化けの皮は剥がれる
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三月になり、身を切るような寒さもだいぶやわらぎ始めた頃。
本日は、家茂公が入洛する日。
将軍公が京を訪れる…まさに異例中の異例の事態に、京の街はお祭り騒ぎだった。
毎日のように不逞浪士が市の市中で騒ぎを起こしてる事を考え心配になった近藤は、我々も警護に参らないかと、芹沢にも話を通し、浪士組を率いて町へ降り立った。
普段の緊迫した空気が薄れ、反対にざわめきの騒々しさが増す町は、人々は浮かれ、ごった返しているのであった。
「うわっ…すっげぇ人手だな。」
これじゃ不逞浪士が混じっててもわからない、そう永倉がぼやく。
浪士組の連中も総出で大通りに押しかけたが、やはり改めてみると、浪士組の人数は少ない。
たった数十名の声など、人々のざわめかにすぐ掻き消されてしまいそうだ。
「…うえ、」
なまえは、この状況に心底嫌そうな顔をする。
どうやら、人込みが嫌で嫌で仕方ない様子。
「ほーらなまえ!
眉間に皺よせねえで、笑顔、笑顔! 」
平助がなまえを上目使いで覗き込み、いつもの笑顔で励ます。
「…にー、」
なまえは、有り難うって意味をこめ、歯をだして、いーっと笑ってみた。
残念だが、目はまったく笑っておらず不気味だったが…。
そんな彼を見つつ原田は、苦笑いを浮かべなまえの頭をぽんぽん…としながら「とりあえず、俺達も前に出てえ」と嘆いた。
そう、彼らは警護しに参ったのだから。
緊張した面持ちの近藤は、大きく一歩踏み出し言う。
「ここを通されい!我ら浪士組、将軍家茂公の警護に馳せ参じた!」
道は少し開いたものの…
当然、強い嫌悪がこもった冷たい視線が、浪士組に突き刺さる。
(…っ、この視線、きもちわり…)
なまえのトラウマが蘇り、いくつもの二つの眼の視線は、冷たく鋭い氷柱に変化し、何度も何度も身体を貫かれる感覚に陥った。
野次馬を見張る、という自主的な警護に、なまえは吐き気に襲われながら参加する。
「なまえ…?
顔色が優れないが…?」
すぐ隣にいた、斎藤から小声で声をかけられ、スッ…と頬を触れられる。
「…ん、」
短い返事で問いに返したなまえは、自分の頬に触れた斎藤の手を、ぎゅっと握りそのまま自分の頬に押し付けた。
「…!?」
その行動に驚いて、とくんと胸が鳴った斎藤だったが、なまえの頬の血の気の無さにはっと我に返りなまえ!と、名前を呼ぼうとした時…
「一の手、人肌体温できもちい…すぐ治るから、ちょっと、貸して…?」
金と紅が、珍しく弱々しく伏せがちに頼んでくるものだから、また一つ、斎藤の心臓はどくんと鳴る。
なまえが、具合悪そうにしてるのにこんなこと思ってしまう自分が嫌で仕方ない反面、 抱きしめてしまいたいという衝動に駆られた。
(俺は…なまえを、守ってやりたくて仕方ない… )
斎藤は、沖田が不逞浪士がいないかどうか睨みをきかせてる僅かの間だけ、なまえを独占し、頭の中はなまえで染まった。
----
数分後、「今のところ、殺気をまき散らしてる奴はいないみたいだね。」という沖田の言葉に、「家茂公が御通りになるまで油断できん」と、つい自分が吐いた言葉に自分で苦笑いをする斎藤であった…
やがて、家茂公を乗せた馬が遠ざかるにつれ、周囲のざわめきは小さくなる。
「次はきっと、将軍公の間近で警護できるようになるさ。
野次馬連中に混じってじゃなく、な」
土方は、強い声で近藤に語りかけた。
人込みが落ち着き徐々に人も散ってきた頃、ようやくなまえは、気分が優れてきたようだった。
「ふぅ…」と一呼吸してから、脳に酸素を送り込み意識をはっきり起こして、平助に「家茂公は?」なんて質問しようと思い、彼に近づいた。
「オレたちが駆けつけた時には、もう火はかなり燃え盛ってたよ。あれには開いた口が塞がらなかった。」
その言葉を聞いた途端なまえは、ようやく優れた顔を、怒りで歪ませてしまう。
どうやら、本庄宿の話らしい。
なまえには、すぐ理解できた。
「土方さんとか総司、それに…」
平助は一瞬、ちらっと横目でなまえを見て、やっと言葉にした。
「それに、なまえは…近藤さんのことすっげえ尊敬してるだろ?
そんな近藤さんを、こんな目に遭わせたんだからーー…」
三人とも、今すぐ芹沢さんに斬りかかって行くんじゃねえかって思ったよ。
そう平助は表情を歪ませながら語る。
「総司なんて、今まで見たことないくらい怖い顔してて、必死に止めたけど聞いてくれなくて。
土方さんも、表面上は総司を止めるふりをしてたけど、本当は総司よりも強く斬ってやりてえって思ってたんじゃねぇかな。
でもさ、誰より一番怖かったのは…」
僅かに、平助の腕がガクガクして震えてる。
井吹は、いつもの平助から想像できない様子に、つい掌の汗を握る。
「…っ、オレの知ってるなまえじゃねえみてーに…!
迂闊に動いたらオレたちが殺されるんじゃねぇかって錯覚しちまって…動けなかった。
一言も何も言わなければ、総司を止めもしないし、黙って芹沢さんを睨んで見下してたけど…
あれは、本物の鬼のような眼だった…。」
井吹は、口を半開きにしながらなまえを横目で見るが、なまえは、目を瞑り、黙って周りの皆と同じように、平助の話を聞いていた。
「…っ、近藤さんは、あんなに誠心誠意謝ったのに…」
あの場面を思い出して、怒りがこみ上げてきた沖田は、その場で呟いた。
----
全ての一連の話を語り終わり、その時の事を思い出した平助は、身震いするような素振りをした。
「…ああいうことがあった後だから、わだかまりができちまってさ」
「…なるほどな」
井吹は、はー…と息を吐き、納得した。
それだけのことがあったんなら、敵意を抱くのは当たり前だ、と。
三月上旬、
桜もすっかり満開になったある日。
「ちょ、ちょっと待て。
犬って…誰のことだ?」
八木邸から、井吹の声が響く。
今日は休みのなまえは、庭で、横笛を奏でていた。
連結鍵ではない横笛の笛色の中にいきなり、聞き慣れた人の声が混じった。
「…龍…?」
とりあえず、様子をみてこようと思い、声の基へ歩く。
「だってあんた、犬なんだろ?芹沢っておじさんが、そう言ってるの聞いたよ?」
「だから、俺は犬じゃないって言ってるだろ!このクソガキ!」
なまえの遠目から見た様子だと、この家にすんでる幼い男の子と、井吹が言い合いをしてるようだった。
(…あれは、勇坊。)
やれやれ、って顔をしてなまえは、二人の仲裁に入る。
「龍、そんなでけー声だして、恥ずかしーんだ」
誰だとばかり、2人はなまえの方を向くと、勇坊はぱあっと表情が明るくなり…
「なまえ~!!」
そう叫んで、なまえに抱きつく。
なまえは、勇坊の頭をぽんぽんと撫で、「よし、今日も元気だ、花丸」と褒めた。
「だって、なまえ!
このガキ、口の聞き方がなってな…いで、いだだだっ」
先ほどよりも、でかい声でなまえに文句を言った井吹は、全部を言い終える前に、頬をむぎぎ~っと、ひっぱられてしまう。
「あいよ。
ワンコ、どーどー…。」
二度は言わない、静かにしろって事ですよね、理解。
「…で?どーしたの、」
なまえは、井吹の頬から手を離し、よしよしと言いながら井吹の頭も、ぽんぽんっとする。
「なまえー!
総司が、どこに行ったかしらないー?多分、こっちの方に来たと思うんだー!」
その場面を見た勇坊は、ずるいずるい、もっと僕にもしてって言いたい態度で、なまえの足にすがりつく。
「…んー、俺は会ってない。」
なまえがそう言いながら、勇坊の頭をもう一度撫でると、「じゃあ、自分で探してくるね」と、満足そうにぱたぱたと走りだして行った。
「…なんであんなガキにまで犬呼ばわりされなきゃいけないんだ。」
むすっ、とした顔で呟く井吹。
すると沖田が、隠れてた茂みから姿を表す。
「何言ってるの、君が犬って呼ばれてるのは事実じゃない。」
「あのな!
確かに芹沢さんにはそう呼ばれてるかもしれないがっ…!」
と言いかけた瞬間、
「…総司、みーつけた。」
なまえの、いつものぼやーんとした声が遮った。
ちょ、そんなタイミングで言うのか!?つか、みーつけたって何だよ!と井吹は、心の中で突っ込む。
「…ぷっ、あはははは!なまえさんに見つかっちゃったから、僕、今夜一晩中、たっぷりと尽くしちゃおうかな?」
沖田はそう言いながら、お得意の笑顔でなまえに近づき、顎に手をかける。
「…ん?」
何が起きてるか、されるか、言葉の意味も理解してないなまえは、顎に手をかけられたまま、総司の翡翠色の眼を覗く。
「…あぁ、もう…!
この色に覗かれると…僕、ゾクゾクして…勃っちゃう…」
「…あ、?」
沖田はいやらしい顔でニヤニヤと笑いながら、井吹が居るのもお構いなしに、なまえの顔に自分の顔を近づけて…
「んな!?こら、沖田っ!!」
それは、井吹が慌てて沖田を止めようと叫んだ直後だった。
「うわぁあああああん!!」
門の方から、泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
「何だ?今の…
さっきのガキの声だったよな?」
明らかに、ただ転んだだけという泣き声ではない切迫した響きに、沖田もさすがになまえから手を放した。
井吹が、沖田となまえの方を振り返ろうとした矢先、
二人はすぐに、声のする方へ走っていってしまう。
「お、おい!待てよーー…!」
井吹も慌てて後を追い、門を飛び出した。
「うわぁあああああん…!」
勇坊は、怖いよと怯えきった様子で泣きじゃくり、やってきた沖田となまえの足にすがりつく。
だが、沖田となまえは、門の外に立っている二人の姿を見つめている。
視線の先には…
「あんた達…!
どうしたんだよ、その格好…」
その二人組は、永倉と斎藤で…
彼らの着物には、未だ乾ききってない血がべっとりと付着していた。
「返り血だ、傷は負っておらぬ。」
斎藤は、いつもと変わらない落ち着いた様子で答えた。
永倉の補足によると、ちょっとした小競り合いがあった、とかなんとか。
井吹は、酸っぱいものが胃の奥から込み上げてきて、手で口を抑え、視線をふいとなまえに向ける。
「…、」
なまえは、何も言わず何も聞かず、2人の様子を眺めてた。
いつもの、力のない眼で、
「総司、悪いが、土方さんと山南さんを呼んできてくれねえか」
いつも、おちゃらけてる声は…ゾッとするくらい静かな声で、井吹は耳が痛かった。
化けの皮は、剥がれる
(みつかった)(暫く、演じていたいのに)
----
「あれは、本物の鬼のような」
じゃなくて、しかも妖鬼なんです。
もう暫くはなまえとあの人だけの秘密
本日は、家茂公が入洛する日。
将軍公が京を訪れる…まさに異例中の異例の事態に、京の街はお祭り騒ぎだった。
毎日のように不逞浪士が市の市中で騒ぎを起こしてる事を考え心配になった近藤は、我々も警護に参らないかと、芹沢にも話を通し、浪士組を率いて町へ降り立った。
普段の緊迫した空気が薄れ、反対にざわめきの騒々しさが増す町は、人々は浮かれ、ごった返しているのであった。
「うわっ…すっげぇ人手だな。」
これじゃ不逞浪士が混じっててもわからない、そう永倉がぼやく。
浪士組の連中も総出で大通りに押しかけたが、やはり改めてみると、浪士組の人数は少ない。
たった数十名の声など、人々のざわめかにすぐ掻き消されてしまいそうだ。
「…うえ、」
なまえは、この状況に心底嫌そうな顔をする。
どうやら、人込みが嫌で嫌で仕方ない様子。
「ほーらなまえ!
眉間に皺よせねえで、笑顔、笑顔! 」
平助がなまえを上目使いで覗き込み、いつもの笑顔で励ます。
「…にー、」
なまえは、有り難うって意味をこめ、歯をだして、いーっと笑ってみた。
残念だが、目はまったく笑っておらず不気味だったが…。
そんな彼を見つつ原田は、苦笑いを浮かべなまえの頭をぽんぽん…としながら「とりあえず、俺達も前に出てえ」と嘆いた。
そう、彼らは警護しに参ったのだから。
緊張した面持ちの近藤は、大きく一歩踏み出し言う。
「ここを通されい!我ら浪士組、将軍家茂公の警護に馳せ参じた!」
道は少し開いたものの…
当然、強い嫌悪がこもった冷たい視線が、浪士組に突き刺さる。
(…っ、この視線、きもちわり…)
なまえのトラウマが蘇り、いくつもの二つの眼の視線は、冷たく鋭い氷柱に変化し、何度も何度も身体を貫かれる感覚に陥った。
野次馬を見張る、という自主的な警護に、なまえは吐き気に襲われながら参加する。
「なまえ…?
顔色が優れないが…?」
すぐ隣にいた、斎藤から小声で声をかけられ、スッ…と頬を触れられる。
「…ん、」
短い返事で問いに返したなまえは、自分の頬に触れた斎藤の手を、ぎゅっと握りそのまま自分の頬に押し付けた。
「…!?」
その行動に驚いて、とくんと胸が鳴った斎藤だったが、なまえの頬の血の気の無さにはっと我に返りなまえ!と、名前を呼ぼうとした時…
「一の手、人肌体温できもちい…すぐ治るから、ちょっと、貸して…?」
金と紅が、珍しく弱々しく伏せがちに頼んでくるものだから、また一つ、斎藤の心臓はどくんと鳴る。
なまえが、具合悪そうにしてるのにこんなこと思ってしまう自分が嫌で仕方ない反面、 抱きしめてしまいたいという衝動に駆られた。
(俺は…なまえを、守ってやりたくて仕方ない… )
斎藤は、沖田が不逞浪士がいないかどうか睨みをきかせてる僅かの間だけ、なまえを独占し、頭の中はなまえで染まった。
----
数分後、「今のところ、殺気をまき散らしてる奴はいないみたいだね。」という沖田の言葉に、「家茂公が御通りになるまで油断できん」と、つい自分が吐いた言葉に自分で苦笑いをする斎藤であった…
やがて、家茂公を乗せた馬が遠ざかるにつれ、周囲のざわめきは小さくなる。
「次はきっと、将軍公の間近で警護できるようになるさ。
野次馬連中に混じってじゃなく、な」
土方は、強い声で近藤に語りかけた。
人込みが落ち着き徐々に人も散ってきた頃、ようやくなまえは、気分が優れてきたようだった。
「ふぅ…」と一呼吸してから、脳に酸素を送り込み意識をはっきり起こして、平助に「家茂公は?」なんて質問しようと思い、彼に近づいた。
「オレたちが駆けつけた時には、もう火はかなり燃え盛ってたよ。あれには開いた口が塞がらなかった。」
その言葉を聞いた途端なまえは、ようやく優れた顔を、怒りで歪ませてしまう。
どうやら、本庄宿の話らしい。
なまえには、すぐ理解できた。
「土方さんとか総司、それに…」
平助は一瞬、ちらっと横目でなまえを見て、やっと言葉にした。
「それに、なまえは…近藤さんのことすっげえ尊敬してるだろ?
そんな近藤さんを、こんな目に遭わせたんだからーー…」
三人とも、今すぐ芹沢さんに斬りかかって行くんじゃねえかって思ったよ。
そう平助は表情を歪ませながら語る。
「総司なんて、今まで見たことないくらい怖い顔してて、必死に止めたけど聞いてくれなくて。
土方さんも、表面上は総司を止めるふりをしてたけど、本当は総司よりも強く斬ってやりてえって思ってたんじゃねぇかな。
でもさ、誰より一番怖かったのは…」
僅かに、平助の腕がガクガクして震えてる。
井吹は、いつもの平助から想像できない様子に、つい掌の汗を握る。
「…っ、オレの知ってるなまえじゃねえみてーに…!
迂闊に動いたらオレたちが殺されるんじゃねぇかって錯覚しちまって…動けなかった。
一言も何も言わなければ、総司を止めもしないし、黙って芹沢さんを睨んで見下してたけど…
あれは、本物の鬼のような眼だった…。」
井吹は、口を半開きにしながらなまえを横目で見るが、なまえは、目を瞑り、黙って周りの皆と同じように、平助の話を聞いていた。
「…っ、近藤さんは、あんなに誠心誠意謝ったのに…」
あの場面を思い出して、怒りがこみ上げてきた沖田は、その場で呟いた。
----
全ての一連の話を語り終わり、その時の事を思い出した平助は、身震いするような素振りをした。
「…ああいうことがあった後だから、わだかまりができちまってさ」
「…なるほどな」
井吹は、はー…と息を吐き、納得した。
それだけのことがあったんなら、敵意を抱くのは当たり前だ、と。
三月上旬、
桜もすっかり満開になったある日。
「ちょ、ちょっと待て。
犬って…誰のことだ?」
八木邸から、井吹の声が響く。
今日は休みのなまえは、庭で、横笛を奏でていた。
連結鍵ではない横笛の笛色の中にいきなり、聞き慣れた人の声が混じった。
「…龍…?」
とりあえず、様子をみてこようと思い、声の基へ歩く。
「だってあんた、犬なんだろ?芹沢っておじさんが、そう言ってるの聞いたよ?」
「だから、俺は犬じゃないって言ってるだろ!このクソガキ!」
なまえの遠目から見た様子だと、この家にすんでる幼い男の子と、井吹が言い合いをしてるようだった。
(…あれは、勇坊。)
やれやれ、って顔をしてなまえは、二人の仲裁に入る。
「龍、そんなでけー声だして、恥ずかしーんだ」
誰だとばかり、2人はなまえの方を向くと、勇坊はぱあっと表情が明るくなり…
「なまえ~!!」
そう叫んで、なまえに抱きつく。
なまえは、勇坊の頭をぽんぽんと撫で、「よし、今日も元気だ、花丸」と褒めた。
「だって、なまえ!
このガキ、口の聞き方がなってな…いで、いだだだっ」
先ほどよりも、でかい声でなまえに文句を言った井吹は、全部を言い終える前に、頬をむぎぎ~っと、ひっぱられてしまう。
「あいよ。
ワンコ、どーどー…。」
二度は言わない、静かにしろって事ですよね、理解。
「…で?どーしたの、」
なまえは、井吹の頬から手を離し、よしよしと言いながら井吹の頭も、ぽんぽんっとする。
「なまえー!
総司が、どこに行ったかしらないー?多分、こっちの方に来たと思うんだー!」
その場面を見た勇坊は、ずるいずるい、もっと僕にもしてって言いたい態度で、なまえの足にすがりつく。
「…んー、俺は会ってない。」
なまえがそう言いながら、勇坊の頭をもう一度撫でると、「じゃあ、自分で探してくるね」と、満足そうにぱたぱたと走りだして行った。
「…なんであんなガキにまで犬呼ばわりされなきゃいけないんだ。」
むすっ、とした顔で呟く井吹。
すると沖田が、隠れてた茂みから姿を表す。
「何言ってるの、君が犬って呼ばれてるのは事実じゃない。」
「あのな!
確かに芹沢さんにはそう呼ばれてるかもしれないがっ…!」
と言いかけた瞬間、
「…総司、みーつけた。」
なまえの、いつものぼやーんとした声が遮った。
ちょ、そんなタイミングで言うのか!?つか、みーつけたって何だよ!と井吹は、心の中で突っ込む。
「…ぷっ、あはははは!なまえさんに見つかっちゃったから、僕、今夜一晩中、たっぷりと尽くしちゃおうかな?」
沖田はそう言いながら、お得意の笑顔でなまえに近づき、顎に手をかける。
「…ん?」
何が起きてるか、されるか、言葉の意味も理解してないなまえは、顎に手をかけられたまま、総司の翡翠色の眼を覗く。
「…あぁ、もう…!
この色に覗かれると…僕、ゾクゾクして…勃っちゃう…」
「…あ、?」
沖田はいやらしい顔でニヤニヤと笑いながら、井吹が居るのもお構いなしに、なまえの顔に自分の顔を近づけて…
「んな!?こら、沖田っ!!」
それは、井吹が慌てて沖田を止めようと叫んだ直後だった。
「うわぁあああああん!!」
門の方から、泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
「何だ?今の…
さっきのガキの声だったよな?」
明らかに、ただ転んだだけという泣き声ではない切迫した響きに、沖田もさすがになまえから手を放した。
井吹が、沖田となまえの方を振り返ろうとした矢先、
二人はすぐに、声のする方へ走っていってしまう。
「お、おい!待てよーー…!」
井吹も慌てて後を追い、門を飛び出した。
「うわぁあああああん…!」
勇坊は、怖いよと怯えきった様子で泣きじゃくり、やってきた沖田となまえの足にすがりつく。
だが、沖田となまえは、門の外に立っている二人の姿を見つめている。
視線の先には…
「あんた達…!
どうしたんだよ、その格好…」
その二人組は、永倉と斎藤で…
彼らの着物には、未だ乾ききってない血がべっとりと付着していた。
「返り血だ、傷は負っておらぬ。」
斎藤は、いつもと変わらない落ち着いた様子で答えた。
永倉の補足によると、ちょっとした小競り合いがあった、とかなんとか。
井吹は、酸っぱいものが胃の奥から込み上げてきて、手で口を抑え、視線をふいとなまえに向ける。
「…、」
なまえは、何も言わず何も聞かず、2人の様子を眺めてた。
いつもの、力のない眼で、
「総司、悪いが、土方さんと山南さんを呼んできてくれねえか」
いつも、おちゃらけてる声は…ゾッとするくらい静かな声で、井吹は耳が痛かった。
化けの皮は、剥がれる
(みつかった)(暫く、演じていたいのに)
----
「あれは、本物の鬼のような」
じゃなくて、しかも妖鬼なんです。
もう暫くはなまえとあの人だけの秘密