始まった日常
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詩音の意思を聞いた城戸司令が許可を出し、彼女のボーダー入隊が決まった。しかし差し出された書類を前にした詩音の手はペンを持ったまま動かない。
「詩音ちゃん、どうかした?。」
彼女の異変にいち早く気がついた宇佐美が、声をかけるが、詩音は困った様に眉を下げるばかり。
「何、今更迷ってるの?」
『いえ、そうじゃ、ないです...。』
菊地原の言葉には首を横に振る詩音。しかしやはりその手は動かない。
「何か気になることがあるのか?」
『あの、その...。これ、入隊の書類?で、いいんですよね?』
「?」
忍田の言葉に悩みながら返した詩音の言葉に、その場の全員が内心首を傾げる。しかし、僅かな沈黙があった後、彼女の言葉の真意を理解できたらしい風間が口を開いた。
「少し貸せ。」
そう言って詩音の手元から少し自分の方にその書類を引き寄せた風間。
「ここは、なんと書いてある?」
紙に書いてある文字を指さし詩音に問いかける。驚きながらもそれに答えようとする詩音。しかし、
『ボ、ボーダー、入隊...えっと。』
「ではここは?」
『私は、ボーダーに入隊することを希望し、つきましては以下の、以下の...』
「なるほど。」
風間の突然の行動とそれに対する詩音の様子を見て歌川が声を上げる。彼以外もようやく彼女の手が止まっている理由を理解したようだった。菊地原が呆れたように詩音に問いかける。
「字、読めないんだ?」
『なんとなく、は、わかりますけど、でも、あんまり...ごめんなさい。』
「あ、私代わりに読むね!いいですよね!?」
「そうしてやれ。」
林藤の後押しもあり、そう申し出た宇佐美に風間が手元の紙を差し出す。
『すみません...』
宇佐美が一呼吸置いて読み始めると、詩音も宇佐美の声に耳を傾けながら、その紙を真剣な表情で見つめる。そうしてようやくそれに拙い字で署名をしたのだった。
こうして晴れてボーダー隊員となった詩音。彼女は戦闘員、オペレーター、エンジニアの希望を出さなかったので、数日中に様子を見て決定することとなった。
「ところで、俺たちが呼ばれた理由は?」
話が一区切りついたところで、風間が口を開く。それに答えたのは城戸司令で。
「彼女の処遇について決まったことによって、新たに決まったことがある。その通達と協力を得るためだ。」
「新たに決まったこと?」
「彼女は今回近界遠征にて、偶然、連れ帰ることのできた人間だ。これは喜ばしいことだが、今回我々は彼女の帰還の経緯を公表しないことに決めた。」
「なんでです?」
「期待は時に無謀を産む。彼女のような存在を公表すれば無理矢理にでも近界に渡ろうとする者を助長しかねない。」
城戸は淡々と決定事項を話し、説明する。それに補足するように忍田が口を開く。
「如月くんには悪いが、君は表向きには“近界民に襲われボーダーに保護された一般人で、その時のショックで長い間眠っていたため入院していた。さらにその影響で記憶が曖昧になっている。”そういう風に振舞ってほしい。」
『わかりました。』
「...こっちは即答なんだ。入隊希望はあんなに書き渋ったくせに。」
『あ、あれは、内容が理解できなかっただけで。これに関しては分からないところもないし、拒否する理由もないです。』
「理由もない、か。」
菊地原は眉間にしわを寄せて詩音を見るが、彼女はいたって普通の顔してそう答える。彼女の言葉に思うことがあったのは、風間も同じなようで、ポツリと言葉を零したがそれを聞いているものは誰もいなかった。
「それで結局俺たちは何を?」
「全てを嘘で塗り固めるには限界がくる。そこで本当に彼女を保護した君たち風間隊に、彼女のサポートを頼みたい。といっても、一応今回遠征に携わった部隊にはこの通達を同様にしておくし、全ての面倒を見てやってくれというわけではなく、何かあればフォローしてあげてほしいという程度だ。」
「身よりがないだけならここじゃ珍しくねーが、しばらくの間日本で生活してすらない、となると何かと困ることもあるだろ。さっきの読み聞きにしろ、恐らく今後の生活にしろ。もちろん本人の努力も必要だが、最低限組織からのサポートの提案ってことだ。」
補足の補足を締めくくった林藤の言葉に風間隊全員が了承の意を示す(約1名嫌そうな顔を全面に押し出していたが)。それに詩音が礼を述べたところで、必要な伝達は終了、招集された5人は解散ということになった。
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歌川くん、空気になりがち。喋っても風間さんと区別付きにくい。