに、土方だけが冷静に指示を出せば、なまえは納得がいかず眉間に皺を寄せながらも、黙って土方の言葉を拾う。
「原田、永倉、なまえ…、てめェらは実行隊に入れ。
俺が伊東をおびき寄せ殺し、お前らはその遺体を使って御陵衛士を脅しにかけ、斬る。」
いいな?と背に鬼を背負い、紫をギリリッ…と光らせ短いが力強く放てば「…でも…」と漏らすが続けるのを諦め、なまえは黙って頷いた。
「…平助の事だが、説得するのなら今回が最後の機会となる…刃向かう様なら斬り殺せ…!」
土方は呟くかの様に、静かに平助の件を最後に語った後…其のまま部屋を去れば、土方が何故その仕事を己にふったのかを全て理解したなまえは、意識の中で土方の気配を追い「…御意、」と視線を床に貶、恩恵を込めながら返す。
納得がいかない千鶴は「説得に応じなかったら斬るなんて…そんな…!土方さんは平助君の事、どうなったっていいってーーそういうことですか!?」と、部屋中に響き渡る声で叫べば「…っ…!そんなわけなかろう!!トシは本心では助けたいとも思っているし、心配にもなるし、苦しいに決まっている!!」と、今まで黙っていた近藤が、苦しげに怒鳴るように放つと、千鶴はハッとした表情をし「…ごめんなさい…取り乱して…」と静かに謝った。
「…お嬢も平助の事、心配なんだよな、」
なまえは、落ち込む千鶴の頭をぽんぽん、と撫でながら慰める様に「…でもな、やっぱりあの人は誰よりも俺らの事を思って心配してる。…だから土方さんには頭あがんねーよ、」と優しく教えた。
「永倉、原田、なまえ。
局長としてではなく近藤勇として頼む。…平助を見逃してやれ。
出来るなら、戻るように説得して欲しい。」
近藤の指示が皆に行き渡れば此の夜、又しても新選組にとって、大きな歴史を刻む事柄…京の都にある無数の裏道の一つ、油小路に出向かうのであった。
ーーー…
「そろそろ来る頃だな…」
暗殺された伊東の遺体を引き取りにくる御陵衛士達を、誘き寄せ罠にかける…其んな汚い仕事を暉す様、空の月は位置を変え始めた。
「伊東先生?!…一体、誰がこのような真似を…!?」
伊東の遺体の元へ全部で六、七人の御陵衛士が駆けつけ、彼らの怒鳴り声や悲しむ声などが混じり合い、大きく騒ぎ始める。
(…平助、)
無論、その中には平助の姿があり…未だ此方の様子に気付いていないのか、俯き加減に歩く平助の姿を見る永倉と原田は、一瞬だけ目を閉じた。
「…行くべ、」
なまえが二人に掛け声を掛けると、両者同時に返事をし、突撃するかの様に御陵衛士の前へとザッ…と現れ、新選組に気が付いた御陵衛士は怒号を言い散らせば、何かを呟いた平助の言葉は、その時に見事かき消されて仕舞うのだった。
ーーバァンッーー!!
…だが其れと同時に、衛士の怒鳴り声も一発の銃声に掻き消される事と成り、何事だ!?と衛士が戸惑っている様子を見れば、新選組でも、御陵衛士でも無いと知る。
「よう、人間ーーああ、ついでに妖鬼ちゃん。遊びに来てやったぜ…」
闇に轟く二つの影はーー天霧と不知火であり、悪戯に微笑む不知火がヒラヒラと片手で合図をすれば、薩摩の連中を沢山集め、御陵衛士共々包囲する。
「…薩摩の藩命かよ。…天霧はともかく、不知火は長州の関係者じゃ無かったか?」
原田が苦笑いの様に口角をあげ問えば、「生憎、薩摩長州は仲良しこよしってな?」と小馬鹿にしたような不知火の答えを合図に、急に包囲がぐっ…と狭まるのであった。
「…めんどくせ、」
なまえが舌打ちをした後、ゆっくり刀を抜くと同時に不知火の合図の拳銃が響き、薩摩の藩士たちは一斉に動き、暴れ狂い暴れる様に動き出す。
ギィン、ギィンーー!!
痛々しい金属音、そして生臭い血の噴き出す水音の中、天霧は呆れた様な表情でなまえに「…黙って我々についてきた方が、あなたの身の為でもありますよ?」と忠告を入れれば、「…お気遣い、どーも。」と返し、なまえは戦場の中で舞い踊る。
欠け崩れた満月を背にして、血飛沫と刀悲鳴を風景に筆卸してやれば、目を背けたくなる様な殺戮が嘲笑い、宵を冷酷酒で酔わせる黙認殺傷ーー
「ぐっ…ああああっ…!!」
奏でられる楽器の立場である薩摩藩士の悲鳴とは真逆で汚いが、華麗に美しく、酷く残酷に、ザシュっ、ザシュっ、と意図も簡単に華麗に演奏していくなまえに「チョーシこきすぎだぜ?妖鬼ちゃんよー…!!」と叫んだ不知火は、不愉快そうに銃を向け、怒りを込めた銃弾を連続でブッ離し、黙らせ止めさせようと狙い撃つ。
「這い蹲りな、クソガキ!」
ーーガウン、ガウンガウンガウンーッ…!!
不知火の殺意に近い銃弾が放たれる呼で、やっと狙われていたと気がついたなまえは「…ちっ、汚ねーな!」と睨みながら、銃弾との僅かな距離で数発は避けてみるが、残り数発は急所を避けた体内に埋めり込み貫通し、傷口から勢いよくブッッ…!と、血を噴き出させた。
「なまえ!!」
「なまえちゃん?!」
原田に永倉、そして平助も、顔を青くし銃弾を受けた彼の名を叫ぶが、自分達に向かってくる連中の相手もせざる得なく、金属音を止む事も出来ず、彼の側に駆け寄る事も出来なかった。
「…ちっ…、」
銃に対しての対応力も知識も持っていないなまえにとって、対銃に慣れるにはやはり時間が欲しいとこであり…傷口は徐々に鬼の能力で塞がってはいくが、痛覚は半端なく強い故に、火傷から浮かび上がる酷く不愉快な焦げ臭さ、急所ならあの世いきと戒め、口内から溢れてくる煩わしい血液をベッ、と地面に吐き捨て舌打ちをする。
「あーあ…銃でブチ込んでも、黙ってくたばらねぇで呼吸してやがるのが更にウゼェんだよなー…やっぱり脳天にブチかまさねぇと駄目か?」
不知火は、不愉快そうにギリリッ…となまえを睨みつければ、己の銃の弾の部分をガチガチガチ…と悪戯に弄った。
「…っ…左之さん!新八っあん!どうにかしてなまえ担いで撤退しろ!!
…此処はオレが…オレがどうにかするから…っ…!!」
今まで黙っていた平助が、我を忘れたように叫びながら刀を振り上げれば、不知火はニヤリと不気味に微笑み、銃をジャキッ…と平助へと向けた。
「新選組を危険に晒したのはこのオレでもある…!今夜の襲撃の計画を知っていながらも…とめられなかった…ッ…!!」
「…っ、平助!
待て!!やめ…っ…ぐっ…!!」
傷口からは銃弾で焼かれた為、シュゥゥッ…と未だに煙出ているなまえは、傷口を庇い抑えながらも平助を追い、彼に向け制止を望む為、懸命に手を伸ばす。
「自分の道って、人についていくだけじゃ…駄目だったんだ…!!
…だから最期くらいは…自分の道を自分で決めるーー…!!」
御陵衛士は平助を見た瞬間、叫びながら「何をしている!まずは新選組から斬れ!」という命令を怒鳴りつけるが、平助は其れを無視し立ち向かい、不知火までの道を塞いでいる、邪魔する薩摩藩士や御陵衛士を斬りながら、刀と共に戦場を駆け巡っていた。
「ーーお前らは、オレが絶対に守ってやるー…!!」
新選組が知るいつもの平助の明るい表情を魅せた後、ギリリッ…と真剣な表情をし刀を握り直し、不知火との距離まで後僅かと速さを更に増せた瞬間ーー…
ーーブッ、ビチャッ…!!
頭に血が上り周りが見えない不知火に少し冷静になれと制止をかけるのを目的と、御陵衛士が倒されている現状を見てそろそろ撤退は近いと判断し、不知火と平助の間に割入った天霧は、平助の喉と心臓の間付近を、思い切り手刀で突き抉り、そして地面に叩き飛ばした。
「…っ、ァ…がはっ…!!」
全く同時の頃、神の悪戯か運命か、屯所で待機していた沖田も、平助と同じ量である大量の血液を吐き出し…哀しくシンクロした二人は、大量の鉄を地床に血螺ばせば、赤黒い薔薇を綺麗に咲き誇らせて終うーー…
『…ッ…ゴボ……ッ…!!』
ーーー
「平助!?」
「っ…ちくしょ…テメェらどけェーー!!」
原田も永倉も、先程のなまえの件と、平助の今の状況を確認して終い、完璧に怒りが頂点になり、薩摩藩士を異常な速さで片付けていけば、薩摩藩士は降参するしか術は無く「勘弁してくれ…!撤退だ!!」と次々と逃げていく。
「…へーすけ…」
意識が朦朧とする中で、薔薇が咲き誇る絶景を特等席で見て終ったなまえは、その場に膝をガクンーーと堕ち崩れ、紅月に涙石を宿し産み出し、身体の痙攣を指揮にしては、流れる涙石の数と比例して瞳の色の混合色は強く成っていった。
「…よー…死に損ない…」
完璧に興奮し冷静さを取り戻せず、其れさえも気が付かなかった不知火は、地面に膝をつき座り込むなまえの目の前に仁王立ちし、なまえの眉間にゴリッ…と銃口をあて、カチリと構えるのであった。
「…よせ!不知火!!」
ただならぬ妖と鬼の気を察知した天霧は、焦りながら不知火に叫び呼び戻そうとするが、不知火は聞き耳持たず「妖鬼ちゃんよぉ…今度こそ命剥ぎ取ってやんよ…テメェもアレと仲良く共に死にな?」と放った後、首でクイッと平助を指しながらなまえを煽った次の瞬間ー…なまえの身体全体から溢れる冷たくて哀しい気を直に受け、此処でやっとなまえのただならぬ雰囲気に気が付いた不知火は、無意識にガタガタと震える身体を我慢しながら「…テメェっ…!」と歯を食いしばり、銃の引き金を引こうとしたがーー…
顔を俯むかせていたなまえの顔が、ゆっくりと見上げてきたと思えば、次の瞬間、無言でニタァッ…とした眼の色が完全に混合色と成ったなまえと眼が合った瞬間、なまえの【絶対零度】の恐怖を全身で味わって終った不知火は、今まで味わった事の無い恐怖に食い千切られ顔面蒼白に成れば、本能に従い己の全身全霊を賭け、其処からザザッと離れて、天霧と急いで撤退するのであった。
「…っ、畜生…っ!」
己の全身全霊で逃れた筈が、気がつけば銃を握っていた手の甲の肉を深く抉り千切られており、余りの痛覚に、表情を思い切り歪ませた。
「…其れで済んだと思えば、これ以上無い幸いだ。いくぞ…」
普段、決して見ることの無いであろう…天霧の思い詰めるような表情を見れば、僅かに残る薩摩藩士と鬼二人は、速やかに去っていったのだった。
ーーー…
「…ヒュー…ヒュー…」
御陵衛士の死体が転がり、先程までの騒がしさがまるで嘘の様に静まり返った油小路は、平助の吐き出す言葉と吐息と共に、朱く赤く証く、染り汚されていた。
「…ははっ…ドジっちまった…痛ぇ…」
「っ…くそっ…傷が深すぎる…っ…!」
「平助!こんなとこで死ぬんじゃねぇよっ…ッ!」
真っ赤に染まりながらも笑う平助に、原田や永倉が声を掛ければ、平助は更にニコッ…と笑い、先程から黙っているなまえの頬に手をやり「…なーに泣いてんだよ…良い男が台無しだぜ…?でもオレ…なまえが泣いてるとこ初めてみた…ラッキー…」と悪戯に放てば、平助もボロボロボロボロ…ッ…と涙を零すのだった。
「…は…、何言ってんだよ…泣いてやがんのは平助と新八と左之だろ…?さすが三馬鹿…!」
いつの間にか妖鬼から普段の姿に戻ったなまえは、紅い月から止まる事の無い涙石をボタボタ…ッと数え切れない程産み出せば、隣の二人から溢れる涙を指でグイッと拭ってやれば、永倉は「…は…はははっ!三馬鹿+なまえちゃん、だろ?米には無条件で味噌汁が付いてくるってのと同じだ…!はっはっは…!!」と叫び、思い切りボタボタと泣きながら笑い飛ばす。
「なんだそれ!相変わらず意味わかんねぇよ…新八…っ…!」
「…あっはっははっ…!
でも新八っあんの…解る気ィする…!!…なまえ、ざまあみやがれー!」
「…ったく、おめーらは俺がいねーと…馬鹿なままで終わっちまうから…しゃーねーべな…」
遮っても遮っても、トクトク…と、とめどなく流れ溢れる平助の血液。
赤ワインが床に零れ、真っ白なカーペットに大きな染みが広がったような赤色に、平助を抱える三人の腕は、虚しく深く刻まれ染まっていったーー
「…ッ…ゲボッ…」
馬鹿みたく談笑して暫く、ヒュー…ヒュー…と呼吸する平助が更に苦しそうに息を求めれば「…くそっ…!ちゃんと止血してやるからな…!」と、他の三人は懸命に止血をしてやるのだが、平助は、血塗れでベトベトしている腕の中の…なまえの腕をグッ…と掴むと、又してもいつもの明るい笑顔でニコッと微笑み「…頼む…、お前らの手で、オレを楽にしてくれねぇかな…?」とゆっくりと語り掛けた。
「…は?お前…自分が何言ってるのか解ってんのか!?
止血したら屯所に連れてってやるから待っ…」
原田が声を荒げ食いかかるが、平助は彼の言葉を無理矢理遮り「…オレはさ、新選組を危険に晒したし、御陵衛士も裏切ったーー…一番やっちゃいけない事しちまった…それに、最期くらいは本当に自分の意志を貫き通して、カッコいいとこ見せてぇじゃん…?」と続けるのだった。
「…このまま屯所戻って、変若水飲んで延命なんて…絶対嫌だ…!」
恐らく誰よりも新選組に依存し、信頼していた平助は、変若水や羅刹といった事柄を引き金に、己が新選組から裏切られた様に感じていったのかもしれない。
「…は…この生殺し状態…?傷口がさ…死ぬ程…痛ぇし…?」
そして、己の傷口を見れば嫌でも理解する。
屯所に戻ったところで、此んな深い傷を治す術も無く、只只、死を待つのみーーならばと生きる為に最終的に縋るのは【変若水】であって。
そんな元凶に至った薬なんぞに命乞いするなら、さっさと死んだ方がマシだーー…
「…頼む…」
新選組を出て御陵衛士に入る際に、なまえにも意志を曲げないと約束し、其れに先程、こんな形だけど大切な人を守るって意志を貫き通せたーー…もう悔いは無い、と、語りながら平助は、涙をボロボロ…と溢れさせ「…へへっ…最期をお前らと共に過ごせて良かった…」と、とても明るく綺麗に笑うのであった。
「…俺が、近藤さんの命に一度でも背く事があるなんて…ありえねー…、」
なまえの悶え震える声に、原田も永倉もボロボロボロボロ…ッと涙を零せば、「…俺たちは…近藤さんや土方さんに…なんて言えば良いんだよ…!この駄々こね平助…!」と平助を、強く強く強く抱きしめた。
「…わりぃ…嫌な役、押しつけちまって…」
原田も永倉も、そしてなまえも、平助の堅く強き揺るぎない意志に、一人の武士として頷く事しか出来ず、4人で抱き合い僅かな貴重な時間を過ごし最期の別れをすれば、なまえの漆黒刀を一度地に突き刺し、原田と永倉は黒々しく光る刀に、グッ…と手を添える。
「…平助…此処に胡座、組めるか?」
なまえが静かに平助に手を貸し誘導させ、漆黒刀が刺さる地のすぐ隣に平助を座らせれば、平助はなまえの紅い月を真剣に覗きながら「…死ぬ前に見ても、なまえの瞳は…綺麗だな…」と呟くのであった。
「…平助だけだぜ?
なまえの眼好きだー、なんて言ってくれんの、 」
「…なまえ、あのさ…ごめん…!
…あん時の大嫌いって嘘だから。
あれからずっと胸が痛くて…ずっと謝りたくて……大好きだぜ、なまえ…!!」と泣きながら続ける。
「…先逝って、大福の用意しといてやるよ!」
照れ隠しの為に冗談の様に言い、また茶会しような、と真剣に言えば、大好きななまえと指切りげんまんをする為、小指を差し出してきた平助に、なまえは「どあほ…嘘だって知ってる、…俺だって大好きだ、」と泣きながら指切りげんまんを交わした後、なまえも漆黒刀に手を添え、三人で真剣にチャキッ…と構えた。
「左之さん、新八っあん…なまえ!!
オレが見れなかった歴史を…お前らは懸命に生きやがれ…!!」
闇の中さえも、神秘的に浮かび上がる漆黒刀を、涙を流しながら見つめた後、ニッ…といつもの眩しい平助特有の笑顔を咲かし照らせば、三人は、その暖かい光に導かれる様に、漆黒刀を平助の心臓へと全身全霊で突き刺し、永久に消えない絆を結ぶーー…
長く永い一夜の宵は摂理、
暁に叩かれ、邪魔退かれ、
武士道と云うは死ぬ事と見付けり
雨は闇、血は降らずとも、
涙と洟は、暁にさえも渇かせず
生物、特にヒトにとって『情』は必要不可欠で有りけり。
生命体の底力、
最も強し武器【紲】ーー…
『いつか、きっとまた4人で』
友を誇り絆す代償、武士血潮に溺れた史跡
(穢れ許されぬ)(一生の疵亡)
ーーー
血潮を啜り、代償を賭けた故の
凛凛と誇る、摩天楼桜樹木
男達の【紲】
同化、永久、永眠