始まった日常
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「ところで、如月は玉狛に置いてきたのか?」
玉狛から戻ってきた菊地原は風間から少しの小言を受けたが、それ以降の作戦会議は順調に進み、今後の訓練の方針や任務での動きについての話が纏まった。作戦室にて一通り試してみたいことも試し、そうしてひと段落着いた所で風間が菊地原に向かってそう訪ねる。
「別に大した距離じゃないですし。あそこなら誰かしらこっちまで送ってくるなりしますよ。」
飲み物を飲みながら返す菊地原に少し考える素振りを見せる風間。
「お前たち、この後はどうする?」
「俺はランク戦してこようかと。」
「訓練終わりならぼくは帰ります。」
「私は他のオペレーターの子たちと約束があるのでそれまでもう少しここにいようかと思います。」
「そうか。では今日はこれで解散とする。」
そう告げた風間はいち早く作戦室を後にした。普段は三上のように残る者は別としても、大抵最後の方に作戦室を出ていく風間が急ぐように扉を出ていく姿を見て違和感を覚えた3人。ただ、その理由に全員が何となく心当たりがあり、けれども確信はなく、結局風間の様子については触れないまま3人はそれぞれ宣言通りの行動を取るのだった。
【聞きたいことがある】>
<【どうした?】
【今玉狛にいるか?】>
<【ああ。それがどうした。】
【如月はまだいるか。】>
<【ああ。そろそろ本部に送っていこうとしていたところだ。】
【今から俺が迎えに行く。流石に道に迷いはしないだろうが、念の為だ。】>
作戦室を出た風間は廊下を歩きながらスマホでメッセージのやり取りをしていた。相手は同い歳でもある木崎。詩音の所在を確認した風間は、その足を玉狛支部へと向けながらスマホをポケットへとしまう。ちなみに玉狛の面々は詩音の経歴や詩音に対する風間隊やその他の隊への本部の決定について知っている。迅には未来予知のサイドエフェクトがあるからそのうちに分かるだろうということと、宇佐美と烏丸が玉狛に行ったことで木崎と小南にも知らせておいた方が都合がいいだろうという林藤の判断だった。
「お疲れ。」
「ああ。」
風間が玉狛にたどり着いた時には夕日は沈みかけていて、真っ暗とはいかないがそれなりに辺りは暗くなり始めていた。こんな中を菊地原は適当に帰そうとしていたのかと、今日彼に対して何度目になるか分からないため息をつきながら風間が玉狛のインターホンを鳴らすと出てきたのは連絡をしておいた木崎で。
「上がるか?」
「いや、いい。お前確か今日は今から防衛任務だろう?」
「もう少し時間あるけどな。まあいい、如月呼んでくる。」
「すまない。」
短いやり取りの後、奥へと姿を消した木崎。しばらくして小走りで玄関にやってきたのは確かに詩音で。その目は見開かれていて風間の来訪を知らなかったのか、知っていて信じられないのか。その後ろから、宇佐美と木崎がやってくる。
『か、風間さん、』
「お疲れ様ー、風間さん。」
「宇佐美か。今日は急に菊地原が押しかけたらしいな。悪かった。」
「全然!むしろ詩音ちゃんとゆっくり過ごせて良かったよー。」
その場に立ちすくむ詩音をよそに会話を繰り広げる2人に木崎がひっそりとため息をつきながら「またいつでも来い」と詩音に声をかけ、名残惜しそうな宇佐美を制す。そうしてようやく詩音が風間の横へと並び宇佐美と木崎にお礼とともにぺこりとお辞儀をして。風間も軽く礼を述べ詩音を促しながら先に歩き出すと、それに慌てて詩音はついて行った。
「あー、楽しかったー!」
「よかったな。...それにしても、」
「んー?どうしたの?」
「いや、珍しいなと思っただけだ。」
「風間さん?」
「ああ。菊地原が連れてきたと聞いた時も驚いたけどな。」
「私も詩音ちゃんともっと仲良くできるようにたまには本部に顔だそうっと。」
木崎と宇佐美はそんな会話をしながら部屋へと戻っていく。当然その会話を聞くものはおらず、詩音や風間ももちろん知る由もない。
『あの、か、ざま、さん。』
夜に向かい薄暗くなりつつある道を本部へと歩く詩音と風間。しかし普段通りのペースで歩く風間に少しずつ追いつけなくなった詩音が少し息を切らしながら呼びかける。その声にようやく自分の歩く速度が彼女より早いということに気づいた風間が立ち止まる。
「すまない。早すぎたか。」
『い、いえ。私が遅いから...すみません。』
息の上がった詩音の呼吸が整うのを待ってまた歩き出す。ただ、その速度はいくらかゆっくりになり、詩音も無理なく歩けるペースになっていた。そうした変化は、それまで無言で歩いていた二人の間に会話を生んで。
『あの、風間さん。』
「なんだ。」
『どうして、迎えに来てくれたんですか?』
「この辺りはまだ慣れていないだろう。」
『それは、そうですけど...。』
「俺では不服だったか?」
『そ、そんなことないです!むしろ嬉しいというか、申し訳ないというか...。』
詩音は純粋に疑問をぶつけただけだった。ただ本当に、風間が自分を、自分なんかを迎えに来た理由がわからなくて。それを問い尋ねただけのつもりだった。しかし、彼女の言葉に風間が返したのは深い溜息で。
『あ、あの、私...。なんか、すみません。』
「怯えるな。そして、何度も謝るな。」
風間の言葉に押し黙ってしまう詩音。しばらく沈黙が流れ2人が歩く足音だけが響く。
「お前が最近まで生きてきた環境を考えれば、何かと戸惑うことも、考え方が周りと合わないことも理解できる。だが、これだけは覚えておけ。お前はもっと自由に生きていい。自分を卑下しすぎるな。」
『ひ、げ...?』
「自分を下に見すぎるなと言っているんだ。今のように分からなければ聞けばいい。それを拒否する権利は相手にもあるが、だからといって問い尋ねたお前を傷つけたり見下したりする権利は誰にもない。」
風間の言葉を理解するのに時間がかかってしまった詩音は、その言葉を噛み砕いてもなお、なぜそんなことを風間が言うのか分からず首を傾げる。
「俺の言うことはそんなに難しいか?」
『い、いえ!違くて、』
歌川や三上なら、もっとうまく言ってやれるんだろうか。黙り込んでしまった詩音に口には出さないが、風間の頭にはそんな考えが浮かんだ。しかしそれを詩音はすぐに否定するから、ならばなぜと風間は顔を顰める。そんな風間の顔色を伺いながらも、詩音が恐る恐るなぜ自分にそんなことを言うのかと思ったことをそのまま尋ねれば、
「なぜ、だろうな。」
『え?』
ぽつり。本当に言葉がこぼれ落ちたというような風間に思わず詩音が尋ね返す。徐々に二人の足の動きは遅なっていき、すっかり暗くなった辺りを照らす街頭の下で完全に止まった。
「恐らく、だが。責任を感じているんだろう。」
『責任、ですか?』
「ああ。俺がお前を見つけ、連れて帰った。もちろん連れ帰る最終決定をしたのは俺ではないが、それでも、その事実は変わらない。だからお前には、あのままあちら側で生きるよりも、まともに…とでも言えばいいか、とにかく真っ当に生きさせてやらなければと思う。」
すまない、俺自身上手く言葉にできそうにないと謝る風間に詩音が慌てて首を振る。しかし何か言わなければとは思うものの、何を言えばいいのかわからず三度(みたび)二人の間には沈黙が流れる。結局微妙な雰囲気になり、それを振り払うようにどちらともなく再び歩を進めて本部へと辿り着いた。風間は彼女を宿泊棟まで送り届けると言ったが、詩音はロビーまでで大丈夫だと言い張って。
『風間さん、今日はありがとうございました。菊池原さんにも、またお礼言いにいきます。』
「気にするな。俺からも伝えておこう。」
『あと、』
「なんだ?」
『さっきの話、何ですけど。』
「さっきの?」
『はい。責任を感じているって。』
「ああ。」
別れ側、話を切り出した詩音の目をじっとみて風間がその言葉の先を待つ。詩音はといえば、話し始めたはいいが、言葉がまとまらず、えっと、とかあの、とかを繰り返しながらも、それでも意を決してゆっくりと言葉を紡ぐ。
『私はこっちに帰ってこれただけで十分です。あちらでは考えられない位、今幸せです。こうして優しくしてくれる人がいて、安心して過ごせる部屋が、場所があって。色々大変なことはたくさんあるけど、でも、それは確かです。』
「…そうか。」
『はい。だから、改めて、ありがとうございます。風間さんには、本当に助けられてます。』
「…無駄に謝るくらいなら、普段からそう言っておけ。」
謝罪ではなくようやく感謝を口にした詩音に風間はそれだけ言って踵を返した。その背にもう一度礼を言った詩音はその姿が見えなくなるまで風間を見送ったのだった。
21.10.4
玉狛から戻ってきた菊地原は風間から少しの小言を受けたが、それ以降の作戦会議は順調に進み、今後の訓練の方針や任務での動きについての話が纏まった。作戦室にて一通り試してみたいことも試し、そうしてひと段落着いた所で風間が菊地原に向かってそう訪ねる。
「別に大した距離じゃないですし。あそこなら誰かしらこっちまで送ってくるなりしますよ。」
飲み物を飲みながら返す菊地原に少し考える素振りを見せる風間。
「お前たち、この後はどうする?」
「俺はランク戦してこようかと。」
「訓練終わりならぼくは帰ります。」
「私は他のオペレーターの子たちと約束があるのでそれまでもう少しここにいようかと思います。」
「そうか。では今日はこれで解散とする。」
そう告げた風間はいち早く作戦室を後にした。普段は三上のように残る者は別としても、大抵最後の方に作戦室を出ていく風間が急ぐように扉を出ていく姿を見て違和感を覚えた3人。ただ、その理由に全員が何となく心当たりがあり、けれども確信はなく、結局風間の様子については触れないまま3人はそれぞれ宣言通りの行動を取るのだった。
【聞きたいことがある】>
<【どうした?】
【今玉狛にいるか?】>
<【ああ。それがどうした。】
【如月はまだいるか。】>
<【ああ。そろそろ本部に送っていこうとしていたところだ。】
【今から俺が迎えに行く。流石に道に迷いはしないだろうが、念の為だ。】>
作戦室を出た風間は廊下を歩きながらスマホでメッセージのやり取りをしていた。相手は同い歳でもある木崎。詩音の所在を確認した風間は、その足を玉狛支部へと向けながらスマホをポケットへとしまう。ちなみに玉狛の面々は詩音の経歴や詩音に対する風間隊やその他の隊への本部の決定について知っている。迅には未来予知のサイドエフェクトがあるからそのうちに分かるだろうということと、宇佐美と烏丸が玉狛に行ったことで木崎と小南にも知らせておいた方が都合がいいだろうという林藤の判断だった。
「お疲れ。」
「ああ。」
風間が玉狛にたどり着いた時には夕日は沈みかけていて、真っ暗とはいかないがそれなりに辺りは暗くなり始めていた。こんな中を菊地原は適当に帰そうとしていたのかと、今日彼に対して何度目になるか分からないため息をつきながら風間が玉狛のインターホンを鳴らすと出てきたのは連絡をしておいた木崎で。
「上がるか?」
「いや、いい。お前確か今日は今から防衛任務だろう?」
「もう少し時間あるけどな。まあいい、如月呼んでくる。」
「すまない。」
短いやり取りの後、奥へと姿を消した木崎。しばらくして小走りで玄関にやってきたのは確かに詩音で。その目は見開かれていて風間の来訪を知らなかったのか、知っていて信じられないのか。その後ろから、宇佐美と木崎がやってくる。
『か、風間さん、』
「お疲れ様ー、風間さん。」
「宇佐美か。今日は急に菊地原が押しかけたらしいな。悪かった。」
「全然!むしろ詩音ちゃんとゆっくり過ごせて良かったよー。」
その場に立ちすくむ詩音をよそに会話を繰り広げる2人に木崎がひっそりとため息をつきながら「またいつでも来い」と詩音に声をかけ、名残惜しそうな宇佐美を制す。そうしてようやく詩音が風間の横へと並び宇佐美と木崎にお礼とともにぺこりとお辞儀をして。風間も軽く礼を述べ詩音を促しながら先に歩き出すと、それに慌てて詩音はついて行った。
「あー、楽しかったー!」
「よかったな。...それにしても、」
「んー?どうしたの?」
「いや、珍しいなと思っただけだ。」
「風間さん?」
「ああ。菊地原が連れてきたと聞いた時も驚いたけどな。」
「私も詩音ちゃんともっと仲良くできるようにたまには本部に顔だそうっと。」
木崎と宇佐美はそんな会話をしながら部屋へと戻っていく。当然その会話を聞くものはおらず、詩音や風間ももちろん知る由もない。
『あの、か、ざま、さん。』
夜に向かい薄暗くなりつつある道を本部へと歩く詩音と風間。しかし普段通りのペースで歩く風間に少しずつ追いつけなくなった詩音が少し息を切らしながら呼びかける。その声にようやく自分の歩く速度が彼女より早いということに気づいた風間が立ち止まる。
「すまない。早すぎたか。」
『い、いえ。私が遅いから...すみません。』
息の上がった詩音の呼吸が整うのを待ってまた歩き出す。ただ、その速度はいくらかゆっくりになり、詩音も無理なく歩けるペースになっていた。そうした変化は、それまで無言で歩いていた二人の間に会話を生んで。
『あの、風間さん。』
「なんだ。」
『どうして、迎えに来てくれたんですか?』
「この辺りはまだ慣れていないだろう。」
『それは、そうですけど...。』
「俺では不服だったか?」
『そ、そんなことないです!むしろ嬉しいというか、申し訳ないというか...。』
詩音は純粋に疑問をぶつけただけだった。ただ本当に、風間が自分を、自分なんかを迎えに来た理由がわからなくて。それを問い尋ねただけのつもりだった。しかし、彼女の言葉に風間が返したのは深い溜息で。
『あ、あの、私...。なんか、すみません。』
「怯えるな。そして、何度も謝るな。」
風間の言葉に押し黙ってしまう詩音。しばらく沈黙が流れ2人が歩く足音だけが響く。
「お前が最近まで生きてきた環境を考えれば、何かと戸惑うことも、考え方が周りと合わないことも理解できる。だが、これだけは覚えておけ。お前はもっと自由に生きていい。自分を卑下しすぎるな。」
『ひ、げ...?』
「自分を下に見すぎるなと言っているんだ。今のように分からなければ聞けばいい。それを拒否する権利は相手にもあるが、だからといって問い尋ねたお前を傷つけたり見下したりする権利は誰にもない。」
風間の言葉を理解するのに時間がかかってしまった詩音は、その言葉を噛み砕いてもなお、なぜそんなことを風間が言うのか分からず首を傾げる。
「俺の言うことはそんなに難しいか?」
『い、いえ!違くて、』
歌川や三上なら、もっとうまく言ってやれるんだろうか。黙り込んでしまった詩音に口には出さないが、風間の頭にはそんな考えが浮かんだ。しかしそれを詩音はすぐに否定するから、ならばなぜと風間は顔を顰める。そんな風間の顔色を伺いながらも、詩音が恐る恐るなぜ自分にそんなことを言うのかと思ったことをそのまま尋ねれば、
「なぜ、だろうな。」
『え?』
ぽつり。本当に言葉がこぼれ落ちたというような風間に思わず詩音が尋ね返す。徐々に二人の足の動きは遅なっていき、すっかり暗くなった辺りを照らす街頭の下で完全に止まった。
「恐らく、だが。責任を感じているんだろう。」
『責任、ですか?』
「ああ。俺がお前を見つけ、連れて帰った。もちろん連れ帰る最終決定をしたのは俺ではないが、それでも、その事実は変わらない。だからお前には、あのままあちら側で生きるよりも、まともに…とでも言えばいいか、とにかく真っ当に生きさせてやらなければと思う。」
すまない、俺自身上手く言葉にできそうにないと謝る風間に詩音が慌てて首を振る。しかし何か言わなければとは思うものの、何を言えばいいのかわからず三度(みたび)二人の間には沈黙が流れる。結局微妙な雰囲気になり、それを振り払うようにどちらともなく再び歩を進めて本部へと辿り着いた。風間は彼女を宿泊棟まで送り届けると言ったが、詩音はロビーまでで大丈夫だと言い張って。
『風間さん、今日はありがとうございました。菊池原さんにも、またお礼言いにいきます。』
「気にするな。俺からも伝えておこう。」
『あと、』
「なんだ?」
『さっきの話、何ですけど。』
「さっきの?」
『はい。責任を感じているって。』
「ああ。」
別れ側、話を切り出した詩音の目をじっとみて風間がその言葉の先を待つ。詩音はといえば、話し始めたはいいが、言葉がまとまらず、えっと、とかあの、とかを繰り返しながらも、それでも意を決してゆっくりと言葉を紡ぐ。
『私はこっちに帰ってこれただけで十分です。あちらでは考えられない位、今幸せです。こうして優しくしてくれる人がいて、安心して過ごせる部屋が、場所があって。色々大変なことはたくさんあるけど、でも、それは確かです。』
「…そうか。」
『はい。だから、改めて、ありがとうございます。風間さんには、本当に助けられてます。』
「…無駄に謝るくらいなら、普段からそう言っておけ。」
謝罪ではなくようやく感謝を口にした詩音に風間はそれだけ言って踵を返した。その背にもう一度礼を言った詩音はその姿が見えなくなるまで風間を見送ったのだった。
21.10.4