あなたと暮らす朝が来るまで
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【第六話】見透かされて
あの朝から、少し早起きするようになった。
朝の畦道を歩くと、あのときのことを思い出して胸がそっとざわめく。
また会えるかもしれない――そう思うと、自然と足取りが軽くなる。
けれど、今日は義勇さんの姿はなかった。
いつもより静かな畦道が、やけに広く感じてしまう。
胸に小さな物足りなさを残したまま、水汲みのためにゆっくりと広場へ向かった。
昼前の日差しがあたりを明るく照らし、地面の霜がすっかり溶けて小さな水たまりが光っている。
子どもたちの笑い声が遠くから聞こえ、広場にはのどかな空気が流れていた。
水桶を下ろしてひと息ついたとき、広場の向こうから聞き慣れた声が響いた。
「みささーん!」
顔を上げると、炭治郎が手を大きく振りながら駆けてくる。
思わず笑みがこぼれ、胸の奥が少しだけ軽くなった気がした。
「こんにちは、炭治郎さん」
声をかけると、炭治郎はぱっと顔を明るくした。
その元気な様子に、広場の空気まであたたかくなるようだった。
「炭治郎さんは本当に元気ですね」
思わず笑いながら言うと、炭治郎は照れくさそうに頭をかいた。
お互いに挨拶を交わして、桶を持ち直したとき、炭治郎がにこっと笑って言った。
「そういえば、みささん、義勇さんとよく会ってますね」
「えっ……!」
思わず声が裏返り、胸がどきりとする。
「し、知ってるんですか?」
「分かりますよ。義勇さん、最近様子が違いますもん。隊員の間でも“何かあったのかな”って噂になってます」
そして炭治郎は少し間を置き、こちらの様子をうかがうように優しく口を開いた。
「…義勇さん、今日も任務が長引いてるみたいです。きっと明日には帰ってきますよ」
そう言ってから、炭治郎は柔らかく微笑んだ。
「だから、心配しなくて大丈夫です」
「……そうなんですね」
不安と寂しさが少しやわらぎ、次に会える日が待ち遠しくなった。
俯いた私を気づかうように、炭治郎が優しい声で続ける。
「義勇さん、前より表情が柔らかいんですよ。きっと、みささんのおかげですね」
「そうなんですか? 最初はすごく寡黙なイメージでしたが……」
思わず口にすると、炭治郎はにこっと笑って頷いた。
「ああ見えて、すごく優しいんです。こないだも、みささんのこと気に掛けてましたよ」
「えっ……」
思わず息をのむと、炭治郎は楽しそうに続ける。
「義勇さんのあの時の顔、僕、初めて見ましたよ。なんだか安心したような、嬉しそうな顔で。」
耳まで熱くなるのが分かる。
胸の奥がじわりと熱くなり、言葉が詰まった。
炭治郎はにこにこと私の顔を覗き込み、声を少し落として言った。
「……みささん、もしかして好きなんですか?」
「そ、それは……」
慌てて視線を逸らすと、炭治郎は穏やかな声でそっと続けた。
「大丈夫、その恋、きっとうまくいきますよ!」
桶をぎゅっと握り直す。
義勇さんの姿を思い出して、ますます頬が熱くなる。
炭治郎はにこっと笑い、軽く手を振った。
「じゃあ、また!」
その背中が広場の向こうに消えていくまで、私は立ち尽くしていた。
冷たい風が吹いているのに顔が熱い。
胸の鼓動が早くて、落ち着かない。
炭治郎の言葉が、耳に残ったまま離れない。
――もしかして、好きなんですか?
――その恋、きっとうまくいきますよ。
義勇さんの顔がふっと浮かんで、会いたくて胸が落ち着かなくなる。
じっとしていられなくて、思わずぎゅっと胸のあたりを押さえた。
初めて感じる想い、どうしていいかわからない。
「……義勇さん…」
名前を呼んだだけなのに、胸が甘く満たされる。
ーー私、本気で義勇さんのことが好きなんだ。
次に会ったら、もう少しだけ自分から話してみたい。
胸の高鳴りが止まらなくて、じっとしていられない。
思わず空を見上げると、雲ひとつない青さが広がっていた。
次に会える朝が、もう待ち遠しくてたまらなかった。
