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生贄のレバ刺しとスペアリブを出された角都と飛段は、悪魔召喚用の魔方陣が書かれた大きな紙の上に胡坐をかいて座りながら、自分達を呼びだしたペインという青年の願いを聞いていた。
ペインも傍に自分用の茶を置いて正坐している。
角都としてはさっさと願いを叶えてやって魔界へ戻り、続きがしたいところだ。
「世界征服したい」
生贄を頬張る角都の動きが止まる。
途端に、沸々と怒りが湧いてきた。
「殺すぞ人間」
鋭い爪を喉元にあてられ、ペインは「ひっ」と体を震わせる。
「今まで数千年以上の間に数々の人間の願いを叶え、それ相応の生贄をいただいてきたオレだが、こんなふざけた願い事をする人間は初めてだ。人間相手にこれほど殺意を抱いたのも初めてだ。世界征服の代償がレバ刺し? レバ刺しで世界征服できる世界などむしろ滅んでしまえ」
「じゃあ…、どんな代償なら願いを聞いてくれるんだ?」
角都はわざと大きく舌打ちした。
「まず根本的にそんな願いは捨てろ。規模がデカすぎて貴様ごときでは無理だ」
「これしか願い事がない」
「そういう願いはオレじゃなくてこいつの親に言え」
呆れかえる角都は、スペアリブを必死で頬張る飛段の肩を叩く。
飛段は口にスペアリブを咥えたまま「んん?」と上目遣いで角都を見た。
「親?」
「飛段は魔王の子供だ。次期魔王でもある」
「!!」
危うくペインは湯呑を落としかけた。
こんな馬鹿っぽいのに魔王の息子。
角都は顔を見ただけでペインの心を読み、同意した。
「実際に馬鹿だから、オレのような家庭教師がついている」
「悪魔も勉強するのか」
だが、確かに飛段には必要そうだ。
「しかし、魔王のグリモアは、どこかで封印されているとも言われている。生贄が命では仕方のないことだがな」
グリモアとは、悪魔をよびだすために必要な本である。
グリモアはいくつも存在し、今回ペインが手に取ったのは角都のグリモアだった。
悪魔学が衰えた現代で、角都にとっては100年ぶりのよびだしだ。
書斎を見ると、他にもいくつかのグリモアがある。
角都を含めて全部で6冊。
「よくあれだけのグリモアを集めたものだな」
「祖父が持っていたものだ」
祖父に悪魔の呼び出し方を教わったようだ。
「…オレ以外に、あいつらをよんだのか?」
角都は並べられたグリモアを指さした。
「いや…」
「ならば、そいつらに頼め。オレ達は戻るぞ」
「そう言わずに」
ペインは魔方陣の中に潜ろうとする角都を止めた。
角都は「くどい」と牙を剥く。
しかし、飛段は「いいじゃん角都」とスペアリブを頬張りながら言った。
「オレもいつかはよびだされるかもしれないし、見学してもいいだろォ?」
ペインも同意を促すように何度も頷く。
「………わかった」
飛段の願いだけは聞き入れてしまう。
生贄もなにもよこされないというのに。
グリモアは、角都をよびだすための緑の本、赤の本、青の本、黄色の本、黒の本、紫の本がある。
角都が言うには、全員知り合いだそうだ。
最初にペインが手をつけたのは黄色の本。
生贄はおでん。
さっそく魔方陣を書き直してよびだす。
角都と飛段は陣から出てそれを見物する。
「…うん?」
出てきたのは、金髪でネコミミを持ったデイダラだった。
振り返り、首を傾げる。
なにかつくっていた最中だったのか、両手でなにかをこねていた。
「あれ?」
ちなみに、その傍には他にも誰かいた。
「都合がいいな」
赤い髪、サソリのような尻尾を持った少年だ。
「サソリと一緒だったのか、デイダラ」
「あれ? 飛段?」
手を振る飛段にデイダラはこねていた粘土をその場に置いて近づいてきた。
人形作りの最中だったサソリも手を止めて角都に近づいてきた。
角都は傍にいるペインに、「赤のグリモアの悪魔だ」と教えた。
「角都、なんで坊と一緒なんだよ。今、あいつのグリモアはないだろ。…あ、そうか…」
なにを察したのか口端を不気味に吊り上げるサソリに、角都は眉間に皺を寄せた。
「勘ぐるな。殺すぞ。そういうおまえ達はパーティーをさぼって作品作りか」
「魔力が高まるといい作品ができそうなんだ」
ついでにサソリの生贄も用意する。
人形のメンテナンスに使うためのオイルだ。
ペインの願いを聞いた2人は腹を抱えて笑いだす。
「今時そんな願い事する奴なんていねーよ!」
「今の人間のセンスはすごいな! うん!」
笑う2人にペインは声を立てずとも泣いていた。
それを見守る先着組の2人。
「かわいそうだなァ」
「ああ。痛々しくてな」
爆笑がおさまった2人はとりあえず生贄を与えてもらっていることだし、世界征服に近しいことを発案する。
「テロだろ、やっぱり。芸術(爆弾)投下だ。うん♪」
「いや、世界中の人間に毒を盛るという手もある」
しかし、考え出したのは物騒極まりないことだった。
「いや…、あの…、できれば平和的に世界征服できるもので…」
顔を真っ青にさせながら言うペインに、2人は面白げのなさそうな顔をする。
「わがままな奴だぜ、うん」
「度胸のねえ奴は嫌いだ」
悪魔に爆笑されたり、けなされたり、ペインの心はものの数分でボロボロだ。
「平和的に世界征服したら、イタチを使ったらどうだ? うん」
デイダラが指をさした先には黒のグリモアがあった。
「オイラ達の出番がないなら帰るぞ。うん」
「ったく、無駄な時間を過ごしたぜ」
2人はきっちり生贄を持って帰っていった。
ペインはさっそく魔方陣の書き直しにはいる。
そこで角都は魔方陣の上に転がっている、小さな土偶を見つけ、戦慄した。
「デイダラ! 忘れもn」
ドカァン!!
名前通りの姿とはいかず、尻にはドラゴンの尻尾が生え、背中にはカラスの翼が生え、耳は羽のような形をしていた。
よびだされたイタチは部屋の焦げくささに顔をしかめ、鼻をつまんだ。
「爆発混じりの登場をしたことは一度もないはずだが…。あ、角都さんと飛段」
「この有り様はデイダラの忘れ物が原因だ」
書斎はめちゃめちゃ。
ペインはすすで顔を真っ黒にし、同じく黒焦げの角都は飛段の吹っ飛んだ脚を縫合していた。
「よう、イタチィ」
「腕を上げるな。縫合中だ」
数分後、飛段の体は元通りにくっついた。
「くっついたァ」と嬉しそうに跳ねる。
「さすが悪魔。不死身だな」
「次期魔王がこれでは先が思いやられる」
角都は腕を組んでため息を漏らした。
生贄の団子を食べて待っていたイタチは、「オレになんのようだ?」とペインの方を見る。
ペインはあの願いを口にした。
イタチの反応は、平然としていた。
「世界征服…」
真剣に聞いてくれたと思ったペインは思わずその手をつかんで感謝の気持ちを表したい思いだ。
「…ちょっと待ってろ」
イタチは魔方陣の中心に手を突っ込み、なにかを取り出した。
地球儀だ。
それをペインに差しだす。
「さあ、くるくるしてみろ」
ペインは言われた通りに地球儀を回した。
しかし、なにか起こるはずもない。
ペインは涙目で角都と飛段の方に顔を向けるが、2人は目を合わさないようにそっぽを向いていた。
「と、これは冗談だ」
イタチは地球儀を取り上げ、魔方陣の中に沈めた。
「そのキャラで冗談を飛ばさないでくれ」
ペインは懇願するように言った。
「世界征服だけでは、抽象的すぎる。もっと具体的なことを言ってくれないか」
「つまり…、争いで解決せず、戦争もなにも起こらない世界にしたい」
「そんな世界、本当に平和といえるのか?」
「……………」
「ケンカも、競争も、争いのうちだ。しかし、そうすることで芽生えるものがあるんじゃないのか。悪魔のオレが言うのもアレだがな…」
しかし、一理ある。
もしかすれば、無気力な世界になってしまうのでは。
一瞬、その光景が見えた気がしたペインは少し考えた。
その時、
「げほっ」
イタチがいきなり吐血した。
「ええ!?」
床に吐き散らかされた血にペインの顔が青くなる。
角都と飛段はイタチに走り寄り、その背中を擦った。
「幻を見せたな?」
「あと、空気も悪ィみてーだ」
イタチは人間に幻を見せる能力を持っている。
先程、ペインに無気力な世界の幻を見せてしまった。
普段なら、具合が少し悪いだけで済むが、人間界のよどんだ空気を長く吸ってしまったため、ダメージが増量した。
「ぐ…っ」
イタチが呻くと、書斎のテーブルからいきなり黒い炎が上がった。
「うわ!? 火事!?」
「イタチは苦痛を覚えると周りのものを発火させてしまう! 早く青のグリモアで水属性の悪魔をよびだせ! 物だけでなく人間も発火するぞ!」
怒鳴る角都の言葉に、ペインは焦り、青のグリモアを見ながら魔方陣を書き直した。
生贄はエビ。
出てきたのは、青い肌を持つ、下半身が魚の尾ひれをもつ悪魔だ。
顔はサメに近く、角都と並ぶ迫力を持っている。
「おや? およびですか?」
狩りの最中だったのか、片腕にあんこうに似た不気味な魚を抱えていた。
魚は「ギョギョロ!」と気味の悪い叫びを上げながら尾ひれをビチビチとさせていた。
「鬼鮫! 火消しだ!」
角都の言葉で状況を理解した鬼鮫は口から水鉄砲を飛ばし、燃え盛る炎を消し去った。
「これはこれは、イタチさん。またやってしまったのですね…」
「鬼鮫…、いつもすまない…」
「仕方ありません。人間界の空気は魔界より穢れています」
鬼鮫はイタチに近づき、その体を抱えた。
「お体に障りますよ」
周りの目も気にせずにイチャつく2人の悪魔に角都は苛立ちを覚えた。
「さっさとイタチを連れて帰れ。用は済んだ」
「ええ。そうさせてもらいますよ」
鬼鮫はイタチを抱えたまま魔方陣の中へと沈んでいった。
「あの2人って、ホント仲いいよなァ。サソリとデイダラもそうだけどよ」
「……………」
飛段が羨ましげにイタチと鬼鮫を見送った姿を見て、角都は少し期待を抱いた。
残ったのは、紫のグリモア。
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