猫は爪を立て、毛を赤に染めた。
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「…御馳走様」
おひつもすっかり、すっからかんになり、夕食後の和やかな雰囲気を味わおうとした中、沖田はさっさと箸を置き、席を立って仕舞う。
沖田の分の、あまり減ってないおかずを見た平助は「全然食ってねぇじゃん」と零した。
「俺みてぇに、しっかり食っとかねぇと持たねぇぞ。」なんて永倉からも口が入り、それを聞いたなまえは「…この食いしん坊め、」と呟き、じとーっ…と新八に目線を送る。
それに気が付いた永倉は「 食った食った♪ご馳走さん!」と上機嫌に、なまえの頭をわしゃわしゃと撫でながら笑う。
「…新八じゃなくて、龍にあげようとしたのに、」
むーっとしながら、黙って頭を撫でられるなまえ。
折角、井吹に食べさせてあげようとしても、永倉に横取りされてしまう先程の光景を思いだし、更にむすっという表情を強めた頃、沖田が言葉を発した。
「別に、今日は食欲がないだけだよ」
そう言った後、軽く肩をすくめながらこう続けた。
「資金繰りとか、会津藩の立場がどうだとか…難しいことはわからないけど、とりあえず剣術の稽古をして、浪士達との戦いに備えた方が建設的だと思ってね。」
正論なのだろうが余りにも単純明快過ぎるその言葉に、皆は困惑したように顔を見合わせる。
「…一君と新八さんばっかりずるいよね。僕よりも先に浪士を斬っちゃうなんてさ…。
僕も早いとこ、不逞浪士を何十人でも斬り殺してやりたいんだけどな」
沖田は、皆の反応など気にしない様子でこう言ったのだ。
そうすれば、会津藩の人達にも認められるでしょ?と続けて…。
「…総司。」
先程まで皆と和やかに過ごしてたなまえの雰囲気が、すっと鋭くなる。
食事を取ったばかりで、斬るだの殺すだのという言葉を聞かされて不愉快になった井吹は「おいおい」と、沖田を宥めた。
ーーー…
皆が戸惑っていると…土方が不意に口を開く。
「総司、お前は江戸に帰れ」
その言葉に沖田は目を見開き、
何をいってるんだ?という表情で土方を見つめ返し、嘆く。
「…いきなり何を言い出すんですか?その冗談、面白くもなんともありませんよ。」
必死に平静を装おうとしてはいるが、表情は引きつる沖田。
近藤や他の者達も、土方の言葉の意味を理解できない様子で、顔を見合わせている。
その中、なまえだけは、すっ…と細く目を細めて瞑り、土方の次の言葉を拾う。
「…冗談なんかじゃねぇさ。
お前は、此処にいねえ方がいいんだ」
その言葉に沖田は目を見張る。
あまりの驚きで、反論したくても言葉がうまく出てこないようで…。
「…理由は?」
僕を江戸に返す理由は何ですかと、やっと出てきた言葉は震えていた。
沖田は武家の長男だから、どこかの藩に仕官する道も、どこの道場に行っても免状をもらえる、食っていく手段なんぞいくらでもある、と前置きを話す土方に沖田は失笑する。
(…へたっぴ、)
この冷たい空気の中、なまえは一人感じる。
やっぱり土方は不器用で、誰よりも優しいんだな…と。
土方のそんな所は、なまえは好きなんだけど、と思った瞬間
武家の長男の件は、義兄が継いでるし、武家の長男なのは永倉も該当すると震えるように言い訳のあと、大きな声が響いた。
「どうして僕にだけ帰れなんていうんですか?」
どんどん余裕が消える沖田の反面、冷静沈着な土方は、その問いを言い含める。
「お前と新八とは、違うだろうが」
どこが違うって言うんですか!?と今すぐにでも土方につかみかかりえない勢いで叫ぶ声に、土方は溜め息をつきながら、告げる。
「おまえがここ最近、やたらと斬るだの殺すなどと言ってやがるのは、どうしてだ?
芹沢さんの影響だろうが…。
おまえはまだガキなんだ。
ああいう人の側にいると、自分ってもんを保てなくなっちまう。
ーー…だから、とっとと此処を離れた方がいいんだよ」
沖田は唇を噛み、憎々しげに土方を睨みつける。
そして、ふと口の端を歪めて皮肉めいた笑みを浮かべた。
「…もっともらしい事を言ってますけど、土方さんは単に、僕のことが邪魔なだけでしょ?」
「僕が今のまま、近藤さんのそばにいたら…近藤さんにおかしなこと吹き込んで、自分の思い通りにすることが、できなくなりますもんね?」
だから、追っ払いたいんですよねと続け、土方に食ってかかる。
嘲笑めいた言葉は、いつもの沖田のものだったが…その声には、今でも泣き出しそうな不安定さがあった。
「…そう思いたかったら、勝手にそう思ってりゃいいさ」
土方の物静かな言葉に、沖田は拳をきつく握りしめ、肩を怒らせながら土方から目をそらす。
「僕は、江戸に帰るつもりなんてありませんよ」
近藤に言われるならともかく、土方に決められる筋合いはない、と続けた。
まるで、駄々っ子のような物言いで…。
「トシ…いきなり何をいいだすんだ」
それまで状況の推移を見守ってた近藤が、見かねた様子で土方をいさめた。
「ここじゃ、人を斬る以外に剣の使い道なんざねえ。こいつの刀を血で真っ赤に染めるという意味を、姉のミツさんが知ったら…どう思うかな。」
その言葉に、近藤は力なく頭を伏せた近藤は、きつく目を閉じ、思い悩んだあげく、何かを決心した様子で顔をあげた。
「…総司」
沖田を見つめながら、近藤は声を掛け、何かを言いかけた。
「ーー…嫌です!」
僕は、絶対に帰りませんよ!
此処に残って、近藤さんとなまえさんの役に立ってみせますから!」
一方的に叫んだ後、広間を飛び出して行ってしまう。
「…総司!」
ふいに自分の名前を言われたなまえは、珍しく大きな声を放った。
悲しげに揺れる金と紅に、周りの者たちも沖田を呼び追いかけようとするが、 放っておけ!と土方から制止され、足を止めてしまう。
「…すぐにゃ納得できねえだろうが、あいつもそのうちわかるはずだ」
既に、土方の内心は決まってしまっているらしい。
近藤は、沈痛な面持ちで俯いたまま、一言も言葉を発しようとはしなかった。
「…土方さん、」
空気が重いまま、井吹も前川邸に戻り、皆も自分の部屋へ引っ込んでいってしまう同じ頃。
なまえは、土方に言葉を向けた。
「…俺、あんたのそーいう不器用な優しいとこ、好き」
いつもの無表情で、しかもこの状況で、いきなり土方に言うものだから土方も近藤も驚く。
「…なっ…!なまえ…てめえはいつも、唐突すぎんだよ」
なんて零しながら、何企んでやがる?と返す。
土方の視線に、なまえは、あーあ…ばれたか、なんて言いながら肩をすくめ、ヒラヒラと手を振りながら返した。
「…今だけ、土方さんのゆーこと聞かない」
べ、と舌を出し言って出て行き、一人で沖田を探しに行くなまえを見て土方は、ったく…と溜め息をついた。
「かなわねえよな…」と苦笑いしながら呟く土方を横目に、近藤はなまえに、総司の事、頼む…!と心の中で縋るのだった。
ーーー
(…さて、世話が焼けるニャンコ迎えにいくべ、)
なんとなく、彼処に居るんだろうと予想してる場所がなまえにはあり、其処へ迷わず行く。
暫く歩き…綺麗な水が流れる川岸にたどり着くと、見慣れた人影がなまえの視界に入る。
人影…沖田は、綺麗に流れる川を一人で眺めていた。
(…おー、めずらしー)
いつもは、人の気配に敏感な沖田は、今に限ってなまえの気配に気が付かないというのは…やはり先程の件が応えたのだろうか。
沖田の翡翠は、遠くを見つめ揺らいでいた。
「おら、ニャンコ。」
いきなり背後から声がし、びくっとして振り替えった沖田は、自分の尊敬する人物が視界を独占して、つい心がじわじわと熱くなる。
自分が出てきてから、そんなに時間はたってないはずなのに、すぐ此の場所に迎えにきたなまえの存在に、つい泣きそうだった。
「…なまえさん…。
僕が此処にいるって、よくわかりましたね…」
恥ずかしさについ、俯いて突き放すように答えてしまう。
なまえの前では何時だって、かっこよくいたいーー…。
「ん?幼い頃から何年の付き合いだよ、何だって解る。」
ほら、帰るぞと付け足した後、沖田の頭をぽんぽんっと撫でた時
なまえの体は、沖田に引き寄せられ、ぎゅっ…と抱き締められた。
「なまえさん、 なまえさん…!
僕、絶対あなたと近藤さんの力になりますから…!」
駄々っ子のように、なまえの胸元で泣きそうになる沖田を、なまえは落ち着かせるように沖田の頭を撫でた。
「…俺も、総司が欲しい、」
なまえは、低い声で囁き、じっ…と翡翠を真剣な顔で見下すと、沖田はドキッと心臓を鳴らす。
思わず、ぽっと頬を赤く染めて。
いつもは、なまえに仕掛けて意地悪してる沖田が、今日は逆の立場に戸惑いを隠せない。
「…っ!なまえさん…」
なまえに、うっとり見惚れながら、沖田は、この人に付いていこうと改めて決意するのであった。
(…暫く、総司から目離せらんねーかも…)
土方が言ってた、芹沢の影響などは一理ある。
しかし、沖田の剣術は今後、浪士組には絶対必要になるので江戸に帰すわけにもいかない…。
それになまえも、幼い頃からずっと一緒だった沖田と、離れたくはないのも本音。
…先程から胸騒ぎする、此から何か起こりそうな只ならぬ嫌な予感を感じつつ、なまえは沖田を撫でながら思うのだった…。
数日後の晩ー…
「龍之介さ、総司がどこに行ったか知らねえか?」
井吹が、芹沢の酒を買いに戻ってきた時に、何か騒がしそうにしている平助達を見かけ、声を掛けたら質問された。
「えっ…!?」
平助の問いに、井吹の心臓はひときわ大きく鼓動する。
「なんか、殿内とかいう隊士と二人で出かける所を見た奴がいるんだけどよ…」と永倉が続け、特別仲が良いってわけじゃないのに、何で一緒に出かけてたのか気になる…と洩らした。
「なんだって…?!」
井吹は、先程の芹沢と殿内、そして芹沢と沖田のやりとりがフラッシュバックする。
色々と頭の中を巡らせてると、原田が何か気づいたように井吹に問いかける。
「龍之介、もしかして何か知ってるのか?」
「実は…」
井吹は、原田に問われるまま、殿内が近藤を暗殺しようと言ってたこと、それを芹沢が沖田に告げたことを話した。
三人は、驚いて沖田を急いで探しにいこうということになった。
井吹は、その事をすぐさま土方に報告しようと、土方の部屋に足を運ぶ。
「井吹か?…入れ。」
ぶっきらぼうな返事が返ってきたのを確かめてから、襖を引き開けた。
どうやら、土方は、斎藤となまえと話をしている最中だったらしい。
「龍…?」
顔色が良くない井吹を不思議に思ったなまえは、井吹に問いかける。
ざわっと、嫌な予感が一瞬にして身体を巡り、なまえの心臓を大きく鳴らす。
「…一体何のようだ」
土方が聞くと、実は、と今日起きた出来事を説明した。
土方と、なまえの表情は真剣に増していき…
特に、なまえは顔を歪めて勢いよく部屋から出て行こうとする。
「…なまえ!」
斎藤が、落ち着けと言いたいばかりに、なまえの腕を掴む。
珍しくなまえが焦っているようで…金と紅が悲しく揺らいだ。
「芹沢さんは、一体何を考えてやがるんだ…」
土方は、ぎりっと歯を鳴らし、すぐに沖田を探しに行くぞ!と言う。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ」
井吹は、慌てて土方を止める。
この間の沖田との一件を思いだし、あの時の沖田の表情を思い
出すと、言わずにはいれなかった。
土方は、苛立ちを隠せず井吹を睨むと、それまで なまえの腕を掴みながら沈黙していた斎藤が、「俺となまえが探す」と告げた。
そんなに自分に沖田を探させたくないのか、と不満を言う土方に斎藤は、今、副長が沖田と話しても、意固地になるだけだ。
話をするなら、少し時間を置き沖田が落ち着いてからしたほうが良いと、説明をする。
納得した土方は、頼むと他の者に言った時…。
「ああ、本当にしつこいな!」
玄関の方から聞こえてきた沖田の声に、なまえは目を見張り、部屋を飛び出していった。
「今の声はーー」
斎藤は緊張した様子で振り返り、斎藤もなまえを追いかける。
ーーーー
門の外には、沖田と永倉、原田と平助の姿、それとーー…
「総司…」
未だに乾き切っていない赤黒い血で汚れていた沖田を見て、なまえは、ズキッと心臓が痛くなった。
沖田が、浪士組の一員である殿内を斬ったーー…。
その事実を聞かされた瞬間の近藤の嘆きは尋常ではなく、それを見たなまえは、悔しさや色々な感情が混ざった、複雑な表情を隠せないまま謝罪をする。
「近藤さん…ごめん、
総司から、目を離さないようにしてたのに…」
普段の彼からは想像できない哀しげに顔を歪ませ、近藤に謝罪するなまえに、周りの皆も、初めて見る彼を目の前にし、困惑している。
恐らくなまえは、嫌な予感を気づいていたのに、なにもできなかった自分を責めている。
尚且つ、近藤の嘆く姿を見て激しい罪悪感を叩きつけられているんだろう。
「俺…、」
哀しげに鳴くなまえの瞳は、金と紅が混じるように見えた。
それを近藤は、宥めるようになまえの背中をさすりながら言った。
「なまえが、何を謝る必要あるんだ。」
そう零してなまえの背中をさすり、己自身も宥め落ち着かせるように…。
沖田は殿内を斬り、怪我だけでは済まさず、殺害してしまった。
故に、局中法度における【私の闘争を許さず】という禁を破ってしまう形となる。
ーー…。
土方と近藤は急遽、広間に皆を集め、沖田に説明を求める事になった。
第一声の、説明しなさいとの近藤からの問い掛けは重たく、なまえの胸はズキッ、と痛いままでー…
「局中法度には、私闘は厳禁という項目があったよな?」
土方は、鋭利な眼差しで沖田を射すくめた。
「芹沢さんが言ってたんですよ。
あの殿内って人が、近藤さんの命を狙ってるって。」
沖田は、悪びれる様子もなく平然と言い放つ。
士道不覚悟って奴ですよね、だから、殺しただけのことですと付けて。
その言葉を聞き土方は、大きく舌打ちをする。
芹沢の差し金であるとは理解しているが、改めて本人の口から聞かされると怒りが収まらない様で…。
土方は近藤に、芹沢のとこに問い詰めに行くぞと叫ぶと、近藤は短い返事を返し、板張りの床を音を立てて蹴りつけながら、退室してしまう。
彼らの姿を見送った後、沖田は、軽く伸びをしながら言った。
「…僕はもう、休ませてもらおうかな。」
血だらけの着物を、明日洗濯しなきゃ、なんてつぶやきながら…
楽しげに独り言を言いながら、部屋を出て行った。
まさか、こんなことになるなんて…近藤は、悲しんでいるんだろうと井上が呟くと、なまえは、何も言わないまま部屋を出て行った。
「ー…なまえ?!」
ーーー
「…っ…!」
なまえは、急いで前川邸に向かうと、丁度話を終えた近藤と土方に出くわした。
どちらも、怒りで顔を歪めていた。
様々な感情が混じり合った、怒りで…。
「…なまえ…
…総司の、様子はどうだ?」
近藤は、虚脱感のようなものが滲む表情で尋ねてきた。
「…もう、休んだ。
いつもと変わんねー感じ、」
なまえは、近藤の目が見れなくて、漆黒の地面を見つめながらそう告げた。
「…そうか。」
近藤は、それ以上の言葉が見つからないようだった。
「なまえ…
何しにきたかは知らねぇが…もう帰るぞ。」
土方は、なまえにこれ以上、此処には近づくなと言いた気に彼の腕を掴み、引き寄せる。
「…でも、俺…!」
なまえは、ギリッ…!と前川邸を鋭く睨むと、土方は「解ってる」と一言言い、 なまえのこめかみから顎にかけて撫でる。
なんともいえない、色々な感情が混雑している表情で、なまえの瞳をしっかりと見ながら、撫でるものだから…
月明かりに浮かぶ土方は綺麗で、少しだけ怖くなって…
土方の肩に、なまえはこれ以上何も言わず、頭をコツン…と預けた。
「…戻るぞ。」
三人は、足を引きずりながら八木邸へと戻っていった。
「…はぁ…」
それを遠くから見ていた井吹は、三人の背中を見送り、ため息を零す。
前川邸に戻った後は、今日はさすがに芹沢の顔を見たくなくて、すぐさま布団に入ったが、寝付けずに今日の事や今後の事を考えていた。
色々と考えている最中…
ふと、優しくて冷たい、哀しげな笛の音が…、何処からか、聴こえたような気がしたーー…。
猫は爪を立て、毛を赤に染めた。
(結局、口だけで、何もできない、)
ーーーーーー
なまえ君の動かし方gdgd…
シリアスなはずが…すみません。