始まった日常
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詩音のオペレーター配属が決まり、数日が経った。オリエンテーションによってざっくりとした仕事内容の説明とトリオン体換装兼ボーダーへの出入りを可能にするためのトリガーの配給を受け、さらにその日出勤していた人間への自己紹介も済ませた。あとはおいおい、と言われたことに不安を感じた詩音だったが、異議申し立てるような言葉を持ち合わせてはおらず。ひとまず、本日も自分を指導してくれる先輩オペレーターに挨拶し、機械の基本操作を習いつつ、初めはこれと、レーダーの見方と操作の仕方を教わることとなっていた。
まだまだ慣れない機械と向き合うこと、数時間。操作もさることながら、聞き慣れない言葉に苦戦しつつ、ふと詩音が気がつくと、今までいなかった人間がちらほらと、中央オペレーター室に姿を現していることに気がついた。時計を確認すれば、自分の就業時間終了の数分前である。と、そこに
「みんなー、お疲れ様ー!」
詩音の耳に届いたのは彼女の数少ないボーダーの知り合いの声だった。自分の指導をしてくれていた女性がそちらに向けて顔を上げたので、それに釣られるように詩音も視線を向ける。その視線の先には確かに宇佐美の姿があった。
「じゃあ、今日はこれでお終いね、お疲れ様。」
『お疲れ様です。ありがとうございました。』
隣の席から立ち上がり去っていこうとするその人に深々と頭を下げて挨拶をする詩音。しかし、そんな詩音より目の前の女性は宇佐美の方に既に気を取られているようで。宇佐美の周りにはどんどんと人が集まっている。詩音も近づきたいとは思うが、その人だかりに進んでいくのはどうにも気が進まず、その集団を遠巻きに眺めながら手元の細長いケースにペンをしまい、それを閉じた。
「宇佐美先輩、ほんとに玉狛に行っちゃうんですか?」
「寂しいですー。もっと色々お話したかったのにー。」
『え...?』
聞こえてきた会話に思わず詩音は顔を上げ立ち上がる。それはあまりにも予想外の言葉で、聞き間違いかと己の耳を疑う。しかし、よく見れば宇佐美の手にはさまざまな贈り物と思われるものが溢れていて、さらに聞こえてくる会話にも聞き間違いではないという確信が強まってしまう。
(宇佐美さんが、いなくなる?)
理解に思考が追いつかず混乱する詩音。足元から崩れていくような感覚に思わず元いた席に座り込んだ。風間たちやあまり面識はないが、先日の遠征に赴いていた部隊の人間たちが自分をサポートするように上から言われていることを知っている。それでもようやく自分がボーダーにいることに違和感を覚えなくなってきたのは、宇佐美のおかげである部分が大きい。そう自覚している詩音の心を絶望が支配しようとしていた。
「あ、詩音ちゃーん!」
呼ぶ声が聞こえて、ゆっくりとそちらに顔を向ける。声の主は紛れもない宇佐美で詩音に自分の元に来るようにと呼んでいた。一瞬の間を開けて弾かれたように立ち上がった詩音は呼ばれるがまま、宇佐美の元へと小走りで向かう。先程までできていた人垣はだいぶ落ち着いていて、無事宇佐美の元にたどり着くことができた。
「お疲れ様、詩音ちゃん。仕事慣れた?ってまだ早いか。」
『お疲れ様です。そう、ですね。まだ、何も分からない感じで...。』
最初はわかんないところがわかんないよねーと、宇佐美の表情も言葉もいつも通りでほんの少しだけ希望が見えた気がした。
『あの、宇佐美さん、辞めちゃうんですか...?』
「あれ、言ってなかったっけ?」
だから、勇気を振り絞って問いかけた言葉に帰ってきた答えは再び詩音を絶望に突き落とすには十分で。しかし、あからさまに顔色の変わった詩音に気づいた宇佐美が慌てて言葉を付け加える。
「あ、ボーダー辞めちゃうわけじゃないよ!玉狛支部に転属するの。」
『たまこま...、てん、ぞく?』
聞き慣れない言葉を復唱してみてもわからないものはわからない。首をひねり、説明を求めるような目で己を見る詩音に宇佐美は笑いかける。そして、詩音から隣にいる人物に視線をちらりと向けた。
「詩音ちゃん。この子は三上歌歩ちゃん、今から風間さん達の所に一緒に行くから詩音ちゃんもついてきてくれる?」
(みかみか、ほ...?)
「初めまして、三上歌歩です。」
『(あ、三上さんか。)如月詩音です。』
宇佐美に紹介され自己紹介をしたその人の、顔と名前を一致させようとしながら詩音もつられるように名乗った。
その後、周囲の人間ともう少しだけ話した宇佐美に連れられ三上と共に中央オペレータールームを後にした詩音。風間隊の作戦室に向かう道中では、宇佐美の転属が遠征の前から決まっていたこと、玉狛とは、ボーダーの支部のひとつで本当にボーダーを辞めるわけではないこと、風間隊のオペレーターが、宇佐美から、先程紹介された三上に変わることなどを教えてもらった。
「えっと、詩音ちゃん?は向こうに連れ去られて、風間さんや栞ちゃん達と一緒に帰ってきたんだよね?」
周りに人がいないことを確認しつつ、声を落として三上にそう聞かれ、詩音は頷く。どうやら三上は宇佐美から簡単に詩音の素性を聞かされているようだった。
「だから歌歩ちゃん、詩音ちゃんのことよろしくね?」
そんな話をしながらたどり着いた風間隊の作戦室。風間たちとの顔合わせは1度ラウンジで行われているらしいが、作戦室に来るのは三上は初めてらしい。ここが作戦室...と驚いているような三上を見ながら詩音は、自分がこの扉に少しだけ慣れてしまっていることの不思議さを噛み締めて宇佐美がその扉を開いてくれるのを待っていた。
「え、如月もいるの?」
お疲れ〜、と作戦室の中に向けて言った宇佐美の声に、帰ってきた最初の言葉は、菊地原のそれだった。ぴくりと肩を震わせた詩音はその声の主をじっと見つめる。自分は居てはいけなかったのだろうか、その問いを投げかけるように。
「三上に如月を紹介していたんだろう?」
「さっすが風間さん大正解!」
「要するに、宇佐美先輩は仕事を押し付けてたんですね。」
「きくっちー、いつにも増して口悪いね。あたしがいなくなるのが寂しいのかー?」
「宇佐美先輩、三上先輩が戸惑ってます...。」
繰り広げられるいつもの光景。それを見慣れていない三上は苦笑しながら黙ってその様子を眺めていたが、詩音はといえばこの光景が今日で見られなくなることに言い表せない感情が渦巻く。不安、寂しさ、恐怖。それは、出来かけていた自分の居場所が無くなるということに対してで。
『あの、私帰ります。』
「え、なんで?歌歩ちゃんと風間さんたちの顔合わせは済んでるから、今日は最終的な引き継ぎだけだよ。そんなに時間かからないし、詩音ちゃんもいて大丈夫だよ?」
当たり前になりつつあった日常が壊れていくかもしれないという事実に逃げ出したくなった詩音。それを引き止める宇佐美の声を聞いても、わずかに震えだした足がその動きを止めることはなかった。
「詩音ちゃん。」
そんな彼女に声をかけたのは、意外にも三上で。
「私ね、実はすっごく緊張してるんだ。」
『え...?』
「だって、栞ちゃんは大丈夫って言ってくれたけど、やっぱり部隊に所属するのは初めてだし、中央オペレーターとは、やることも違ってくるし。」
『三上、さん...?』
「でもね、精一杯頑張ろうと思う。だからね、栞ちゃんと同じようには出来ないかもしれないけど、詩音ちゃんとは仲良くなりたいな。それで、私は風間隊として、詩音ちゃんは新人オペレーターとして、一緒に頑張ろう?」
三上が自分を気遣って言ってくれている、それは詩音にもしっかり伝わっていた。日常が壊れるのではなく、少し変化する。三上の言葉でそう認識を改めた詩音の足の震えはいつの間にか止まっていた。
「三上、改めてこれから風間隊としてチームメイトとしてよろしく頼む。」
「よろしくお願いします。三上先輩。」
「宇佐美先輩と同じくらいには働いてくださいね。」
「歌歩ちゃん、風間隊のみんなも、詩音ちゃんのことも、よろしくね。」
「はい!よろしくお願いします!」
「ほら、詩音ちゃんも。歌歩ちゃんになにか一言。」
『え、私がですか?』
まさか自分に振られるとは思わず、宇佐美の方を向いた詩音。しかし、その目は何かを言うまで解放してはくれなさそうで。
『えっと、あの。私も頑張るので、これからよろしくお願いします?』
「それだと、如月も風間隊みたいなんだけど。」
『え!?あ、そんなつもりは...!』
「まあまあ。」
「いいじゃん、いいじゃん!仲間は多い方がいいよー!ね、歌歩ちゃん?風間さん?」
「そうだな、如月のことも頼む。」
「もちろんです!よろしくね、詩音ちゃん。」
『...はい。』
こうして、宇佐美が本部を去る日は詩音の日常に変化を与えながら過ぎていった。
ーーーーー
みかみか登場。でも風間さんたち不在にしないようにしようとすると長くなる...。
まだまだ慣れない機械と向き合うこと、数時間。操作もさることながら、聞き慣れない言葉に苦戦しつつ、ふと詩音が気がつくと、今までいなかった人間がちらほらと、中央オペレーター室に姿を現していることに気がついた。時計を確認すれば、自分の就業時間終了の数分前である。と、そこに
「みんなー、お疲れ様ー!」
詩音の耳に届いたのは彼女の数少ないボーダーの知り合いの声だった。自分の指導をしてくれていた女性がそちらに向けて顔を上げたので、それに釣られるように詩音も視線を向ける。その視線の先には確かに宇佐美の姿があった。
「じゃあ、今日はこれでお終いね、お疲れ様。」
『お疲れ様です。ありがとうございました。』
隣の席から立ち上がり去っていこうとするその人に深々と頭を下げて挨拶をする詩音。しかし、そんな詩音より目の前の女性は宇佐美の方に既に気を取られているようで。宇佐美の周りにはどんどんと人が集まっている。詩音も近づきたいとは思うが、その人だかりに進んでいくのはどうにも気が進まず、その集団を遠巻きに眺めながら手元の細長いケースにペンをしまい、それを閉じた。
「宇佐美先輩、ほんとに玉狛に行っちゃうんですか?」
「寂しいですー。もっと色々お話したかったのにー。」
『え...?』
聞こえてきた会話に思わず詩音は顔を上げ立ち上がる。それはあまりにも予想外の言葉で、聞き間違いかと己の耳を疑う。しかし、よく見れば宇佐美の手にはさまざまな贈り物と思われるものが溢れていて、さらに聞こえてくる会話にも聞き間違いではないという確信が強まってしまう。
(宇佐美さんが、いなくなる?)
理解に思考が追いつかず混乱する詩音。足元から崩れていくような感覚に思わず元いた席に座り込んだ。風間たちやあまり面識はないが、先日の遠征に赴いていた部隊の人間たちが自分をサポートするように上から言われていることを知っている。それでもようやく自分がボーダーにいることに違和感を覚えなくなってきたのは、宇佐美のおかげである部分が大きい。そう自覚している詩音の心を絶望が支配しようとしていた。
「あ、詩音ちゃーん!」
呼ぶ声が聞こえて、ゆっくりとそちらに顔を向ける。声の主は紛れもない宇佐美で詩音に自分の元に来るようにと呼んでいた。一瞬の間を開けて弾かれたように立ち上がった詩音は呼ばれるがまま、宇佐美の元へと小走りで向かう。先程までできていた人垣はだいぶ落ち着いていて、無事宇佐美の元にたどり着くことができた。
「お疲れ様、詩音ちゃん。仕事慣れた?ってまだ早いか。」
『お疲れ様です。そう、ですね。まだ、何も分からない感じで...。』
最初はわかんないところがわかんないよねーと、宇佐美の表情も言葉もいつも通りでほんの少しだけ希望が見えた気がした。
『あの、宇佐美さん、辞めちゃうんですか...?』
「あれ、言ってなかったっけ?」
だから、勇気を振り絞って問いかけた言葉に帰ってきた答えは再び詩音を絶望に突き落とすには十分で。しかし、あからさまに顔色の変わった詩音に気づいた宇佐美が慌てて言葉を付け加える。
「あ、ボーダー辞めちゃうわけじゃないよ!玉狛支部に転属するの。」
『たまこま...、てん、ぞく?』
聞き慣れない言葉を復唱してみてもわからないものはわからない。首をひねり、説明を求めるような目で己を見る詩音に宇佐美は笑いかける。そして、詩音から隣にいる人物に視線をちらりと向けた。
「詩音ちゃん。この子は三上歌歩ちゃん、今から風間さん達の所に一緒に行くから詩音ちゃんもついてきてくれる?」
(みかみか、ほ...?)
「初めまして、三上歌歩です。」
『(あ、三上さんか。)如月詩音です。』
宇佐美に紹介され自己紹介をしたその人の、顔と名前を一致させようとしながら詩音もつられるように名乗った。
その後、周囲の人間ともう少しだけ話した宇佐美に連れられ三上と共に中央オペレータールームを後にした詩音。風間隊の作戦室に向かう道中では、宇佐美の転属が遠征の前から決まっていたこと、玉狛とは、ボーダーの支部のひとつで本当にボーダーを辞めるわけではないこと、風間隊のオペレーターが、宇佐美から、先程紹介された三上に変わることなどを教えてもらった。
「えっと、詩音ちゃん?は向こうに連れ去られて、風間さんや栞ちゃん達と一緒に帰ってきたんだよね?」
周りに人がいないことを確認しつつ、声を落として三上にそう聞かれ、詩音は頷く。どうやら三上は宇佐美から簡単に詩音の素性を聞かされているようだった。
「だから歌歩ちゃん、詩音ちゃんのことよろしくね?」
そんな話をしながらたどり着いた風間隊の作戦室。風間たちとの顔合わせは1度ラウンジで行われているらしいが、作戦室に来るのは三上は初めてらしい。ここが作戦室...と驚いているような三上を見ながら詩音は、自分がこの扉に少しだけ慣れてしまっていることの不思議さを噛み締めて宇佐美がその扉を開いてくれるのを待っていた。
「え、如月もいるの?」
お疲れ〜、と作戦室の中に向けて言った宇佐美の声に、帰ってきた最初の言葉は、菊地原のそれだった。ぴくりと肩を震わせた詩音はその声の主をじっと見つめる。自分は居てはいけなかったのだろうか、その問いを投げかけるように。
「三上に如月を紹介していたんだろう?」
「さっすが風間さん大正解!」
「要するに、宇佐美先輩は仕事を押し付けてたんですね。」
「きくっちー、いつにも増して口悪いね。あたしがいなくなるのが寂しいのかー?」
「宇佐美先輩、三上先輩が戸惑ってます...。」
繰り広げられるいつもの光景。それを見慣れていない三上は苦笑しながら黙ってその様子を眺めていたが、詩音はといえばこの光景が今日で見られなくなることに言い表せない感情が渦巻く。不安、寂しさ、恐怖。それは、出来かけていた自分の居場所が無くなるということに対してで。
『あの、私帰ります。』
「え、なんで?歌歩ちゃんと風間さんたちの顔合わせは済んでるから、今日は最終的な引き継ぎだけだよ。そんなに時間かからないし、詩音ちゃんもいて大丈夫だよ?」
当たり前になりつつあった日常が壊れていくかもしれないという事実に逃げ出したくなった詩音。それを引き止める宇佐美の声を聞いても、わずかに震えだした足がその動きを止めることはなかった。
「詩音ちゃん。」
そんな彼女に声をかけたのは、意外にも三上で。
「私ね、実はすっごく緊張してるんだ。」
『え...?』
「だって、栞ちゃんは大丈夫って言ってくれたけど、やっぱり部隊に所属するのは初めてだし、中央オペレーターとは、やることも違ってくるし。」
『三上、さん...?』
「でもね、精一杯頑張ろうと思う。だからね、栞ちゃんと同じようには出来ないかもしれないけど、詩音ちゃんとは仲良くなりたいな。それで、私は風間隊として、詩音ちゃんは新人オペレーターとして、一緒に頑張ろう?」
三上が自分を気遣って言ってくれている、それは詩音にもしっかり伝わっていた。日常が壊れるのではなく、少し変化する。三上の言葉でそう認識を改めた詩音の足の震えはいつの間にか止まっていた。
「三上、改めてこれから風間隊としてチームメイトとしてよろしく頼む。」
「よろしくお願いします。三上先輩。」
「宇佐美先輩と同じくらいには働いてくださいね。」
「歌歩ちゃん、風間隊のみんなも、詩音ちゃんのことも、よろしくね。」
「はい!よろしくお願いします!」
「ほら、詩音ちゃんも。歌歩ちゃんになにか一言。」
『え、私がですか?』
まさか自分に振られるとは思わず、宇佐美の方を向いた詩音。しかし、その目は何かを言うまで解放してはくれなさそうで。
『えっと、あの。私も頑張るので、これからよろしくお願いします?』
「それだと、如月も風間隊みたいなんだけど。」
『え!?あ、そんなつもりは...!』
「まあまあ。」
「いいじゃん、いいじゃん!仲間は多い方がいいよー!ね、歌歩ちゃん?風間さん?」
「そうだな、如月のことも頼む。」
「もちろんです!よろしくね、詩音ちゃん。」
『...はい。』
こうして、宇佐美が本部を去る日は詩音の日常に変化を与えながら過ぎていった。
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みかみか登場。でも風間さんたち不在にしないようにしようとすると長くなる...。