リクエスト:愛で殺すと誓って
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大人しい顔して不気味な笑みを浮かべている女性と気の弱そうな美青年が画面に映っている。
「あの女とは…別れる…」
若干男性に迷いが残っているが、それを聞いた女性は「本当に?」と嬉しそうに男性に抱きついた。
アップに切り変わり、女性は「それじゃあ…」と続ける。
「別れるなら、あの女を殺して見せて。私のために」
「…!」
男性の表情が強張る。
回想シーンが終わり、男性はナイフの刃先を妻に向ける。
その顔は明らかに怯えていた。
妻は壁を背に、涙を流して訴える。
「あなた、お願いやめて。どうして? どうしてその女を選んだの!?」
男性の後ろでは、女性が腕を組みながらクスクスと笑っていた。
「さあ、早くそのメスブタを殺してよ! 私のために!」
「すまない…」
男性は目をギュッと瞑り、妻に向かってナイフを振り下ろした。
途端に、プツリという音とともに画面が黒に変わった。
「あ!!」
畳に寝転びながら見ていた飛段は、チャンネルをテレビに向けている角都に振り返って喚いた。
「今いいとこだったのによォ!!」
「おまえは馬鹿か。他人の修羅場を見てなにが面白い」
角都はチャンネルを机に置き、帳簿の続きに取り掛かる。
「あの三角関係の緊迫感がたまんねえんだろォ!?」
「理解しがたいな」
ため息をつき、筆を走らせた。
ムスッとした顔で畳の上でゴロゴロとしていた飛段は、ふと角都に尋ねる。
「あれ? 今日仕事は?」
「今日から3日、この町で休暇をとる」
帳簿をつけながら角都は答えた。
「3日も?」
普段は、時は金なり、と言っているので珍しいことではあった。
それに、休暇をとっている日のほとんどは暁アジトで過ごしていた。
飛段の言いたいことがわかったのか、角都は返事を返す。
「たまには落ち着いた町でのんびりとするのもいいだろう」
「?」
角都らしくないセリフである。
角都と付き合いの長い飛段はすぐになにかあると感じ取った。
角都は帳簿を閉じ、すっくと立ち上がり出入り口の襖を開けて出て行こうとする。
「出かけるのか?」
「ああ」
背を向けたまま角都は答える。
「それならオレも…」
飛段はそう言って部屋の隅に置いた大鎌を手に取ろうとしたとき、
「いや、おまえは来なくていい」
「へ?」
動きを止めて角都に振り返る。
「大人しく待っていろ」
角都はそう言って部屋を出、襖をぴしゃりと閉めた。
残された飛段は大鎌に手を伸ばしたまま静止している。
当然だと言わんばかりに角都の尾行をする飛段。
大人しく待っているのは確かに彼らしいことではない。
角都にバレないようにある程度距離を保ちながら尾行していく。
通行人に怪訝な顔を向けられるがお構いなしだ。
飛段は角都を見失わないようにじっと背中だけを見つめている。
距離は10m以上離れていた。
これ以上近づけば角都に気付かれることは知っている。
しばらく進んでいくと、角都は店の前の女性に声をかけた。
女性は驚いた顔をし、綺麗な笑みを浮かべる。
(なに!?)
飛段は建物の陰からそれを眺め、ショックを受けていた。
(あんのエロジジイ!! オレというものがありながらァァァァ!!)
嫉妬の炎に燃え、それを見た通行人達はぎょっとし、わざわざ近づかないように誰もがカーブを描いて飛段を通過していく。
角都と女性がなにを話しているのかは聞こえない。
女性は角都の左手をとって両手で触っている。
(慣れ慣れしく触んじゃねェェェ!!)
飛段の視線は目を合わせた相手を呪殺できそうな迫力を持っている。
角都と女性はそれに気付かず、店の中へと入っていった。
(角都ゥゥゥゥ!!)
飛段は店の中に眼力を送った。
「む」
一方、店の中に入った角都は殺気を感じた。
「どうしました?」
「いや…、殺気のような、悪寒のようなものを感じた」
それが飛段の眼力とは知らず。
「冷たい風が入ってくるので、外、閉めときますね」
女性は出入り口に早足で駆け寄り、扉を閉めた。
(ハァ!!)
これでは店内を覗くことができない。
探索用の術を備えていない飛段は、角都が出てくるまで待っていようかと思ったが、ここはひとまず宿に大人しく帰ることにした。
*****
それから2時間後、日が完全に暮れたころに角都は宿に帰ってきた。
飛段は敷かれた布団の上で、露骨に不機嫌な顔をしながら仰向けに寝転んでいた。
襖を開けて部屋に入ってきた角都を、寝転んだ状態のままギロリと睨みつける。
「…なにしてたんだよ」
角都は外套を脱ぎながら答える。
「ビンゴブックの更新だ。ここから換金所が遠くてな。時間がかかってしまった」
すぐに飛段はウソだと決めつけた。
さっと角都に手を伸ばし、「見せろよ」と要求する。
角都は躊躇うことなく外套の懐からビンゴブックを取り出し、飛段に渡した。
飛段は寝転んだままビンゴブックを開ける。
確かに更新日の日付が今日になっている。
(あの女のところに行ったあと、すぐに換金所に行ったな…!!)
舌打ちをしたあと、パタンとビンゴブックを閉じて角都に返した。
女性のことを聞きだそうと思ったが、角都ははぐらかすのが上手いから聞きだしても無駄だと判断する。
(もしかして、この町で3日の休暇をとるのって、あの女とイチャイチャしたいからかァ?)
完全に気を悪くした飛段は布団の中へ潜り、布団を頭から被った。
「もう寝るのか?」
角都に聞かれても飛段は答えず、寝たフリをする。
「Zz…ッ」
「?」
角都は飛段がなにに怒っているのかわからず、首を傾げるだけだった。
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