あなたと暮らす朝が来るまで
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【第四話】同じ道を歩く朝
朝の畦道を歩いていると、背後から足音が近づいてきた。
振り返る前に、隣に静かに義勇さんが並んで歩き出す。
それだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。
もう驚かないけれど、どこかくすぐったい。
義勇さんがふと隣を見て、ぽつりと言った。
「……今日は、一段と寒いな」
「はい、今朝は特に……つい急ぎ足になってしまいました」
義勇さんは小さく頷き、少し間を置いてから続ける。
「……それで転びかけていたんだな」
胸の奥がかすかに熱くなる。
気づかれていたことが恥ずかしくて、視線を落とした。
「……見ていたなら、声をかけてください。」
義勇さんは黙ったまま視線を落とし、短い沈黙が流れる。
霜を踏む音だけが二人の間に響いた。
「……声をかける間が、つかめなかった」
緊張がほどけ、思わず小さく息がもれる。
口元にかすかな笑みが浮かんだ。
「……義勇さんらしいですね」
義勇さんは答えず、わずかに視線をそらした。
それでも、その横顔の口元が、ほんの少しだけ柔らいで見えた。
そのやりとりが可笑しくて、思わずくすくす笑ってしまった。
こんな何気ない会話なのに、心がふっと軽くなる。
二人で歩いていると、いつの間にか時間がゆっくり流れるようで心地いい。
そのまま二人でゆっくり歩く。
足音が揃って響き、冷たい空気も不思議とやわらかく感じた。
義勇さんと並んで歩くだけで、心がゆっくりとほどけていくみたい。
どうしようもなくうれしくて、思わず小さく息がこぼれた。
「義勇さん、最近楽しいんです。普段は一人で過ごすことが多いから……」
話しながら、胸の奥がじんわりあたたかくなるのを感じた。
「私……毎朝ここを通って、義勇さんに会えるかもって思うと嬉しくて……」
言葉にした瞬間、まるで告白みたいだと気づき、思わず視線を落とした。鼓動が一気に早くなる。
義勇さんはほんの短い沈黙のあと、静かにこちらを見た。
ちらりと顔を上げると、口元がほんのわずかに緩んだのが見えた。
胸の鼓動が収まらず、義勇さんの静かな視線を感じながらそっと言葉を繋げた。
「……義勇さんは、この道……よく通るんですか?」
義勇さんは僅かに首を傾け、それから静かに首を振った。
「……いや、歩くようになったのは最近だ」
言葉を選ぶように少し間を置いてから続ける。
「………お前と、同じ道を歩けるから」
思わず顔を上げると、義勇さんがふっと柔らかな表情を見せる。
朝日を受けた横顔が、少しだけ温かく見えた。
――義勇さんも、私に会うためにここに来てくれていたんだ。
たまたますれ違っていたわけじゃなかった。
胸がぎゅっと高鳴り、呼吸が浅くなる。
何かを言わないと、胸がいっぱいで苦しくなりそうで、唇をそっと開いた。
「義勇さん……わたし、嬉しいです……」
嬉しさが込み上げてきて、視界が少し滲んだ気がした。
義勇さんは一瞬だけこちらを見て、それから小さく頷いた。
目元がほんの少しやわらぎ、低い声で静かに告げる。
「……そうか。なら、安心した。」
その言葉が胸の奥にゆっくり落ちていく。
鼓動がさらに速くなり、視線を外そうとしても外せなかった。
風が冷たいはずなのに、顔が熱い――義勇さんのせいだ。
義勇さんは静かに歩き出す。
私は慌てて一歩を踏み出し、その横に並んだ。
しばらくのあいだ、二人で言葉を交わさず歩いた。
ときどき横目で義勇さんを見てしまう。
そのたびに胸がきゅっと鳴り、前を向き直った。
畦道の先に朝日が差し込んで、地面がきらきら光る。
こんな静かな朝が、いつの間にか一番好きになっていた。
――わたし、義勇さんのこと、好きになってしまいそう。
