始まった日常
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詩音が自分でもほんの少しだけオペレーターの仕事に慣れたと思え始めた頃。それでもそれは、最低限仕事ができるようになってきたというだけで、彼女の生活に大きな変化はなく。強いて言うならば学業と仕事、それだけで手一杯という状態になっているくらいだった。
『...。』
「何その顔?腹でも痛いの?」
『あ、菊地原さん。歌川さんと、三上さんも。』
今日は土曜日。休日で本部内には学生も多く少しザワザワとした空気の中、いつも通り食堂で1人、食事をしていた詩音に声をかけたのは菊地原。その顔は眉間に皺を寄せ、詩音を憐れむかのようで。その隣で歌川と三上も心配そうな顔をしているから詩音の表情が普通ではなかったことが分かる。
『何、と言われても...。少し考え事、というか。特に何も...。』
「そんなにそれ不味かったの?」
『いえ、そういう訳じゃ。やっぱり不思議な組み合わせとは思うんですけど、味は美味しいです。』
詩音が食べていたのはA級セットで、その器の中身はほとんど無くなっていることから、彼女が嘘を言っている訳では無いことを3人は納得する。ただ、そうするとやはり疑問は浮かぶわけで。
「何かあったのか?」
「詩音ちゃん、気になることがあったらなんでも言って。力になるよ。」
『いや、その。本当に大したことじゃないんです。ありがとうございます。』
困ったように笑う詩音が彼女の近くの席に腰を下ろしながら言った歌川と三上の言葉をやんわりと拒否する。それがなんとなく、遠慮であることがわかる2人だが、次の言葉が紡げない。代わりに『風間さんは一緒じゃないんですか?』という詩音の方から問いかけられ、それに答えようと三上が口を開いた瞬間、
「痩せ我慢も大概にしなよ。」
『えっ?』
「さっきの顔といい、その前に何度もついてたため息といい、絶対何かあるでしょ。明らかなのに隠すとか、イライラするんだけど。」
言葉の通り苛立ちを隠しもせず、菊地原が詩音に向かってそう言い放った。ため息、というのは菊地原が詩音の元に向かっている時、彼だけが拾った音のことなので、隣の2人は首を傾げている。詩音も彼らの目の前でそうした行動を取った訳では無いのに、それを知られていたことに驚き、戸惑う。
「なんか言えば?言い訳なり、理由なり。」
「おい菊地原、そんな責めるような言い方しなくても、」
『すみません...。』
「詩音ちゃん、謝る必要ないよ!誰でも遠慮することはあるから。」
『いえ、私が悪いんです。寂しい、なんて思ってしまったので。』
席に座ることすらせず未だ立ったまま、イライラをぶつけるような菊地原の言葉を流石に宥める歌川と、詩音を気遣う三上。しかし今度は詩音の言葉が他の3人を戸惑わせるとことになる。
「寂しい?」
『あ、えっと...。それ、も、少しはありますけど。でも、そうじゃなくて。』
詩音の言葉を繰り返した三上に彼女は首を横に振る。それに焦れたように言葉を投げる菊地原。
「じゃあ何。」
『...ふと、宇佐美さんに会いたいなと、思ってしまったんです。』
「宇佐美先輩に?」
詩音の予想外の言葉に、歌川と三上は顔を見合わせる。宇佐美は少し前に玉狛に転属して、確かにしばらく本部に顔を出していない。だが、その間も風間隊は玉狛と数回同じ時間帯の任務にあたったことがあるので、顔こそ合わせていないものの通信を通して声を聞いている。三上に至っては学校で何度も顔を合わせている。だから詩音が宇佐美に会いたいと言うほど、そのために無意識に難しい顔になるほどの存在になりつつあることをすぐには理解できなかった。
「はぁ。馬鹿だね。」
『すみま、...えっ!?』
さらに眉間の皺を深くした菊地原がため息混じりに、いや、あからさまにため息をついてからそう言った。かと思えば、立ったままだった彼は、突如として詩音の腕を掴み彼女を立ち上がらせる。片手に詩音の腕、片手に彼女の食べていたものが乗ったトレイを掴み、歩き出した菊地原を慌てて歌川が止めに入る。しかしそれを聞かず、風間さんが来たら先に話始めといてと、振り向きもせずに言い、どんどんその歩を進めていく彼に歌川と三上は呆然とし、詩音はただ引きずられていく。
『菊地原さん、何を!?』
「とりあえず、これ片付けて。」
返却口の近くで、詩音の腕を離した菊地原はそれと入れ替えるように彼女にトレイを持たせる。言われるがままトレイを返却した詩音についてきてと今度は1人で歩き出す。
「また腕、引っ張られたくなかったら大人しくついてきて。」
『は、はい...。』
1度振り返り、そう言った菊地原に詩音はわけも分からず、しかし、逆らうという発想もなく言われるがまま彼について行く。そうして2人は微妙な距離感のまま歩き続け、気がつけば本部の出入口の前につき、さすがに立ちどまる詩音。
『き、菊地原さん?何処に行くんですか...?』
「一生会えないわけじゃないから。」
『えっ、と。』
「宇佐美先輩と会いたいんでしょ。」
『それは...はい。』
「じゃ、玉狛いけばいいでしょ。」
そう言って、再び歩き出す菊地原に詩音は驚きながらも、宇佐美に会えるという期待が高まり先程よりもしっかりとした足取りで彼について行くのだった。
「きくっちー?!どうしたの!!」
「こいつ届けに来ただけ。」
「こいつ?...って、詩音ちゃん!!」
玉狛支部に到着しインターホンを押すと出てきたのは、詩音の会いたかったその人で。本当に会えたことに目を見開き、少しだけ懐かしさを感じる名前を呼ぼうと彼女が息を吸いこんだ瞬間、その人、宇佐美が詩音に勢いよく抱きついた。
「久しぶりだねー!どうしたの?元気だった?仕事慣れた?」
『宇佐美、さん、』
「ちょっと、如月潰す気?」
「あー!ごめんごめん!」
これみよがしにため息をつく菊地原の言葉に、宇佐美はガバリと詩音を離し、謝る。その腕の中でもみくちゃにされながらも、それまでなんともいえないものだった詩音の表情はいくらか明るくなっていて。
『宇佐美さん、お久しぶりです。』
「ホントに!て言っても、1ヶ月も経ってないけど。でも、どうしてここに?」
『菊地原さんが連れてきてくれたんです。私が、宇佐美さんに会いたくなってしまって。』
「そーなの?きくっちー、たまにはやるじゃん。」
「ぼくはいつでもやりますよ。」
「まーたそうやって、可愛げのないことを。」
「宇佐美先輩はいつまで経っても子どもみたいなテンションだね。」
宇佐美に向かってこれみよがしにため息を吐く菊地原だったが、その顔には先程まであった眉間の皺が無くなっていた。じゃ、これからうち作戦会議なんでと、詩音をその場に残しくるりと今しがた歩いてきた道に向き直る彼を詩音が呼び止めた。
『菊地原さん!ありがとうございました!』
「別に。帰りに迷子にならなきゃいいけど。」
ぺこりと頭を下げて礼を言う詩音をチラリと見た菊地原は相変わらずの皮肉を零しながら、その表情は僅かに、ほんの僅かだけ満足げで。しかしそれに気づくものは誰もおらず、彼は本部へと帰っていった。
「菊地原はどうした?」
今まで会議に出ていた風間は、昼食を取りながら作戦会議を行うことを伝えていた3人のうち1人がいないことにすぐに気づいて、残りの2人に第一声そう声をかける。その手にはカツカレーの乗ったトレイを持って。
「それが...」
歌川が、風間が来る前の出来事を説明する。食堂で詩音を見つけ声をかけたこと、詩音が宇佐美に会いたいと言ったこと、その詩音を連れて菊地原がどこかへ行ってしまったこと。
「風間さんが来たら、先に話を始めておいてとも言ってました。」
三上の補足に風間がため息をつく。それでは意味が無いだろうと、席に付きトレーを置くとスマホを取り出して菊地原に連絡を取る。ちなみに歌川も1度どこに行ったかを尋ねるメッセージを送ったが既読スルーされている。しかし、流石の菊地原も相手が隊長とあらば無視はできないようで、「もしもし」といつも通り気だるげな声で、電話に出た。
「今どこにいる?」
[あと五分くらいで本部です。]
「どこに行っていた?」
[玉狛に。すぐ食堂向かいますから、先に話始めといてください。]
そう言って電話を切ったのは菊地原の方で。通話終了の音を鳴らすスマホから耳を離し、再びため息をつく。顔を見合せた歌川と三上が菊地原の居場所を聞き出せば風間から出た答えに2人は目を丸くする。あの菊地原が、自らの意思で、しかも他人のために玉狛まで出向くとは思っていなかったのである。結局風間は昼食を取りながら、三上と歌川が主となって他愛もない世間話をすることで時間を潰し、菊地原が戻ってくるのを待つことになった。
21.10.4
ーーーーーー
切るタイミングがなかったので中途半端ですが...。
『...。』
「何その顔?腹でも痛いの?」
『あ、菊地原さん。歌川さんと、三上さんも。』
今日は土曜日。休日で本部内には学生も多く少しザワザワとした空気の中、いつも通り食堂で1人、食事をしていた詩音に声をかけたのは菊地原。その顔は眉間に皺を寄せ、詩音を憐れむかのようで。その隣で歌川と三上も心配そうな顔をしているから詩音の表情が普通ではなかったことが分かる。
『何、と言われても...。少し考え事、というか。特に何も...。』
「そんなにそれ不味かったの?」
『いえ、そういう訳じゃ。やっぱり不思議な組み合わせとは思うんですけど、味は美味しいです。』
詩音が食べていたのはA級セットで、その器の中身はほとんど無くなっていることから、彼女が嘘を言っている訳では無いことを3人は納得する。ただ、そうするとやはり疑問は浮かぶわけで。
「何かあったのか?」
「詩音ちゃん、気になることがあったらなんでも言って。力になるよ。」
『いや、その。本当に大したことじゃないんです。ありがとうございます。』
困ったように笑う詩音が彼女の近くの席に腰を下ろしながら言った歌川と三上の言葉をやんわりと拒否する。それがなんとなく、遠慮であることがわかる2人だが、次の言葉が紡げない。代わりに『風間さんは一緒じゃないんですか?』という詩音の方から問いかけられ、それに答えようと三上が口を開いた瞬間、
「痩せ我慢も大概にしなよ。」
『えっ?』
「さっきの顔といい、その前に何度もついてたため息といい、絶対何かあるでしょ。明らかなのに隠すとか、イライラするんだけど。」
言葉の通り苛立ちを隠しもせず、菊地原が詩音に向かってそう言い放った。ため息、というのは菊地原が詩音の元に向かっている時、彼だけが拾った音のことなので、隣の2人は首を傾げている。詩音も彼らの目の前でそうした行動を取った訳では無いのに、それを知られていたことに驚き、戸惑う。
「なんか言えば?言い訳なり、理由なり。」
「おい菊地原、そんな責めるような言い方しなくても、」
『すみません...。』
「詩音ちゃん、謝る必要ないよ!誰でも遠慮することはあるから。」
『いえ、私が悪いんです。寂しい、なんて思ってしまったので。』
席に座ることすらせず未だ立ったまま、イライラをぶつけるような菊地原の言葉を流石に宥める歌川と、詩音を気遣う三上。しかし今度は詩音の言葉が他の3人を戸惑わせるとことになる。
「寂しい?」
『あ、えっと...。それ、も、少しはありますけど。でも、そうじゃなくて。』
詩音の言葉を繰り返した三上に彼女は首を横に振る。それに焦れたように言葉を投げる菊地原。
「じゃあ何。」
『...ふと、宇佐美さんに会いたいなと、思ってしまったんです。』
「宇佐美先輩に?」
詩音の予想外の言葉に、歌川と三上は顔を見合わせる。宇佐美は少し前に玉狛に転属して、確かにしばらく本部に顔を出していない。だが、その間も風間隊は玉狛と数回同じ時間帯の任務にあたったことがあるので、顔こそ合わせていないものの通信を通して声を聞いている。三上に至っては学校で何度も顔を合わせている。だから詩音が宇佐美に会いたいと言うほど、そのために無意識に難しい顔になるほどの存在になりつつあることをすぐには理解できなかった。
「はぁ。馬鹿だね。」
『すみま、...えっ!?』
さらに眉間の皺を深くした菊地原がため息混じりに、いや、あからさまにため息をついてからそう言った。かと思えば、立ったままだった彼は、突如として詩音の腕を掴み彼女を立ち上がらせる。片手に詩音の腕、片手に彼女の食べていたものが乗ったトレイを掴み、歩き出した菊地原を慌てて歌川が止めに入る。しかしそれを聞かず、風間さんが来たら先に話始めといてと、振り向きもせずに言い、どんどんその歩を進めていく彼に歌川と三上は呆然とし、詩音はただ引きずられていく。
『菊地原さん、何を!?』
「とりあえず、これ片付けて。」
返却口の近くで、詩音の腕を離した菊地原はそれと入れ替えるように彼女にトレイを持たせる。言われるがままトレイを返却した詩音についてきてと今度は1人で歩き出す。
「また腕、引っ張られたくなかったら大人しくついてきて。」
『は、はい...。』
1度振り返り、そう言った菊地原に詩音はわけも分からず、しかし、逆らうという発想もなく言われるがまま彼について行く。そうして2人は微妙な距離感のまま歩き続け、気がつけば本部の出入口の前につき、さすがに立ちどまる詩音。
『き、菊地原さん?何処に行くんですか...?』
「一生会えないわけじゃないから。」
『えっ、と。』
「宇佐美先輩と会いたいんでしょ。」
『それは...はい。』
「じゃ、玉狛いけばいいでしょ。」
そう言って、再び歩き出す菊地原に詩音は驚きながらも、宇佐美に会えるという期待が高まり先程よりもしっかりとした足取りで彼について行くのだった。
「きくっちー?!どうしたの!!」
「こいつ届けに来ただけ。」
「こいつ?...って、詩音ちゃん!!」
玉狛支部に到着しインターホンを押すと出てきたのは、詩音の会いたかったその人で。本当に会えたことに目を見開き、少しだけ懐かしさを感じる名前を呼ぼうと彼女が息を吸いこんだ瞬間、その人、宇佐美が詩音に勢いよく抱きついた。
「久しぶりだねー!どうしたの?元気だった?仕事慣れた?」
『宇佐美、さん、』
「ちょっと、如月潰す気?」
「あー!ごめんごめん!」
これみよがしにため息をつく菊地原の言葉に、宇佐美はガバリと詩音を離し、謝る。その腕の中でもみくちゃにされながらも、それまでなんともいえないものだった詩音の表情はいくらか明るくなっていて。
『宇佐美さん、お久しぶりです。』
「ホントに!て言っても、1ヶ月も経ってないけど。でも、どうしてここに?」
『菊地原さんが連れてきてくれたんです。私が、宇佐美さんに会いたくなってしまって。』
「そーなの?きくっちー、たまにはやるじゃん。」
「ぼくはいつでもやりますよ。」
「まーたそうやって、可愛げのないことを。」
「宇佐美先輩はいつまで経っても子どもみたいなテンションだね。」
宇佐美に向かってこれみよがしにため息を吐く菊地原だったが、その顔には先程まであった眉間の皺が無くなっていた。じゃ、これからうち作戦会議なんでと、詩音をその場に残しくるりと今しがた歩いてきた道に向き直る彼を詩音が呼び止めた。
『菊地原さん!ありがとうございました!』
「別に。帰りに迷子にならなきゃいいけど。」
ぺこりと頭を下げて礼を言う詩音をチラリと見た菊地原は相変わらずの皮肉を零しながら、その表情は僅かに、ほんの僅かだけ満足げで。しかしそれに気づくものは誰もおらず、彼は本部へと帰っていった。
「菊地原はどうした?」
今まで会議に出ていた風間は、昼食を取りながら作戦会議を行うことを伝えていた3人のうち1人がいないことにすぐに気づいて、残りの2人に第一声そう声をかける。その手にはカツカレーの乗ったトレイを持って。
「それが...」
歌川が、風間が来る前の出来事を説明する。食堂で詩音を見つけ声をかけたこと、詩音が宇佐美に会いたいと言ったこと、その詩音を連れて菊地原がどこかへ行ってしまったこと。
「風間さんが来たら、先に話を始めておいてとも言ってました。」
三上の補足に風間がため息をつく。それでは意味が無いだろうと、席に付きトレーを置くとスマホを取り出して菊地原に連絡を取る。ちなみに歌川も1度どこに行ったかを尋ねるメッセージを送ったが既読スルーされている。しかし、流石の菊地原も相手が隊長とあらば無視はできないようで、「もしもし」といつも通り気だるげな声で、電話に出た。
「今どこにいる?」
[あと五分くらいで本部です。]
「どこに行っていた?」
[玉狛に。すぐ食堂向かいますから、先に話始めといてください。]
そう言って電話を切ったのは菊地原の方で。通話終了の音を鳴らすスマホから耳を離し、再びため息をつく。顔を見合せた歌川と三上が菊地原の居場所を聞き出せば風間から出た答えに2人は目を丸くする。あの菊地原が、自らの意思で、しかも他人のために玉狛まで出向くとは思っていなかったのである。結局風間は昼食を取りながら、三上と歌川が主となって他愛もない世間話をすることで時間を潰し、菊地原が戻ってくるのを待つことになった。
21.10.4
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切るタイミングがなかったので中途半端ですが...。