あなたと暮らす朝が来るまで
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【第十話】静かな湖畔で
しばらく無言で歩いていると、木々の間から朝日が差し込んみ、小さな湖が見えてきた。
湖面は鏡のように澄み、朝の光を静かに映している。
水面に揺れる木々の影が、風とともにゆらゆらと揺れていた。
「……きれいですね」
そっとつぶやくと、義勇さんも同じ方を見て立ち止まった。
二人並んでしばらく湖を眺める。
静かな朝の空気に、鳥の声と水の音だけが響いていた。
「もう少し……近くで見てもいいですか?」
小さな声で尋ねると、義勇さんは無言で頷いた。
湖の縁までそっと歩いていく。
小さな段差の前で、義勇さんがふと足を止めた。
片手をそっと私の前に出して、静かに立ち止まるよう促す。
一歩前に出た義勇さんが、足元を確かめるように視線を落とす。
濡れた石段が朝日に濡れて光り、少し滑りそうに見えた。
振り返った義勇さんが、ゆっくりと片手を差し出す。
「……危ないから」
お互い目が合い静かな空気が二人を包み、胸がきゅっと締めつけられる。
義勇さんの手にそっと手を重ねる。
そのまま義勇さんに支えてもらいながら、導かれるように段差を降りた。
足が地に着いたあと、思わず横目で義勇さんをちらりと見た。
すると、義勇さんも同じようにこちらを見ていた。
義勇さんが、握っていた手にそっと力を込めた。
ぎゅっと握り直され、義勇さんは何事もなかったように視線を前へ戻し、手を繋いだまま歩き出す。
――義勇さんが手を繋いでくれた。
そう思うだけで、心が切なく締め付けられる。
言葉にできない嬉しさが込み上げて、俯いたまま、指先に伝わるぬくもりを確かめるように、そっと握り返した。
初めて繋いだ手がこんなに温かいなんて知らなくて、胸がずっと落ち着かないままだった。
義勇さんと手を繋いだまま、湖の縁までゆっくりとを歩いていく。
近づくほどに、水面に映る空が大きく広がり、二人の影も並んで揺れていた。
湖の前で立ち止まり、手を繋いだまましばらく黙って湖を眺める。
静かな水面に、木々の影がゆっくりと揺れている。
その沈黙が不思議と心地よく、義勇さんの体温と手の温かさが、身体の奥までじんわり広がっていった。
――このまま時間が止まればいいのに、そう思った。
「……冷えてないか」
義勇さんが静かに尋ねる。
「……だいじょうぶです。義勇さんの手、あったかいから……」
義勇さんがわずかに目を伏せ、そっと手を握り直した。
指先から広がる温もりが、体温をさらに熱くする。
「……水が澄んでる。すごく綺麗ですね」
思わずこぼれる声に、義勇さんも穏やかに視線を湖面に落とし、短く頷いた。
少し間を置いて、義勇さんが口を開く。
「……また、ここに来るか」
湖面を渡る風が、そっと二人の間を抜けていく。
静けさがしばらく続き、言葉にしていいのか迷ってしまう。
「……一緒に、ですか?」
義勇さんはゆっくりと頷いた。
「……ああ」
二人はそのまま並んで湖を眺め続けた。
握った手がじんわり温かくて、胸の奥で静かに心臓が脈打つ音が響いていた。
「……義勇さんといると、なんか安心するんです。……すごく好きです。…こういう時間。」
静かに溢れたその言葉に、義勇さんがほんのわずかに目を伏せ、そっと私の手を握り直す。
指がゆっくりと私の指の間に滑り込み、恋人繋ぎへと変えた。
不意に深く絡め取られた感覚に、胸がぎゅっと締め付けられる。
顔が熱くなり、鼓動がどんどん速くなる。思わず義勇さんを見上げた。
「……ぎ、義勇さん……?」
義勇さんもゆっくりとこちらを振り返る。
その頬もわずかに赤くなってるように見えた。
「……俺も、この時間が好きだ」
思いがけない言葉に、胸がいっぱいで、何も言えずに見つめることしかできなかった。
世界の音がふっと遠のく。
二人はそのまま目を合わせ、息をするのも忘れるくらい長い時間見つめ合った。
しばらくして義勇さんが視線を前に戻し、静かに言った。
「……戻ろう」
頷いて二人でそっと歩き出し、湖をあとにした。
繋いだ手は自然とそのままで、どちらからも離そうとしなかった。
離れたくない。ずっとこうしていたい。
義勇さんも同じ気持ちなのだろうか。
繋いだ手の温もりだけが、心を落ち着かせてくれた。
――気づけばもう、義勇さんがどうしようもなく大切な人になっていた。
繋いだ手のぬくもりが、いつまでも離れずに残っている気がした。
