向日葵の儚恋唄
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「こんっの…バカ獣!
一体、どこほっつき歩いてやがった!!」
真夜中の屯所内、土方の怒声で響き渡り、おまけにゴツンッ!と鈍い音まで鳴り響く。
「…ぃ…っ…!!」
先程まで風間と命のやり取りをしてきたであろう妖鬼の彼と同一人物であるはずのなまえは、土方の握り拳で拳骨を喰らい、己の頭から湯気を立たせば、涙目になりながら申し訳なさそうに屯所内の仲間に謝るのだった。
全く、このなまえという男は…本当にあの歴史で謳われる妖鬼なのだろうか?
先程の会話を疑って仕舞う。
「まあまあ…トシ。
その辺にしとこうじゃないか…なまえも、反省しているだろう?」
近藤が、苦笑いをしながら2人の間へと割り込む。
ったく…あんたはなまえにいつだって甘い!と土方は未だなまえを殴り足りないと言いたげに、顔は怒りの表情のまま吐き捨てるのだった。
「…でもよ、寝込んでると思って部屋に向かえば、布団は殻なんて…皆、すげえ心配したんだぜ?」
原田が、あんまり心配かけんなよと言いながら、ぽんぽんっ…となまえが痛そうにしてる頭を撫でてやり、今は安心したような複雑な表情で語りかければ、周りからは肯定の声や頷く声が聞こえた。
「…ごめん…。」
なまえは、原田に頭を撫でられながら先程の己の歴史を皆が語っていた場面を思い出し、俯きながらつい哀しい表情をしてしまった。
(皆…何事も無かったように接してくれるけど…)
なまえは、やはり少し不安な表情のまま、ふと近藤に目をやれば、ぱちっと視線は絡みなまえの好きな、何時もの優しい表情を贈る。
「なまえ…此処に居る皆は、お前が必死に隠してた繭を晒け出し…自ら包み込んでくれるのだぞ。」
そう言いながら、近藤はなまえの金と紅をグッー…と覗きながらなまえに叩きつければ、周りの連中も言葉の意味を察したのか…うんうんと頷きながらなまえを囲んだ。
「あーもー…僕、ますますなまえさんに惚れちゃった。
離せなんて言っても、離してなんてあげないから。」
沖田は、いつもの悪戯な笑みを浮かべてはなまえの首に己の腕を回し、隙間無く抱きついた。
「…総司…」
そんな皆を見て、なまえ自身、初めての感情を味わっていた。
くすぐったいような…嬉しいような、泣きたくなるような…。
そんな難しい感情を味わいながら、皆1人ずつ抱きしめる事を想像しながら…沖田をつい抱きしめ返してしまう。
ギュッ…となまえの鎖骨付近に沖田の顔がくっつくほど抱きしめれば、沖田は一瞬驚く表情をするが、すぐさま幸せそうな表情をした。
周りから見ればまったくもって羨ましく、勿論自分だってされたい。
「総司!かわれ!」なんて永倉がムキになり二人をべりっと剥がせば、永倉がなまえを独り占めにする。
「ちょっと…新八さん?
僕の幸せな時間を壊そうなんて…斬られたいの?」
ムスッ…とした表情を永倉に送れば、いーじゃねえか!となまえの腰を抱き、なまえの左側の首もとへ己の顔をすりすりすり…っと擦りつけた。
「あー…なまえちゃん… なまえ…なまえ…!」
「…っ、新八…!くすぐってぇ…っ…!」
何度も何度も、愛しそうに自分の名前を呼ぶ永倉に…なまえはつい嬉しく思い、そのまま後ろから抱きしめられている体制のまま、永倉の髪の毛を抱え込み撫で込む。
「あー…このまま押し倒してもいいか…?」
永倉は、公衆の面前だということを忘れて、ついぽろっと本音を零すと、案の定周りから殺気をバシバシ受け我に返り、じょーだんだよ!なんていつものおちゃらけた雰囲気に戻り、ふと視線を一点に集中させると…
「…ん…?なまえちゃん…これ、何だ…?」
永倉は、なまえの首に刺青の様な…先程の風間に残された「楔」という字に気づき、 人差し指でその字をツツ…ッとなぞりながらなまえに問いかけた。
(…やべ、)
なまえは、しまったという表情をし、1人で出す答えを考えている中、永倉の声にどれどれ…と皆も不思議そうに顔を歪ませば、なまえに問答無用で責め問う。
「…ん、俺が逃げないよーにっての首輪…?」
先程の風間との会話を振り返って記憶を辿ったなまえは、風間の発言からこのような答えに辿り着き、思わず出た言葉がこれだった。
「…楔…二つのものを固く結び付ける、即ちその字を彫った相手とは深く固い絆がある、という意味に捉えてもよろしいですか?」
山南がぽろっと零せば、皆の表情は一気に嫉妬の渦に変わる。
「…なまえ、直ちに消せぬのか?」
斎藤のクールな表情は崩れ、嫉妬にまみれながらなまえの言う、首輪というものをゴシゴシと布で擦り落とそうとする。
「…いや、落ちねーんだなー」
なまえが、俺も試したなんて苦笑いしながら答えれば、皆は更に嫉妬に駆られ、挙げ句の果てになまえは危機感が足りない!と始まり、一体誰がつけただの、いずれ消してやるだの、とにかく話がややこしく大きくなってしまった為に、近藤はこの時間に騒いだら迷惑だから静かに!と皆を何とか止め、今日はもう遅いから早く休もうとの事になるのだった。
ーーー…
「また明日な、龍。」
「ああ、今日はゆっくり休めよ。」
おやすみ、と挨拶し、八木邸を出て前川邸に戻ろうとする井吹をなまえは見送ろうとするとー…
平助が、落ち込んだ様子で夜空を見上げているのに気付き、井吹となまえは、すぐさま平助に駆け寄り声を掛けた。
「平助どーしたー、帰んべ?」
なまえが平助の頭をぽんぽんと撫で、井吹が「今日は、もう休めって言われただろう?」と問いかけると、平助は、戸惑いながら振り向くのであった。
「うん…少し空を眺めてから戻るよ。
なんか…落ち着かなくてさ…」
平助が悲しい声で伝えれば、井吹は今日の事もあったし、部屋に戻ってすぐには休めない気も解るよと答えると、平助は少し間を置き、この間の上覧試合の話題を出してきた。
「あの時さ…会津藩のお偉いさんにお褒めの言葉を貰えて…オレ、すっげえ嬉しかったんだ。」
皆もそうだと思うし、なまえもそうだろ?と問い掛ければ、なまえは静かに頷いた。
「オレ達の剣の腕を、ちゃんと評価してもらえて…これでようやく、活躍の場ができると思ったんだけどさ…まさか、こんな仕事をさせられるとは思わなかったよな…」
先日の上覧試合の後、皆は、子供のように無邪気に喜んでいた。
これで、会津に目を掛けてもらえる。
名を上げる機会がようやく巡ってきたと思ったのだろうか…。
実際に命じられたのは、人を化け物に変える薬の研究と、その実験台の提供。
失望するのは当然なのかもしれないー…。
「…平助…。」
なまえが、哀しく名を呼べば平助は顔を上げ、まだ湿ったままの表情で言う。
「ごめんな、変な事言っちまって…。
なまえ、中に戻ろうぜ」
井吹となまえは、静かにああと頷き、平助はなまえの腕を引っ張りながら八木邸の中へと戻っていった。
「…こんなことになるとは思わなかった、か。全くだよな」
井吹は、二人の背中を眺めながら呟き、自分の身の事も考えていた。
芹沢に拾われた事から始まり、まるで怪談話みたいな出来事に巻き込まれるとは思わなく…
(浪士組の連中は、この先ーー
一体、どうなっちまうんだ?)
うだるような暑さの中、滲んできた汗を拭いながら井吹は、そんな事を思うのであった。
ーーー…
「平助、」
腕を引っ張ったまま、何も言わない平助に、なまえはそっと紡ぐ。
「…?」
平助は、不思議そうな表情をしてなまえの顔を覗く。
今宵に限って苛つく程に綺麗な夜空には、なまえの紅い満月のような目はとてもお似合いだった。
綺麗だ、と見惚れていた平助は、あっと言う間についたなまえの部屋に導かれ、「座りな」と綺麗な顔と目に言われれば、床に腰を掛けるしかなかった。
向かい合わせに座ったと思えば、なまえは自分の連結鍵を外し床に置き、平助の足下にジャララ…っと寄せた。
「…なまえ…?」
平助は、表情を歪ませながらその意図を探ると、なまえは迷うことなく告げる。
「…どーにもなんねーなら、切り札つかっちまえばいーんだよ、」
なまえが、グッと平助の目を貫き発すると、平助は泣き出すような表情をして声を荒げる。
なまえは、慌てて平助の口を掌で塞ぎ、皆寝てっから!と小さな声で囁くと平助は気まずそうに短く謝った。
恐らく…なまえの言いたい事は、例えば此の浪士組が任されてしまった変若水の実験に頭を抱えて崩壊にまで陥る前に、先程言っていた…切り札の連結鍵を使い、完璧な変若水を完成させ、さっさと幕府に提供して絶対的な信頼感を得て、平助が望む、もっと違う仕事をさせて貰えば良いのでは…という事だった。
「…なまえが馬鹿な事言うからだろ…!」
もしかして、先程の広間での話を盗み聞きしてやがったなとなまえを睨めば、なまえはふっと笑いこう投げかけた。
「俺、近藤さんだけじゃなくて、お前等にも命賭ける、」
浪士組が、どうにも出来ない状況に陥った時は、力を使ってくれて構わない。
それに元は、近藤に拾われた身。
近藤が危ない時は、浪士組が危ない時であるから、その時は己の命をーー…。
「俺が命を賭けて一番に護りたいのは、国とかではなくてー…」
なまえは、グッ…と力を込めた優しい瞳を平助に向ければ、平助は堪えられずに一筋の涙をツゥ…ッと流した。
「んなの…オレだって夜を守るし、そんな事させない…!
だから、そんな事言うなよ…」
「…あーあ、かわいー顔が台無し。」
ぽんぽん、と平助の頭を撫でてやれば、なまえに言われたくねー!なんて憎まれ口が返ってきた。
「…俺が、こんな事言ってたって、誰にも言うなよ…」
なまえは頬を軽く染めながら平助に返せば、おう、といつもの笑顔で返し「なまえ、じゃあ指切りしようぜ?」なんて言ってきた。
「…俺、武士の風習の誓いより、指切りのほーが好き…」
こくりと頷くと、二人の小指は絡み合って、小声で誓いを刻んでく。
「ゆーびきりげーんまん、嘘付いたら針千本のーます…」
「平助には、針と左之の槍だべな、」
「…はあっ!?じゃあなまえには、新八っつぁんの足袋!」
なまえは、まさかの平助の返しをモロに想像してしまい、うげっと声を漏らし、その後軽く言い合っていれば、いつの間にか笑いが起こり、雰囲気は明るい中、少しの雑談後に眠りについたーー…。
「…ねみー…、」
「なまえって、いつも眠たそうだよな。」
次の日の朝ーー…
なまえは、軽く欠伸を零しつつ、原田と沖田と共に隊を先導し、町の見回りに来ていた。
「左之、しつれー」
若干、むっとした顔を原田に送れば、原田は悪い悪いと笑いながらなまえの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「はい、お終い。」
なまえは抗議の声をあげながら原田の手を掴もうとしたが、すかさず先に、沖田が原田の手を払いのけなまえを庇うのだった。
(ん、今日も視線が冷たい、ばってん。)
隊の空気は、和んでて澄んでいても…先程から浅葱に向けられる町人の冷たい視線に、胸の中で毒づいてしまうなまえは軽く溜め息をついた。
「壬生狼だ…!」
反面、隊服の効果はてきめんらしく、尊攘派の浪士達に恐れられる存在になりつつあるようだが。
「…あれ?井吹君じゃない?」
沖田が目の前の見慣れた姿に気が付き、井吹に話しかけると井吹は、芹沢に頼まれた買い物の途中だと言う。
この後、沖田は屯所でやる事がある為に戻り、なまえと原田と井吹は薩摩藩邸の見回りへ向かったのだった。
「この間、辻斬り事件が起きたばっかりだし…今後、薩摩がどんな行動にでるか解らねえしな」
原田が零すと、沖田はじゃあ先に帰ってるから、となまえの頬にチュッと唇を触れると、ふふーん…♪と満足げに、ササーっと何事もなかったように帰っていった。
「…あ?」
相変わらずの無防備さなうえ、壬生の方へ帰って行く沖田の背中をぼけっと見送るなまえに、原田と井吹はわなわなする事しか出来なく、「おら!なまえ!行くぞ!」と腕を引っ張って連れて向かうことにした。
ーー…。
しかし、辻斬り騒ぎが起こったばっかりの場所は、案外静かなものだった。
御所から戻ってくる途中、原田は「ゴタゴタしてるかと思ったんだけどな」と呟いた。
「んー、気は抜かねーほーがいい。」
なまえが原田に答えれば、お前に言われたくねーよと返しながら、なまえの頬を摘む。
「…んぐ?」
何のこと?と言いたげな顔をしながら目で訴えかけるなまえを横目で苦笑いしつつ、井吹は「…あれ?」と声を漏らすと、道行く人が浪士組のだんだら羽織を見て、怯えたように立ちすくむのが目に入り、皆、青ざめた様子で目をそらし、関わらないようにと早足で通り過ぎていく。
「しかし、京の人間には随分嫌われちまったもんだな」
今までのこと考えればしょうがない気がするけど…と一応付け加え庇えば、原田は気にしてないそぶりを見せるが反面、なまえは、むー…と拗ねた表情をする。
井吹に、「あんたは平気なのか?」と色々な意味を含められ問われれば、原田は頭を掻く仕草をしつつ「不安にならねえなんて言えば嘘になるけど、」なんて呟き空を見上げ続けた。
「やるべき事をきっちりやってりゃ、取り返しのつかねえ事態にはならねえ。」
俺はそう信じてる、と原田が答えれば、「左之らしーな、」と呟き、なまえの口元も緩んだ。
「なるほど…」
井吹がそう納得して、意見の意味をもっと深く考えていたらー…
後ろをついて来ている隊士の中に、挙動不審な奴がいるのに気が付いた。
こいつは確か、佐々木とかいった奴だが…人でも探しているみたいにキョロキョロしていた。
ふと、原田が井吹の視線を辿り、佐々木の方を振り返り、何かを勘付いた様子で、ほくそ笑んだ後ー…
「佐々木!頼みがあるんだが、この間の巡察の時に、浪士に絡まれてた嬢ちゃんを助けた事あっただろ?」
「はいっ…!彼女が…なにか…?」
佐々木の表情が、一気に真剣なものになった。
「あん時、浪士をこっぴどく懲らしめたからな…もしかしたら嬢ちゃんに逆恨みして仕返しに来るかもしれねえ…。
あの嬢ちゃん、近くに住んでんだろ?
あの後、おかしな事がなかったか、話きいてこい。」
「はいっ…!わかりました!」
佐々木は、真剣な表情のまま返事をした後、急ぎ足で走り出したのを見た井吹は、何故その嬢ちゃんの家を知ってるのか等、疑問点は多々あり、なんだあいつ?と不思議そうな顔を原田にやれば、隊務の一環だ、とか言って顔を緩まし、よく見れば、他の隊士も、なまえも、おかしそうに含み笑いを漏らしていた。
ーー…
「いたー!!おにーちゃーんっ!」
必死な呼び掛けの声に一同振り向くと、少し遠くの方から、此方に走ってむかってくる子供が見えた。
…どうやら幼い女の子のようで。
この羽織を見ただけで、町の人は嫌な顔をして避けるのだが、その幼い女の子は寧ろ向日葵が咲いたような笑顔で近づいてくる。
手には、大事そうに握っている、カラカラ…と回る色鮮やかな風車が一輪。
「おいおい、誰かの妹かなんかか?」
隊士達は、自分覚えがない誰の知り合いだと騒ぎ始めると、原田と井吹は困惑し始めた時ー…。
「…千代…?」
なまえが、確かあの子は…と言いたげな、驚いた表情で身を前に出した。
「やっぱり、おにーちゃんいたあー!」
幼い女の子…千代は、なまえの姿を完璧に確認すると、満開の笑みでなまえに抱きつく。
なまえは既に千代と同じ目線になるため、しゃがんでいたので、よしよしと抱き上げて頭を撫でてやった。
「なまえ…その子は…?」
原田と井吹は、急な展開に思考が追いつかず、一体どういう事なのか説明してくれという表情で、なまえに問い掛けた。
「ん、友達。」
今日も可愛いな、はなまるーなんて言いながら千代の頬を撫でてやると、千代は少し不満そうに「お友達じゃなくて、お嫁さんだもーん」と言いながら、なまえにすり寄ってきた。
「千代のお家、この辺?」
なまえは、千代の言葉に「あいよ、そーだったな」と答えてやれば千代は満足げに頬を染め、なまえの問いに答えた。
「うんっ!
あのね、千代のおねーちゃんがね?
おにーちゃんと同じような格好した男の人と、幸せそうに話してたからね、もしかしたら、おにーちゃんのお友達かと思って、この辺にいるかなって思ったのー!」
やっぱり会えたーって幸せそうな笑みでなまえに抱きつけば、彼女の手の中の風車は、カラカラ…と綺麗に鳴った。
なまえと似た格好…刀などを見て武士と言いたかったのか。
「この辺りで、町娘と俺らくらいの年齢の刀差した男が仲良く喋ってたといや…恐らく佐々木だな…。
って事は、その佐々木の嬢ちゃんの妹…ってことか?」
原田が、思考をフル回転させて答えれば、なまえは多分、と言いながら頷き「でも…もし不逞浪士だったら危ねーから、もう1人で出てきちゃ駄目だ」と千代に言うと千代は、少し悲しい表情をしながら、ごめんなさいと素直に謝る。
「風車、大切にしてくれてんだなー」
なまえが千代に御礼を言うと、千代は悲しい表情から、柔らかい表情へ変え、約束だもんっと幸せそうに大事そうに風車を握った。
(そうか…この子の風車って…)
井吹は、この子が手にもっている風車は見覚えがあり、今思い出した。
自分が墨を買いになまえと町へ出かけ、小鈴と町で出会った日の事を思いだし、あの時のなまえの風車だということ。
そして途中で無くなっていた風車の行方は、この千代にたどり着いたのかと理解したのだった。
ーー…
暫く千代と遊んでいれば、例の嬢ちゃんの所へ行っていた佐々木が戻ってくる。
「お待たせしました…!
あっ、千代ちゃん!お姉さんが心配してたよ!
早く、帰ってあげて!」
佐々木が、何故此処に千代がいるとかと思ったが、そのまま千代の腕をとり、家の方向へ導く。
「また…ばいばいだね…
おにーちゃー…また会える…?」
佐々木の手から離れなまえの手に縋りながら、瞳にたくさんの涙をためて、なまえと離れたくないと泣く千代に、なまえは柔らかい表情をして、千代の頬に触れ零れ落ちた涙を拭えば「ああ」と優しく言い、続けた。
「千代、どーしても俺に会いたくなったら、でけー声でなまえって呼びな。
すっ飛んでくっからよ、」
俺の名前、と自己紹介をし頭をぽんぽんっと撫でてやれば、千代は、幸せそうな顔で笑った。
「なまえおにーちゃーんっ!
だあーいすきっ!またねー!」
大切に風車を握り締め、千代は小さな身体で大きく腕を振る。
「おら、前見てねーと転ぶぞ」
なまえが、千代に気をつけろと声を掛けた直後ー…
ズクンー…!
急に目が疼き違和感を覚え、千代に対して、嫌な予感が芽生えるが…それが何なのか分からない。
(…っ…!?)
千代!と声を荒げて呼んでみても、愛しい男の声のお陰で頬を染めたまま、ばいばいと手を振りながら、姉のもとへ戻っていくのを見送ってしまう。
(…この胸騒ぎ…
千代、大丈夫だよな…?)
千代という向日葵は、そろそろ夏になる夕方の空に、愛しい男を想いながら消えていくのであったーー…。
小さな向日葵の儚恋唄
(なまえおにーちゃん、だいすき…)
ーーーー
千代ちゃんは、佐々木の恋人あぐりの妹設定(オリキャラ)です。
なまえ君…嫌な予感って、なんですか?