色彩を極める、紅紫
n a m e
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『緊張を司りし台風の眼』
先程まで女鬼をかっさらいに参る為、堂々たる厳格を華っていた風間に、妖鬼は知らぬ顔しては刃を立てたと思えば、大きく傷跡を抉り感情を掻き出した。
「くっ…!なまえ…!」
風間がなまえに会うのは、思い出したくもない肖の血塗れた宵以来ー…。
黙認したい要な感情論は、理性と交ざり哀、ノイズ怨と共に乱れる映像心情。
「…俺が逢いたい時には逢ってくれねーなんて、ちーちゃんの意地悪ー、」
そんな冗談を放ちながら悪い顔でにたっ、と笑うなまえに、風間は珍しく表情を崩し汗ばみながら「…体調はどうだ…」と、小さく問い掛けて仕舞う。
やはり新選組にとっても、風間にとっても…なまえは絶対優遇であり、何にも変えられない。
「どうだと聞いている。この間渡した…っ…!?」
「…おー、この間貰ったきな粉、ありがとなー?」
なまえは、甘くて俺好み、なんて明るい声で言いながら眼は笑わずに、瞬間的に風間に近付いたと思えば、彼の口を掌で力強く塞ぐ。
「…!?」
急ななまえの行動に、風間も驚きを隠せず、普段の彼なら考えられない、されるがままに口を塞がれて仕舞った。
そして彼の言うきな粉とは、恐らく粉薬の事ではなかろうか?
「なまえ!なにやってやがんだ!」
テメェから近付くなんて、いつの間にか餌付けもされちまったのか!と続けながら、原田が慌てて風間に近付くなまえに声を荒げ、斎藤も不愉快な表情をさせながら、風間となまえのやり取りを探りつつ、いつでも風間に立ち向かえる体勢へと入った。
当然ながら二人は、なまえの放つ言葉の意味も、意図も全く見えない。
「左之ー、それじゃ俺、猫みてーじゃん、」
「…っ…!?」
(まさか…隠してるのか…!?)
なまえは、背後に匿う新選組連中に知られない様、彼らを誤魔化しつつ、風間に、此処で余計な事は言わないでくれ、と伝える様に視線で貫けば、察しの良い風間は、無論、なまえの伝えたい事はすぐさま理解する。
そして、己の中に怒りの様な感情がフツフツ…と、産まれてくるのであった。
「ほんと、助かったー…
千景、ありがとう。」
「…っ…なまえ…!」
切なく妖艶、真剣な紅い月は、
燃え上がる紅蓮へと、服従を誓うように身を委ねた。
嗚呼、宵を支配する此の血を含ませる満月をー…独占出来たら、
「千景ー…
腐ってても…俺も鬼だ、
恩は絶対忘れねぇ…」
例え、なまえが己の秘密を隠していたとしても、何故回りが気付いてやれないのか。
爆弾を抱える身体が、今此処に居るー…。
やはり新選組なんぞに、なまえを任せておけるものか。
「バカ獣!てめぇも下がってろ!」
一体、何やってやがる!と、遅れ駆けつけた土方の怒鳴り声が後ろから響けば、なまえは「…おー、役者が揃ったー、」なんて放ちながら、其処でやっと風間から手を放し、のんびりと距離を置いた。
風間に顔を向けながら、己の唇に人差し指を当て、「しーっ、ね?」と伝えながら。
「将軍の首でも取りに来たかと思えば、こんな女一人に一体何のようだ?」
土方は、邪魔だからあっちいってろ、と言わんばかりになまえの首根っこを掴み、千鶴が居る方へと、ひょいっと放り投げながら風間に放つ。
(…さっきから猫みてー、俺)
猫ならうちの生意気な一匹で十分、と呟きながら、なまえは拗ねた様に、むーっと膨れるのであった。
「将軍も新選組も、今はどうでもいい。
これは、我ら【鬼】の問題だ。」
風間は、怒りを含む視線を土方に突き刺しながら吐き捨てる。
確かに自分は、貴様に粉薬を渡した筈なのに、此処になまえが居るとはどういう事だと言いたい様で。
一方、土方は、風間の言う【鬼】というキーワードに眼を細め、眼光は酷く、鋭く輝かせた。
「へっ…こいつのツラ拝むのは…!」
禁門の変以来に、と再会した原田と不知火、斎藤と天霧が、互いに睨みながら己の武器に力を込めれば、その場の空気は更に固まり、ひどく息苦しく変化する。
誰かが間合いへ踏み込んだなら、彼ら全員が一斉に地を蹴るだろう。
(…っ…!私も…役にたたなくちゃ…!)
その場の空気を悟り、カタカタ…と震える小さな手で小太刀の柄を探る千鶴の手に、隣からなまえの手が延び、そして優しく重なった。
「…なまえさん…?」
なまえは、泣きそうな顔をする千鶴の手をぽんぽん、と撫でれば「…山崎、」と視線だけを背後にいた山崎へと流しつつ、小さく投げ掛ければ、すぐさま山崎はスタッ、と現れ「はい」と返事をする。
「お嬢、このまま屯所に戻れ、」
お嬢を頼んだぜ、と山崎に放てば、山崎は「御意」と短い返事の後、少し駄々をこねる千鶴を連れ引っ張る。
「…なまえさん!私…っ…!」
やはりなまえの側に居たかった千鶴だが、山崎から「副長と、みょうじさんの命令です。」とキッパリ言われて仕舞い、千鶴は、泣く泣く諦め、屯所に戻るしかなかった。
「武士気取りの田舎者が。
…よくよく我々の邪魔するのが好きと見える。」
刀を構え直す響が舞い、土方と対で向き合う風間が強い怒りを纏いながら放てば、「お前には禁門の変での隊士を斬り殺してくれた借りがあったな…」と土方はギリッ…と強く刀を握り、空気は更に錘の様に、重く冷たく変わったのだった。
「ふん…ならば俺を斬って、死者の墓前にでも報告してみるか?」
「馬鹿言ってんじゃねえ。
そういう話は、本人とやってくれ。…今から奴のいる所に送ってやるからよ」
風間の紅蓮と土方の菫ー…
二飾の華は痛い程に強く交わり、主張は膨張し生命を譲る事など無論有り得なく、二人の距離まであと一歩となる。
闇に踊る、互いの刀
薄く儚い桜、強き鬼の演舞、
二つの牙は噛み契り合い、絶叫葬
そんな鬼二匹を近くから眺めている妖鬼は、初めてゾクッ…と興奮を覚え、妖の純血が躯を巡り、唾を飲み込み自然と喉仏を鳴らす。
桁が違う迫力を持つ、風間と土方を闘り合いを見ていると、なまえの持つ粗い【鬼】が疼き眼を醒ましそうに成るー…
(すげー心地よい対称…。
この二人…良い仲に成りそうだべな、)
珍しくなまえは、紅い月を力強く一筋に輝かせ、歯を見せながら笑った。
今宵は紅紫の暁が欲、似交う、
ーー
「千鶴となまえは…お前達には過ぎたもの。
我らが連れ帰る…だから退け。」
特になまえは、もう貴様らには任せておけん、と土方と対になる風間が放てば、土方は、千鶴の件に関して「どういう…意味だ!?」と食いかかる。
無論、なまえを風間らに渡すつもりも、なまえが向かう可能性も無い事を理解しているからこそ。
「…余裕だな…
いずれにせよ…千鶴もなまえも、己が誰の側に居れば幸せなのか、理解する。」
ギィィン、ギィンー…!
月の下で踊る光と音は彼らの戦う様を告げ、一合、二合と刀を撃ち合うその時、土方の刀は風間の髪を一房、宙に舞いさせた。
(…あー惜しい、)
珍しい千景が見れて絶景、なんて呟きながらなまえは、土方の刀を見て、にやっと笑い眺める。
この二人の闘り合いを眺めるのが相当お気に召した様だ。
「…ほう」
あと一寸で斬り裂かれていたにも関わらず、風間の顔に恐怖の色など欠片もなく、寧ろ感嘆したような声すら漏らし、そして刀を下ろす。
土方が問えば、風間を筆頭にそれぞれ構えを解くと、戦いを切り上げて間合いを離し「これ以上の戦いは無意味ですな。」と天霧が念を押すような口調で放つと、不知火は居心地が悪そうに頭を掻いた。
「…今日は挨拶をしに来ただけだからな」
風間は天霧の言葉に静かに頷けば、斎藤は「むざむざ逃がすと思うか?」と構えの体勢を崩す事はなく向かうが…。
「一…やめとけ、」
ぐっ、と斎藤の肩に手をやり、己の方に引きつけたなまえは「俺らは別にしても…騒ぎを聞きつけ集まってきた他の奴らが、千景達に向かってっても、かなわねーよ、」と静かに零し、これ以上はもう…と言いたい様ななまえを見れば、斎藤は静かに構えを解いた。
事実、彼らはそれくらいの力がある。
「…なまえ、貴様からさっさと俺のとこへ来い。
だが、俺も気が長い方ではない…駄々をこねるのも、あんまり待ってやれんかもしれんぞ?」
風間が静かに告げなまえの言葉を聞かずに後は音も無く退けば、いつもの雰囲気に戻ったなまえは、「えー、まだ言ってやがったのか?冗談じゃねーよ、」と悪戯に舌を出し、とっくに姿など見えない風間の背中へと贈るのだった。「…千鶴があいつらに狙われる理由ってのは、なんなんだろうな」
土方が小さく呟けば、原田は頭を掻きながら「んー…」と、迷う。
なまえと風間との接点は嫌でも理解していた彼らだが、何故此処で千鶴が出てくるのかが不明で仕方が無い。
一体、奴らは彼女に何を求める?
唯一、【鬼】と云うキーワードが土方の脳内を巡るのだった。
(…女鬼は、貴重だからな、)
ちっ、と舌打ちをしながら、鬼の総てを理解するなまえは、風間達が消えていった方向を静かに睨む。
己と風間…そして千鶴との【鬼】を交える繋がりと出会いに、なまえは溜息をつき、彼の思う千鶴の印象『巻き込まれ体質』に、ったく…と、苦笑いを零すのだった。
「なまえ…。」
なまえから引き寄せられた場面から彼の隣にいた斎藤は、先程から閉ざしていた口を開き、そして愛しいなまえの腕を己の両手で掴み込み、ぎゅっと縋るように抱きしめながら名を呼ぶ。
普段の彼は表情をあまり見せないのだが、この時ばかりは何故か哀しそうな顔を見せた。
「どーした、あまえんぼ、」
一がめずらしー、と、からかうように言いながら斎藤の頭をぽんぽんと撫でてやれば、斎藤は、「なまえは俺が護るから…だから、俺の側に居てくれ」と静かに零し、しがみつく腕に顔を埋めた。
どうやら斎藤は、風間の行動や発言を気にし、そして其れになまえが付いていって仕舞うのではないか…と不安で仕方無かったのだ。
勿論、なまえの事は信じているのだが…いつでも最悪な状況を考える慎重な斎藤は、どうしても言葉にして確認しておきたかった。
「あ?、何言ってやがる、」
「くくっ…!相変わらず、なまえの事になると余裕ねぇのな?」
一瞬の無言の後に、(恐らく普段の斎藤は見せないであろう状況に周りは驚きを隠せなかった)なまえの呆れた一声と、原田は「良いもん見たー」と腹を抱えながら笑う。
「なっ…!俺は…」
赤面しながらムッ、とする表情をし、真剣なんだと伝える様に食いかかる斎藤を、なまえは、斎藤の顔に己の顔をグッと近付け、彼を宥める様に彼の髪の毛のわしゃわしゃ撫でながら「つーか…ほら、俺って、あまえんぼの面倒見なきゃいけねーし?」と放ち、歯を見せ笑い、放った。
「はー、妬けるぜ斎藤!」
十分と笑って落ち着かせる原田が放てば、なまえに見惚れていた斎藤は我に返り「煩い」と放ち、ムッとした表情をし原田を睨む。
「なまえ、わりーけど俺だってお前の事、護ってやるし養っていくつもりだぜ?」
意地悪に斎藤を横目で見ながら、さっさと嫁に来いよ、なんてなまえに放てば、 なまえは呆れた様に「…つーか、俺よりお嬢だべ?」と放ち、おめーら、護る奴間違えんじゃねーよ、と二人の頬をぐにににっ、と摘んだ。
(…結局、最後は良いとこ持って行きやがるんだよな、斎藤。)
ピリピリ…とした痛い空気から、少しだけ和んだ今を感じながら、土方は目の前でじゃれてる三人を見る。
しかし、己の頭を悩ませる複数の出来事は、此からも己を襲うだろうと察すれば、すぐさま心に戒める。
「…ふぅ…」
菫の吐息、気を抜くのは瞬の単位、
彼がゆっくりと休める夜は、来るので在ろうかー…?
鬼の副長を名乗る責任感の重さは、誰にも計り知れない。
ーー
「お前ら、屯所に帰るぞ。」
今宵は紅蓮の花を一片、毟り盗ってやった。
ざまあみやがれ。
色彩を極める、紅紫
(奪い交う)(二輪)
ーーー
華の麗は時に、貪欲
奪うなら、殺す
先程まで女鬼をかっさらいに参る為、堂々たる厳格を華っていた風間に、妖鬼は知らぬ顔しては刃を立てたと思えば、大きく傷跡を抉り感情を掻き出した。
「くっ…!なまえ…!」
風間がなまえに会うのは、思い出したくもない肖の血塗れた宵以来ー…。
黙認したい要な感情論は、理性と交ざり哀、ノイズ怨と共に乱れる映像心情。
「…俺が逢いたい時には逢ってくれねーなんて、ちーちゃんの意地悪ー、」
そんな冗談を放ちながら悪い顔でにたっ、と笑うなまえに、風間は珍しく表情を崩し汗ばみながら「…体調はどうだ…」と、小さく問い掛けて仕舞う。
やはり新選組にとっても、風間にとっても…なまえは絶対優遇であり、何にも変えられない。
「どうだと聞いている。この間渡した…っ…!?」
「…おー、この間貰ったきな粉、ありがとなー?」
なまえは、甘くて俺好み、なんて明るい声で言いながら眼は笑わずに、瞬間的に風間に近付いたと思えば、彼の口を掌で力強く塞ぐ。
「…!?」
急ななまえの行動に、風間も驚きを隠せず、普段の彼なら考えられない、されるがままに口を塞がれて仕舞った。
そして彼の言うきな粉とは、恐らく粉薬の事ではなかろうか?
「なまえ!なにやってやがんだ!」
テメェから近付くなんて、いつの間にか餌付けもされちまったのか!と続けながら、原田が慌てて風間に近付くなまえに声を荒げ、斎藤も不愉快な表情をさせながら、風間となまえのやり取りを探りつつ、いつでも風間に立ち向かえる体勢へと入った。
当然ながら二人は、なまえの放つ言葉の意味も、意図も全く見えない。
「左之ー、それじゃ俺、猫みてーじゃん、」
「…っ…!?」
(まさか…隠してるのか…!?)
なまえは、背後に匿う新選組連中に知られない様、彼らを誤魔化しつつ、風間に、此処で余計な事は言わないでくれ、と伝える様に視線で貫けば、察しの良い風間は、無論、なまえの伝えたい事はすぐさま理解する。
そして、己の中に怒りの様な感情がフツフツ…と、産まれてくるのであった。
「ほんと、助かったー…
千景、ありがとう。」
「…っ…なまえ…!」
切なく妖艶、真剣な紅い月は、
燃え上がる紅蓮へと、服従を誓うように身を委ねた。
嗚呼、宵を支配する此の血を含ませる満月をー…独占出来たら、
「千景ー…
腐ってても…俺も鬼だ、
恩は絶対忘れねぇ…」
例え、なまえが己の秘密を隠していたとしても、何故回りが気付いてやれないのか。
爆弾を抱える身体が、今此処に居るー…。
やはり新選組なんぞに、なまえを任せておけるものか。
「バカ獣!てめぇも下がってろ!」
一体、何やってやがる!と、遅れ駆けつけた土方の怒鳴り声が後ろから響けば、なまえは「…おー、役者が揃ったー、」なんて放ちながら、其処でやっと風間から手を放し、のんびりと距離を置いた。
風間に顔を向けながら、己の唇に人差し指を当て、「しーっ、ね?」と伝えながら。
「将軍の首でも取りに来たかと思えば、こんな女一人に一体何のようだ?」
土方は、邪魔だからあっちいってろ、と言わんばかりになまえの首根っこを掴み、千鶴が居る方へと、ひょいっと放り投げながら風間に放つ。
(…さっきから猫みてー、俺)
猫ならうちの生意気な一匹で十分、と呟きながら、なまえは拗ねた様に、むーっと膨れるのであった。
「将軍も新選組も、今はどうでもいい。
これは、我ら【鬼】の問題だ。」
風間は、怒りを含む視線を土方に突き刺しながら吐き捨てる。
確かに自分は、貴様に粉薬を渡した筈なのに、此処になまえが居るとはどういう事だと言いたい様で。
一方、土方は、風間の言う【鬼】というキーワードに眼を細め、眼光は酷く、鋭く輝かせた。
「へっ…こいつのツラ拝むのは…!」
禁門の変以来に、と再会した原田と不知火、斎藤と天霧が、互いに睨みながら己の武器に力を込めれば、その場の空気は更に固まり、ひどく息苦しく変化する。
誰かが間合いへ踏み込んだなら、彼ら全員が一斉に地を蹴るだろう。
(…っ…!私も…役にたたなくちゃ…!)
その場の空気を悟り、カタカタ…と震える小さな手で小太刀の柄を探る千鶴の手に、隣からなまえの手が延び、そして優しく重なった。
「…なまえさん…?」
なまえは、泣きそうな顔をする千鶴の手をぽんぽん、と撫でれば「…山崎、」と視線だけを背後にいた山崎へと流しつつ、小さく投げ掛ければ、すぐさま山崎はスタッ、と現れ「はい」と返事をする。
「お嬢、このまま屯所に戻れ、」
お嬢を頼んだぜ、と山崎に放てば、山崎は「御意」と短い返事の後、少し駄々をこねる千鶴を連れ引っ張る。
「…なまえさん!私…っ…!」
やはりなまえの側に居たかった千鶴だが、山崎から「副長と、みょうじさんの命令です。」とキッパリ言われて仕舞い、千鶴は、泣く泣く諦め、屯所に戻るしかなかった。
「武士気取りの田舎者が。
…よくよく我々の邪魔するのが好きと見える。」
刀を構え直す響が舞い、土方と対で向き合う風間が強い怒りを纏いながら放てば、「お前には禁門の変での隊士を斬り殺してくれた借りがあったな…」と土方はギリッ…と強く刀を握り、空気は更に錘の様に、重く冷たく変わったのだった。
「ふん…ならば俺を斬って、死者の墓前にでも報告してみるか?」
「馬鹿言ってんじゃねえ。
そういう話は、本人とやってくれ。…今から奴のいる所に送ってやるからよ」
風間の紅蓮と土方の菫ー…
二飾の華は痛い程に強く交わり、主張は膨張し生命を譲る事など無論有り得なく、二人の距離まであと一歩となる。
闇に踊る、互いの刀
薄く儚い桜、強き鬼の演舞、
二つの牙は噛み契り合い、絶叫葬
そんな鬼二匹を近くから眺めている妖鬼は、初めてゾクッ…と興奮を覚え、妖の純血が躯を巡り、唾を飲み込み自然と喉仏を鳴らす。
桁が違う迫力を持つ、風間と土方を闘り合いを見ていると、なまえの持つ粗い【鬼】が疼き眼を醒ましそうに成るー…
(すげー心地よい対称…。
この二人…良い仲に成りそうだべな、)
珍しくなまえは、紅い月を力強く一筋に輝かせ、歯を見せながら笑った。
今宵は紅紫の暁が欲、似交う、
ーー
「千鶴となまえは…お前達には過ぎたもの。
我らが連れ帰る…だから退け。」
特になまえは、もう貴様らには任せておけん、と土方と対になる風間が放てば、土方は、千鶴の件に関して「どういう…意味だ!?」と食いかかる。
無論、なまえを風間らに渡すつもりも、なまえが向かう可能性も無い事を理解しているからこそ。
「…余裕だな…
いずれにせよ…千鶴もなまえも、己が誰の側に居れば幸せなのか、理解する。」
ギィィン、ギィンー…!
月の下で踊る光と音は彼らの戦う様を告げ、一合、二合と刀を撃ち合うその時、土方の刀は風間の髪を一房、宙に舞いさせた。
(…あー惜しい、)
珍しい千景が見れて絶景、なんて呟きながらなまえは、土方の刀を見て、にやっと笑い眺める。
この二人の闘り合いを眺めるのが相当お気に召した様だ。
「…ほう」
あと一寸で斬り裂かれていたにも関わらず、風間の顔に恐怖の色など欠片もなく、寧ろ感嘆したような声すら漏らし、そして刀を下ろす。
土方が問えば、風間を筆頭にそれぞれ構えを解くと、戦いを切り上げて間合いを離し「これ以上の戦いは無意味ですな。」と天霧が念を押すような口調で放つと、不知火は居心地が悪そうに頭を掻いた。
「…今日は挨拶をしに来ただけだからな」
風間は天霧の言葉に静かに頷けば、斎藤は「むざむざ逃がすと思うか?」と構えの体勢を崩す事はなく向かうが…。
「一…やめとけ、」
ぐっ、と斎藤の肩に手をやり、己の方に引きつけたなまえは「俺らは別にしても…騒ぎを聞きつけ集まってきた他の奴らが、千景達に向かってっても、かなわねーよ、」と静かに零し、これ以上はもう…と言いたい様ななまえを見れば、斎藤は静かに構えを解いた。
事実、彼らはそれくらいの力がある。
「…なまえ、貴様からさっさと俺のとこへ来い。
だが、俺も気が長い方ではない…駄々をこねるのも、あんまり待ってやれんかもしれんぞ?」
風間が静かに告げなまえの言葉を聞かずに後は音も無く退けば、いつもの雰囲気に戻ったなまえは、「えー、まだ言ってやがったのか?冗談じゃねーよ、」と悪戯に舌を出し、とっくに姿など見えない風間の背中へと贈るのだった。「…千鶴があいつらに狙われる理由ってのは、なんなんだろうな」
土方が小さく呟けば、原田は頭を掻きながら「んー…」と、迷う。
なまえと風間との接点は嫌でも理解していた彼らだが、何故此処で千鶴が出てくるのかが不明で仕方が無い。
一体、奴らは彼女に何を求める?
唯一、【鬼】と云うキーワードが土方の脳内を巡るのだった。
(…女鬼は、貴重だからな、)
ちっ、と舌打ちをしながら、鬼の総てを理解するなまえは、風間達が消えていった方向を静かに睨む。
己と風間…そして千鶴との【鬼】を交える繋がりと出会いに、なまえは溜息をつき、彼の思う千鶴の印象『巻き込まれ体質』に、ったく…と、苦笑いを零すのだった。
「なまえ…。」
なまえから引き寄せられた場面から彼の隣にいた斎藤は、先程から閉ざしていた口を開き、そして愛しいなまえの腕を己の両手で掴み込み、ぎゅっと縋るように抱きしめながら名を呼ぶ。
普段の彼は表情をあまり見せないのだが、この時ばかりは何故か哀しそうな顔を見せた。
「どーした、あまえんぼ、」
一がめずらしー、と、からかうように言いながら斎藤の頭をぽんぽんと撫でてやれば、斎藤は、「なまえは俺が護るから…だから、俺の側に居てくれ」と静かに零し、しがみつく腕に顔を埋めた。
どうやら斎藤は、風間の行動や発言を気にし、そして其れになまえが付いていって仕舞うのではないか…と不安で仕方無かったのだ。
勿論、なまえの事は信じているのだが…いつでも最悪な状況を考える慎重な斎藤は、どうしても言葉にして確認しておきたかった。
「あ?、何言ってやがる、」
「くくっ…!相変わらず、なまえの事になると余裕ねぇのな?」
一瞬の無言の後に、(恐らく普段の斎藤は見せないであろう状況に周りは驚きを隠せなかった)なまえの呆れた一声と、原田は「良いもん見たー」と腹を抱えながら笑う。
「なっ…!俺は…」
赤面しながらムッ、とする表情をし、真剣なんだと伝える様に食いかかる斎藤を、なまえは、斎藤の顔に己の顔をグッと近付け、彼を宥める様に彼の髪の毛のわしゃわしゃ撫でながら「つーか…ほら、俺って、あまえんぼの面倒見なきゃいけねーし?」と放ち、歯を見せ笑い、放った。
「はー、妬けるぜ斎藤!」
十分と笑って落ち着かせる原田が放てば、なまえに見惚れていた斎藤は我に返り「煩い」と放ち、ムッとした表情をし原田を睨む。
「なまえ、わりーけど俺だってお前の事、護ってやるし養っていくつもりだぜ?」
意地悪に斎藤を横目で見ながら、さっさと嫁に来いよ、なんてなまえに放てば、 なまえは呆れた様に「…つーか、俺よりお嬢だべ?」と放ち、おめーら、護る奴間違えんじゃねーよ、と二人の頬をぐにににっ、と摘んだ。
(…結局、最後は良いとこ持って行きやがるんだよな、斎藤。)
ピリピリ…とした痛い空気から、少しだけ和んだ今を感じながら、土方は目の前でじゃれてる三人を見る。
しかし、己の頭を悩ませる複数の出来事は、此からも己を襲うだろうと察すれば、すぐさま心に戒める。
「…ふぅ…」
菫の吐息、気を抜くのは瞬の単位、
彼がゆっくりと休める夜は、来るので在ろうかー…?
鬼の副長を名乗る責任感の重さは、誰にも計り知れない。
ーー
「お前ら、屯所に帰るぞ。」
今宵は紅蓮の花を一片、毟り盗ってやった。
ざまあみやがれ。
色彩を極める、紅紫
(奪い交う)(二輪)
ーーー
華の麗は時に、貪欲
奪うなら、殺す