蒼犬
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「ほら、おいで…」
紅い月が嗤う空が号泣の宵。
大きな掌をした五本の指と、思わず其処に倒れ込みたくなる頼れる太い腕に、俺の小さな身体は抱き締められた。
…この人は、何を言ってるのか
…この人は、何をしているのか
ーーーー
なまえは、村を棄てた後、何かに引きつけられるようにこの男がいる建物の前にたどり着いた。
雨の中無我夢中に逃げ走ってきたせいで、身体は冷え切っていた。
村を焼き捨てる前に、同じ歳頃の子供の死体を探して、奪って纏った着物は、血泥まみれて気持ちが悪い。
尚且つ、雨を吸いすぎて動き難いし、この幼い身体に対して鍵も刀も重たい。
「…はぁ…っ…は…」
そういえば、この鍵を手にとってから、自分の中の妖と鬼のバランスが心地良い気がする。
身体もいきなり成長したりはしないようで、少し安心する。
仮にも、この世に出てきたばかりだというのに三つ程から…とは、それに此処まで理解する脳とは…まあ、なんて自分が可笑しい存在なんだろう。
「…意味…わかんね」
なんで、この建物についたのか
何故、此処から動けないのか
何故、此処で、うずくまってしまうのか…
自分の存在理由も、自分の行動も、理解が出来ないまま…なまえは、もうこのまま雨に溺れて死にたいと思った。
「俺の、そばに居なさい。」
俺は、俺の生命のプロローグとエピローグを、短時間の間に思いっきり叩きつけられた気がする。
死んで、また、産まれた…
そんな言葉がピッタリだ。
嗚呼、
大きな、温かい手と
目の前に差し出された丸い白…
産まれて、始めて食った大福の
…涙と鼻水でグチャグチャになりながら貪ったせいで、少ししょっぱかった、あの味は
一生、忘れない。
涙って、流しても痛ぇ
でも凄く熱くて、心臓がバクバクしてて…俺は、生きてるんだって、思えた。
あの人に心臓を動かされた夜
生命の、暖かさを知った夜
…さん、こ…ど…さん、
俺さ、俺ー…
ー ー ー ー ー ー ー ー ー
「出て行くって…どうしてだよ?行かなきゃならない所でもあるのか?」
縁側に、座りながら寝こけてた影ひとつ。
どうやら影の正体であるなまえは、天気がよかったおかげか縁側でうたた寝していた。
大きな声が聞こえた今、やっと目を覚ましたようだが。
(あー…夢か…最近めっきり昔のことなんか、気にしてなかったし、ひさしぶりだ)
一応、自分の身体を確認してみる。
…ん、歳相応の青年だ。
ちゃんと今の、俺
懐かしさから覚めて欠伸を一つ、
太陽が眩しくて、心地よい風が頬を流れる。
まだ寝ぼけ眼の中、徐々に思い出そうとする今の状況。
(ああ…平助が、怪我人の様子を見てこいって頼まれて…じゃあ、なまえも一緒に来てくれって縋られ付いてきたんだ)
半ば無理やりひきずられてきたなまえは、怪我人のそばにしゃがみこんでる平助を横目に縁側に座り、いつの間にか寝こけてしまった。
とまあ、そんな一連の流れだ。
「しつこいんだよ!
何なんだよお前は!追いかけてくるなって……っわ!?」
「…うー、平助、わり…寝て
た…っ…ぐふっ…!」
つか騒がしい、何なんだと文句言ってやろうと思った瞬間、バターン!と大きな音と腹に激痛が走る。
平助に追っかけられ走ってきた例の怪我人が、縁側に座っていたなまえに気が付かず、寝ぼけてたなまえの横腹に蹴りを呉れ、その拍子に躓き、奴は床に倒れ込む。
「あっ、なまえ!?
あぶ……ぅあちゃー…」
うずくまるなまえと、顔を抑える怪我人を見た平助は、自分の手を自分のデコに当てて、苦笑いを零した。
「いてぇぇー…!
あっ!?…蹴っ飛ばして悪かったな、大丈夫か…あんた」
痛さに顔を歪めながら、怪我人はなまえに話しかける。
寝ぼけてたとは言え、蹴っ飛ばされたのは、ふにおちないなまえだったが…
「 …っ…あー、大丈夫。」
いつまでも座り込んでいたなまえを、平助は腕をひっぱり起き上がらせた。
「よっ、と!
なまえ、大丈夫かよ?
つーか基はといえば、お前が俺から逃げたりするから!」
「なっ…!?お前が俺を、しつこく追っかけてきたりするからだろ!」
お互いにお前のせいだなどとなすりつけあい、平助と怪我人はぎゃーぎゃーと言い合いする。
腹は痛いわ蹴られるわ、両隣の言い争いが勃発し煩いわで、なまえの不機嫌オーラが燃えてきた瞬間、 奥の方から聞き慣れた声がした。
「な~に大騒ぎしてんだ?廊下をバタバタ走るんじゃねぇよ。」
救世主登場で、なまえの表情は緩み、少しだが彼の機嫌は直っていく。
救世主に首根っこ掴まった怪我人は、なまえとは逆に不機嫌になり「放せ!」なんて、振り払おうとする。
結局、ただ足が虚しく宙を掻いてしまうだけであって…
「でかした、左之さん!捕まえてくれて助かったよ!」
平助も一安心したように、2人の救世主に笑いかけた。
この後、このまま出て行くと主張する怪我人に、自分の言葉で助けてもらった人に御礼を言うのが礼儀だという原田と永倉の叱責と、何故か自己紹介が始まった。
どうやらこの怪我人だった男は、井吹龍之介と云うらしい。
そういえば、すっかり様態は良くなっているようだった。
井吹の自己紹介も終え、「悪くねえ名前じゃねえか」という原田に、なまえも共感する。
「…ん、俺も気に入った。」
ぼそっと呟くなまえに、何故お前が気に入るんだ、とでも言いたそうな驚いた顔に一瞬なった井吹は、すぐさま表情を固くし、別に…と答えた。
「 お!?
なまえちゃんが、気に入るなんて言うの珍しいじゃねーか! 」
「…んだよ、」
確かに言われてみれば…と続ける原田に、ずるい、ずるいと騒ぎはじめる平助を横目に永倉は、このこの、照れちゃって可愛いなあ~なんて言いながら、なまえの眉間に人差し指をツンツンした後、永倉も井吹に自己紹介する。
井吹の腰の刀に気がついた永倉は、井吹に刀の話を振ったのだが、何故か攻撃的になった井吹を察してやめにし、少し気まずい空気が流れた頃
…
「…で、あんたは?」
井吹が、なまえに話し掛ける。
きっと、物珍しいのだろう…なまえの目をジッと覗くように見てくる。
なんせなまえの目は、オッド・アイ。
しかも気味が悪く光る、紅と金色。
「…む、」
なまえは気まずそうな顔をして、井吹の目から視線を外した。
なまえは、頭では仕方ないとは自分でも理解してるのだが、やはりどうしても瞳を覗かれるのは苦手なのだ。
それに、先程あったばかりである見ず知らずの人間に。
なまえは、そのまま目線を逸らしたまま、自己紹介をした。
「…なまえ、
みょうじ‥‥、なまえ…。」
ふいっ、と目線を逸らされた、オッド・アイで控えめなこの男を…井吹は、純粋に綺麗だと思った。
トクン…と胸がなる。
( なまえ…か、
すごく整ってる顔してるけど、女…じゃないよな…? )
じぃーっ、となまえの顔を舐めるように見入ってしまう井吹。
「………。」
やがて、わずかにハッとした表情をしたかと思えば、なまえは、無言の不機嫌オーラを纏いはじめた。
なまえは、自分が女か勘ぐられてるのに悟ったようだ。
恐らく、いつも初めて会う人に、やられるのだろう。
「うわっ!?
左之さん、なまえの不機嫌オーラが…。 」
怖いから、どーにかしてと原田に助けを求める平助。
「うわわわ、龍之介! なまえは、因みに、男だからな…? 」
へっ?と、驚いた顔をする井吹に、益々不機嫌になるなまえ
「……っ、」
「仕方ねーよ、俺のなまえちゃんは、可愛いもんよ! 」と永倉がうっかりと口を滑らせてしまう。
しかも誇らしく、自慢気に。
「ばっ…馬鹿!新八!」
「…あ…、」
「しんぱっつぁんのあほ~っ!!」
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結局、井吹は、一宿一飯の恩義をする為、この場は逃げ出すことは無く、まずはキチンと身なりを整えてこいと、変わりに井戸に行くようにと、なまえの鉄拳をくらった三人に言われた。
( なまえって奴には、女顔ネタは禁句なんだな)
と、学んだ井吹でした。
蒼犬
(綺麗な狼、蹴っ飛ばしちまった、)
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なまえ君、不覚。
どう?可愛いプレゼントでしょ?