あなたと暮らす朝が来るまで
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【第九話】雨上がりの再開
何日も続いた雨がようやく上がった朝。
澄んだ空気が肌にひんやりと触れ、どこか新しい一日が始まる予感がした。
畦道を進んだ先、朝日に照らされる羽織の背中が見えた。
濡れた地面がまだきらきら光っている中、義勇さんが背中が見えた。
――会いたかった。
胸の奥に溜まっていた寂しさが、やわらいでいく。
あの雨の日、何度も思い出してしまった横顔が、今こうして目の前にある。
声をかける前に、義勇さんがゆっくりと振り返った。
視線が合った瞬間、張りつめていた空気が柔らかくなった気がする。
義勇さんの口元がほんのわずかに緩み、まっすぐにこちらへ歩いてくる。
歩幅が少しずつ近づくたび、胸の鼓動が速くなり、頬まで熱が上っていく。
近くまで来ると義勇さんが立ち止まり、静かな朝の中で視線が重なる。
言葉がなくても、なぜか心が満たされていくのを感じた。
吐く息が白く重なり、二人の間にやわらかな温もりが生まれる。
「……義勇さん」
小さく名前を呼ぶと、義勇さんの瞳がわずかに細められる。
「雨のあいだ、外に出られなくて……」
そのまま視線を外さず、胸の奥に溜め込んでいた想いをそっとこぼした。
「……会えたらいいなって、毎日思ってました」
伝えると頬が熱くなる。
恥ずかしくて視線を落とすと義勇さんはゆっくりと顔を傾け、覗き込むように目を合わせてきた。
朝の光に照らされた義勇さんの顔が柔らかく見えた。
逃げ場がないくらいまっすぐ見つめられて、
それでも目を逸らしたくなくて、そっと視線を重ねた。
鼓動が速くなり、時間がゆっくり流れていくように感じた。
義勇さんはわずかに目を細め、ゆっくりと息を吐いた。
「……会えたな」
胸がふっとあたたかくなる。
思わず顔がゆるんでしまう。
「はい……嬉しいです」
義勇さんも、ほんの少しだけ口元を緩めて頷いた。
ふたりのあいだに、ゆっくりとした時間が流れた。
冷たい空気さえやさしく感じる。
義勇さんが歩き出す。
私はその背中を追うように、小走りで横に並んだ。
肩が少し触れそうな距離にいるだけで、ますます鼓動が速くなり、頬まで熱くなるのを感じた。
義勇さんと同じ時間を過ごしたい。
少しでも長く一緒にいたい。
「離れたくない」、と言葉にできたらどれだけいいだろう、と思いながら、唇は固く閉じたままだった。
それでも、心が静かに叫んでいる。
――もっと一緒に過ごしたい。
その想いが背中を押し、勇気を振り絞らせた。
「あの……」
言葉が詰まり、声が小さくなる。
義勇さんが静かにこちらを見ている。
その沈黙が心を急かして、思わずもう一歩近づいた。
勇気を振り絞り、義勇さんの裾をそっと握る。
義勇さんは掴まれた裾に視線を落とし、どきっとしたように一瞬だけ息を止める。
「……もしよかったら」
ゆっくりと顔を見上げると、彼のまっすぐな視線と重なり、息が詰まりそうになる。
深呼吸して、言葉を続けた。
「このあと…どこかへお散歩しませんか?」
義勇さんは一瞬だけ目を瞬かせ、
それから、ほんのわずかに口元を緩めて頷いた。
「……そうだな。」
義勇さんはそれ以上は何も言わず、ゆっくりと歩き出した。
私が歩きやすいように歩幅を合わせてくれている。
隣にいる義勇さんの横顔は相変わらず静かで、
でもどこか柔らかく見える。
胸の奥で高鳴る鼓動を感じながら、私はそっと深呼吸をした。
義勇さんと、二人だけでどこかへ行くのは初めて。
ただ歩いているだけなのに、特別な時間に思えた。
――この先に、何が待っているんだろう。
そんな期待が、心の奥で静かに広がっていった。
