あなたと暮らす朝が来るまで
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【第三話】霜を踏む二人
その次の日も、私は朝の畦道を歩いた。
今日も薪を取りに行くために、いつもより少し早起きをした。
早起きは苦手だけど、朝の空気を吸うと少し気持ちが落ち着く気がした。
霜の降りた朝、畦道の先に黒い隊服が見えた。
一瞬足が止まる。
「あっ、昨日の……」
義勇さんがこちらに気づき、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。
「……重いだろ」
そう言うと、私の腕から薪をひょいと取り上げた。
驚き、慌てて「ありがとうございます」と頭を下げる。
義勇さんは視線をわずかに外し、短く頷いた。
肩の力がふっと抜ける。
誰かに荷物を持ってもらうなんて久しぶりで、少し戸惑う。
「……薪、毎日取りに行ってるのか?」
義勇さんがふと視線をこちらに向けて尋ねる。
「はい。一人だとたくさん持てなくて……冬は、毎朝これが日課なんです」
淡々と話していたのに、最後にふっと笑顔がこぼれる。
「でも今日は……義勇さんがいるから、助かりました」
義勇さんはその笑顔を横目で見て、視線が一瞬だけ止まった。
息をひそめるように間を置き、それから静かに前を向いた。
霜を踏む足音だけが、しばらく静かな朝に響く。
しばらく並んで歩いてから、義勇さんがぽつりと呟く。
「……冷えるな」
吐く息が白く混じる朝、私は小さく頷いて答えた。
「はい、今日は指先がかじかんで……薪を持ってたら余計に冷たくて」
手を口元にあてて、ふーっと息を吹きかける。
指先をこすり合わせて温めたりしてみた。
横から視線を感じて顔を上げると、義勇さんがちらりとこちらを見ていた。
目が合った一瞬、ふっと口元が緩んで、小さく笑ったように見えた。
その表情があまりに不意打ちで、胸がどきりと鳴る。
少し間を置いて、義勇さんが静かに言った。
「……お前は、よく笑うな」
「えっ……」
急に言われて言葉が詰まる。
頬が一気に熱くなり、鼓動が早まっていく。
「そ、そうですか……?」
義勇さんは何も言わず、前を向いて歩き出した。
その横顔を見ているだけで、胸の奥が落ち着かなくなる。
――こんな気持ち、今まで感じたことがない。
義勇さんといると、胸が静かに、高鳴っていく。
しばらく二人並んで歩いた。
胸の奥にさっきの言葉が小さく響いたまま、静かな時間が流れていく。
家に着くころには、頬の熱も少しだけ落ち着いていた。
それから同じ畦道で会うことが増え、会えば自然と並んで歩くようになった。
顔を合わせるたび、少しずつ言葉を交わすようになり、会話も増えていった。
年上の男性と二人きりで話すなんて、最初はそわそわしていたけれど、今では自然に話せるようになった。
義勇さんも前より話してくれることが増えて、少しずつ心を開いてくれている気がした。
小さなやりとりが嬉しくて、胸の奥がじんわりと甘くなる。
気づけば、義勇さんの表情や声色を探してしまう自分がいた。
会えば会うほど、もっと知りたい、もっと話したいと思ってしまう。
義勇さんは相変わらず不器用だけれど、
「……風邪ひいてないか」「……薪は足りてるか」
と、さりげなく気遣ってくれるようになった。
そのひとつひとつが心に残って、あとから思い出すだけで顔が熱くなる。
歩幅も合わせてくれるようになり、
霜を踏む二人の足音が、いつの間にか私の一番好きな音になっていた。
白い吐息が二つ並んで空に溶けていくのを見ると、
一人で過ごしていた朝とはまるで違う時間が流れている気がした。
視線が合うと、義勇さんはほんの一瞬だけ口元を緩めたように見える。
そのたびに、胸の奥が静かにあたたまる。
――もっと、この人と並んで歩きたい。
会えば会うほど、少しずつ距離が近づいていくのを感じて、
次に会える朝が待ち遠しくなっていった。
気がつけば、義勇さんは私にとって、特別な存在になっていた。
朝の冷たい空気の中で、義勇さんと並んで歩く時間だけが、私の心をそっとあたためていた。
