あなたと暮らす朝が来るまで
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【第二話】冬陽の広場
その日の昼、村の広場は人影もまばらだった。
薪を抱えた私は足早に家へ向かっていたが、ふと足を止める。
広場の真ん中で、炭治郎が誰かと話しているのが見えた。
炭治郎がこちらに気づき、「おーい」と手を振りながら駆けてくる。
思わず抱えていた薪を持ち直し、私も炭治郎の方へ駆けていった。
「こんにちは、炭治郎さん!」
声をかけると、炭治郎はぱっと笑顔を見せる。
「こんにちは!元気そうでよかった。」
炭治郎はいつもにこにこと話してくれる。
その笑顔に少し緊張がほどけて、自然と笑みがこぼれた。
「炭治郎さんこそ、今日も任務帰りですか?」
炭治郎は真剣な表情で頷いた。
「最近この辺り、鬼が出やすいんです。だから時々見回りに来てて」
「……そうなんですね」
思わず薪を抱えたまま立ち止まり、あたりを見回す。
昼間は静かで穏やかな広場なのに、夜になると鬼が来るのかと思うと少し背筋が冷えた。
炭治郎はそれに気づいたのか、声の調子をやわらげて言った。
「でも大丈夫!もう何度か退治しましたし、今は落ち着いてますよ」
その言葉にほっとして、自然と肩の力が抜ける。
「……よかった。炭治郎さんが来てくれるなら安心ですね」
炭治郎は小さく微笑み、力強く頷いた。
「今日はもうひとり、一緒に来てるんですよ」
そう言うと、炭治郎は広場の端に視線を向けて、手を振った。
「義勇さーん!」
振り返った先、少し離れた場所にあの青年が立っていた。
朝見かけたときと同じ、黒い隊服に日輪刀。
胸の奥がきゅっと縮こまり、思わず薪を抱える腕に力が入る。
広場の空気が急に張りつめ、鼓動の音が自分にだけ大きく響いているように感じた。
青年はしばらくこちらを見つめ、やがてゆっくりと歩き出す。
近づいてくるにつれて、柔らかな陽の光がその顔を鮮やかに照らし出す。
切れ長の青い瞳が真っすぐにこちらを射抜いた瞬間、胸が強く跳ねた。
そのまま無言のまま歩み寄り、やがて私たちのもとへ近づいてきた。
「この人は義勇さん。鬼殺隊の水柱なんです」
その言葉に、私は思わず姿勢を正す。
義勇さんの視線がこちらに向けられ、切れ長の青い瞳が静かに見据えた。
「……君は、朝の」
低い声が落ちる。
胸がひゅっと縮こまり、思わず息を呑んだ。
「あ……はい……」
声が少し震えたのを、自分でも感じる。
炭治郎が明るい声で続けた。
「義勇さん、彼女はこの村の人なんですよ。僕、ここに来るといつもお世話になってるんです」
義勇さんは短く視線を落とし、ほんの一拍おいてから言った。
「……そうか」
淡々とした声なのに、どこか深い響きを残す。
「彼女、この村の外れでひとりで暮らしてるんです。
だから義勇さん、見かけたら声をかけてあげてくださいね」
炭治郎はにこっと笑い、柔らかい声で付け加えた。
「一人でいると大変なこともありますし……義勇さんなら、きっと心強いと思います」
義勇さんは一度だけ小さく頷き、視線を外して広場の奥へ目をやった。
言葉はそれ以上続かず、冷たい風がすり抜けていく。
炭治郎は少し声を落として言告げた。
「じゃあ、またあとで来ますね」
軽く会釈をして、足音も静かに広場を離れていった。
残されたのは私と義勇さんだけ。
広場の空気が一気にしんと静まり返る。遠くで風に揺れる木々の音と、自分の鼓動だけが耳に残った。
少し気まずさが漂う――けれど、先にその沈黙を壊したのは意外にも義勇さんだった。
「……ひとりで暮らしているのか」
驚いて、思わず頷いた。
「はい……でも、もう慣れました」
義勇さんは少し目を伏せ、それから顔を上げる。
「……危ないときは、村の者に頼れ」
言い切ったあと、ふと視線を合わせる。
義勇さんの瞳は、どこか柔らかく揺れていて、心の奥に触れるようだった。
胸がぎゅっとなる。
「……俺も、気にしてる」
そのまま視線を少しだけ残し、やがてゆっくりと背を向けて歩き出した。
去り際にふと残るその横顔は、どこか名残惜しそうにも見えた。
冷たい風に羽織の裾が揺れる。
その背中が畦道の向こうへ遠ざかるまで、私はしばらく立ち尽くして見送った。
あの青い瞳と声が、耳と心に残って離れない。
朝すれ違ったときはただ怖そうな人だと思ったけれど、
本当は優しい人なのかもしれない――そう思った瞬間、胸の奥が少しざわめいた。
「……また会えたらいいな」
小さくつぶやいた声が、冷たい空気に溶けていった。
