首の皮一枚
n a m e
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……。」
少しだけ風が焦りを含みなまえの鬼の感を弄べば、静かな暗闇の音は何時だって彼の側に檻、敵にも味方にも成る悲しい反射鏡。
宵を纏う風は、鏡を闇に浸透させ朝を沈める。
(…ちっ、)
なまえは、今回は音を味方につけた様で、“成功か失敗”ーーコインの表裏の輝きを問い詰めるべく、屯所へと足を早々と踏み入れるのであった。
ーーー
「…貴女に、貴女に…一体、なにが解るというんですか…!!」
一方、水に惑わされ落ちた山南は真っ赤な目を見開き、ギリギリ…!と、か弱い体を宙に持ち上げ、どうしようもない感情を千鶴にぶつける。
「…っ…!」
千鶴は途切れそうな意識の中で、必死に愛しの男の名を呼び、視界を見開いて、目の前の絶体絶命と向き合えば、汗がぽたぽた…っと垂れ落ち、山南の腕へと滴を作り、山南は時折…哀しい目をした。
嗚呼、この人は、
凄く優しくて頭が良くて、
一番、運が無い人なんだ。
ーーー
千鶴はそんな事を考えながら、とうとう意識が朦朧とし始めたその瞬間、自分も此の室内に入る為に使用したであろう、戸の開く音を耳にする。
「みょうじ君…ですか…」
「…おー、あんたの性癖?
良い趣味、してんじゃん、」
山南が、今の状況で冗談は面白くないと言いたいのであろう、顔を思いきり歪ませながらなまえを睨めば、「…すんませんっした、」なんて悪戯に苦笑いするなまえの姿を見て、千鶴は一気に安心し、涙をぼろぼろ零し腕を伸ばしながら、「なまえさ…ん…なまえさん…!!」と、愛しの名を呼ぶ。
「…俺の方がいーって。
とりあえず黙って、お嬢、寄こしな?」
なまえは静かに笑みを浮かべ、山南の腕で宙に持ち上げられてる千鶴の腰を静かに片手で抱き寄せ、片腕へと座らせるように彼女を抱きしめ、もう片方の手で山南の腕をギリギリ…と掴めば、山南は痛みの所為で「…う…っ…!」と呻きながら千鶴から手を離した。
「げほっ、げほっ!…なまえさん…ひっく…」
泣きじゃくる千鶴はなまえの首にすがり、ぎゅっと力を込めて縋れば、なまえは、「よしよし、ごめんな、」と言いながら千鶴の頭をぽんぽんと撫でては宥める。
「…実験は、失敗です…!
みょうじ君…お願いできますか…?」
苦悶の混じる山南の声を受け、なまえは静かに頷きながら「あんたの介錯は、俺が絶対やってやんよ…」と放てば、未だに泣きじゃくる千鶴を自分の背に庇うように床に降ろして、右腰の刀に手をかけた。
懐かしい印籠が、
只静かに、小さく揺れるーー…
中身の菓子が放つであろう、此処からでは確実に嗅ぎとれる筈のない、たっぷりと甘い匂いが、なまえと山南を少しだけ昔の記憶を思い出させ誘い、頬を緩ませる。
「…ふっ、もし…今の私のこの姿を彼が見ていたとしたら…何て思うでしょうか…?」
自虐的に微笑む山南が呟けば、なまえは、揺れる印籠に目を落としながら…静かに微笑むような表情を見せた。
「…泣き虫だかんなー?
山南さんの胸ぐら、泣きながら掴み掛かってくんじゃねーの?」
なまえの表情を見て、山南は、なまえの言う“泣き虫”な彼の想像をしたのか…クスッと柔らかく優しく笑い、「そうですね…」と放ち、目を瞑ればその合図で、 なまえは漆黒刀をチャキ…と構え、静かな深夜さえも小さく刻んでみせる。
「…!?
なまえさん…何するんですか!?そんなこと…!」
千鶴は、そんな2人のやりとりを見てなまえの着物を掴むと、細い声でなまえを制止するが、次の情景で胸を抉るような言葉を浴びることになる。
「…部外者は、ひっこんでな、」
舌打ちを合図に冷酷な赤い月が放つ、二つの月光に初めて照らされた千鶴は、ズキッ…!とした痛みを味わったのち、着物を掴む手の力はフッ…と無くなり、ぺたん…と床に落ちる瞬間ー…
「…っ…ぐぁぁっ…!!」
ーーー
「お嬢、山南さんに近づくなよ、」
千鶴が我に返り気がついた時には、血塗れで床に沈んでる山南が視界に移った時であった。
なまえは、山南が動けないように深手を負わせたが、相手は羅刹ーーまた襲いかかってくる可能性もあるという事を千鶴に説明すれば、千鶴は「え?」と聞き返し、山南がまだ命を落としていない事を知る。
山南が倒れた、と聞きつけた幹部たちがばたばたと広間へとやって来たところまでは記憶にあるのだが、千鶴は、その後、スッ…と意識を失うのであったーー。
「…ったく、手間かかんなー。」
やれやれ、と溜め息をつきながら、うちの姫はしゃーねーなー?と言いながら横抱にして千鶴を持ち上げ、彼女を部屋に連れて運ぼうとするなまえは、「じゃ、後は頼むぜ、」と、土方に一言断って広間を出ようとするが…。
「…なまえ」
普段見慣れている筈の土方の険しい表情で名前を呼ばれているだけの筈なのだが、なまえはいつもと違う険しさに不思議に思いながら足を止め、背は向けたまま、顔半分だけを土方にやる。
「ん、」
「…話がある。
後で、俺の部屋に来い。」
土方の端正な顔がいつになく真剣なので、なまえは不思議に思い頭に?を浮かべたままだったのだが「…あいよ、」と一言放ち、千鶴の部屋へ向かうのだった。
ーー
(やべ、俺なんかしたかなー、)
まさかな、あの鬼の副長に…この真面目な俺が何かするわけねーべ、なんて自分を自分で悲しく慰め庇いながら廊下を歩くなまえは、次の瞬間、自分の腕に収まる、小さい吐息と共に、もぞっ…と動く者に意識をとられた。
「…起きたか、」
「…え…?」
何秒間くらい、今の現状を掴めずにいた千鶴は、だんだんと覚醒していくにつれ今の状況に顔を赤く染め、わたわたと慌て始めた。
「…ご、ごめんなさい!1人で歩けますっ!」
千鶴はばたばたっ、と急いでなまえの腕から降りようとするが、なまえは含み笑いをするように柔らかい表情をし「まー、まー、遠慮なさんな?」とからかうように言いながら体制を組み直せば、千鶴は小さく呻きながら顔を赤く染め、静かになる。
「…で、何か俺に言うことあんべ?」
なまえと密着して高鳴る心臓に更に追い討ちをかけるように、千鶴はビクンっと跳ね上がり、心臓の鼓動は緊張と焦りで、更にドクンドク煩くなった。
「…あ…あの…」
千鶴は、なまえの言いたい事がすぐに理解でき言葉を詰まらせながらも、気持ちを吐き出すのであった。
「しゃーねーから、言い訳くれーは聞いてやんよ、」
「…っ…あの…山南さんが飲んだあの【薬】に、父様が関わっていたっていうのは本当ですか…?」
どうしても、気になって仕舞って…約束を守らず部屋に戻らないでごめんなさい!とキチンと謝った後に、おずおず…と千鶴はなまえに質問をすれば、なまえは溜息を小さく吐きながら、逆に質問を仕返すのであった。
「…他に、言いたい事は?」
千鶴は、正直、あの薬の作用ーー人を強くする代わりに、狂わせる、という山南の言葉が気になってはいるのだが…また、あの冷たい目を作り始めるなまえを見て、先程の情景がフラッシュバックし、二度と味わいたくないと思い、ふるふる、と首を降った。
「…人手不足、解消」
なまえが、やれやれ…と言いた気な表情をしながら、ボソッと千鶴に投げかければ、千鶴は不思議な表情をした瞬間、木で出来てる床は、ギシッ…と一つ、2人分の重さを奏でた。
「…ほら、ついたぜ」
そんなことをしてる内に、千鶴の部屋へとたどり着き、なまえは静かに千鶴を腕から降ろせば、千鶴はお礼を言いながらなまえを、おずおずと見上げる。
「あ、ありが…」
「ーー切腹か、薬を飲むか。
最期の選択をしてるだけ、」
いつだって見惚れてしまう男に、お礼を遮られながらも頭をぽんぽんっ、と撫でられれば、千鶴はもう、これ以上質問する事はしなかった。
言葉数が少ない彼からの、これ以上ないくらいの説明に、千鶴は淡い気持ちと、今まで【薬】を飲んできた隊士の事を考える余りに、やるせない気持ちの両方を味わうのであった。
(あー、やべー、)
千鶴と別れたなまえは、次のミッションをこなすべく廊下を歩き、足で床の木の板を踏む度に、ギシッ…と鳴る音が耳に響く回数を重ねる毎に、なまえの気分はどんどん嫌悪な沼に落ちていく。
(…どれだ、一体どれだ、)
なまえ自身、今回呼び出されたのは、完璧に説教だと頭で認識しており、思い当たる節を脳をフル回転させて探し、この間の、土方の大福をこっそり盗み食いした件か、とか、あれこれ考えてるうちに土方の部屋にたどり着くのだった。
(詫びの品、これじゃ駄目か…?)
なまえは印籠を握り、カラカラ…と音を奏でて中身を確認すれば、小さな飴玉が幾つか入っており、印籠と睨めっこが始まる。
(俺も男だ、腹くくんべ、)
観念し、諦めて印籠を右腰に戻せば、スウッ…と、大きな深呼吸を一つーー。
ーーー
「ふう…。」
全く同じ瞬間、土方は一つ息をつけば、近藤は不思議そうな顔をして土方に顔と声を向けた。
「トシ、やっと落ち着いたんだ。少し茶でも飲まないか?」
山南の件で、少しだが一息つき、近藤が気を使わせ土方に問えば、土方は未だ難しい表情をしながら「いや…」と断り、そしてもう一声続ける。
「近藤さん、悪ぃけど…今から少し時間をくれ。
なまえと2人で話してぇんだ。」
忙しい中悪いけど、寧ろ今が良いんだ…と、真剣な瞳で近藤に頼めば、近藤は又しても不思議な表情をするが、土方の真剣さに静かに頷き、「広間は任せて、行ってきなさい。」と土方を見送ると、土方は、「悪いな。」と一言詫びその場を後にし、己の部屋へと足を運ぶと、己の懐に手を入れ、キシッ…と何かを握りしめ、眉間に皺を寄せた。
(なまえ…!)
ーーー
「…あ、?」
土方の部屋にたどり着いていたなまえは、緊張しながら思い切って襖を控えめにノックしてみるが、部屋の主からの返事は無く…。
先程までグルグルと考えていたなまえの脳内シミュレーションだと、ノックした瞬間から土方の怒鳴り声が鳴り響くと思って身構えていたのだが、大きくハズレて仕舞い、拍子抜けだった。
(…俺の緊張、返しやがれ…)
むむー、と難しい顔をしながら、しかし思い切りバタンと襖を開けられないなまえは、土方の部屋の前で立ち竦む事しか出来ずにいる、まさかの気弱さに、自分でも苦笑いを零してみせる。
「ひっじっかったっさーん、…いねーの?」
帰っていー?寝ていー?逃げていー?と、好き勝手に、しかも部屋の主がいない部屋に話しかけるなまえを端から見ればシュールな光景に、他の者が見たら一体どう感じるのであろうか。
(…んぐ?)
まさかの展開にすっかり緊張も溶け、正直飽きてきたなまえは、このままふけちまおうか、なんて考えた頃、背後から鬼の声がした。
(俺、ちゃんと来たし、いねー土方さんが悪…)
「なまえ」
ぐぎっ、と妙な音が体から放ち全身の毛が逆に逆立てば、「わり、嘘、ふけねーっす!」と謝罪の言葉が自然と出て、ぐりんっ!と回転するように土方の方向を見た。
「…待たせたな…入れ。」
土方の真剣で、鋭い視線になまえは再度、緊張感が走り、ぐっ…と拳に力を込め、やっぱり飴玉じゃ駄目かも、変わりの菓子を今からでも町出て、店主起こしてでも買ってくれば良かった、なんて後悔しながら、内心うなだれていた。
「…あいよ、」
土方の後に続き、なまえは土方の部屋に足を踏み入れ、静かにトン…ッと襖を閉めた。
とにかく静かすぎて、煩く感じた一枚ーー…
「首の皮一枚」
(背後を任せる重役)(甘い瑕疵)
ーーー
みょうじ なまえ
只今、ピンチっす、
少しだけ風が焦りを含みなまえの鬼の感を弄べば、静かな暗闇の音は何時だって彼の側に檻、敵にも味方にも成る悲しい反射鏡。
宵を纏う風は、鏡を闇に浸透させ朝を沈める。
(…ちっ、)
なまえは、今回は音を味方につけた様で、“成功か失敗”ーーコインの表裏の輝きを問い詰めるべく、屯所へと足を早々と踏み入れるのであった。
ーーー
「…貴女に、貴女に…一体、なにが解るというんですか…!!」
一方、水に惑わされ落ちた山南は真っ赤な目を見開き、ギリギリ…!と、か弱い体を宙に持ち上げ、どうしようもない感情を千鶴にぶつける。
「…っ…!」
千鶴は途切れそうな意識の中で、必死に愛しの男の名を呼び、視界を見開いて、目の前の絶体絶命と向き合えば、汗がぽたぽた…っと垂れ落ち、山南の腕へと滴を作り、山南は時折…哀しい目をした。
嗚呼、この人は、
凄く優しくて頭が良くて、
一番、運が無い人なんだ。
ーーー
千鶴はそんな事を考えながら、とうとう意識が朦朧とし始めたその瞬間、自分も此の室内に入る為に使用したであろう、戸の開く音を耳にする。
「みょうじ君…ですか…」
「…おー、あんたの性癖?
良い趣味、してんじゃん、」
山南が、今の状況で冗談は面白くないと言いたいのであろう、顔を思いきり歪ませながらなまえを睨めば、「…すんませんっした、」なんて悪戯に苦笑いするなまえの姿を見て、千鶴は一気に安心し、涙をぼろぼろ零し腕を伸ばしながら、「なまえさ…ん…なまえさん…!!」と、愛しの名を呼ぶ。
「…俺の方がいーって。
とりあえず黙って、お嬢、寄こしな?」
なまえは静かに笑みを浮かべ、山南の腕で宙に持ち上げられてる千鶴の腰を静かに片手で抱き寄せ、片腕へと座らせるように彼女を抱きしめ、もう片方の手で山南の腕をギリギリ…と掴めば、山南は痛みの所為で「…う…っ…!」と呻きながら千鶴から手を離した。
「げほっ、げほっ!…なまえさん…ひっく…」
泣きじゃくる千鶴はなまえの首にすがり、ぎゅっと力を込めて縋れば、なまえは、「よしよし、ごめんな、」と言いながら千鶴の頭をぽんぽんと撫でては宥める。
「…実験は、失敗です…!
みょうじ君…お願いできますか…?」
苦悶の混じる山南の声を受け、なまえは静かに頷きながら「あんたの介錯は、俺が絶対やってやんよ…」と放てば、未だに泣きじゃくる千鶴を自分の背に庇うように床に降ろして、右腰の刀に手をかけた。
懐かしい印籠が、
只静かに、小さく揺れるーー…
中身の菓子が放つであろう、此処からでは確実に嗅ぎとれる筈のない、たっぷりと甘い匂いが、なまえと山南を少しだけ昔の記憶を思い出させ誘い、頬を緩ませる。
「…ふっ、もし…今の私のこの姿を彼が見ていたとしたら…何て思うでしょうか…?」
自虐的に微笑む山南が呟けば、なまえは、揺れる印籠に目を落としながら…静かに微笑むような表情を見せた。
「…泣き虫だかんなー?
山南さんの胸ぐら、泣きながら掴み掛かってくんじゃねーの?」
なまえの表情を見て、山南は、なまえの言う“泣き虫”な彼の想像をしたのか…クスッと柔らかく優しく笑い、「そうですね…」と放ち、目を瞑ればその合図で、 なまえは漆黒刀をチャキ…と構え、静かな深夜さえも小さく刻んでみせる。
「…!?
なまえさん…何するんですか!?そんなこと…!」
千鶴は、そんな2人のやりとりを見てなまえの着物を掴むと、細い声でなまえを制止するが、次の情景で胸を抉るような言葉を浴びることになる。
「…部外者は、ひっこんでな、」
舌打ちを合図に冷酷な赤い月が放つ、二つの月光に初めて照らされた千鶴は、ズキッ…!とした痛みを味わったのち、着物を掴む手の力はフッ…と無くなり、ぺたん…と床に落ちる瞬間ー…
「…っ…ぐぁぁっ…!!」
ーーー
「お嬢、山南さんに近づくなよ、」
千鶴が我に返り気がついた時には、血塗れで床に沈んでる山南が視界に移った時であった。
なまえは、山南が動けないように深手を負わせたが、相手は羅刹ーーまた襲いかかってくる可能性もあるという事を千鶴に説明すれば、千鶴は「え?」と聞き返し、山南がまだ命を落としていない事を知る。
山南が倒れた、と聞きつけた幹部たちがばたばたと広間へとやって来たところまでは記憶にあるのだが、千鶴は、その後、スッ…と意識を失うのであったーー。
「…ったく、手間かかんなー。」
やれやれ、と溜め息をつきながら、うちの姫はしゃーねーなー?と言いながら横抱にして千鶴を持ち上げ、彼女を部屋に連れて運ぼうとするなまえは、「じゃ、後は頼むぜ、」と、土方に一言断って広間を出ようとするが…。
「…なまえ」
普段見慣れている筈の土方の険しい表情で名前を呼ばれているだけの筈なのだが、なまえはいつもと違う険しさに不思議に思いながら足を止め、背は向けたまま、顔半分だけを土方にやる。
「ん、」
「…話がある。
後で、俺の部屋に来い。」
土方の端正な顔がいつになく真剣なので、なまえは不思議に思い頭に?を浮かべたままだったのだが「…あいよ、」と一言放ち、千鶴の部屋へ向かうのだった。
ーー
(やべ、俺なんかしたかなー、)
まさかな、あの鬼の副長に…この真面目な俺が何かするわけねーべ、なんて自分を自分で悲しく慰め庇いながら廊下を歩くなまえは、次の瞬間、自分の腕に収まる、小さい吐息と共に、もぞっ…と動く者に意識をとられた。
「…起きたか、」
「…え…?」
何秒間くらい、今の現状を掴めずにいた千鶴は、だんだんと覚醒していくにつれ今の状況に顔を赤く染め、わたわたと慌て始めた。
「…ご、ごめんなさい!1人で歩けますっ!」
千鶴はばたばたっ、と急いでなまえの腕から降りようとするが、なまえは含み笑いをするように柔らかい表情をし「まー、まー、遠慮なさんな?」とからかうように言いながら体制を組み直せば、千鶴は小さく呻きながら顔を赤く染め、静かになる。
「…で、何か俺に言うことあんべ?」
なまえと密着して高鳴る心臓に更に追い討ちをかけるように、千鶴はビクンっと跳ね上がり、心臓の鼓動は緊張と焦りで、更にドクンドク煩くなった。
「…あ…あの…」
千鶴は、なまえの言いたい事がすぐに理解でき言葉を詰まらせながらも、気持ちを吐き出すのであった。
「しゃーねーから、言い訳くれーは聞いてやんよ、」
「…っ…あの…山南さんが飲んだあの【薬】に、父様が関わっていたっていうのは本当ですか…?」
どうしても、気になって仕舞って…約束を守らず部屋に戻らないでごめんなさい!とキチンと謝った後に、おずおず…と千鶴はなまえに質問をすれば、なまえは溜息を小さく吐きながら、逆に質問を仕返すのであった。
「…他に、言いたい事は?」
千鶴は、正直、あの薬の作用ーー人を強くする代わりに、狂わせる、という山南の言葉が気になってはいるのだが…また、あの冷たい目を作り始めるなまえを見て、先程の情景がフラッシュバックし、二度と味わいたくないと思い、ふるふる、と首を降った。
「…人手不足、解消」
なまえが、やれやれ…と言いた気な表情をしながら、ボソッと千鶴に投げかければ、千鶴は不思議な表情をした瞬間、木で出来てる床は、ギシッ…と一つ、2人分の重さを奏でた。
「…ほら、ついたぜ」
そんなことをしてる内に、千鶴の部屋へとたどり着き、なまえは静かに千鶴を腕から降ろせば、千鶴はお礼を言いながらなまえを、おずおずと見上げる。
「あ、ありが…」
「ーー切腹か、薬を飲むか。
最期の選択をしてるだけ、」
いつだって見惚れてしまう男に、お礼を遮られながらも頭をぽんぽんっ、と撫でられれば、千鶴はもう、これ以上質問する事はしなかった。
言葉数が少ない彼からの、これ以上ないくらいの説明に、千鶴は淡い気持ちと、今まで【薬】を飲んできた隊士の事を考える余りに、やるせない気持ちの両方を味わうのであった。
(あー、やべー、)
千鶴と別れたなまえは、次のミッションをこなすべく廊下を歩き、足で床の木の板を踏む度に、ギシッ…と鳴る音が耳に響く回数を重ねる毎に、なまえの気分はどんどん嫌悪な沼に落ちていく。
(…どれだ、一体どれだ、)
なまえ自身、今回呼び出されたのは、完璧に説教だと頭で認識しており、思い当たる節を脳をフル回転させて探し、この間の、土方の大福をこっそり盗み食いした件か、とか、あれこれ考えてるうちに土方の部屋にたどり着くのだった。
(詫びの品、これじゃ駄目か…?)
なまえは印籠を握り、カラカラ…と音を奏でて中身を確認すれば、小さな飴玉が幾つか入っており、印籠と睨めっこが始まる。
(俺も男だ、腹くくんべ、)
観念し、諦めて印籠を右腰に戻せば、スウッ…と、大きな深呼吸を一つーー。
ーーー
「ふう…。」
全く同じ瞬間、土方は一つ息をつけば、近藤は不思議そうな顔をして土方に顔と声を向けた。
「トシ、やっと落ち着いたんだ。少し茶でも飲まないか?」
山南の件で、少しだが一息つき、近藤が気を使わせ土方に問えば、土方は未だ難しい表情をしながら「いや…」と断り、そしてもう一声続ける。
「近藤さん、悪ぃけど…今から少し時間をくれ。
なまえと2人で話してぇんだ。」
忙しい中悪いけど、寧ろ今が良いんだ…と、真剣な瞳で近藤に頼めば、近藤は又しても不思議な表情をするが、土方の真剣さに静かに頷き、「広間は任せて、行ってきなさい。」と土方を見送ると、土方は、「悪いな。」と一言詫びその場を後にし、己の部屋へと足を運ぶと、己の懐に手を入れ、キシッ…と何かを握りしめ、眉間に皺を寄せた。
(なまえ…!)
ーーー
「…あ、?」
土方の部屋にたどり着いていたなまえは、緊張しながら思い切って襖を控えめにノックしてみるが、部屋の主からの返事は無く…。
先程までグルグルと考えていたなまえの脳内シミュレーションだと、ノックした瞬間から土方の怒鳴り声が鳴り響くと思って身構えていたのだが、大きくハズレて仕舞い、拍子抜けだった。
(…俺の緊張、返しやがれ…)
むむー、と難しい顔をしながら、しかし思い切りバタンと襖を開けられないなまえは、土方の部屋の前で立ち竦む事しか出来ずにいる、まさかの気弱さに、自分でも苦笑いを零してみせる。
「ひっじっかったっさーん、…いねーの?」
帰っていー?寝ていー?逃げていー?と、好き勝手に、しかも部屋の主がいない部屋に話しかけるなまえを端から見ればシュールな光景に、他の者が見たら一体どう感じるのであろうか。
(…んぐ?)
まさかの展開にすっかり緊張も溶け、正直飽きてきたなまえは、このままふけちまおうか、なんて考えた頃、背後から鬼の声がした。
(俺、ちゃんと来たし、いねー土方さんが悪…)
「なまえ」
ぐぎっ、と妙な音が体から放ち全身の毛が逆に逆立てば、「わり、嘘、ふけねーっす!」と謝罪の言葉が自然と出て、ぐりんっ!と回転するように土方の方向を見た。
「…待たせたな…入れ。」
土方の真剣で、鋭い視線になまえは再度、緊張感が走り、ぐっ…と拳に力を込め、やっぱり飴玉じゃ駄目かも、変わりの菓子を今からでも町出て、店主起こしてでも買ってくれば良かった、なんて後悔しながら、内心うなだれていた。
「…あいよ、」
土方の後に続き、なまえは土方の部屋に足を踏み入れ、静かにトン…ッと襖を閉めた。
とにかく静かすぎて、煩く感じた一枚ーー…
「首の皮一枚」
(背後を任せる重役)(甘い瑕疵)
ーーー
みょうじ なまえ
只今、ピンチっす、