あなたと暮らす朝が来るまで
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【第八話】雨の中へ
朝から強い雨が降り続いていた。
義勇は家の縁側に座り、しばらく雨音を聞いていた。
羽織も干したまま乾かず、家の中まで湿った冷気が染み込んでくる。
――あの子は、大丈夫だろうか。
気づけば、最近はあの子のことばかり考えている。
ふと立ち上がるが、足はすぐには動かなかった。
こんな天気では来るはずがないと分かっているのに、じっとしていられない。
玄関の戸に手をかけて、しばらく迷った末、ゆっくりと開けた。
外は一面の白い雨で、畦道さえかすんで見えない。
「……こんな天気に、外には出ないな」
そう思ったが、胸の奥が妙に落ち着かなくなった。
もし、あの道に1人で立っていたらーー
濡れて風邪をひかないだろうかーー
その考えが頭をよぎった瞬間、気づけば足が外へ向かっていた。
雨に濡れながら、いつもの畦道を歩く。
地面を打つ雨が大きな音を立て、足元の水たまりが波紋を広げる。
跳ねた泥が裾を濡らしていく。
いつもなら、あの先に小さな影が見える。
けれど今日は、どこまで歩いても誰もいなかった。
「……さすがに、今日は来ないか」
立ち止まり、雨に煙る道をじっと見つめる。
濡れた前髪から雫が落ち、頬を伝う。
会えるわけがないと分かっていても、どこかで期待していた自分に気づき、胸がわずかに締め付けられた。
やがて村の入り口まで戻ると、炭治郎が荷物を抱えて歩いてくるのが見えた。
「義勇さん、こんな雨の中どうしたんですか?」
義勇は少し間を置き、短く答える。
「………ひとりと聞いたから」
炭治郎は一瞬驚いたあと、どこか納得したようにふっと表情を和らげた。
そして、まっすぐこちらを見つめた。
「みささんのことですね。……心配なんですね」
義勇は黙ったまま視線を外した。
炭治郎は少し声を落とし、真剣な目で義勇を見つめる。
「でも……大丈夫ですよ。あの子、強いですから。」
義勇の胸に、言葉が静かに響いた。
「珍しいですね、義勇さんがここまで一人の子を気にかけるなんて」
確かに――やけに顔が浮かぶし、心配もする。気になる存在だ。
今まで、こんな感情を抱いたことはなかった。
炭治郎は優しく微笑んで真剣な声で言った。
「義勇さん、応援してますよ」
義勇は一瞬、はっとしたように目を瞬かせる。
けれど何も言わず、雨に濡れた地面をじっと見つめた。
炭治郎はそれ以上何も言わず、軽く手を振って去っていった。
炭治郎が去ったあと、しばらくその場に立ち尽くした。
胸の奥に残る言葉が、雨音に溶けずに響いている。
――こんなに気になるなんて、初めてだ。
……きっと、俺はあの子が好きなんだ。
立ち止まって空を仰ぐと、白い雨に視界が滲んだ。
冷たい雨が頬を打ち、静かに流れ落ちる。
――明日は、晴れるだろうか。
雨音にかき消されるように、その思いは静かに沈んでいった。
